チフネの日記
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2010年04月08日(木) 君の為に伝える言葉  塚リョ

言葉が足りない。

リョーマにそう指摘されて、手塚は確かにその通りだなと思った。

リョーマならわかってくれている、心が通じていると、
いつに間にかそんな風に考えていた。
実際、リョーマは手塚が黙っていても気持ちを察して、応えてくれる。

それに甘えてつい言葉を掛けることが多くなっていた。
良くないな、と改めて反省する。
好き合っていても、別々の人間だ。
伝えることはきちんと言葉にしないと、
いつかリョーマに愛想をつかされるかもしれない。
わかってくれるはずだ、なんてムシのいい話、続くわけがない。
リョーマが怒るのも当然だ。

話すのは苦手だが、そうも言っていられない。
好きな人のためだ。
努力しようと、手塚は出来るだけ思ったことを口に出してみようと決めた。
もっとリョーマとわかり合えることが出来るのなら、嬉しい。

そして手塚の言葉を発していこう企画は始まった。


「手に触れてもいいか?」
「今、キスをしたくなった」
「抱きしめて、そこから先に進みたいと思うのだが、気分じゃないのなら言ってくれ」

手塚が言葉を発するたびに、リョーマは目を見開いて固まってしまう。
慣れない会話にきっと照れているのだと、手塚はそう解釈した。
だが実際には少し違っていた。

数日後、
「なんでいちいち聞いてくんの!?」とリョーマが爆発したからだ。

幸いにもその日は休日で、部活も無く、
しかも両親と祖父が不在の手塚の家ということもあって、その叫びは誰にも聞かれずに済んだ。
もし耳聡い母にでも聞かれたら、
「国光!?越前君を苛めたりしていないでしょうね?」と、部屋に乗り込んで来るに違いない。
手塚の母はリョーマのことをとても気に入っているので、間違いなくそうする。
あらぬ誤解を避けられてまず良かった、と手塚は胸を撫で下ろしつつ、
リョーマに反論した。

「文句を言われるようなことはしていないと思うが」
「してるって」
「どこがだ。言葉が足りないと言われたから、改善しようと頑張っている所だ。
何が悪い?」
「またあんたは……真面目な顔をしてそういうことを言うか」
「何を怒ってるんだ?本当にわからないぞ」

眉を潜めると、リョーマはハァ、と大きく溜息をついた。

「あのさあ。俺の言ったこと、本当に理解していなかったんだね。
会話だよ、会話!
俺からばっかり話を振るんじゃなくて、部長からもして欲しいって言ったよね?
誰がエッチの許可をいちいち聞けって言った?」

目を吊り上げるリョーマに、手塚は「それは駄目だったのか?」と首を傾げた。
「なに、本当にわからなかったんだ?」
「いや……、出来るだけ思ったことを口に出そうと努力していたのだが、
どうやら間違っていたようだな。すまない」
頭を下げて、リョーマに許しを請う。

すると慌てたように、「そんな畏まらなくても」とリョーマは早口で言った。
「部長が頑張っていたのは知っているよ……。
でもああいうことは、出来ればいちいち聞いて欲しくないような、
ほら、雰囲気で大体わかるでしょ?
いいよって、わざわざ許可する俺の方が、乗り気みたいで、なんか微妙になるんだけど」

赤い顔をしてもごもご言うリョーマに、「わかった」と手塚はそっと細い肩を抱いた。

「要するに恥ずかしくて困るということだな?そういうことか」
「ちょっと、なんでこんな時ばっかり強気なわけ?」
「強気なわけじゃない。ただ、自信はあるけどな。
お前にものすごく好かれているということに関してだけだが」
「何それ」

じろっとリョーマに睨まれる。
が、頬を赤くしたその顔では迫力がない。
むしろ可愛いとさえ、思えてしまう。

「お前のことばかり考えているから、少しはわかるようになったんだ」
「……あっ、そ」
「だから余計に応えたいと思った。
俺もお前のことが好きだ。
言葉が足りないと言うのなら、努力してその不満を解消したいと思った。
だからどんな時でも言葉にした方が喜ぶと思った。
特に触れる時は俺の都合で進めてはいけない、許可を求めるべきだと考えた。
しかし嫌がっていないのなら、これから遠慮はしない。そうしよう」

リョーマは答えない。
俯いたまま、動かない。
感動して泣いているのだろうか。
顔を覗きこみ、手塚はそっと声を掛けた。

「越前?どうかした」
「だから、いちいち口にすんな!」

振り上げたリョーマの拳が、手塚の顎に決まった。

「痛いぞ、越前……」
「ああ、もう、結局それかよ。
何が俺のことばかり考えている、だ。
そんなんで誤魔化そうとしやがって。
結局、そっちのことばかり妄想してたってこと!?」
「それは違うぞ」
痛む顎を押さえながら、手塚はきっぱりと否定した。

「お前のことを思っていたのは本当だ。
毎日毎日、どうしたら今の幸せが続くか、好きでいてもらえるか、
そんなことばかりを考えている」
「また、そんなこと言って」
「嘘じゃない」

胸を張って言える真実だ。
今こそ言葉を伝える瞬間だと思い、手塚はリョーマの目を見て言った。

「言葉が足りないと言われてから、どう改善すれば喜んでくれるか、
悩んで、出来るだけ口にしようと決意をした。
それなのに迷惑になるなんて思いもしなかった。
すまなかったな……」

リョーマに喜んでもらいたくて、好きになってもらいたくて、
どうしたら良いのかわからず、いつも悩んでいる。

そう口にすると、
リョーマは「わかったよ…」と手塚の顎にそっと手を添えた。
「まだ痛む?」
「いや、大丈夫だ」
「さっき怒ったのは取り消す。
部長が俺のことをいつも考えているのはよくわかったから、それでもういいっすよ」

目が合って、お互いそっと顔を近付ける。
ここでキスしたいと口にしたら、「そんなのわかってる!」と怒られることは、
さすがの手塚も察しがついた。
だから黙って、そっと唇を触れ合わせた。

言葉が足りなくても駄目。
いちいち聞くのもNG。
リョーマの気持ちに応えるのは難しいけれど、手塚は諦めるつもりはない。
大好きな人と巡り合えたのだから、これからも努力は惜しまないつもりだ。

(しかし、さっきの越前の話を総合すると……)

キスを続けながら、手塚はふと頭の片隅であることを思った。

口に出さなくとも察したのなら、押し倒しても良いのだと。
だったらこの状況は確実に良いということになる。

よし、と行動に移すことに決めて、手塚はリョーマの背に手を回す。
そしてそのままゆっくりとベッドまで押し倒そうと、じりじりと距離を縮め始めた。


終わり


チフネ