チフネの日記
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2009年12月23日(水) 2009年 リョーマ誕生日小ネタ 千リョ

約束の時間になっても現れないリョーマに、千石は携帯をポケットから取り出した。
メールも着信も無い。
寝坊かなあ、と苦笑する。
リョーマの遅刻癖にはもう慣れたけど、今日くらいは時間通りに来てくれてもいいんじゃないかと思ってしまう。
クリスマスイヴで、リョーマの誕生日。
二重の意味で大切なこの日に、恋人として一緒に過ごすのは当然のことだ。

夜も楽しみだなとニヤニヤしていると、いきなり後ろから脛を蹴り上げられる。

「痛ってぇな!……って、リョーマ君!?」
「お待たせ、清純」
遅刻した上に蹴るなんて、と泣き真似しながら振り向いた所で千石は気付いた。
リョーマの後ろに控えている女の子。
見覚えがある、なんてもんじゃない。
一気に青くなる。
ついこの間まで浮気してた相手だ……!

「この人がどうしても清純に聞きたいことがあるんだって。
直接聞けばいいのにね。何故か俺の家に来て、おかしなこと言うからさ。
だから連れて来た」
怖い。
笑顔だけど、リョーマの目は笑っていない。
千石は震えながら「そっかあ」と頷く。
取り繕うにも全てばれているのだろう。
舌打ちしたい気持ちで女の子の方へ向く。

本命はいるんだけどね、と千石の言葉に、それでもいいと返事をしたから浮気相手として選んだのに。
結局、こうなるのか。
自業自得だけど、腹立たしい気持ちになる。
大体、何故リョーマのことを知って、しかも家にまで行ったのか。

「なんで、リョーマ君と一緒にいるの?」
冷たい声を出すと、彼女はびくっと肩を揺らした。
「だって、千石君がイヴの日は会えないって言うから、気になって」
「俺、本命がいるって最初に言ったよね?
こんな日に君なんかと会う時間なんてあるわけないだろ。
そんで、リョーマ君のことなんで知っているの?家に押し掛けたってどういうこと?」
「それは…街で二人が歩いているのを偶然見掛けたから…。
その様子が妙に親しげで、もしかしてと思った。
信じたくなかったよ?千石君の本命がまさかその子だなんて。
今日もその子の為に予定を空けるなんて、信じたくなかった」

涙を浮かべる女の子を見ても、千石の心は動かされない。
「で、リョーマ君のこと調べたってこと?」
「だって、だって……」
「文句があるなら俺に言いなよ。なんでリョーマ君の所に行くの?
意味わかんないんだけど」
あーあ、と千石は溜息をついた。
遊びとはいえ、関わったことをすでに後悔していた。
泣いている女の子よりも、無表情でこのやり取りを見ているリョーマの方が気になって仕方無い。

ちらちらと様子を覗っていると、女の子が限界というように声を上げる。
「だってその子、男の子だよ!?千石君はなんか勘違いしているの?私にはわからない。
別れるべきだろうと思って、忠告しに訪ねただけじゃない。
なのにその子、別れないなんて言うから。何なの。
ねえ、千石君は本当にその子のこと、好きなの?」
「勘違いって、何。しているとしたら、君の方でしょ」
うんざりしつつも、千石は答えた。
「リョーマ君のこと、好きだよ。君なんかよりずっとね。
色んな女の子と遊んでも、俺の本命は変わらない。
性別がどうとかじゃなく、リョーマ君がいいんだ」
「そんな……」
「ああ、、もう鬱陶しいなあ。
早く帰れば?それで俺とリョーマ君の前に二度と顔を見せんな」
堪えきれず泣き出す女の子に、千石はうんざりというように首を軽く振ってみせた。
今日という日を滅茶苦茶にしておいて、泣きたいのはこっちだ。


「そういう言い方は無いんじゃないの」
ずっと黙っていたリョーマが口を開く。
そしてすっと千石に近付いたと思ったら、後ろから思い切り頭を殴りつける。
右手だったけど、十分な威力だ。
「痛っ。何すんの、リョーマ君!」
「殴られても当然だろ。
さっきから聞いていれば、向こうが悪いような言い方ばっかりして。
あんたも似たようなもんだろ。
一方的に責めるのって、どうなの。
その人に謝罪してもいいんじゃないの」
ふんっと、鼻息を荒くするリョーマに、千石は慌てて言い訳をする。
「だって、リョーマ君の家に押し掛けたりするから、それで」
「それもあんたの所為だろ。違う?」
「……はい」
うなだれる千石を押し退けて、リョーマは女の子の前に立った。
二人のやり取りを見て、びっくりして涙も引っ込んだようだ。
やれやれというように、リョーマは彼女に向かって言った。

「この馬鹿に引っ掛かったことは同情する。
でも、もう諦めた方がいいよ。
こいつが俺のことを好きなのは、変わらないんだから。
あんた、可愛いのに勿体無いよ。
大事にしてくれる彼氏を探した方が早いんじゃない?」
「……」
リョーマのその言葉に怒るわけでもなく、文句を言うわけでもなく女の子は目を伏せる。
そして、
「私、帰る」と、突然身を翻す。

小走りで去っていく背中に、「何あれ?」とリョーマは首を傾げた。
「気が済んだんじゃないかな?それと自分を省みて恥ずかしくなったとか。
バツが悪くなって、帰ったように見えたけど」
「あっ、そ」
千石の言葉に、リョーマは思い切り横を向く。
当たり前だが、相当機嫌を損ねている。
慌てて拝むようにして、頭を下げる。
「ごめんっ、あの子はちょっとの間だけ会っていた相手で、
浮気の内にも入らないような関係だから!
なのに今回はリョーマ君に迷惑掛けました。ごめんなさい!」
謝罪を口にしても、リョーマは無言のままだ。
怒っている。
当たり前か、と千石は奥歯をぎゅっと噛んだ。

リョーマのことは大好きだけど、会えない間に遊ぶくらいはいいんじゃないかという気持ちは常にある。
ばれなければい。
それは病気のようなものだ。

特にリョーマは部活で色々忙しくて、平日もほとんど会えない。
となると、適当な相手で寂しさを埋めたくなる時がある。
なにしろこっちは引退した身で暇を持て余しているのだから。

こんな時、同じ学校だったらなあと思ってしまう。
そうすれば少しは浮気の虫も治まるんじゃないか。
そんなことを考えていると、
「今日、俺の誕生日なんだけど」と低い声で言われる。

「こんな目に合わされて、すぐ帰りたい所だけど、
清純が誠意を見せてくれるって言うのなら一緒にいてもいいよ」
「勿論!誠心誠意、償いをさせていただきます!」
低姿勢のままで言うと、「じゃあいいよ」と短く返事してリョーマは歩き出す。
千石も慌ててその後を追う。

「言っておくけど、簡単には許さないからね。
これでも怒っているんだから」
「わかってます。リョーマ君のお怒りはごもっともです」

しかし即帰るということは無しになった。
ほっとしつつ、千石の表情は緩んでいく。
無関心な態度で済まされるよりも、怒られる方がずっといい。

それだけ君が俺のことを好きだとわかるから―――。

「あのさ、リョーマ君っ」
小走りでリョーマの横に並ぶ。
ツンと前を向いたままだけど、構わず続ける。
「さっき言ってくれたこと、嬉しかったよ」
「さっきって、どれ」
「ほら、俺が一番好きなのは、リョーマ君だってこと。
ちゃんとわかってくれてたんだなーって」
「なんだ、そんなことか」

呆れたようにリョーマは溜息をついて、そしてこちらを見た。

「そんなの、当たり前じゃん」
ニヤッと生意気そうに笑う姿に、千石はパチッと目を開く。

好きだなんて、わかっていて当然。
その自信満々な態度に、また惚れ直す。

この子には一生頭が上がらないじゃないかと、今日、改めて認識した。


チフネ