チフネの日記
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| 2010年04月24日(土) |
明日、君に会いたい 3 塚リョ |
全ての雑務を終えてから、手塚は疲れたように左手を額に置いた。 急いで片付けたつもりだったが、その所為で色々抜け落ちてしまったようだ。 気を取られると、余計悪い結果になると、今回のことでよく理解した。 余裕を持って行動しなければいけない。 早く片付けてしまおうと焦ってやったから、二度手間を掛けることになった。 だからこうして役員達のフォローをするのは、当然のこと。
しかし、 (かなり怒っていたな。 桃城と帰ることをわざと俺に聞かせるように言ったのも、嫌がらせのつもりか……) リョーマの怒りの深さを思うと、溜息をつきたくなる。
「会長、まだ帰らないんですか?」 一人の役員の声に手塚は、 「すぐに出る。鍵を掛けて行くから先に行ってくれ」と答える。 「それじゃ、お先に」 「お疲れ様でした」 ひと段落したおかげでか、皆ほっとしたような顔で執務室を出て行く。 手塚一人だけが重苦しい空気を纏い、眉間に皺を寄せていた。
(一緒に下校は出来なかったが、このまま明日を迎えるのは避けたい。 拒否されるかもしれないが、会ってもらえるまで家の外で待ち続けて、誠意を見せよう)
明日なんて悠長なこと言っていられない。 これ以上リョーマと離れていたら、倒れてしまいそうだ。 ケンカなんて冗談じゃない。 絶対今日の内に仲直りしなくては。
決めた、と手塚は立ち上がった。 そこへノックの音が聞こえる。 役員の一人が忘れ物を取りに来たのかと思い、 「ハイ」と答えると、ドアが開く。
そこに立っていたのは、今から会いに行くつもりのリョーマ本人だった。
「越前、何故ここにいるんだ?」 手塚の言葉に、リョーマは顔を顰める。 それでも中へと入って来た。
ドアが閉まる。 外と遮断され、室内は手塚とリョーマの二人きりだ。
「来ちゃ悪いっすか?」 ジロッと睨むリョーマに、「いや、そういうわけでは」と、しどろもどろに返答する。
怒っていると、一見してわかった。 しかしここに来てくれたということは、完全に見限られたというわけでもなさそうだ。 まだ、仲直りするチャンスはあるはず。 自分が諦めさえしなければ。
「悪いはずがない。嬉しかった」 手塚は口を開く。思ったことを、リョーマに伝える為に。 「本当なら俺の方から出向くべきだと考えていた。 けれどお前の方からこうして歩み寄ってくれて、それがどんなに嬉しいか。 怒って口を利いてくれないかもしれないと、つい数秒前まで絶望していたから」 「歩み寄ってなんかいないっす」
リョーマはふいっと視線を逸らして言った。 けど口調は柔らかいもので、そこまで怒ってるわけではないとわかる。
「ただ、今日だけは絶対一緒に帰りたいと思っていたから、 戻って来ただけ。 そうじゃなかったら、もう家に帰っているところなんだけど」
ふん、と鼻を鳴らすリョーマに、 手塚は「その通りだな……」と頷いて、もう一度謝罪する。
「すまなかった。お前が怒るのも無理はない。 今回は俺が悪い。どうか許してもらえないか」 「……本当に反省してる?」 「している。お前がここに来る前からずっとしていた」 「ふーん。たしかに嘘をついているようには見えないけど」
ちらっとこちらを見上げるリョーマに、手塚はゆっくりと近付いた。 手塚自身ももっとよく、リョーマの顔を見る為に。
「当たり前だ。お前との約束を守れなかったことで、俺がどんなにショックを受けて、後悔したか。 理解したら驚くと思うぞ」 「何言っているんすか。自分が生徒会長なんて引き受けるからでしょ。 そんなの俺には関係ないっす」
リョーマの口調から、生徒会長の肩書きに不満を持っていることが伝わった。 忙し過ぎることが、気に入らない。 そう言いたいのだろう。
「だからと言って、今更放り出すわけにはいかないのだが……」 どうしたものかと、手塚は小さく項垂れた。
リョーマとの時間は大切。 だけど引き受けたことを投げ出すことは、自分の信条に反する。 どちらも両立させるのは、不可能なのだろうか。
どうしようかと悩んでいると、 「わかってるよ」と、リョーマの声。 肩を掴まれて、手塚は顔を上げた。
「部長が忙しい人だってわかってるよ。 だからって俺のこと放っておくのは、ムカつくけど。 でも、ちょっとは俺も理解示しても、いいかなって思ったんだ。 部長が頑張っているのも、わかっているから。 今日だって、無理して部活の時間に間に合わそうとしてたんでしょ? だから、まだそこまで怒っていないというか……」
最後の方は口篭ってよく聞こえなかったが、言いたいことは伝わった。
リョーマなりに答えを出してここに来てくれたようだ。 しかもそれは手塚にとって、嬉しいことで。
「ありがとう、越前」 「えっ、ちょっと」 そのまま腰に手を回して引き寄せると、簡単にリョーマは手塚の腕の中に納まった。
「ここ、学校なんだけど?」 「知ってる」 「誰かに見付かったら、大事になるんじゃないの?」 「そうだな」 「人の話聞いてる?早く放した方がいいと思うけど」 「嫌だ」 「嫌って、……鍵締めてないから、開けられたら見られるかもしれないって言ってるのに」
呆れたようなリョーマの声に、 手塚は「だから、どうした」と答えて、更に力を込めて抱き締めた。
「その時はその時だ。 俺達は付き合っている、と言えば済むことだろう」 「はあ!?あんた、それでいいの?きっと大騒ぎになるよ」 「騒ぎたい奴は騒げばいい。 今、お前を放したくない。だから、他の奴なんて、どうでもいい」 「あんたって……」
結構、我侭っすね、とリョーマが小さな声で言うのが聞こえた。
「そうかもしれないな」 「そうだよ。ひょっとしたら、俺以上かも」 「それは無いんじゃないか」 「少なくとも校内でこんなことしようなんて、俺は思わない」 「……」
その割には抵抗しないな、と言い返そうと思ったが、止めにした。 今日はもうケンカは無しにしたい。
「そうだな。俺の方が我侭だ」 「でしょ」
先に降参すると、リョーマは嬉しそうに笑った。
「でも、そんな部長に今日は特別に付き合ってあげてもいいよ」 「それは、ありがたい」 「でしょ。だから、続きは部長の家でしよ。 さすがにここじゃまずいでしょ」 「続きって……」
考えたところで、手塚は何度も頷いた。 その件に関して、全くリョーマに同意だったからだ。
「じゃあ、帰ろ」 「そうだな」
頷いて、名残惜しげにリョーマの体を離す。 先程まで触れていた体温が離れたことに寂しく思っていると、 リョーマの方から手を握って来た。
「周りに誰もいない間だけ、こうしていてもいいけど?」 「越前」 「その代わり、家に着いたら美味しいお菓子を期待してます」 無いとは言わせない、と笑うリョーマに、 「ああ、期待していいぞ」と手塚も笑顔で返す。
昨日の時点で、リョーマとただ下校するだけではなく、 家に寄ってもらおうと考えていたので、その辺りは抜かりなく母に頼んである。
そして二人は、久し振りに並んで帰り道を歩く。
「そういえば、越前。ゲームはまだクリアしていないんだろ? いいのか?」 手塚の問いに、リョーマは「そういえば……」と首を傾げる。
手塚と一緒に帰ることが出来なくて、当て付けのようにゲームを始めてそれなりに夢中になったけど、 今日はすっかり忘れていた。 それよりも、手塚と居る方が大切で。 だから、ゲームなんて本当はもういい、と言いたいところだけど。
「後少しでエンディングなんだ。折角買ったことだし、クリアだけはしておきたいかな。 だから、部長。明日から、家に来てレベル上げ手伝って下さいね」 「どうしてそうなる俺は、ゲームは苦手なんだ」 「大丈夫、簡単だから。 それともクリアするまで、会わないってことにした方がいい?」
少し沈黙した後、「それは困る……。手伝うから、一緒にいて欲しい」と言う手塚に、 リョーマは笑い出しそうになるのを必死に堪えた。
電話なんかよりずっと、こうして会って会話を交わす方がいい。
リョーマも手塚も、お互い同じ思いのまま、家までの道のりをゆっくり歩いて行った。
終わり。
チフネ

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