チフネの日記
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| 2010年01月28日(木) |
不二リョ 世界に二人だけじゃいられない |
ある日の放課後。
部活が始まろうと皆が着替えをする中、 リョーマは桃城にそっと近付いて声を掛けた。 「ねえ、桃先輩。帰りにハンバーガー食べて帰ろうよ。勿論、桃先輩の奢りで」 当然のように言うリョーマに、桃城は眉を顰めた。 「何で俺が奢ることが前提になっているんだ?」 「それは桃先輩だから」 「理由になってねえだろ。ったく、しょうがねえなあ」
和やかな会話の中、ふっと背後から冷気のようなものを感じる。 察知した桃城は慌てて首を横に振った。
「あーっ、やっぱり今日は無理だ。用事がある」 「またっすか?この間もそんなこと言ってたじゃん」 不満を続けようとしたリョーマの声を遮るように、 「じゃあ、僕が奢ってあげるよ」と不二が二人の間に割って入って来た。
「なんでも好きなものを頼んでいいよ。だから、一緒に行こう?」 「でも、昨日も奢ってもらたし」 「いいんだよ。それよりリョーマ君は桃と帰る方が嬉しいの? 僕と一緒じゃ嫌?」 「嫌とかじゃなくって、毎日一緒に帰っているから、今日一日位別にいいかなって」 反論しようとすると、「リョーマ君が冷たい……」と不二は俯く。 本気で悲しんでいるように見えて、慌ててリョーマは撤回を口にする。
「わかった。一緒に帰るっす。だからそんな顔しないで下さい」 「本当?約束だよ!」
二人がこんなやり取りをしている間に、 桃城は急いで着替えを終えて部室を飛び出していた。 他の部員達も同様に、不二の邪魔をしないようにと慌しく出て行ってしまう。 気付いたら、リョーマと不二の二人だけになっていた。
「ふふっ、僕達二人だけだね」 満足気に笑う不二に、リョーマは首を傾げる。 「皆、早いっすね。俺達も急がないと遅れるかも。ほら、不二先輩も早く着替えて」 「リョーマ君、折角二人きりなのに」 「そんなこと言っている場合じゃないっすよ。遅刻したらグラウンド20周っす」 「それもいいんじゃない。二人だけで走るのも楽しいよ」
真顔で言う不二に、リョーマは首を横に振った。 「部活の時間が減るのは困るっす。さ、早く準備しよう」 「うん……」
まだ未練がましくのろのろと動いている不二を急かして、 リョーマも手早くレギュラージャージに着替えた。
それから、一時間後。
ちょうど交代となったリョーマはコートを出て、水分補給の為に水飲み場へと移動した。 すると同じように水を飲んでいる桃城を発見する。彼もコートから出たばかりらしい。 聞きたいことがあったので、リョーマは桃城のすぐ隣へと移動した。
そして、「最近付き合い悪く無いっすか」と言った。 「は?」 タオルで顔を拭いながら、桃城は振り返った。 「この間も用事があるって、俺の誘いを断っていたけどなんでそんなに忙しいんすか? いつなら一緒に帰れるのか、教えてよ」 「バッ、お前、何言い出すんだ!」 慌てて桃城は周囲を見回す。 そしてほっと息を吐いた。
「そういや、俺と交代でコートに入ったんだった。 いや、油断はいえねえな。いけねえよ」 「ねえ、一体何の話?」 首を傾げるリョーマに、「いいか、よく聞け」と、桃城は真面目な顔をして言った。
「お前は不二先輩と付き合っているんだよな?」 「そうだけど」 事実なので、リョーマは頷いた。隠すまでも無いことだ。 何しろ不二に告白されて、悩んだ末にOKした翌日、 「僕とリョーマ君、付き合うことになったからよろしくね」 と、不二が全部員達がいる所で宣言をしてしまった。 なんでそんなこと、と詰め寄ったら「ごめん、だけど隠し事はしたくなかったから」と頭を下げる不二に、 リョーマもそれはそうかと、その行為を許したのだった。
というわけで、二人の交際は部内公認ということになっている。
「だから?不二先輩と付き合っているからって、何?」 理由になってないんだけど、と唇尖らすリョーマに、 察しが悪いなあ、と桃城は頭を掻いた。 「お前な、少しは考えろよ」 「何を?」 「だから不二先輩と一緒に帰ればいいだろ。俺を巻き込むな」 「はあ?でも毎日一緒じゃなくたって」 「バカ!不二先輩の方では毎日帰るつもりでいるんだぞ。 なのに他の男を誘ったりしたらどう思うか、想像出来ないのか?」 わからないというように、リョーマは首を傾げた。
「でも今までだって、桃先輩と一緒に帰っていたりしたのに」 「今までとは状況が違う。お前は不二先輩と付き合っているんだろ」 「だからって他の人と帰っちゃいけないことにならないんじゃ……」 「いーや、あの人は絶対それを快く思っていねえよ。 とにかく俺はこの先も予定がいっぱいってことにするから、誘ったりするんじゃねえぞ」 「ちょっと!それって不二先輩だけに奢らせろってこと? 一人だけに払ってもらうの悪い気がするんだけど」 「奢られる前提で話すなよ……。 まあ、不二先輩ならねだられるのは嬉しいと思うはずだぜ? むしろ他の奴に奢ってもらうことの方を不愉快に取るんじゃねえかな」 「ふーん」 よくわからなかったが、とりあえずリョーマは頷いた。
「じゃあ、俺はもう戻るけど、ここで二人で会話していたなんて不二先輩に言ったりしないでくれよ。 頼むからな」 そそくさと逃げ去る桃城の背中に、そこまで言うことかとリョーマは眉を寄せた。 あれではまるで不二に怯えているみたいではないか。
変なの、と思いつつリョーマは不二のことを考えた。
たしかに桃城の言うことにも思い当たることがある。 さっきも不二は「僕が奢るから、一緒に帰ろうよ」と話しに入って来た。 本当に彼ならこの先ずっと奢り続けても構わないと、考えているかもしれない。 今日の帰り、ちょっと確認してみよう。 それがいいと、リョーマもコートに向かってゆっくりと歩き始めた。
「ふふ、リョーマ君との寄り道……嬉しいな」 「いや、昨日も一緒に寄り道してたから」 部活が終わり、約束通りリョーマは不二と一緒にファーストフード店にやって来た。 窓側の席が空いていたので、向かい合わせになって座る。 早速ハンバーガーを被り付きながら、不二の独り言に突っ込みを入れると、 心外というように反論される。 「今日は今日で新しい喜びが生まれるんだよ。リョーマ君と一緒にいられるだけで嬉しいんだから」 「はあ……」
大袈裟すぎる発言に、やっぱり桃城から言われたことは本当なのかと考えてしまう。 急いでハンバーガーを食べ終えて、改めて不二に向き直る。
「不二先輩、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」 「何かな?リョーマ君の為なら何でも答えてあげるよ」 「じゃあ、聞くけど俺が明日別の人と帰るって言ったらどうします?」
途端に不二は持っていたドリンクを、テーブルに落としてしまう。 「わっ!不二先輩、何やって、零れてる、零れてる!」 「リョーマ君!」 慌てるリョーマと反対に、不二は流れる液体のことなど気にしていない。 そしてテーブルに置いたリョーマの手を、さっと掴む。 「僕、何かした?もし悪い所があるなら遠慮なく言ってよ。すぐに直すから!」 「そういう場合か!とにかく拭かないと」 「そんなものより僕らの問題の方が重要だよ。 もしかして他に好きな人でも出来た?相手は誰?」 「そんなのいるわけないだろっ、いいから早くなんとかしろー!」
リョーマの必死の訴えに、不二はやっと手を放した。 零れた液体を拭くべく、二人は紙ナプキンを手にして被害を食い止めようと奮闘した。
「ああ、驚いた……。不二先輩が急に落としたりするから」 「呆れた?もうこんな僕は嫌いになったのかな?」 「ジュースくらいで大袈裟っす。 そんなに卑屈になることないのに、何でそんな発想になんの?」 笑いながら言うリョーマとは逆に、不二はどんよりとした顔で口を開いた。
「なんでって言われたら、やっぱり自信が無いからかな。 いつか君が離れて行くんじゃないかって、怖くてたまらない。 いつまでも好きでいてくれる自信がないんだ」
手で顔を覆う不二を見て、そんなことを考えていたのかと、リョーマはびっくりしてしまう。 「心が狭いと言われるかもしれないけど、君が他の人と喋ったりするのを見るのがすごく嫌だ。 まして一緒に寄り道なんて、とんでもない。僕以外の人を瞳に映すのすら嫌なのに」 「いや、それは無理だから」 無理無理、とリョーマは左手を顔の前で振った。
「ようするに、先輩は俺の好きという気持ちが信じられないんだ。 だから、いつか離れて行くって怯えている。そういうこと?」 「改めて言われると情けないね……。やっぱりこんな僕は」 「あー、もうネガティブな発言は止めようよ」
長く続きそうだったので、リョーマは少し大きな声を出して不二の言葉を止めた。 「俺が先輩を好きなのは本当なんだけどな。 でも、どうしたらわかってもらえるんだろ」 ふーん、と腕組してから、目を開く。 一つの案を思い付いた。
リョーマは身を乗り出して、正面に座っている不二に小声で囁く。
「じゃあ、いっそ俺のことを殺しちゃう?」 「えっ」 「そうしたら、永遠に不二先輩だけのものになるよ」 「……」 にこっと笑って見せると、不二は慌てて飛び上がろうとして、 膝をテーブルにぶつけてしまう。
澄ました顔をしてリョーマは「何焦っているんすか」と言った。 「何って、君があんなことを言うから!びっくりしたじゃないか。 なんで、あんな……信じられない」 「とにかく座ってよ」 中途半端な形で立っている不二に、リョーマは手で座るようにと指示する。
「だって不二先輩があんなこと言うから、手っ取り早い方法かと思って」 「なっ、僕はそんなの考えたことないよ!」 拳を握り締めて、不二は反論する。
「君を僕だけのものにしたいとは思うえど、そういうのは嫌だよ。 生きて二人で幸せになりたいんだ」 困ったように言う不二に、「じゃあ、しょうがないね」とリョーマは答えた。
「俺は不二先輩のことが好きだけど、他の人と関わらずに生きていくことは出来ない。 だってこの先も色んな人と出会って試合したりしていくつもりだから。 それに先輩にも、もっと視野を広げていい男になってもらいたいんだ。 それこそ俺が余所見出来ない位のね。あんたならなれると思うけど?」
くすくす笑うリョーマに、不二は「そうか、そういう考えもあるか」と呟いた。
「君をどうこうするよりも、自分が成長するべきだとは考えていなかった。 そうだね。君が好きになってくれる位の僕になれば、不安も消えていくかもしれない」
不二の言葉に、リョーマは頷いた。
「うん。だけどさ、一つ不満があるんだけど」 「何?」 「俺、先輩のこと好きだって言っているよね?だから付き合うことも決めたのに。 わかってもらえないの、なんかムカつくんだけど……。 わかってもらえるように、もっとすごいことをするべきなのかなあ」 「すごいこと??」
目を丸くする不二に、リョーマは「今から先輩の家に行こう」と立ち上がった。
「ごちゃごちゃ考えるよりも俺が先輩のものって身をもって教えてあげればいいんだ。 あんなすごいことをしているのは自分だけだって、きっと自信持てるようになるよ。 そうしよう!」 「あの、リョーマ君?」
さ、行こうと不二を引っ張って、リョーマは店から外へと出る。
先を歩くリョーマの後姿を見詰めながら、 (すごいことって、どの位まで許されるんだろ? というか、普通は僕から言い出すことじゃないのかな) 悶々と悩みながら、歩き続ける。
それで不安が解消されるかはわからないが、 少なくともリョーマの周りにいる人々より特別だと自覚出来るかも、と不二はにっこりと微笑んだ。
終わり
チフネ

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