チフネの日記
DiaryINDEX|past|will
真田の祈り虚しく、雨は朝になっても上がる気配がない。 家を出る頃には止むかもしれないかとじっと外を睨んでいたが、 天気予報は夕方まで雨だと告げている。 これでは屋外でテニスをすることは不可能だ。 リョーマはどうするつもりなのか確認しようと、真田は携帯を取り出した。
折角の予定が狂ってしまって気落ちするが、この天気では仕方無い。 またの機会にしようと言うべきか迷いつつ、登録された番号を呼び出す。 そしてリョーマが出るまで携帯を耳に当てて待つこと、数分。
だがリョーマが出ることなく、留守番電話サービスへと繋がる。
「……」
携帯が近くに無い所にいるのだろうか。 もう一度、真田は掛けてみることにした。 が、やはり出ない。 別の部屋にいるのかと考え、10分後にもう一度掛けると、 数回のコールの後、ようやっと繋がる。 ホッとして、真田は声を出した。
「もしもし、真田だが」 「……」 「越前?」 返事が無いことに妙だなと思いつつ、 「今、大丈夫なのか?」と呼びかける。
すると、「うーん……」と、小さな唸り声が聞こえた。 「越前。おい、どうした」 「……えーっ、と。誰?」 「真田だ。さっきもそう名乗ったはずだが」 「真田、さん?俺に何か用っすか?」 少しぼんやりしたものの言い方だ。 ひょっとして、と真田は眉を寄せた。
「寝惚けているのか?今日の約束を忘れたとは言わせないぞ」 「覚えてる……、覚えているって……。 11時に駅で待ち合わせでしょ」 「それは良かった。しかし、今日はテニスは出来そうにないぞ」 「なんで……?」 「雨が降っているからだ。知らないのか?」 「嘘っ!?」 急に声を上げたかと思うと、バタバタと足音が聞こえる。 「本当だ。雨が降ってる」 「越前。もしかして、今まで寝ていたのか?」 「う、うん」
気まずそうに返事するリョーマに、真田は苦笑した。 どうせそんなことだろうと思っていたので、怒る気にもならない。 いつもの真田ならこんな時間まで寝ているのか、だらしない、一喝する所だ。 しかしリョーマには不思議とそんなことをしようと思わない。 別の学校の生徒だから気にならないのか? 軽く首を捻りながら、真田は口を開く。
「この雨では無理だろう。延期にするか?」 「そう、っすね。残念だけど」
しゅん、としたリョーマの言い方に、残念な響きがある。 それを何故か嬉しく思ってしまう。 この天気に気落ちしているのが自分だけでは無いことが、嬉しかった。
「じゃあ、また部活の休みが決まったら連絡するっす」 「そうだな。今日は大人しく家で宿題でもするんだな」
このまま電話を切ることが名残惜しい。 本当なら今日はテニスをしていたのに、どうして雨が降ってしまったのだろう。 小さく溜息を漏らす真田に気付かず、 リョーマは「嫌なこと思い出させないでよ」と、げんなりした声を出す。
「真田さんの今の一言で、忘れたかった課題があるって思い出した……」 「それは良かったな。出されたのなら、きちんと提出するべきだ」 「良くない。どっから手を付けたらいいか、全然わからないのに」
電話の向こうで、「どうしよう」とリョーマが呟くのが聞こえる。 きっと頭を抱えているのだろう。 そんなに大変ならと、真田はつい「見てやろうか」と声を出した。
「え?」 「一年生の課題なら、教えてやれると思うぞ。 そんなに困っているのなら、少しばかり手伝ってやろう」 「え、でも迷惑なんじゃないの?」
意外な一言に、真田は目を大きく開いた。 あの越前リョーマが、一年生のくせに態度がでかくて、生意気で、挑発ばかりするリョーマが、遠慮している。 実にらしくない言い方だ。
つい、真田は笑ってしまった。
「何、笑っているんすか?」 少しムッとした声に、我に変える。 「失礼した。お前が遠慮するとは思わなかったんで、つい」 真田の謝罪に、リョーマは声を上げる。 「そりゃするよ!だってわざわざ宿題を見てもらうなんて悪いから」 「どうせ今日の予定は雨で潰れて無くなった。 その分の時間を回すだけだ。気にすることはない。 待ち合わせの時間は、同じで構わないな?」 「あ、待ってよ。俺がそっちに行くから! さすがにそこまでしてもらうのは、悪いっていうか」 「何を言う。今度テニスする為にも、お前の家の立地を把握しておきたいからな。 予定通りそちらへ向かおう。いいな?」
念押しするとリョーマは少し考えて、 「わかった」と返事する。
「じゃ、駅まで迎えに行くから。 あの、お願いします」 「ああ。ちゃんと課題を用意しておくようにな」 「はい」
素直なリョーマの返事に、知らず真田の顔は綻んでいた。
生意気な奴だと思っていたが、どうやらそれだけでは無いようだ。 意外な一面を知った。 そのことに、また嬉しくなってしまう。
(11時か。テニスが出来ないのは残念だが、仕方あるまい)
試合は延期になったが、それ程落胆していないのは、どうしてだろう。 リョーマに勉強を教える、そんなことが不思議と楽しみに思えてしまう。
(それはきっとあいつが珍しく素直な返事をするからだ。 そうに決まっている)
後輩である赤也は、勉強の面倒を見てやろうとしても、 あの手この手で逃げ出そうとするばかり。 無理矢理掴まえて、椅子に座らせてじっと見張っていなければ、課題の一つも進まない。
その反対の反応をするから、こちらの調子が狂うのだと、 真田は自分の気持ちをそう解釈した。
11時の待ち合わせには十分過ぎるほど間に合うのだが、 何か手土産を選んで行こうと、出掛ける準備を始めた。
チフネ

|