チフネの日記
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2009年12月26日(土) 2009年 リョーマ誕生日小ネタ 真田リョ

ようやっと静かになった室内に、真田は溜息をついた。
つい先程まで甥っ子の左助を中心にしてクリスマスのお祝いをしていた。
真田はこういう行事を苦手としていたが、久し振りに家族で過ごす時に引っ込んでいるわけにもいかない。
それに客人であるリョーマも、左助の強い要望によって参加することが決まっていた。
なのに自分がその場にいないなんて通るはずがない。
リョーマの大ファンだという甥っ子は、ずっとはしゃいでいて、
それにつき合わされ真田を含む家族達は静かになった今、疲れた顔をしている。
唯一、リョーマだけはけろっとしてジュースを飲んでいる。
あれだけ左助と一緒にテレビゲームに興じていても、平気とは。
さすがというべきか。

「すまなかったな。今日は左助が迷惑を掛けた」
真田はそっとリョーマに声を掛けた。
左助が眠った今は、真田の自室にて寛いでいる。
リョーマは「平気っすよ」と言いながら笑った。
「俺も楽しかったから。なんか弟が出来たみたいで嬉しい」
「そうか」
「左助って可愛いね。素直でいい子だし、連れて帰りたい位」
「……」

リョーマの言葉に、真田は黙った。
少なくとも自分の前では素直・いい子とは程遠い。
身内だからだろうか。何度もおちょくられて、なめられている気がする。
それには答えず、真田はコホンと咳払いをした。

「あー、その、なんだ。左助の相手をして疲れただろう。
風呂に入ったらどうだ」
「いいんすか?」
「ああ。お祖父さんも先に休んだからな。
母から先に入ってもらうようにとさっき言われた所だ」
「じゃあ、遠慮なく」

立ち上がったリョーマの背中を見ながら、真田は長い一日だったと自分の肩を叩いた。
久し振りの日本で過ごす時間が、こんなに賑やかなものになるとは。
例年より左助のテンションが上がったのは、リョーマを連れて来たからで間違いないだろう。
甥っ子はテニスにさほど興味を持ってはいないが、現在活躍中の越前リョーマのことは知っている。
真田の試合は見向きもしないくせに、リョーマがテレビに映るとなるとその前にかじり付くとは、
やっぱり可愛くない。
今日だって玄関まで出迎えた時に発した第一声が「おじさん、越前リョーマさんを連れて来てありがとう」だった。
おじさん、という言葉にリョーマは目を丸くして、その後、肩を震わせていた。
笑いを堪えていたのは一目瞭然だった。

リョーマとは久し振りに会った。大会の会場で会う以外はメールのやり取りのみ。
お互いのスケジュールが忙しく、プライベートで顔を合わせたのは三ヶ月ぶりだった。
しかし偶然にもイヴから年末に掛けて予定が空いていた。
帰国を考えていた真田は、リョーマに良かったら一緒に来ないかと誘った。
リョーマの両親がちょうどその頃仕事で忙しくて、現在アメリカにある家に帰っても誰もいないと聞いていたからだ。
じゃあ、ホテルをどこかで取るから一緒に行こうかなとの返事に、
真田は家に泊まればいい、そんな必要は無いと説得した。
ずっと遠慮していたリョーマだったが、最後には折れて承諾した。
数々のお土産を手にして、今日、二人で真田家に到着したという次第だった。

それからずっとリョーマは左助に占領されて、ろくに話も出来なかった。
空港で合流した後も、飛行機に乗った後はすぐリョーマは寝てしまったので、
近況を聞くどころではなかった。
日付が変わる少し前の今、ようやく二人きりになれた。

「ぎりぎり間に合ったな」

小さく呟いて、真田は冷蔵庫へと向かった。
今回の帰国が決まった時に、すぐ兄に頼み込んで近くのケーキ屋に予約を入れてもらった。
お礼は代金と共に沢山のお土産を渡した。
そして家に戻って来て、リョーマが左助の相手をしている間こっそり抜け出して引き取りに行って来たのだ。
それをお皿に乗せて、真田はまた自室へ戻った。


「真田さん、お風呂上がったよ」
「ああ。それよりも…」
顔を覗かせたリョーマに、こちらへ来るようにと手招きする。
「何?」
「無理に食べろとは言わないが、今日中に出しておこうと思ってな」
「これって……ケーキ?」
「ああ。誕生日おめでとう、越前」
お皿をリョーマの方へと差し出す。
小さなケーキだけれど、チョコプレートにはちゃんとハッピーバースディの文字とリョーマの名前が書かれている。
夕飯後にクリスマスケーキは出たけれど、それはリョーマの為だけのものではない。
後で出そうと思っていたのだが、結局こんな時間になってしまった。
以前と違って、リョーマもケーキを見ても嬉しくないかもしれない。
だが、真田はずっと気にしていた。
ずっと前に、皆がクリスマスを祝う中で誕生日を迎えても虚しいと漏らしていたリョーマの言葉。
折角、この日を一緒に過ごすのだから、出来る限り祝ってやりたいと思っていたのだ。

「プレゼントも用意してある。クリスマスのものではなく、誕生日のものとしてだぞ」
「……」
「どうした、越前」
無言のままのリョーマに、真田は顔を覗き込んだ。

「いや、ちょっと感激してただけっす」
瞬きした後、リョーマは嬉しそうに笑った。
「久し振りにお祝いしてもらったかも。これまでずっと忙しくって誕生日どころじゃなかったから。
それに周りはクリスマス一色だったし」
「そうなのか」
「うん。これって、俺だけのケーキだよね?」
「ああ、そうだ」
「前に言ったこと、覚えてくれてたんだ」
13歳の誕生日のことを、リョーマも思い出したようだ。
懐かしい時を思い出すような目に、真田は頷いた。
「まあな。今回は急遽用意したから、小さなケーキになってしまったが」
「ううん。ありがとう。すごく嬉しいっす」
ほっとしたように笑うリョーマに、真田は目を奪われた。
その位、綺麗な笑顔だった。

「食べていいんすか?」
「も、勿論だ!」
リョーマから目を逸らして、立ち上がる。
「俺も風呂に入ってくる。その間にゆっくりと味わうといい」
「あ、うん……」

急に大声を出した真田に首を傾げ、それからリョーマはまたケーキに目を移した。
小さなケーキだけれど、その心遣いが嬉しくて。
大切そうにそっと優しく名前が書かれたチョコプレートを取り上げ、
書かれている文字にキスを落とす。

それは甘くて、幸せな味がした。






風呂場へと歩きながら、真田はふと幸村から言われたことを思い出していた。
帰国する前の電話のやり取りだ。

幸村はどうしてもスケジュールが合わず、今回は一緒に帰国することは出来なかった。
電話口で幸村はそのことをとても残念がっていた。
なので今度、こちらから訪ねてみようと真田は考えている。
幸村も異国の地でテニスに励んではいるが、旧友に会いたくなることもあるだろう。
忙しい、ばかりでなくその合間を縫って少しでも顔を合わせる努力をしようと決意した。

「それで帰国した後、ボウヤとは当然別行動だよね?そうに決まっているよね?」
何故か念押しされるように言う幸村に、真田はありのままのことを話した。
「いや、越前は泊まる所が無いので、俺の家に来てもらうことにした。
家族も賛成してくれたからな」
「……へえ、そうなんだ」
答えると同時に、何か電話の向こう側で大きな物音がした。
「幸村、大丈夫か!?」
心配して声を上げると、「いや、大丈夫だよ。掛けておいたハンガーが落ちたんだ」と幸村の低い声。
「そうか。何も無くて良かった」
ほっと真田は胸を撫で下ろす。
幸村が無事というのならば、大したことではないのだろう。

「それより、真田。聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?遠慮無く言ってくれ」
「相変わらずボウヤと仲が良いのはわかった。でも、それは友達としてだよね?」
思いもしない質問に、真田は目を瞬かせる。
「それ以外、何があるというのだ?越前は良きライバルで、友人だ」
「そっか!それを聞いて安心したよ!
まだまだチャンスはあるとわかったからね。友人ね。うん、それは良かった」
「?」
「じゃあ、年末年始も良き友人と楽しんで来て。じゃあね」

一方的に電話を切られた。
最後は上機嫌だった幸村に、
そんなに楽しくなるようなことを言った覚えは無いのに何故だろうと、首を傾げる。

(友人か……)

リョーマと知り合って数年過ぎているが、
連絡が途切れることなく友人としての付き合いはずっと続いている。
リョーマも真田もお喋りな方ではないから、会話が途切れることも時々ある。
が、その沈黙は嫌なものではない。
むしろ心地良くなるような、そんな時間を共有していると真田は考えていた。

それは幸村とも柳とも、立海時代のチームメイト達とも違う。
リョーマといる時にだけ感じる不思議な気持ちだ。
幸村には友人だと言ったが、親友、という言葉じゃ足りない。
もっともっと、特別な何か。

(こういうのを何て表現するのだろう)

わからん、と首を振って、真田は風呂場の扉を開けた。

昔から気持ちを言葉にするのは苦手だった。
部屋に戻ったら、リョーマに尋ねてみる方が早いかもしれない。
リョーマが自分をどう思っているのか。
それも気になる。
確かめる良い機会だ。

そうしようとさっさと体を洗って、湯船に浸かることにした。


それから数十分後。
真田に質問を投げ掛けられ、リョーマは固まってしまった。
まさか、という気持ちでいっぱいで、上手く答えられなかった所為だ。

数年掛けてゆっくりと進んで来た二人。
だが12月24日の今日という日に、転機が訪れようとしていた。


終わり


チフネ