チフネの日記
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2010年02月28日(日) 不二リョ 2010年誕生日話

「じゃあね、不二。また明日!」
「気をつけてな」

挨拶をする友人達に手を振って、不二は家へ向かっていた。

本日の誕生日、このじかんまで仲の良い友人達と過ごしていたのだが、
心の全てが満たされているわけではない。

(君が、ここにいない)

空を見上げて、小さく溜息をつく。

本当なら恋人であるリョーマとこの日を一緒に過ごしたいと考えていた。

しかしリョーマは去年の夏に青学を辞めて、渡米している。
これでお別れではないと互いに確認して、
不二はリョーマを静かに見送った。

プロを目指すリョーマにとって、日本で足踏みしていてはいけない。
夢へ近付く為なのだから、仕方無い。
しばらくは遠距離恋愛になるだけだ。
大人になったら自分の力で会いに行ける。側にいることだって不可能ではなくなる。
それまでの我慢だと言い聞かせて、不二はこの遠距離恋愛に耐えている。

けれど、普段は少し寂しいと思う位だが、
誕生日に直接お祝いを言ってもらえないのはいつも以上に堪える。
やっぱりすぐに抱きしめることが距離って大切だ、と再確認する。

(こうやって少しずつ心が疲れて、駄目になっていく人が多いんだろうな……。
少し気を引き締めよう)

遠距離でもいいと決めたのは自分だ。
それにこれから先、リョーマ以上の人と巡り合えるとは思えない。
こんなにも好きになれる、胸が熱くなる相手はいない。

だから、きっと大丈夫。

そう自分を励まして、スピードを上げて家へと急いだ。



「ただいま」

夕飯に好きなものを沢山作るからね、と嬉しそうに笑っていた母の為、
家に帰って来た。
でなければ、友人達に誘われるまま食事も一緒に取っただろう。
しかし姉もケーキを用意してくれてると聞かされたからには、
早めに帰宅しないわけにはいかない。
昼は友人達、夜は家族と誕生日を過ごすのも悪くはないだろう。

そう思って靴を脱いで中に上がろうとすると、
「おかえりなさい」と母がキッチンから出て来た。

「思ったより早かったのね。もう少しでご飯だから、待っててくれる?」
「いいけど……。何?」
なんだか妙な笑顔を向けている母に、不二は不審な目を向ける。
今日の料理によっぽどの自信があるのだろうか。
びっくりするようなものを用意したのかな?と考える。

「いいから。早く入って来なさい」
そう言ってリビングへと手招きする母に、不二は首を傾げながら歩いて行く。

ドアを開けると、あらかた出来上がっているらしい夕飯の良い匂いする。
不二の好きなスパイス料理だ。
それを嬉しいと思う間も無く、ソファで寛いでいる人物へと目を注ぐ。

「先輩、おかえりー」
そこにいるのが自然のような仕草で、軽く手を上げる。
堂々とした態度に、勝気な表情。

どう見ても、リョーマそのもので。
一瞬ぽかんと口を開けて、数秒経過する。

じっとこちらを見ているリョーマに、不二は我に返った。


「越前!なんでここにいるのっ!?」


声を上げると、リョーマと不二の母が同時に笑い出した。
















「だから、黙って来たのは俺が悪かったって。
ちょっとしたサプライズってやつをしたかったんだよね」

あの後、呆然とする不二を母が食卓へと連れて行って、
ちょうど姉も帰って来たこともあって、四人で食卓を囲んだ。
その時に知ったのだが、
リョーマは不二の母と電話の取次ぎの合間に会話を交わしている内に仲良くなって、
今回の計画を思いついたらしい。

リョーマがこの時期に日本に来ると知り、家に泊まればいいと勧め、
どうせだったら不二に内緒にして驚かそうと会話した結果が今日の出来事だ。
全く知らなかった、と不二は楽しそうにしている家族を見て、苦笑するしかなかった。


「でも来るってわかったのなら、君のこと迎えに行きたかったのに」

少し拗ね気味に返すと、リョーマは目を丸くしてから、
「ごめんね」と擦り寄って来た。

「でも日本に到着したのもついさっきだし、
本当に来られるかはぎりぎりまでわからなかったんだ。
だからもしがっかりさせることになったら悪いと思って言えなくって……ごめん」


髪からは不二と同じシャンプーの匂いがする。
食事とケーキを食べ終えて、しばらくリビングでだらだらした後、それぞれ入浴を済ませて、今は不二の部屋で二人きりだ。

間近で見る久し振りのリョーマに、やっぱり好きだなあ、と改めて思う。

「ううん。謝らなくてもいい。
越前が来てくれて、嬉しかったのは本当だから」
そっと肩を抱くと、リョーマは頭を不二の胸へと寄せて来た。

「なんか、僕より母さんと仲良くしていることにヤキモチ焼いていたみたい。
素直になれなくて、ごめんね」
「もう怒っていない?」
「最初から怒ってないよ」

不二の言葉に、リョーマは嬉しそうに笑う。
それだけで、帰り道に抱いた不安がスッと消えていくのがわかった。
やっぱり定期的に触れ合うのは必要だ。
高等部に行ったらバイトしようかな、と漠然と考える。

「それで、いつまで日本にいられるの?」
「えっと、先輩の卒業式くらいまでかな」
「そうなの?じゃあ、ちょっとだけゆっくり出来るね」
「うん。その間、テニスの相手してくれる?」
「……君は本当にテニスばっかりだなあ。
デートもしてくれるのなら、いいよ」
「勿論。断るわけないじゃん」

色んな所行こうよと言うリョーマに、心が温かくなっていくのがわかる。
どうしようもない位メロメロになっている自分に呆れつつも、
こんな恋をしていることを幸せだとも思う。

「じゃあ、こっちの誘いも断らない?」

ちゅっ、と軽いキスをして、リョーマをベッドへ押し倒す。
二人きりになった時から、ずっと意識していたわけで、
そろそろ不二も限界に近い。
抱きしめる位では、離れていた時間を埋めるには足りない。

そう思ってリョーマの顔を覗き込むと、
潔い良い位清々しい笑顔で「いいよ」と答える。

「むしろ俺から誘おうかなって、ちょうど考えていたところだから」
「……君って子は、本当に」
「先輩?」

がっくりと項垂れる不二に、リョーマが気の抜けた声を出す。

全くわかっていない。
こんなたった一言で、どれだけ自分の心を溶かしてしまうのか。
きっとわかっていない。

一つ息を吐いて。

「じゃ、その誘いを喜んで受けることにするよ」
と、不二は言った。

「どうぞ。不二先輩の望むままに」
まだ余裕の顔をしているリョーマに、
絶対崩してやろうと決めて、小さな体にそっと覆い被さる。

「あ、そうだ」
「何?」
「お誕生日おめでとう。まだ言ってなかったから」
「……うん、ありがとう」

今ここにいること、全て含めての感謝の言葉を口にした。


終わり。


チフネ