チフネの日記
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2009年11月25日(水) happy together 千リョ

「ちーっす」

Uー17合宿参加日、初日。
突然現れたリョーマの姿に、皆驚きの表情を浮かべる。
千石もその中の一人だ。
最後の一つとなったボールを手にしたリョーマは、悠々と近付いて来る。
すると早速、青学のメンバーが構い始める。
「おチビっ、久し振りっ!」
「お前、今まで何やってたんだよ。って、またおいしい所取りやがって!」
それと同時に、他校生の何人かもそれぞれリョーマに一言二言、声を掛ける。
全国大会以降から、突然に消えたルーキーを気にしていたのだろう。
だけど千石はまだ動けずにいた。

アメリカに行ったはずのリョーマが、どうしてここにいるのか。
まだ実感がわかない。
都合のいい夢を見ているんじゃないかと、呆然としていた。
あの日、たしかに空港まで見送りに行ったはずなのに。

千石が突っ立っている間に、リョーマは挑んで来た高校生相手にさっさとコートに入り、
ご丁寧に相手の技を真似て、顔面にボールをぶつけて勝ちを取った。
文字通り、倒したってわけだ。
してやったりと不敵な笑みを浮かべるリョーマに、千石はやっと本人だと確信する。
そして、
「どーして、リョーマ君がここにいるの!?」と、周りのことなど気にせず、叫んでいた。

当然、コートからリョーマは慌てて千石の方へ向かって駆け寄る。
よし、来い。抱きとめてやるから!と、千石は両手を広げたのだが、
代わりに飛び込んで来たのはリョーマのラケットだった。
もろに額にぶつかって、千石は悲鳴を上げた。
「でかい声出すからだよ」
痛む頭を押さえていると、リョーマの声が聞こえる。
この素っ気無さ。リョーマ君に間違いない、と千石は呟いた。


それから今頃になってこの場を仕切に来たコーチによって、通常の練習が始まって、
リョーマと会話どころでは無くなってしまう。
やっと二人きりになれたのは、夕飯後、それぞれの学校ごとに振り分けられた部屋に入ってからだった。

「いやー、オモシロ君が快く承諾してくれて良かった。ねっ、リョーマ君!」
「泣き落としてやっと替わってもらったくせに何言ってんの。
桃先輩の呆れ顔、見たでしょ?」
「細かいことは気にしない、気にしない」
「はあ、まあいいけど」
折角、再会出来たのに離れ離れで眠るなんて、考えられない。
そう思って、千石はリョーマと同室の桃城に土下座する勢いで頼み込んだ。
涙目になって訴え、今度奢るからと条件を付けたところで、了解を得ることに正解した。
それもこれもリョーマと一緒にいたいからだ。

「リョーマ君は、俺と一緒の部屋じゃ嫌なの?」
「さあね」
「もう、相変わらずクールだなあ。久し振りに会えたんだから、嬉しいって言ってくれてもいいのに」
「言うわけないじゃん」
相変わらずの素っ気無い言い方。
しかしそんなことは気にならない。
目の前に、すぐ手が届く所にリョーマがいる。
それだけで、千石は幸せな気持ちになれるのだから。

「で、一体どうしたの?選抜の合宿に来るなんて聞いていないよ。
この前、貰ったメールにもそんなこと書いていなかたよね?」

リョーマがアメリカへ行ってからも、二人の交際は続いている。
遠いけど、なんとかなるだろう。
楽天家な千石と、あまり物事を深く考えないリョーマが出した結論がそれだった。
離れ離れになってからは、メールとたまの電話でやり取りを交わしている。
リョーマは冬休みに日本へ戻ることが決まっていたので、
それまでの我慢だと千石は自分に言い聞かせた。
高等部へ上がったらバイトも始める。稼いだお金で自分からも訪ねに行こうとも密かに計画していた。
今のところ、お互い距離と同じに気持ちまで離れているということは無かった。
このまま冬まで待てる、と思っていたのに、今日の突然の帰国。
どういうこと?、と千石が驚いても無理もない。

「来れるかどうか、ぎりぎりまでわかんなかったから言わなかっただけ」
ベッドに腰掛けて、リョーマは言った。
当てられた部屋はさほど広くない。あるのはツインのベッドが二つと、奥に洗面所。
千石ももう一方のベッドに腰掛けて、リョーマと正面から向き合った。
「それで?」
「だから、行くかもってメールして、行けなかったら清純ががっかりすると思って。
はっきりするまでは黙っていたんだ。飛行機もぎりぎり乗り込む位だったし」
「そうなんだ」
リョーマがどれだけあちらで忙しくしているか、短いメールからでもそれは伝わっている。
合宿に来られるかは、本当に微妙なところだったのだろう。
いや、しかしそもそもこの忙しい中、何故参加しようと思ったのか。
首を傾げて、千石は疑問を口に出した。
すると、珍しいことにリョーマはさっと目を逸らすではないか。

もしかして、と千石は考えた。
全国大会を終え、一通りの強い選手と試合をしてリョーマは成長した。
そして更なる高みを目指して渡米したはずだ。
それなのにわざわざ日本に戻って来た。
たしかにこの合宿に集められた選手のレベルも高いが、それだけで戻って来るとは考えにくい。
やっとあっちでもプロを目指して軌道に乗って来たと、メールに書いてあったのだ。
それを休んでまで来たのは……。

「ひょっとして、俺の為?」
遠慮がちにそう聞くと、リョーマの頬がさっと赤くなる。
ビンゴ、だったみたいだ。
「なんだ、そうだったんだ!もう、早く言ってくれればいいのに!」
感極まって千石はリョーマに抱きついた。
自分に会いに来る為、一生懸命予定を調整してくれたかと思うと、愛しさが募る。
可愛くて仕方無いというようにリョーマの頬に何度も軽いキスを送ると、
「そんなんじゃない、たまたたまっ・そう、どうしてもって言われたから来ただけだよ」と反論される。
しかし、そんな真っ赤な顔して言われても説得力は無い。

「ふーん、どうしても、ねえ。
でもちょっとは、俺と会えるから嬉しいって思ったでしょ。ね?」
「しつこいなあ、違うって言っているのに」
「だとしても、俺は嬉しいけど?こんなに早くリョーマ君に会えて良かったあ。」
「……」
「もう、本当に幸せっ。来てくれてありがとうねっ、リョーマ君!」
「別に、礼を言うほどじゃ……」
もごもごと言いながら、リョーマは俯いた。

「それに、俺もちょっとは清純に会えるの期待してた。本当にちょっと、だけど」
「うんうん、わかっているよ」
素直じゃない性格だから、なかなか本当のことも言えない。
そんなリョーマに笑いながら、千石は頬にそっと手を添えた。
「本当に来てくれて嬉しいよ。これから一緒に頑張ろうね」
「うん」
こくんと頷くリョーマが可愛くて、今度はこめかみ辺りに口付ける。
これから毎日一緒に寝起きを共に出来ると思うと、
自然に顔がにやけていく。
休みの日は当然デートだな、と色々想像を膨らませていると、
するっとリョーマは腕の中から抜け出す。
そして「じゃあ、寝るから」とベッドに潜ろうするではないか。

「え?なんで?夜はこれからでしょ?」
「明日も早いって言われてたじゃん。向こうから直接飛んで来て、もうくたくただから寝る。
朝、起こしてよね。頼むよ」
「えーっ、そんなあ、もっと起きていようよ。折角だし、ねっねっ」
「うるさい。もう限界だから、黙っててよ……」

言いながらリョーマは目を閉じて、そのまま眠ってしまった。
3秒も掛かっていないんじゃないだろうか。
しかも肩を揺さぶってもびくともしない。
千石はがっくりと肩を落とた。
これからもっと色んなことをするはずだったのに。
すっかりあてが外れてしまった。

仕方無い。
今日のところは引くしかない。疲れているのは本当だろう。
忙しい中、わざわざ来てくれたんだ。
ここで不満を漏らしたら、バチが当たるかもしれない。
今日は手を出すのを止めようと、ぐっと我慢を決めた。

「俺も寝ようかな。明日、リョーマ君を起こさなきゃいけないし」
少し考えて、千石はリョーマが眠るベッドにもぐりこんだ。
狭いスペースだが、くっ付けばなんとか二人でも眠れる。
どうしても離れたくない。
蹴飛ばされることは覚悟して、温かい小さな体を抱きしめる。

「おやすみ、リョーマ君」

明日になったら夢だった、なんてありませんようにと祈って、千石も目を閉じた。


終わり


チフネ