チフネの日記
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2010年01月21日(木) skip!  塚リョ

俺達って、なんでこんなことをしているんだっけ。

そんな疑問が浮かんだのは、もうこの行為を両手以上に超えてからだった。
ようやく俺も何か、変じゃない?と思うようになった。
もっと早く気付くべきだったんだけど、
今まではなんとなく流されて、考える間も無かったんだ。

部長から好きだと言われた覚えは無い。
それは間違いない。
勿論、俺もそんなことは言っていない。
じゃあ、なんで体を重ねたりしているんだろう。
恋人でもないのに。

突然浮かんだ疑問を、俺は着替え中の部長にぶつけようと思った。
わからないことは、すぐに聞いてみる。溜め込むのは良くない。
それが俺のやり方だ。

「ねえ。なんで俺と部長ってこんなことしているんだっけ?」
部室には俺達二人きり。声はよく響いた。
部長は着替えの途中だったんだけど、ボタンを中途半端なまま俺の方へと振り向く。

「お前は今頃何を言っているんだ?」
「何って、今になってわからなくなったから、聞いているんじゃん。
ねえ、どうして?」
「……」

すると部長は深く溜息をついた。
「ではお前は、今まで何も考えずに身を委ねて来たということか?」
「そうなるっすね」
「……」
力無く腕をだらっと下げた部長に、首を傾げる。

何も考えずに、と言われても事実だからしょうがない。
あの時は、なんかそういう雰囲気だった。
抵抗する・しないすら俺は思い付かなかったんだ。

俺達が最初にこんなことを始めたのは、一ヶ月前からだ。
帰り際に眠たくなった俺は、着替える前にちょっと休むつもりでベンチに横になっている間に、
本当に眠ってしまった。

そうしてしばらくしてからのことだ。
そろそろ起きようと、意識が覚醒を始めた頃、
すぐ側に誰かがいるのを気配で感じた。
寝惚けていた俺は、母さんが起こしに来たと勘違いして、
「今、何時ー?」と目を閉じたまま尋ねた。

「もうすぐ7時になるな」
「そう、7時……」
何かおかしい。
今のは母さんの声ではないし、親父にしても落ち着いた口調だった。
うっすらと目を開けると、俺の顔を覗き込んでいる部長と視線が合う。

「部長?」
「よく寝ていたな」
部長はフッと笑った。
その出来事に驚いた俺は、思わず凝視してしまう。
仏頂面か、怒っている所しか見たこと無かったから、新鮮に映ったからかもしれない。

綺麗な笑顔。
もっと見たいと、不覚にもそう思った。


「何を見ている」
じろじろ見ていたら、部長は居心地悪そうに体を引いた。
「いや、部長って整った顔をしているんだなと思ったから。
いつもそんな風に笑っていたら、ますますファンが増えそうっすね。
ちょっとその気持ちがわかったかも」

正直な感想を伝えると、
部長は目を見開いた後、口の中で何かもごもご呟き始める。
なんだろう?と思った瞬間、顔が近付いて来た。
近いな、とぼーっとしていると、今度は口を塞がれる。
部長の唇が触れているんだ、と理解した時にも俺は抵抗しなかった。

だって部長とのキスはあんまりにも気持ち良くって、
終わらせるのが勿体無い気がした。
起きた直後の所為で、俺もまともな判断がつかなかったのかもしれない。
もうちょっとキスしてもいいな、と思って目を閉じた。

すると部長は今度は角度を変えて、また俺の口を塞いだ。
吸うような動きに、なんだろ?と思っていると舌を入れられて、びっくりした。
固まっている間に、部長はどんどん行為を進めて、
段々と大胆になっていく。
生まれて初めてのディープキスってやつに、翻弄されっぱなしの俺は受け入れるだけで精一杯で。
部長って、慣れているのかなあとぼんやりした頭でそんなことを考えていた。
だからウェアを脱がされたときも、やっぱり大人しく寝そべっているだけだった。

部長の長い指が素肌に触れる度、ぞくぞくっとした何がが俺の中を駆け抜けていく。
触れられるのはキスと同じ位気持ち良かった。
変な声も出て、とてもじゃないけど聞いていられないと唇を噛み締めると、
それに気付いた部長がまたキスをしてくれて、全部封じ込めてくれた。

さすがに繋がった時は痛くて、涙も滲む位で、
止めとけば良かったなとちらっと思った。
だけど、その程度の後悔だった。
後は全部気持ち良かったから、文句は言えない。そんな気分だった。

終わった後は立てなくなった俺に、部長はちゃんと服を着せてくれて、
家までおんぶして送ってくれた。

帰り道、部長は一言も口を利かなかった。
俺の何を話して良いかわからず、黙って広い背中に体重を預けていた。
そうしている間に、また眠っちゃって、気付いたら布団の中という有様で。
あの不思議な体験は夢なんじゃないかと一瞬思ったけど、
体の痛みがそうじゃないと教えてくれた。


それからまた2日後、部長と二人きりになる機会が訪れた。
その間は一言もやったことに対して何も触れていなかったのだけど、
部長が俺の顔に手を添えた瞬間、
ああ、またするんだという位の認識で、俺はまた目を閉じた。

部長とのキスは気持ちいい。
手で触れられるのも。
俺を背負ってくれる背中も居心地よい。

それを理由にずるずると続けて来てしまったけど、
不意にこれでいいのかっていう気になった。

部長は沢山の女子からモテるから、
わざわざ男の俺を相手にしなくてもいいんじゃないか。
今日の部活の時間に、フェンスの向こうから騒いでいる人達を見て思った。
そういう人達は部長に誘われたらものすごく喜ぶだろう。

女の子の方が色々いいんじゃないかと、
思ったことを口にすると、部長は眉間に皺を寄せた。
メモが挟めそうな程の深さに、俺は思わず笑いそうになる。
が、部活でふざけていた時に怒るよりももっと怖い空気を纏っていて、
俺は口をぎゅっと閉じた。

「お前は、」
部長は絞るような声を出した。
「俺と付き合っているのに、そんなことを言うのか?」
「え!?」
思わず声を上げてしまう。
「俺達って付き合っていたんすか!?」
「当たり前だろう」
心外だというように、部長は首を振った。
「でなければ、あんなことをするものか」
「そうっすか……」

付き合っていたんだと付き付けられて、
俺は戸惑ってしまう。
いつの前に、好きだって言われていたんだろ。
俺も知らない間に言っていたのか?
首を捻っても、思い出せない。

「それよりお前は付き合ってもいないのに、あんなことをすると思っていたのか?」
「えっと、」
「どうなんだ」
詰め寄られて、俺は内心で焦る。
流されていただけだと思いました、なんて今の部長を前にして言えるわけがない。

「いや、だって、ほら」
何とか誤魔化そうとして、俺は思いつく言葉を口にした。
「あの時、部長はなにも言ってくれなかったじゃん。
だから性欲でそうしたいのかと思っても、仕方無いんじゃないの」

途端に部長は動揺する。
「性欲だけじゃない!違う、誤解だ」
「違うんすか」
「当たり前だ」
「じゃあ、なんで俺に手を出したの?」
そうだ。なんで、俺なんだ?
無防備に寝ている姿に、簡単に食べれそうだと思ったんじゃないのか?

じっと見上げると、
「そんなの言わなくてもわかるんじゃないか?」と部長は憮然として答えた。
「キスもして、その先もしたんだぞ?好きでもない相手にすることじゃない」
「「好きかどうかなんて、言わなきゃわかんないよ」
「お前ならわかってくれると思っていた。
テニスのことでも、なんでも分かり合えていただろう」
「テニスと一緒にされても……。
言葉が必要な時だってあるよ」

俺の訴えに、部長は「そうだったのか」と俯いた。
「通じ合っていると思っていて、キスをしたのに。
俺は間違っていたようだな」

すまなかった、と謝罪する部長に、
「まあ、もう済んじゃったもんはしょうがないよ」と俺は言った。
抵抗しなかった俺も悪い。
あの時に、どうしてこんなことするの?と聞いておけば良かったんだ。

「ところで、越前」
「何すか?」
「順番は間違えたが、俺と付き合っていることをこれからは自覚してくれるか?」
「なんで?」
「なんでって、俺が困るからだ。
お前が他の人間と付き合うのは、非常に不愉快だ。
俺がいるということをわかっていてもらいたい。
その為にも、事実を今ここではっきりするべきだろう」


真顔で言う部長の言葉を、俺は今までになく真剣に考えた。

部長と、付き合う。
ここで断ったら、これっきりになるということだ。
そして部長は別の人と、キスしたり触れたり、背中を貸したりするのか……。

想像すると、かなり不愉快なものだった。
部長も同じこと言っていたけど、こういうことなんだろうか。
気持ち良いことは俺にだけ、して欲しいなんて。

なんだ、そういうことかと納得する。
最初に突き飛ばして逃げなかったのも、相手が部長だったからだ。
言葉で確認するよりも、体の方を求めることから始めるなんて、
色々飛び越え過ぎてしまっている気がする。
だけど、今はちゃんとわかったから。

流されるんじゃなく、俺は自分の意思をちゃんと伝えた。

「はっきりする前に、言って欲しいことがあるんだけど」
「なんだ」
「それは俺が強要するようなことじゃない。
でも、言わないとわからない大事なことっす」

上目でじっと見詰めてその言葉を強請ると、
部長は、「ああ、そうだな」と優しく笑った。

「俺はいつもわかってもらえると思って、大事な言葉を省いてしまうみたいだな」
「そうだよ。だから、ちゃんと言って」
「越前、好きだ。最初に触れた時よりも、その前から好きだった」

ちょっと遅い言葉だけど、真剣に言ってくれたからもう許すことにする。

「俺も、部長が好きです」
そう言って部長に抱きついた。
すると包むように背中に手を回される。
ああ、やっぱり部長に触れられると気持ちいいなと思って、
うっとりと目を閉じた。



これからは擦れ違いが無いように、
ちゃんと言葉で思いを伝えよう。

それは付き合い始めた俺達が決めた最初のルールだった。


チフネ