チフネの日記
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| 2010年02月25日(木) |
卒業 (不二→リョで失恋?ネタ) |
「僕、君のことが好きだったんだ」
突然の告白に、リョーマはその場に固まった。 それを見て、不二は楽しそうに笑っている。
「あ、君でも驚くことがあるんだ」 「……そりゃ、あるっすよ。 俺の驚く顔が見たくて、嘘言ったわけ?」 「違うよ。今の告白は、本気。好きだよ、越前」 「な、何度も言わなくてもいい。もう、わかったから」 「そう?本当にわかってる?」 「いや、突然で驚いたけど……本当だって言うのなら信じるしかないじゃん。 でも不二先輩が、俺を、っていうのがまだ繋がらない気がするけど。 しかも、こんな不意打ちみたいに」 「しょうがないでしょ。 いきなり全国大会後に、誰かさんが消えちゃったんだから。 しかも今日は連絡も無しに突然の来日して来るとか。 こっちだって心の準備ってもんが欲しいんだけど」 「……はあ」 「いいけどね。 今日、君に会えただけで嬉しかったから。 だからかな、思わず好きだって言っちゃった」
ふふっ、と笑う不二に、リョーマは眉を寄せた。 こういう時、なんて返したらいいかわからない。
だってこの先輩に好かれているなんて、 考えもしたことないのだから。
今日、リョーマが日本に来たのは、手塚と試合する為だ。 卒業後はプロを目指す為に留学すると聞いている。 そうなったら、気軽に野試合なんて出来ない。 お互いプロとしてコートに立つのも、可能性としてはあるが、 ずっと先のことだろう。 それまで待ってなんていられない。 だから単身で卒業式に乗り込んで、手塚に試合を申し込んだ。
さすがに全校生徒の前で断るような真似は出来なかったらしく、 手塚はリョーマの申し出に応じてくれた。
その試合が終わってからの出来事だ。 先程までテニス部の人々に囲まれ、手塚との試合のことや、今日突然来たこと、 これまで何をしていたか、色々話し掛けられた。 ひと段落ついて、三年生達が他の生徒に写真に一緒に入って欲しいと頼まれたりした時、 ふと気付いたら、不二だけがリョーマの側に残っていた。
そして、突然の告白。 もう、一体なんなんだよ、とリョーマは横目で不二を見る。
「それで、この後どうするつもりっすか」 「どうって?」 「俺に好きだと言って、終わりってことじゃないでしょ? まさか言ってみたかっただけ、なんてことじゃないよね」 「うん、そのまさかだよ」 「はあ!?」
爽やかに言う不二に、リョーマはあんぐりと口を開けた。
「やっぱり嫌がらせ?」 「うん。それに近いかも」 「うん、って……あんた」 「だって越前って、結局手塚のことしか考えていないよね。 いつも真っ先に向かうのは、手塚、手塚。 なんかそう思ったら、悔しくって……」 「人聞きの悪いこと言わないで下さい。 部長は倒したい相手としか思っていないんだけど」 「うん、だとしても君にここまで追い掛けて来てもらえる手塚が羨ましい。 でも僕は手塚みたいにはなれないから、 せめて最後に僕のことを忘れられなくなるような言葉を、ぶつけてみたくなって……。 それで、告白してみた」 「本気で嫌がらせだったんすか」 「しょうがないでしょ。 テニスでは最後まで手塚に敵わなかったんだから」
そう言う不二は笑顔のままだが、どこか寂しそうにも見えて。 なんだかリョーマは自分が悪いような気になってくる。
(って、これは不二先輩のペースに嵌っているだけか!?)
軽く首を振って、リョーマは体勢を立て直した。
「不二先輩だって強いのに、何言ってんの。 俺が部長より先に試合を申し込まなかったからって、拗ねるのも変だと思う。 大体、何度も再戦したいって言っても、断ったのはあんたの方でしょうが」 「そうだっけ?」 「そうっしょ。なんなら今からでも」
試合しよう、と言おうとしたリョーマの口を、 不二はひとさし指でそっと制した。
「嫌だよ。手塚と打ちに来たついでに、なんて。 これでも僕ってプライドが高い方なんだ」 そんなのわかっている、とリョーマは口の前に置かれた指を左手で軽く払う。 「知っているっすよ……。本当に面倒な人だなあ」 「うん。自分でもわかってる。 もっと真っ直ぐに気持ちに向かい合うことが出来たら、 こんな急な告白をする事はなかったと思う。 ごめんね。折角、日本に来たのにおかしな話しちゃって」 「いや、謝らなくてもいいんだけど……」
申し訳なさそうな顔をする不二に、 だったら最初から言わなきゃいいのにと思ったが、 それには触れずにいた。 衝動で溢れる言葉だってあるはずだ。 本気の好きなら、謝罪はいらない。 誰かを好きになる気持ちを止める権利なんて無いのだから。
「いいんじゃないっすか。 言いたいことは溜め込まずに言えば。 びっくりさせられたけど、俺は、そんなに悪い気にならなかったっていうか……。 あの、でもだからってOKっていうことじゃないんだけど」
一生懸命、自分の気持ちを伝えようとするリョーマに、 不二は「ありがとう」と、ふっと穏やかな顔になった。
「やっぱり越前は優しいね」 「俺、優しくなんかないっすよ。いつも生意気だって言われてるのに」 「ううん。そんなことない。 今の返事、嬉しかったな……。 やっぱり伝えて良かった。 今日、ここに来てくれてありがとう」
そっと右手を差し出す不二に、リョーマも慌てて手を差し出した。
ほんの数秒、二人は握手を交わした。
まだ少し風が冷たい季節の中、 不二の手は温かく、ほっとするような心地良さをリョーマに与えた。
「さてと、そろそろ皆の所に行こうか。 越前も来るでしょ? タカさんの家で卒業パーティーするんだよ」 「えっ、行っていいんすか?」 「勿論。皆そのつもりでしょ」
不二が頷いたところで、 「不二ー!こっちで写真撮ろうよ!」と、何人かの女子生徒達が声を掛けて来る。
「あ、クラスの子達だ。見付かっちゃった」 「行った方がいいんじゃないっすか?」 「そうだね。名残惜しいけど」 「また後で会えるっすよ。河村先輩の家で」 「そっか。まだもうちょっと一緒にいられるか。 だったら行ってこようかな。無視したら、後が怖い」 「そうっすよ。いつまでも不二先輩と喋ってたら、俺の方が睨まれるかもしれない」
おどけた口調で返すと、不二は目を丸くしてから小さく笑った。 つられてリョーマも笑う。
さっきまでの切ない空気を吹き飛ばすように。
明日にはアメリカに帰るリョーマは、不二の告白に応えることが出来ない。 不二もそれはわかっているのだろう。
気付いていても、知らん振りで笑い合う。
卒業という今日、この日。 不二は気持ちを吹っ切ってしまおうと思ったに違いない。 叶わないのならいっそ玉砕して、そして新しい恋を見付けていこうと。
だからリョーマも少し優しい気持ちになった。 本気で拒絶するのではなく、でもやっぱり無理だと遠回しに伝えて。 お世話になった先輩の背を、別の道へと押してやろうと思ったのだ。
「じゃ、行くね」 「うん」
まだかと騒ぎ始めた女子生徒達の所へと、 不二は歩き出す。
その背を見て、リョーマは不意にまだ言っていない言葉を思い出した。
言いたいことはすぐに伝えようと、口を開く。
「不二先輩ー!卒業おめでとうっす!」
声を上げると、不二はちらっとこちらを振り返る。
そこにあったのはいつもと変わらない笑顔だ。
だからリョーマも笑顔で、不二のことを見送った。
終わり
チフネ

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