チフネの日記
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2010年04月23日(金) 明日、君に会いたい 2 塚リョ

手塚から電話を受けたリョーマは、とてもご機嫌だった。

ここの所ずっと二人だけの時間を過ごす余裕は無かった。
それもこれも手塚が生徒会長なんてのをやっているからだ。

部長というポジションにいるんは、まあ、許せる。
だからこそ自分はランキング戦に入れてもらえた。
部長としての用事だったら、リョーマもそこまでムカついたりしない。

しかし手塚は更に生徒会長という肩書きを持っている。
これは必要ないんじゃ、と常々考えていた。
部活が終わるか、終わらない頃に役員に助けを求められて、
酷い時は顔を出すことさえ無い日もある。

どうせ選挙時に周囲から頼まれて、断ることも出来ずに引き受けたんだろう。
そのことを考えると、リョーマは腹立たしい気持ちになる。
自分がその場にいたら、絶対反対していた。
ただでさえ忙しいのに、これ以上背負い込むものを増やしてどうするんだと言ってやったのに。

だからしばらく一緒に帰れないと聞いた時、
「俺も買ったばかりのゲームをクリアするつもりだから。ちょうど良かった」と、強がった。
それは真っ赤な嘘だった。そんなゲームなんて無い。
だから当て付けのようにゲームを買いに行き、
それが意外にも面白くてのめり込んでしまったのは誤算だった。
おかげで手塚のことを一時でも忘れさせてくれた。

(でも明日は部長と一緒に帰るんだ)

緩む頬に、どれだけ会いたかったんだろうと恥ずかしくなる。
勿論、そんな態度を表に出すことは無く、
手塚の前では余裕ある所を見せるつもりだ。

(楽しみだな……)

ただ下校するだけではなく、どちらかの家に寄ることになるかもしれない。
どうせなら美味しいお菓子を出してくれる手塚の家がいいなと思いつつ、
今夜は念入りに体を洗っておこうと、リョーマは風呂場へ向かった。

そんなご機嫌なリョーマだったが、物事はそう簡単に上手くいかないものだ。







「会長ー!やっぱりもう一度、執務室に戻って下さい!」

手塚がコートに姿を現したのは、部活が終わる直前だった。
そのまま帰った方が着替えの手間も掛からずに済んだのに、と言う大石に、
手塚は「そうだな」と頷いて誤魔化していた。

ここに来たのは自分を迎えに来る為だけ。
そう思うと優越感からリョーマの機嫌は更に上昇する。
が、解散の声と共に、生徒会の役員達がコートに飛び込んで手塚を取り囲んでしまう。

困り顔の役員達を前にして、手塚はちらっとこちらを向く。
そこはいつもの威厳は無く、お伺いを立てているような表情を浮かべている。

要するにこれだけ頼まれているんだから、仕方無いだろ?、と言いたいのだろう。
瞬間、リョーマは頭に血が昇るのを感じだ。
なんだ、あの野郎。
あっさりと約束を破って、自分は悪くないって顔しやがって―――。

ふいっと視線を逸らし、リョーマは少し前を歩く桃城を見付けて、
「桃先輩!」と声を上げる。
「これからストリートで打とうよ。そんで終わったら、マックに行こ」
「おいおい、さっき俺が誘ったら用事あるって言ってたじゃねーか」
「そんなの無い。最初から無かったんだよ!」
手塚に聞こえるようにわざと大声を出す。
桃城はびっくりしたが、
「そういうことなら、行こうぜ」とすぐ笑顔になる。
頷いて、リョーマは桃城の後をついていく。
コートを出る直前振り返ると、手塚が青い顔をして立ち竦んでいるのが見えた。

けれど、絶対追って来ない。
生徒会の役員を振り切ってまでも、約束を果たそうとはしない。
チッと舌打ちして、リョーマは今度こそ振り返ることなく前へと進んだ。



全く、忌々しい。
一度躓くと、運に見放されたかのように、悪いことが続く。
まずストリートテニス場へと行くと、いつも以上に混んでいて、
とてもシングルスをやる雰囲気ではない。
仕方なく桃城とダブルスを組んで順番を待ってコートへ入り、試合を始める。
が、手塚のことですっかり気を取られていたリョーマはダブルスのルールすら忘れ、
地区大会以上に酷い有様となった。
そんなリョーマに桃城は「勘弁してくれ」と、逃げ出してしまう。
別の誰かとダブルス組んで、勝手に再戦してしまう。

しかも即席ダブルスなのに桃城はあっさり勝利してしまう。
これでは非が自分だけにあるようなものではないか。
その証拠に、これだけの人数がいても誰もリョーマに組もうと誘って来ない。
さっきの醜態を見て、同じことになるとわかっているのだろう。

面白くない、とリョーマは地面を蹴った。

(今日は部長と一緒に下校しているはずなのに。
何やっているんだろ)

こんな風になったのも全部手塚の所為、と考えた所でリョーマは大きく息を吐いた。

(しょうがないよね。部長は生徒会等で、皆に頼られている。
簡単に放り出したりするような人じゃないって位、わかってる)

あの時はカッとなって無視してしまったが、少しずつ冷静になっていく。
手塚だって約束を破ろうとしたわけじゃない。
必死に片付けて、部活の終了ギリギリには掛け付けてくれた。
一緒に下校しようとする意思はたしかにあったはず。

(俺も少し柔軟になってやらなきゃ。まだまだ、だね)

顔を上げて、よし、と小さく呟く。
自分の居るべき場所はここではない。
まだ試合を続けている桃城に近付き、「ねえ」と声を掛ける。

「あ、悪ぃ。もうちょっと続けていくから」
「ううん。好きなだけやってて。俺、やっぱり用事が出来た」
「はあ?おい、マックはどうするんだよ」
「また、今度ね!」

軽く手を上げて、リョーマは走り出した。
呆気に取られた桃城は、直後に相手のサーブを受け損ねてしまう。

(今、俺がいなくちゃいけない場所は、ここじゃない)

そう思って、急いで学校へ向かう。

今日こそ手塚と一緒に下校するんだ。

その目的を果たす為にも、学校へ戻る必要がある。

(まだ部長は、学校に残っているかな)

そうであって欲しいと、走るスピードを更に上げた。


チフネ