チフネの日記
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| 2010年03月02日(火) |
lost 悲劇編 2.越前リョーマ |
2年前の全国大会決勝戦直前。 記憶喪失になって、そのまま元に戻ることは無かった。
なのに今、記憶が戻り、今度は逆にそれまで過ごしていたことを忘れてしまった。
そんな話を聞かされても、リョーマには全て信じ難いことだ。 しかし両親からの説明と、 何より成長した自身の姿に受け入れるしかないのだと悟る。
とりあえず最初に病院に連れて行かれ、検査を受けた。 異常無しとの診断にほっとしたものの、 これからどうしようという不安が圧し掛かる。
「どうだ、調子は」 病院まで付き添ってくれた父親である南次郎は、ロビーでずっと新聞を読んで待っていた。 普段と変わらない口調に、「大丈夫だってさ」とリョーマもいつも通りに返事する。 「そっか。じゃあ、会計してこないとな」 「あ、診察券出しておいたから、そこで呼ばれると思う」 「じゃ、もう少し待つか。 終わったら何か食べに行くか?こんな所に来て俺も疲れた。甘いものでも食うか?」
南次郎の笑顔を見て、リョーマは首を振った。 そんなことよりも、聞きたいことがある。
「あのさ、親父……」 「ん?」 「この二年間、俺ってどんな風に過ごしていた? 詳しく聞かせて欲しいんだけど」
普段のリョーマなら南次郎にこんなことは聞かない。 聞いてもはぐらかしたり、嘘を教えられたりするから無駄だと思っていた。 だけど今はそんな場合ではない。 藁にでもすがりたい気分だった。
二年。短いようで長い時間。 一体、自分は何をしていたのか。 まるで覚えていない事実が、恐怖として心に広がっていく。
そんなリョーマの表情を見て、 南次郎はいつもの飄々とした態度ではなく、真面目な顔をして言った。
「別に普通に過ごしていたぜ?学校に行って、勉強して。 当たり前のことしていただけだ」 「嘘」 リョーマは小さく呟く。 「ああ?嘘じゃねえって」 「だったら、これはなんだよ!?」 そう言ってリョーマは手の平を差し出した。 「はあ?手相でも見ろって言うのか」 「そうじゃなくて、この手……ラケットを握っていた手じゃないだろ。 変だってこと位、今の俺でも気付くよ。 一体どうなっているのか、答えろ!」
声を上げると、周囲の人達に視線を向けられる。 南次郎は「おい、ここは病院だぞ」と人差し指を立てて、自分の口元へと持っていった。 そこへちょうどよく「越前さん」と会計から名前を呼ばれる。 「金、払ってくるからちょっと待ってろ。なあに、別に逃げたりしないからよ」 「……」
南次郎が会計を済ませる姿を、リョーマはじっと眺めていた。 誤魔化されるもんかと、身構える。 この二年で何があったのか。 知るのが怖いけれど、このままにしておくわけにもいかない。
「ここだと迷惑になるから、まずは外に出るか」 先を歩く南次郎の後に続き、駐車場まで移動する。
車に乗ってから、南次郎は「さっきの質問の件だ」と口を開いた。 「そうだな。確かにお前はこの二年、ラケットを握っていない。 テニスをしようとしなかったからな」 「どうして!?」
わけがわからないと、助手席に座ったリョーマはショックを受けて固まっていた。 記憶喪失の次は、テニスを止めたなんて。 悪夢なら覚めて欲しい所だ。
南次郎は冷静に前を向いて運転したまま、再び続けた。
「記憶を失くしてから、なんとか思い出させようとお前の周りにいる連中も必死になっていた。 けど、戻らなかった。 次第にお前はテニスをすることを押し付けられるのを嫌がり、二度とやらないと宣言した。 テニスをしなくちゃいけないと、決め付けられるのは真っ平だってな。 それを聞いて、俺は仕方無いなと考えた。 このまま記憶が戻らないのなら、好きにさせてやろうと。 普通の子供らしく過ごしているお前の姿を見て、無理強いするのは止めにした。 そんな所だ」 「俺が言った?テニスしたくないって、本当に?」 「ああ。こんなことで嘘言ってどうする」
南次郎はフッと笑った。
「学校にはちゃんと通って、勉強もしていた。 その内彼女も出来て、結構楽しそうにしてたぜ。ほら、家まで送ってくれたあの子がそうだ。 お前には勿体無いような可愛い子だな。後でちゃんと礼を言っておけよ」 「……」
記憶が戻ってパニックを起こしたリョーマを家まで送ってくれたのは、 全く見知らぬ女子だった。 『とりあえず家に行こう?私が事情を説明するから……』 不安そうな目をしながらも、ちゃんとリョーマを家まで連れて行って、 在宅していた南次郎にきちんと話をしてくれた。 その後すぐ母親が家に戻って来て、うやむやになったのだが、 きっと家に戻って行ったのだろう。 どこだかわからない状況の中、家族の所へ送り届けてくれたことは感謝している。 だけど……。
(俺に彼女がいるって、やっぱりあの人のこと、なんだろうな)
想像したくないが、記憶を取り戻した状況と、 南次郎の話からするとあの女子と付き合っていたのは本当のことらしい。
(じゃあ、跡部さんは?)
二年前、恋人だった人を思い浮かべて、リョーマはぎゅっと目を閉じた。 記憶を失くし、好きだったことを忘れた自分に愛想を尽かして別れてしまったのだろうか。
そんなこと、知らない。 何が起こったかなんて、未だ12歳の心のままの自分にはわからない。
なのにいきなり見知らぬ女子と付き合っていると聞かされて、 ハイそうですかと受け入れられる状況ではない。 今はまだもう少し時間が必要だ。
それよりも跡部とどういう結末で終わったのか。 そっちの方がよっぽど重要だった。
家に到着して、リョーマはまず自室に向かった。 そして跡部に連絡する方法は無いものかと探し始める。 携帯にメールアドレスも番号も残っておらず、電話番号のメモも無い。 やはりこの二年、跡部と連絡は取り合っていないようだ。 事実を突き付けられて凹んでいまう。
(けど、直接聞かないと納得出来ないよ)
今更思い出したと言っても、跡部には迷惑なことなのかもしれない。 でもこちらの心はまだあの時のままだ。 どうせ駄目になったとしても、このまま引き摺るよりもハッキリ言われた方がマシだ。
(家なら何度も行ったから場所はわかる。……直接行くしかないのかな)
溜息をついてベッドに寝転がる。
テニスを止めて、恋も失って。 何をやっているんだろう。
いっそ記憶祖失くしたままの方が、良かったんだろうか、と考えた。
チフネ

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