チフネの日記
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| 2009年10月07日(水) |
2009年 手塚誕生日話 |
誕生日、だからとどうということもない。
この14年、手塚はずっとそう思っていた。 恋人が出来たから、何か劇的に変わるものじゃない。 しかし、目の前の光景は……。
「部長。誕生日、おめでとうっす!」 「……越前」 「何すか?」 「一つ聞きたいのだが、その格好はなんだ?」 「何って、裸エプロンだけど」 「どうして、そんなことをしている」 「え、だって部長の夢なんでしょ?こうして祝ってもらうのを望んでいるって、聞いたけど」 「誰にだー!?」
思わずここが越前家だということも忘れて、手塚は叫んでいた。 ご近所さんに聞かれなかっただろうかと、手で口を覆う。 幸いなことに、両親は不在。あの厄介な父親に用事で出掛けているとリョーマは言っていた。 従姉もまだ帰宅の時間じゃない 誰もいなくて良かった、と手塚は胸を撫で下ろす。
「誰って、不二先輩と菊丸先輩」 なんかまずかった?というようにリョーマは手塚を見上げた。 「こういうふりふりエプロン持っている?って聞いたから、無いって言ったら、使うといいよって貰った。 どう?」 「どう、と聞かれても……」
手塚は改めてリョーマの姿を直視した。 少し大きめのエプロンを見につけて、リョーマは床に座っている。 ところどころちらちら見える生足や、脇腹に、耳が熱くなって行くのを感じた。 似合う。似合い過ぎる。 その点だけでは不二と菊丸の見立ては確かなものだが、 中学生男子に何やらせている。
手塚は大きく溜息をついた。
お茶を持って行くから待ってて、と言うので先にリョーマの自室に上がらせてもらった。 やけに時間が掛かっているなと思ったが、 こんな準備をしているなんて。 しかも奴ら二人の話を間に受けて、行動を起こすなと言いたい。
「あれ、部長?ひょっとして、嬉しくないの?」 リョーマが顔を覗きこんで来る。 その動きでエプロンがぴらっと揺れた。 咄嗟に体を引くが、狭い部屋の中。 すぐ真後ろにあるベッドに背中が当たった。
「やっぱり……菊丸先輩が提案した第二候補の猫耳、猫グローブ、猫しっぽのセットの方が良かったかなあ」 「ちょっと待て」 遠くを見るように呟くリョーマを、手塚は手で制した。
「誤解しているようだが、俺にはそんな変態的な趣味は無い」 「え、だって不二先輩達が、潜在意識では望んでいるって」 「それは間違いだぞ、越前」 「ええ!?」
大きく驚いた後、リョーマは「おかしいなあ。絶対部長は好きだと思うんだけど」と呟く。 悪気無い言い方に、手塚はがっくりと肩を落とした。 お前はどういう目で俺を見ているのだと。
「あいつらの言うことは、ほとんど当てにならない。 からかって遊んでいるようだ。以降、俺に確認するように」 「はーい」 「では、そのエプロンから服に着替えて来い」
目のやり場に困るから、とはさすがに言えない。 やっぱり好きなんだ?と勘繰られたら元の木阿弥だ。 ここは速やかに着替えさせようと、手塚は考えた。
だが、 「着替えなくちゃ、駄目っすか?」とリョーマはしょんぼりとした様子で言う。 「え、越前?」 「だって、俺……他になんのプレゼントも用意していないから」 困ったように俯く。 その表情に、手塚は僅かに狼狽した。
(越前は俺を祝ってくれようと、真剣に考えていたのかもしれない。 そしてプレゼント=自分自身という結論を出したのか? だとしたら、俺はなんてことをしてしまったのだ。 恋人からのプレゼントをいらないなんて、酷いことをした)
反省しつつ、手塚はリョーマの肩に手を置いた。 その心遣いは嬉しい、と伝える為に。
「えちぜ」 「これも親父が小遣いを前借させてくれなかった所為だ! ファンタを我慢すればいいって、出来るわけないじゃん。 一日3本飲まなきゃ調子出ないのに」 「3本!?」 「ごめんね、部長。プレゼントを買うお金は、全部ファンタに消えたんだ。 こうしておわびとして、せめて部長の好きな格好で喜んでもらおうと思ったのに。 リサーチ不足っすね。セーラー服の方が良かった?」 「……いや、だからそういう趣味は無い」
頭が痛いというように手塚は左手を額に置いた。 この恋人は、いつまで勘違いを続けているのだろう。 そして一日ファンタ3本は明らかに摂取し過ぎだ。 色々と説教したいことがある。
「部長?大丈夫っすか?」 「ああ。とにかく……着替えてくれ。 俺はお前からおめでとうと、言って貰えたらそれでいい。 プレゼントは、必要ない。気持ちだけでいいぞ」 「部長……」
良かった、とほっとしたような笑顔。 それはプレゼントを買わずに済んだからなのか、 今の言葉が嬉しかったからかはわからない。
でも、 「ありがとう、部長。そしておめでとう!」と、ぎゅっと抱きついてくるリョーマが可愛いから。
(これはこれで、幸せかもしれないな)
エプロンって結構良いものだなと、手塚はリョーマに気付かれないようひっそりと笑った。
終わり
チフネ

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