チフネの日記
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| 2009年12月24日(木) |
2009年 リョーマ誕生日小ネタ 不二リョ |
「ねえ、英二。ちょっと相談したいことがあるんだけど」 そう言いながら、有無を言わせない勢いで、菊丸は不二に引っ張られた。
今日は早く帰ってテレビを観たかったのに。 菊丸は内心で溜息をついた。 が、不二に逆らうような真似はしない。 それが長生き出来る秘訣だとわかっているからだ。
連れて行かれた先は学校より少し遠くにあるファミレスだった。 誰かに聞かれてたくない話でもあるんだろうか。 そうだとしたら、自宅に招くはず。 わざわざ、何故こんな所に来たんだろうと、菊丸は首を傾げる。
そして真正面に座っている不二をちらっと見ると、 「何でも好きなもの頼んでいいんだよ」と笑顔で言われる。 ハッキリ言って、怖い。 これが不二以外の人物、例えば大石なら「えー、本当にいいの?高いもの頼んじゃうよ」と、 遠慮なく好きなものを注文しているところだ。 しかし相手は不二。 何を企んでいるのかわからない。 震えながら菊丸はメニューに目を通す。 食べ物系は時間が掛かるからパスだ。一刻もこの場から立ち去る為にもその方がいい。 飲み物にしようと決めて、オーダーを聞きに来た店員に「コーラフロート」と告げる。
「あれ?それだけでいいの?」 「うん……今日は飲み物だけでいいんだにゃー」 「遠慮なく頼んでいいのに」 「いや、本当に十分だから!」 「そう?じゃ、僕はミルクティー。ホットで」 畏まりましたと、頭を下げて店員が下がっていく。 その後ろ姿を不二は何故かじっと眺め続ける。 違和感ある光景に、菊丸はパチパチと瞬きをした。
不二は他人に興味を持つ方ではない。 いや、むしろ眼中に無いと言う方が正しい。 彼が気にするのは家族を除けば、恋人である後輩くらいなものだ。 その不二が他人をじっくり眺めるなんて。 実にらしくない行動だ。 たしかにこの店は可愛い制服が売りで、店員のレベルも高いと評判だ。 わざわざ通ってくる客もいるらしい。 しかし不二に限って、そんなこと考えるとは思えない。 何かおかしいと思って、菊丸は口を開いた。
「あの、今日はおチビと一緒に帰らないの?」 引退してからも不二は部活をしているリョーマを待って、一緒に下校している。 今日はどうして自分を誘ったのか。 そんな疑問を投げ掛けると、不二はずいっとテーブルの上に身を乗り出して来た。
「越前には聞かれたくない話なんだ。 英二も今日聞いたことは、誰にも言わないで欲しい」 「うん。勿論だよ」 念押しされなくても最初から口外するつもりはない。 そんなことしたらどうなるのか、よくわかっている。 「それで、僕が相談したいことは」 「うん」 ごくっと菊丸は唾を飲み込んだ。 「ここの制服って可愛いよね」 「は?」 「英二もそう思わない?」 「えーっと、思うけど…不二も本気で思っているの?」
さっきの行動といい、不二はここの店員に気があるというのか。 彼に限って浮気は無いと思ったが、世の中絶対なんてあり得ない。 真っ先に菊丸の頭に、リョーマのことが浮かぶ。 悲しむことになるのかと、一気に心配になる。 いや、逆に不二と別れるいいチャンスかもしれない。 性格に問題が有り過ぎる不二とすっぱり別れて、リョーマには別の幸せを掴んでもらいたい。 菊丸は弟のようにリョーマのことを可愛がっていたので、不二と付き合うと聞かされた時は気絶するかと思った。 本当にそれでいいのかと問い詰めたかったが、報告の際にも不二が隣にいるので出来なかったのだ。 大事な娘が悪い男に誑かされた気分がどんなものか、よくわかった。
「そうだね。僕も本気だよ」 菊丸の心など気付かず、不二はこくっと頷いた。 やっぱりそうなのかと、菊丸は口を開いた。 「お前がこの店の子に本気なら、仕方ないな……おチビになんて言うんだよ」 「はあ?何言っているの?」 「何って」 顔を上げると、呆れたような目でこちらを見ている不二と視線がぶつかる。 「僕はどうやったら越前にあの制服を着てもらえるか。 上手い切り出し方がわからないって悩んでいるんだけど」 「はああ?」 菊丸は大きく口を開けた。 こっちが呆れる番だ。 さっきまで考えていたことと180度違う展開に、動くことが出来ない。 お待たせしました、と店員が注文したものを前に置いて、ようやく我に変える。
「あのー、不二。ちょっと聞いていい?」 「何?」 「おチビに着せたいって、どういうこと?」 「そのままの意味だけど」 しれっとした顔で不二は言った。 「前から思っていたんだ。 越前ってフリルがついた格好しても可愛いんじゃないかって。 それにエプロンとミニスカートもいいよね。 だからこのお店の制服が似合うと思ってさ。 ただ、素直に着てくれるとは思えないんだよね。 なんとかクリスマスの余興とか言って着て貰える方法は無いかな? いい案があったら、教えてよ」 「……」 そんなことかよ、と菊丸は脱力下。 目の前のコーラフロートを見ても飲む気がしない。 くだらないこと言うんじゃねえよと告げて帰りたいところだが、相手は不二だ。 思いつきでも何か言わないと、今日は返して貰えないだろう。
「上手にお願いしてみたら?プレゼントに制服が着ている姿が見たいとか適当に言い包めてさ」 「そうなんだけど、普通にお願いしたんじゃ嫌だって言われるのは予測出来るんだよね。 越前に嫌われるのも困るから、どうしようかなって」
嫌われるのが嫌ならコスプレさせようとか考えるなよと、心の中で悪態をつく。 無駄だと思いつつ、投げやりに答える。
「だったらおチビが断れない状況に持ち込んだら?」 「どうやって?」 「例えば、えっと、高価なプレゼントをあげるとするだろ。 その上で頼んだら、断り辛いんじゃないかにゃ。 これだけもらったんだから、おチビも引き受けようって気になるかもよ」 適当なことを並べただけだったが、「それいいかも」と不二は頷いた。
「やってみるよ。越前って意外と押しに弱いから嫌と言えないかも。 ありがとう、英二。相談して良かったよ」 満足そうに笑顔を浮かべる不二を見て、「どういたしまして…」と菊丸は顔を引き攣らせた。 このことをリョーマに知らせるか、否か。 少し考えて、やっぱり自分の身が大事だと判断して、黙っていることにした。
12月24日、当日。
その日の昼頃、リョーマは不二の家に到着した。
姉の由美子は彼氏とデート、母は仲の良い友人とクリスマスコンサートに出掛けている。 裕太はギリギリまで部活があるらしく、まだ寮から戻っていない。 最低でも夕方までこの家は全くの無人ということだ。 これを不二が見逃すはずがない。 母と姉に頼み込んで料理とケーキを作ってもらった。 それでリョーマをおもてなしする。 この招待に、リョーマは勿論喜んでくれた。 だがこれも作戦の一つで、美味しいものを食べていい気分にさせようと不二は企んでいた。 その後でプレゼントを渡し、今度はこちらの要求を出す。 ネットで購入済みの制服を着たリョーマを想像し、知らず頬が緩んで行く。
「どしたんすか?」 不二の様子に気付いたのか、リョーマがじっと凝視して来る。 「何でもないよ。料理はどう?美味しい?」 「勿論っす」 「ケーキも?」 「当たり前っすよ。こんなに美味しいもの食べさせてもらって、申し訳なる位っす」 「君の誕生日なんだから、遠慮することなんてないよ。 ああ、ほら、クリームついているよ」 「え?」 口元についているクリームを指で取って、それを自分の口に入れる。 甘いものはあまり好きではないが、姉の作ってくれたケーキは別だ。 しかもリョーマにくっ付いていたのだから、余計美味しく感じる。 さあ、これからが本番だと不二は微笑む。 何も知らないリョーマは、クリームを舐めたことに照れたように頬を染めている。
全ての料理とデザートがリョーマの腹に収まったところで、 「ちょっと待ってて」と別室に用意してあったプレゼントを取りに行く。
「お誕生日おめでとう、リョーマ君」 綺麗にラッピングされたプレゼントを机の上に並べると、リョーマは目を丸くした。 「え、これ全部?」 「そうだよ」 「だって、こんなにも!?」
複数貰えると思っていなかったのだろう。 落ち着かない様子のリョーマに「開けてごらん」と促す。 少し迷った後、リョーマは頷いて一つ一つリボンを解き始める。
不二が選んだのは新しいシューズに、ゲームソフトとリョーマに似合いそうなマフラーだ。 それらを見てリョーマは沈黙した後、顔を上げた。 「こんなにもらっていいの?」 「勿論」 にっこり笑って不二は言った。 この日の為にリサーチした品々だ。 気に入らないはずが無い。 「すっごく嬉しい。でも、俺……先輩に何も用意していないよ」 クリスマスプレゼント買えば良かったと言う呟きに、 それが狙いなんだけどねと、不二は気付かれないようにこっそり笑う。 手ぶらで来てと、念押ししたのもこの為だ。
「いいんだよ。僕はリョーマ君に喜んでもらいたいだけだから」 しゃあしゃあと嘘を付く不二に、リョーマはますます申し訳無さそうな顔になる。 「でも、何かお返しするから。今からいい。プレゼント買いに行く? 先輩みたいに高価なものは買えないけど」
その一言を待っていた。 不二はさっとリョーマの手を取る。 「そんな、君の気持ちだけで十分だから」 「えっと、先輩?」 「そうだね。どうしても気が咎めるって言うのなら、 ちょっとお願いしたいことがあるんだけど、いいかな?」 「何?」 「簡単なことだよ。ちょっと来てくれる?」 リビングから自室へと移動する。
ここからが問題だ。 果たしてリョーマは承諾してくれるのか。 柄にも無く緊張しつつ、不二は自室のドアを開いた。 「良ければあれを着たところを見せてくれないかな?」 この時の為にハンガーに掛けて飾っておいたファミレスの制服を指差す。 「……」 さあ、どう出る。 不二は唾をごくんと飲み込んだ。 菊丸の提案に乗ったものの、不安は残っている。 嫌だ、とリョーマが怒り出したら冗談だよと誤魔化そう。 「どうかな?」 リョーマの顔を覗きこむと、「あれ着るだけでいいんすか?」と普通に言われる。 「そうだけど、着てくれるの?」 「そんなんでお返しになるんなら着てもいいよ」 「是非、お願いします!」 思わず頭を下げると、大袈裟だなあと笑われる。
「でもさすがに恥ずかしいから一人で着替えてもいい?」 「うん、いいよ」 「準備が出来たら呼ぶから」 リョーマは部屋の中へと入り、ドアを閉めた。
(いやに、あっさりしてたな……)
ドアの前に立って、不二は首を傾げた。 余りにも上手く行き過ぎて拍子抜けしてしまう。 あれだけのプレゼントを渡したから、少しは悪いと思ったのかもしれないが、 全く拒絶されないのも変だ。 もしや着替える振りをして窓から逃げ出すつもりでは……。
「リョーマ君、そこにいる!?」 焦って声を出すと、「まだ待ってて!」と、中から声が聞こえる。 ほっと、不二は胸を撫で下ろした。 逃げたわけではないらしい。 しかし油断させて、実は着替えていないオチということも有り得る。 ドアを開けたら、ふざけんな!と制服を投げられるかもしれない。 悶々と悩む不二に、「終わったよ。入って」とリョーマが声を掛けて来た。 「あ、うん…」 覚悟を決めてドアを開ける。
するとそこには用意した制服に身を包むリョーマが立っていた。 やっぱり恥ずかしいのか伏目がちで所在無い手をもそもそ動かしている。 フリルいっぱいのエプロンに、ミニスカートから伸びるすらっとした素足が眩しい。 思わず不二はその場に膝をついた。
「不二先輩!?」 「こんな気持ち、滅多に味わえないよ……」 「どうしたの?」 「いや、君の姿が余りにも可愛くて眩暈を起こしたみたいだ」 「眩暈?大丈夫っすか?」 「うん。ああ、生きていて良かったと心から思うよ」 「大袈裟っすね」 ぷっと吹き出すリョーマに、「大袈裟じゃないよ」と返す。 「絶対着てくれるはずが無いと思っていたのに、こうして姿を拝めてどんなに嬉しいか。 最高のクリスマスプレゼントだ」 「嬉しい?本当に?」 「うん。すごくね」 不二の言葉に「良かった」とリョーマは笑顔を見せる。
「先輩に喜んでもらえて、俺も嬉しいっす。 何もプレゼント考えて無かったから、本当に申し訳なかったけど。 喜んでいる顔が見れるのなら、こんなの着るのなんてどうってことないっす」 きっぱりと言い切るリョーマに、不二は体から力を抜いた。
(君の気持ちを少し見くびっていたかな……。 まさか僕に喜んでもらう為に、そこまで考えてると思わなかったから)
黙っている不二に、今度はリョーマが手を掴んで来た。
「いっそのこと、今から店員とお客になりきって楽しむ?」 楽しそうに笑うリョーマを、不二はそっと抱きしめる。
「それは後にして、今はこうしていてもいい?」 「好きなだけ、どうぞ」 「じゃあ、キスは?」 「聞かなくっても、わかっているくせに」
そうだね、と不二は目を閉じたリョーマの唇に自分のそれを重ねる。 そっと離して、「改めて誕生日おめでとう」と耳元へ囁いた。
やっぱりこの制服はリョーマによく似合っている。 お願い聞いてくれるなら、来年は猫耳にしてみようかと懲りないことを考えた。
終わり
チフネ

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