チフネの日記
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テーブルに置かれた封筒を手にもって、リョーマは自分の部屋へ直行した。
「相変わらず、マメだよね」
靴を脱いでベッドに飛び乗る。 そして封筒を手でゆっくりと開けた。 週に一度必ず届けられるそれは、不二からのもので。 中身が何かもリョーマにはわかっている。
(今回の写真は部活に顔を出した時のと、 菊丸先輩達とカラオケ行ったのか?お姉さんのケーキは相変わらず美味しそうだな)
ケーキが乗った皿を持って微笑んでいる不二の写真は、おそらく姉が取ったものだろう。 他の二枚も菊丸や、桃城にシャッターを押してもらったものに違いない。 そうやって手紙と共に不二は近況を報告してくれる。
週に一度送ってくれるのだから、そう書くこともなさそうなのだが、 この写真は何を歌っていた時だの、ケーキの味を具体的に書いたり、 引退後もちょくちょく部活に顔を出していて、一年生達はこんな風に上達したよ、とか知らせてくれる。
最後はリョーマの体調を気遣うような言葉で締め括る。 決して、返事の催促は無い。 多分、忙しいリョーマに無理して書かなくて良いと思っているのだろう。
だけど。 (全く期待されていないっていうのも、ムカつく)
ふんっ、と鼻から息を吐いて、リョーマは封筒をぽいっと枕元に投げて横になった。
アメリカに行くことが決まった時、 どうするのかは不二に委ねようと思った。 振られてしまっても仕方無い。アメリカは遠過ぎるから。
でも、続けようといってくれたなら? こんなに距離が空いても不二さえ良ければ、続けることにしよう。
そう思って、リョーマは翌日不二に全てを話した。 さすがにその時は驚いた顔をした。 ああ、不二もそんな顔をするのだと、リョーマは呑気にも思った。
しばらくして衝撃から立ち直った不二は、いつものような表情で、 「それで、越前はどうしたいの?」と言った。 「え、俺に聞くの?」 「当然じゃない。僕を置いてアメリカに行こうとしているんだから、越前がどうしたいのかちゃんと言うべきだ。 振りたいのなら、ハッキリ言えば」 「そんなことないよ!」 思わず声を上げると、不二は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、別れるつもりは無いんだね。良かった、安心したよ」 え、なんか、違うとリョーマは瞬きした。 不二がどう思うか聞くはずだったのに、これでは逆だ。 「いや、だけど不二先輩がどう思っているか、聞くつもりだったんだけど」 腑に落ちない表情でリョーマが尋ねると、 不二は「僕がどうしたいかなんて考えるべきじゃない」と言った。 「越前は別れるつもりは無かったんだよね?じゃあ、それでいいじゃない。 ものすごく遠くなるけど、これからもずっと変わることはない。 僕はそう思っているよ」 「はあ……」
なんか上手くはぐらかされた気がするが、 これ以上尋ねても不二は教えてくれそうにないのがわかったので、 もうリョーマは黙っていることにした。
「通い合う僕らの心に国境は関係ないよ」 ポジティブな不二の発言に、リョーマは「そうっすか」とだけ返した。 よくわからない内に、お付き合いは継続するということが決まった。
不二の本心はどうなのか、今も気になっている。 こんなに会えなくても、本当にいいのかと。 週に一度手紙を送ってくれているけど、いつかそれが途切れる日が来るんじゃないかと、 リョーマは時々そんなことを考える。 今のところは続いているけど。 それは受験勉強も無いから暇だからなのかな、と失礼なことを考える。
対してリョーマは手紙なんて書くわけないから、 たまにパソコンのメールに「元気だよ」と今日の出来事を添える程度だ。
なんかなあ、と溜息をつく。 不二が勝手にやっていることなんだから、気にする必要な無いのだけれど、 なんか負けてる気がして悔しい。
手紙も書いたこともなく、メールも気が向いた時だけど。
だけど気持ちは、同じ位好きなんだから。 それだけは忘れてもらったら困る。
(よし、決めた)
リョーマはすぐに起き上がり、不二にメールを書く為にパソコンを立ち上げた。
不二の朝はリョーマからのメールが入っていないか、それを確認するところから始まる。 空振りになることも多いが、不満に思ったことはない。 別れたわけでないのだから、悲観的になることはない。
たしかにアメリカと日本は離れている。 でもずっとこの状況が続くわけではない。 お互いが大人になれば会いに行けることは可能だ。 いつかはまた近くにいることが出来るだろうと、思うことにした。
そうでないと、リョーマを行かせないよう引き止めてしまいそうだったから。 リョーマにある無限の可能性を自分の我侭で潰すことは出来ない。
だから不二はリョーマが別れたいのかどうか、それを確認することにした。 振られるのなら、それも構わない。 涙を隠して、見送るつもりでいた。 だけど続ける意思があるというのなら、 お互いの気持ちだけを大事にしてこのまま付き合いを続けようと思った。
結果リョーマは別れるつもりはないと言ってくれて、 かなりの遠距離恋愛になるが続けることが決定した。
リョーマは筆不精で、メールの返事も遅いとわかっていたから、 不二は一方的に近況報告を送ることにした。 離れても忘れることがないようにと願いも込められている。 返事は少ないが、気にもしていない。
そのリョーマからメールが入ったことに、 不二は驚きつつも急いで開いた。
(珍しい。何かあったのかな)
しかも添付メールだ。 写真は何かなと思って開くと、本文は何もない。 あれ?と思って写真に目を向けると、結構な数が並んでいる。
そのどれもがリョーマ自身が携帯で撮ったようなものだ。 手や髪、頬に目、足先にふくらはぎと、実に適当な感じの写真に、 不二は首を傾げた。 何かの謎掛けかなと思って視線を移動させていくと、 最後の写真には文字を書かれた紙が写っている。
小さな文字に目を凝らすと、 そこには「全部、不二先輩のものだよ」と書いてある。
「…………」
離れていても、俺が好きなのは先輩だけ。 そんな声が聞こえた気がして、不二は机に突っ伏した。
朝から破壊力のあるメールに、どうしてくれようと悶える。
「そんなの、僕だって君だけのものだ」 そう言って、気を取り直して立ち上がる。
次の写真は何を送ろうか。 リョーマがびっくりすようなものを考えなくちゃね、と考えながら、 顔を洗う為に部屋から外へ出た。
終わり
チフネ

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