チフネの日記
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2010年04月06日(火) 一言だっていいから  塚リョ


話し掛ける回数は圧倒的に自分の方が多い。

それに気付いたリョーマは、試しに黙ってみることにした。
すると沈黙が続いまま、時間だけが過ぎて行く。
ベンチで隣に腰掛けて、黙っている二人。
変な光景だ。

耐えられなくなって、リョーマは「ねえ」と口を開いた。

「なんだ」
「あのさあ、部長から話を何か振ろうとか、少しは考えてもいいんじゃない?
なんか俺ばっかりが話し掛けている気がする。
すごく不公平に感じるんだけど」

リョーマにとって、会話は苦手の部類に入る。
それでも頑張っているのは、手塚が自分以上に無口だからだ。
もし自分から話しかけなければ、言葉を交わすことなく一日が終わってしまうのだろうか。
そう思うと、少し悲しい。

非難の目を向けると、手塚は珍しく慌てたように「すまない」と言った。

「お前が話し掛けてくれるのがれしくて、つい甘えていた。
悪かった、俺も努力しよう」

心から申し訳なさそうに謝罪する姿に、
「ずるい」とリョーマは唇を尖らせる。

「ずるいって、何のことだ?」
「これじゃ俺が一方的にだだを捏ねているみたいじゃん。
部長のそういう所、得だよねー。
謝罪したら許すしかないって思わせるんだから、ムカつく」
「俺にどうしろと言うんだ……。頼むから、そう拗ねるな」

一生懸命機嫌を取ろうとしている手塚に、リョーマは顔を背けてこっそり笑う。
普段、無表情な手塚のこんな崩れた顔を見ることが出来るのは、自分だけ。
そう思うと、もう許してやろうかなという気にさせられる。
やっぱり甘いなと思うけど、仕方無い。
好きな人の困った顔というものには弱い。リョーマも例外では無かったようだ。

「じゃあ、これからはちゃんと部長からも話を振ってよ」
「わかった。約束しよう」
「絶対だからね。
それに帰りの誘いだって、いつも俺からばっかり。
たまには部長からも一緒に帰ろうって、言って欲しいんだけど」

今日もそうだった。
待ってると言い出さなければ、部室で二人きりなんて状況にはならない。
知らん顔して帰る素振りを見せても、引止めやしない。
一緒に居たくないのだろかと、リョーマが疑うのも無理は無い。

ついでだからと、正直にそのことを告げると、
手塚は少し首をかしげて「引きとめても良かったのか?」と言った。

「なにボケたこと言っているんすか?いいに決まってる。
俺達、付き合っているんだから。それとも違うと言いたいんすか?」
怒ったように手塚の襟元を掴むと、
「そういう意味じゃない」と必死で首を横に振る。

「お前は桃城や菊丸に誘われることが多いから、
楽しみを奪うのが悪いと思って」
「はあ?」
「入部した頃はよくあいつらと寄り道していたじゃないか。
楽しそうな顔をしていたのを覚えている。
だから、邪魔してはいけないと思ってだな」

もごもごと口を動かす手塚に、リョーマは手の力を緩めた。
そんなこと気にしていたのか。
しかも入部していた頃から、こっちの行動をチェックして、
未だに覚えているとか。
無関心かと思いきや、結構気にしてくれているらしい。

うわあ、とリョーマは両手で顔を覆った。

「越前?」
「あー、もう、なんか一気に気が抜けた。
今まで悩んだのが馬鹿馬鹿しくさえ思えた」
「そうか。
だがここはきちんと確認しておきたい。
俺は待っていてくれと言っても大丈夫なのか?」

真顔で尋ねて来る手塚に、より一層脱力してしまう。

「うん……いいよ」
「なら、良かった」
「部長って変なところに拘ったりするよね。そんな前のこと持ち出されるとは思わなかった」
「そうか?」
「そうだよ。もっと早くそういうこと言ってくれればいいのに。
言葉は足りないくせに手を出すのだけは早いとか、どういうこと?」
「どういうことって……」
「行動で示すのも悪くないけど、たまには言葉が欲しいって時もあるんだよ。
そこの所、ちゃんと理解するように」
「……はい」

こくんと頷いた後、手塚は「では、早速だが」と口を開く。

「今のお前の言葉とか表情がすごく可愛くて」
「はい?」
何を言い出すのかとリョーマは瞬きをした。
照れることなく手塚は「キスがしたくなった」と堂々と言い放つ。

「してもいいか?」
「な……、わざわざ聞くことっすか!?」
「言葉にしろと言ったのは、お前の方だ」
「いつもは勝手にしてるくせに」
「これからは言葉で示してからにしようと考え直した。
で、どうなんだ」

じっと見詰めて来る手塚に、リョーマは内心焦ってしまう。

反則もいい所だ。
手塚の本気の表情を見せられると嫌って言えないのに、
そんな言葉も付けられたら降参するしかない。

「でも、出入り口空いているんじゃない?
誰かが忘れ物したって入ってきたら、どうすんの」
「安心しろ」

リョーマの肩に手を乗せて、手塚は落ち着いた様子で言った。
「俺を待っている間、お前は暇そうに携帯ゲームに熱中していたようだが、
実はその時、こっそり鍵を掛けておいた」
「えっ?」
「こんなチャンスもあるかもしれないと思ってな」
「……」

しれっとした表情で言う手塚に、
リョーマは呆気に取られて、そしてすぐに挑発的な目に戻った。

「じゃ、してもいいよ。
今の部長の積極的な言葉に、俺もそんな気分になった」
「それは、良かった」

嬉しそうに顔を近付けて来る手塚に、
もしかしてテニスだけじゃなく他のことでも敵わないんじゃないかとふと考えて、思考を止めた。

今は触れ合う唇だけに集中しようと思ったからだ。

終わり


チフネ