チフネの日記
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2010年05月02日(日) 真田リョ 雨

真田の祈り虚しく、雨は朝になっても上がる気配がない。
家を出る頃には止むかもしれないかとじっと外を睨んでいたが、
天気予報は夕方まで雨だと告げている。
これでは屋外でテニスをすることは不可能だ。
リョーマはどうするつもりなのか確認しようと、真田は携帯を取り出した。

折角の予定が狂ってしまって気落ちするが、この天気では仕方無い。
またの機会にしようと言うべきか迷いつつ、登録された番号を呼び出す。
そしてリョーマが出るまで携帯を耳に当てて待つこと、数分。

だがリョーマが出ることなく、留守番電話サービスへと繋がる。

「……」

携帯が近くに無い所にいるのだろうか。
もう一度、真田は掛けてみることにした。
が、やはり出ない。
別の部屋にいるのかと考え、10分後にもう一度掛けると、
数回のコールの後、ようやっと繋がる。
ホッとして、真田は声を出した。

「もしもし、真田だが」
「……」
「越前?」
返事が無いことに妙だなと思いつつ、
「今、大丈夫なのか?」と呼びかける。

すると、「うーん……」と、小さな唸り声が聞こえた。
「越前。おい、どうした」
「……えーっ、と。誰?」
「真田だ。さっきもそう名乗ったはずだが」
「真田、さん?俺に何か用っすか?」
少しぼんやりしたものの言い方だ。
ひょっとして、と真田は眉を寄せた。

「寝惚けているのか?今日の約束を忘れたとは言わせないぞ」
「覚えてる……、覚えているって……。
11時に駅で待ち合わせでしょ」
「それは良かった。しかし、今日はテニスは出来そうにないぞ」
「なんで……?」
「雨が降っているからだ。知らないのか?」
「嘘っ!?」
急に声を上げたかと思うと、バタバタと足音が聞こえる。
「本当だ。雨が降ってる」
「越前。もしかして、今まで寝ていたのか?」
「う、うん」

気まずそうに返事するリョーマに、真田は苦笑した。
どうせそんなことだろうと思っていたので、怒る気にもならない。
いつもの真田ならこんな時間まで寝ているのか、だらしない、一喝する所だ。
しかしリョーマには不思議とそんなことをしようと思わない。
別の学校の生徒だから気にならないのか?
軽く首を捻りながら、真田は口を開く。

「この雨では無理だろう。延期にするか?」
「そう、っすね。残念だけど」

しゅん、としたリョーマの言い方に、残念な響きがある。
それを何故か嬉しく思ってしまう。
この天気に気落ちしているのが自分だけでは無いことが、嬉しかった。

「じゃあ、また部活の休みが決まったら連絡するっす」
「そうだな。今日は大人しく家で宿題でもするんだな」

このまま電話を切ることが名残惜しい。
本当なら今日はテニスをしていたのに、どうして雨が降ってしまったのだろう。
小さく溜息を漏らす真田に気付かず、
リョーマは「嫌なこと思い出させないでよ」と、げんなりした声を出す。

「真田さんの今の一言で、忘れたかった課題があるって思い出した……」
「それは良かったな。出されたのなら、きちんと提出するべきだ」
「良くない。どっから手を付けたらいいか、全然わからないのに」

電話の向こうで、「どうしよう」とリョーマが呟くのが聞こえる。
きっと頭を抱えているのだろう。
そんなに大変ならと、真田はつい「見てやろうか」と声を出した。

「え?」
「一年生の課題なら、教えてやれると思うぞ。
そんなに困っているのなら、少しばかり手伝ってやろう」
「え、でも迷惑なんじゃないの?」

意外な一言に、真田は目を大きく開いた。
あの越前リョーマが、一年生のくせに態度がでかくて、生意気で、挑発ばかりするリョーマが、遠慮している。
実にらしくない言い方だ。

つい、真田は笑ってしまった。

「何、笑っているんすか?」
少しムッとした声に、我に変える。
「失礼した。お前が遠慮するとは思わなかったんで、つい」
真田の謝罪に、リョーマは声を上げる。
「そりゃするよ!だってわざわざ宿題を見てもらうなんて悪いから」
「どうせ今日の予定は雨で潰れて無くなった。
その分の時間を回すだけだ。気にすることはない。
待ち合わせの時間は、同じで構わないな?」
「あ、待ってよ。俺がそっちに行くから!
さすがにそこまでしてもらうのは、悪いっていうか」
「何を言う。今度テニスする為にも、お前の家の立地を把握しておきたいからな。
予定通りそちらへ向かおう。いいな?」

念押しするとリョーマは少し考えて、
「わかった」と返事する。

「じゃ、駅まで迎えに行くから。
あの、お願いします」
「ああ。ちゃんと課題を用意しておくようにな」
「はい」

素直なリョーマの返事に、知らず真田の顔は綻んでいた。

生意気な奴だと思っていたが、どうやらそれだけでは無いようだ。
意外な一面を知った。
そのことに、また嬉しくなってしまう。

(11時か。テニスが出来ないのは残念だが、仕方あるまい)

試合は延期になったが、それ程落胆していないのは、どうしてだろう。
リョーマに勉強を教える、そんなことが不思議と楽しみに思えてしまう。


(それはきっとあいつが珍しく素直な返事をするからだ。
そうに決まっている)

後輩である赤也は、勉強の面倒を見てやろうとしても、
あの手この手で逃げ出そうとするばかり。
無理矢理掴まえて、椅子に座らせてじっと見張っていなければ、課題の一つも進まない。

その反対の反応をするから、こちらの調子が狂うのだと、
真田は自分の気持ちをそう解釈した。


11時の待ち合わせには十分過ぎるほど間に合うのだが、
何か手土産を選んで行こうと、出掛ける準備を始めた。


チフネ