チフネの日記
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2010年04月22日(木) 明日、君に会いたい 1 塚リョ

ここの所生徒会の仕事が続いて、リョーマと一緒に帰宅することが出来なくなっている。
その事実に、手塚は溜息をついた。

本当なら毎日顔を合わせて、出来るだけ長く同じ時間を過ごしたい。
恋人を持つ身としては、当然そんな風に考える。
けれど手塚はテニス部の部長で、生徒会長という肩書きを持っている。
普通の生徒より忙しく、自由になれる時間も少ない。
今更、何故引き受けてしまったのかと、頭を抱える。

テニス部の部長は柱になると決めたのだから、これは別に問題ない。
しかし生徒会は、やはり事態するべきだった。
部長としてやるべき事が片付いても、次は生徒会の仕事が待っている。
これではリョーマと一緒に下校する日は減る一方だ。
推薦された時に断っておけば、と手塚は軽く首を振った。
あの頃は周囲に頼み込まれて、仕方なく引き受けてしまった。

だがリョーマが入学した今、状況は変わっている。
しばらくすれば生徒会の方も落ち着くとわかっていても、
それでもリョーマの側にいたい。
顔を見て、ゆっくりと家まで歩いて行きたい。

しかし一緒に帰ることが出来ないと知ったリョーマの反応が軽くて、
それがまた更に寂しさに追い討ちを掛ける。

「え、しばらく遅くなるって?いーよ、別に。
この間買ったゲームを進めようと思ってるところだから、ちょうど良かった」
そんな風に言われ、ゲームに負けたのかと、落ち込んでしまう。

部活にもまともに出られない。下校も別。
手塚はかなりストレスと溜めていた。

(顔を見ることが出来ないのなら、せめて……)

声だけでも聞きたい。
そう考えた手塚は携帯を取り出した。
掛ける相手は勿論、リョーマの自宅だ。














「何?明日の朝練の変更の連絡っすか?」
開口一番そういったリョーマに、
「違う……」と手塚は肩を落として答えt。

全く、家の電話に掛けるこちらの勇気をわかっていないというか。
もし越前南次郎が出たらどうしようかと緊張していた。
幸い、母親らしい人が取ってくれて、ホッとしたらこれだ。

「今、ゲームしてた所だったのか?」
手塚の指摘にリョーマは「わかる?」と笑った。

「戦闘していた所に、電話なんて掛けてきたから、全滅する所だった。
もしそうなってたら、どう責任取ってくれんの」
「今、話しているということは大丈夫だったんだろう?」
「まあね。ちゃんとセーブ出来たくらいまでは」
「なら、いいだろう……」

だから電話に出るのが遅れたのか、と手塚は肩を落とした。
早く出なさい、と大声出していたリョーマの母親の声を思い出す。
その間セーブしようと必死だったに違いない。

「で、部活のことじゃないなら、なんなの?」
あっけらかんと言うリョーマの物の言いように、手塚はまた落ち込みそうになる。
「恋人に電話なするのに理由なんてあるのか」
「えっ」
「ここの所一緒に下校出来なかったから、声だけでもと思って。
しかし迷惑だったようだな。もう切らせてもらおう」
「わあっ、ちょっと待って!」
リョーマは焦ったように声を上げた。

「まさか部長がそんな気の利いたことをするなんて思わなくて……ごめん、って」
少し馬鹿にされたような気もしないでもないが、
リョーマの謝罪に手塚は電話を切るのを止めにした。

「だったらもう少し話をしても構わないか」
「うん。でも、びっくり。部長ってそういうことしないって思っていた」
「お前の中で俺は一体、どういうイメージなんだ」
「えーっと、それは色々あって」
口篭るリョーマに、聞かない方が良さそうだと、手塚はそう判断した。
これ以上ダメージを受けたら、明日の朝までに立ち直れないかもしれない。

「とにかくお前の声が聞きたいから電話をした。
それはわかってくれるな?」
「はあ。それで、一体これからどんな話をするつもりっすか?」
「……それは」
改めて問われると、困ってしまう。
何も考えていなかった
リョーマと少しでも会話が出来れば、とそれしか頭になかった。

「部長?ちょっと、黙るの止めてよね。掛けて来たのはそっちからでしょ」
「ああ。すまない。しかし普通はこんな時、何を話すんだろうな」
「だから、何で俺に聞くの」
「……困っているからに決まっているだろう」

本音を漏らすと、リョーマが向こう側で小さく笑うのが聞こえた。

「そりゃそうだよね。
いつもは俺が喋って、部長は黙ってやり過ごすばっかりだけど、電話じゃそうもいかないんだから」
「……そうだな」
「掛ける前に何かネタの一つでも考えていれば良かったんだよ」
「ネタって、笑わせる為に電話をしたわけじゃない。
ただお前の声を聞きたくて、それで安心したかっただけだ」
「安心?」

聞き返すリョーマに、「そうだ」と手塚は答えた。

「ここしばらくまともに顔を合わせていないから、忘れられているんじゃないかと寂しかった。
だからせめて声を聞いて、心を紛らわせようとして……。
おい、越前。聞いているのか?」

黙ってしまったリョーマに呼び掛けると、
「聞いているよ!」とでかい声が響く。

「お前……大声を出すな!耳が痛くなったぞ」
「部長の方こそそんなこと不意打ちで言うの止めてくれる?
ああ、もう。びっくりした」
「それはこっちの台詞だ」
「とにかく、そんなこと電話でなんか言われたら困る。
もう一度、ちゃんと顔を見て言って欲しいんだけど」
「今から家まで来いというのか。さすがにそれは……」
リョーマの家族にも迷惑になるだろう。
中学生が出掛けるには、少しだけ遅い時間だ。
「わかってる。だから明日、どうにかならないかって聞いているんだけど。
いい加減俺も部長と過ごしたいなって、ちょっとだけ思った」

可愛い言葉に、携帯を落としそうになる。
そしてさっきのリョーマの気持ちがわかった気がした。

今の台詞を顔を見て、もう一度聞きたい。
電話じゃとても足りない。

「そうか……。明日なら大丈夫かもしれない」
生徒会の方も急げばなんとか終わらせることが出来るだろう。
それを伝えると、「約束破ったらゲームクリアするまで、部長とは帰らないからね」とリョーマは言う。
「それは困るな」
「じゃあ、頑張って下校時刻までに部活に顔出して」
「わかった。努力しよう」
「うん」


また明日。
そう言って、お互いに電話を切る。

声を聞けたのも嬉しかったけれど、やはりそれだけでは足りない。
顔が見たい、触れたいと欲求は膨らむばかりだ。
何がなんでも終わらせなければいけないな、と手塚は小さく微笑んで、
さっきまでリョーマと繋がっていた携帯を枕元に置いた。


チフネ