チフネの日記
DiaryINDEXpastwill


2009年10月04日(日) 2009年度 跡部誕生日話

「今度の日曜なんだけど」

リョーマがそう切り出した時、跡部は咄嗟に頬が引き攣るのがわかった。
いつ来るか、出来ればやり過ごしたい。
ここ最近、ずっとそのことを考えていたから。

「あんたの誕生日なんだって?」
「あ、ああ」
誰に聞いたんだろう。
自分からは教えていない。
何気なく話すには、少しばかりの事情を抱えているからだ。

「誰から聞いた?」
跡部の質問に、リョーマは「青学のあちこちで噂になっている」答えた。
「氷帝の跡部様がもうすぐ誕生日を迎えるらしいから、プレゼント渡そうかしらって。
あんた、うちの学校でも結構有名なんだね」
「ふーん……」
どこのお喋り女達だよ、と顔も知らない連中を恨む。
リョーマには、知らせたくなかった。
言えば、多分落胆させることになる。
しかし知られた今、黙っておくわけにもいかない。
どう説明しようかと、跡部は一生懸命頭の中で考え始める。

そんな跡部に気付かないまま、リョーマは「そういえば、忍足さん達にも確認したんだけど」と言った。
「日曜が誕生日で合っているんだよね?
当日は忙しいみたいだから、前日にお祝いさせてよ」
「いや、その日は朝から忙しくて……前日??」
どう説明しようか悩んでいたが、思いがけないリョーマの誘いの言葉に我に返る。
「今、前日って言ったのか!?」
「なんで二回も確認してんの。ちゃんと前日って言ったのに」
「いや、その、でも、いいのか」
支離滅裂になりながら言うと、リョーマはこくんと頷いた。

「忍足さんや向日さんから聞いた。
毎年誕生日は、色んな人集めてパーティーするんでしょ。
両親の仕事の関係者も来るって。
そんな大事な用事があるなら、欠席出来ないんじゃないの。
俺は前日に沢山祝ってあげるから、それで良しとしてよ」
「越前……」

跡部には、返す言葉が無かった。
全部事実で、しかも本当なら自分が説明しなければいけなかったこと。
先延ばしにしている間に、リョーマは他の者達から事情を聞いて、
その上で当日に会えないことを見越して、先に自分から「前日に会おう」と提案してくれた。

なんてことだ。
ぐだぐだ悩んでいる間に、全て悟って尚且つ跡部にとって良いと思える提案を出してくれるなんて。
気を使わせてしまったな、と項垂れる。

「何?まさか、前日も約束が入っているとか?」
リョーマの声に、跡部は力無く答えた。
「そんなんじゃねえよ。まるまるお前の為に空けとく」
「いや、別に丸一日とかいらないし」
「いらないのかよ!?」
「ただ、ちょっと、4日になる瞬間までいられたら、それでいいんじゃない?」

にこ、と笑うリョーマに、また言葉が詰まった。
それ以降の時間は、リョーマ以外の者達と過ごさなくてはいけない。

ほとんど仕事に行っている為、滅多に顔を合わさない両親。
同じくこの家の財産のみに関心のある親族達。
仕事の関係者ということで祝う気もなくやって来る大勢の他人。

リョーマと一緒にいる時間の方が何よりも大切なのに、
結局、その連中とのパーティーを選んでいる自分が本当は嫌いだ。
跡部家の人間だから仕方無いと、誤魔化して。
いつか、大切なものを見失ってしまうんじゃないかと思うと怖い。

だけど、折角自分の為に笑顔で提案してくれるリョーマに弱音を吐くわけにもいかない。

跡部は顔を上げた。


「そうだな。じゃあ、朝まで一緒にいようぜ」
やっとの思いでそう言うと、リョーマは嬉しそうに笑った。
「前日はちょうど土曜だから、宿泊も出来て良かったね」
笑顔の裏側に、どんな思いが渦巻いているのだろう。
忍足達から話を聞いた瞬間、当日一緒に入られないことを知って、瞬時に諦めた。
そしてわざわざこうして前日にしようと言ってくれたこと。

いつもこちらを振り回してばかりのリョーマが、気遣ってくれている。
そう考えると、ちくんと胸が痛んだ。







当日は、コート付きのとあるホテルを予約した。
リョーマを車に乗せて、そこへ移動して到着すると同時にテニスしようと誘った。
テニスと聞いて、案の定食い付いてくる。
すぐに着替えてコートに入った。


「ねえ。一応誕生日のお祝いなのに、こんなことでいいの?」
「ああ。お前とテニスするのは楽しいからな。暗くなるまで打ってようぜ」
「俺も楽しいからいいけど。これじゃいつもと変わらないじゃん」
「へえ、それじゃいつもよりすごいことしてくれるってことかよ?」
わざとそんな風に言うと、リョーマは一瞬きょとんとした後、
「バーカ」と渾身のショットを打って来た。



罪滅ぼし、のつもりのつもりだったのかもしれない。
明日を一緒に過ごせない。その後ろめたさから、せめてリョーマが喜ぶように、テニスしようと。
短絡的な考えだ、と跡部は自嘲した。
そんなことしても、明日の朝になればリョーマと別れて家に帰ってしまうのに。

「考え事?余裕、だねっ!」
ぼーっとしている一瞬に、ボールは跡部の横を抜いてラインすれすれに落ちた。
顔を上げると、得意げに笑っているリョーマが見える。

なんで、そんなに楽しそうでいられるのか。
大体のことは察しているだろうに。
そうやって笑える彼の強さが、眩しい。
自分はそこまで強く無いから。

「楽しもうよ、今を。だから、集中してよね。
手抜きしたら、この後祝ってあげないよ。
あんたなんか放って、さっさと寝てやるから」
「……それは、困るな」

跡部はサーブを打つ為にベースラインまで下がった。


両親や、その他の家の者達に抵抗するには、自分はまだまだ子供で。
抗うことが出来ずに、恋人の好意に甘えてばかりだ。

でも、いつか覚悟が出来たその時には……。

リョーマが笑ってくれている間に、なんとかしよう。早く、早く。
甘えて寄りかかっていてばかりだと、いつかは彼も離れてしまう。
だからその前に、独り立ち出来る勇気と力を持たなくては。


数年後の誕生日には、必ず二人だけで祝うと誓って。
跡部はぎゅっと黄色いボールを握り締めた。

リョーマを失望させないような、そんな力強いサーブを打つ為に。
前へと、踏み出した。



終わり


チフネ