チフネの日記
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| 2009年04月03日(金) |
僕の告白 3 不二リョ |
教室に戻ると、当然のように英二が「成果はどうだった?」と尋ねて来た。 「他に生徒が沢山いて、告白出来なかった」 「ええー?折角のチャンスなのに、何やってんだよ」 不満そうな英二に、「でも代わりに練習が終わったら、一緒に帰る約束した」と伝える。 「ええ?二人きりで?」 「当たり前でしょ。その後、僕の家で話をすることにした」 「でかした、不二!」 バシバシ背中を叩いてくる英二に、僕はただ笑ってやり過ごした。 事態は英二が思っているよりずっと、ややこやしいことになっている。 真実を伝えるのは止めよう。
「もしかして上手くいくんじゃない?おチビもその気だったりして!」 「……だといいけどね」
上手くいくかなんて、まだわからない。 もしかしたら、もっと取り返しの付かなくなる展開になることだって考えられる。 でも、迷っている場合じゃないんだ。 越前の心をもっと知る為に、必要なこと。 だからこの局面を乗り越えてみせなきゃいけないんだ。
そして、いよいよ放課後。 委員の仕事でかなり遅れたけれど、越前はちゃんとコートに姿を現した。
「来ないかと思った」 「何で」 ストレッチをしている彼の横に立って、そっと話し掛ける。 むっとしたように、越前は僕を見た。逃げるなんて心外だと言いたげだ。 「越前の方こそ覚悟が出来ていないのかと思ってね」 「冗談。後で泣いても知らないよ」 その言葉にくすっと笑った後、僕は再びコートに入った。
「それは、楽しみだね」 果たして、泣くのはどっちになるのだろうか。 証拠になるものはないが、僕は越前の態度にある疑問を抱いていた。 そうじゃなかったら、こんな無謀な賭けには出なかっただろう。怖過ぎる。
練習が終わり、僕は片付けをしている越前を待った。 「不二、頑張れよ!」 手を振る英二に、同じように返す。 明日、また結果を聞かれるんだろうな。全部説明は出来ないけど、ある程度は報告しなくちゃいけないだろう。 さて、どうするか……。
「先輩」 考え事をしていたら、制服を着ている越前が目の前に立っていた。 「もう終わったの?」 「っす」 強気な表情の中に、不安な影が瞳に見え隠れしている。 「じゃあ、行こうか」 気付かない振りをして、僕は家へ向って歩き出した。 やや後ろから遅れて、越前も付いて来る。
歩いている間、会話はほとんど無かった。
「ここだよ」 「はあ」
家に到着して、ポケットから鍵を取り出す。 姉さんは夕飯はいらないと言っていたから、帰りは遅い。裕太は寮にいて、戻って来る予定は無し。 母さんの予定はというと、友人とコンサートに行くと言っていた。キッチンには一人分の食事が用意されているだろう。
つまり、今この家には僕と越前だけしかいない。 絶好のチャンスという訳だ。
「上がって」 「お邪魔、します」 きょろきょろと辺りを見回す越前の仕草は子供みたいで、可愛いなと思ってしまう。 「僕の部屋は二階の奥にあるんだ。今、飲み物を用意するから先に行っていて」 「はあ」 「さすがにファンタは無いけど、我慢してね」 「なんでも、いいっすよ」
伏せ目がちのまま、越前は階段を上がっていった。 僕はそれを見送りながら、軽い足取りでキッチンへと向う。
ここまでは順調だ。 さて、どうやって切り出そう。
冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して、用意したグラスに注ぐ。 二人分、トレイに乗せて自室へと向う。
半開きのドアから中へ入ると、越前は窓際に置いてあるサボテンを眺めているところだった。
「オレンジジュースしかないけど、いいかな」 「あ、はい」 グラスを受け取る動作はどこかぎこちなくて、 緊張しているのかなと、思った。 試合でもそんな所見せたことないのに。 何だか得した気分になった。
床に腰を下ろし、二人でオレンジジュースを静かに飲む。 時折、越前は何か言いたげにちらちら視線を送って来るんだけれど、 やっぱり自分から何か話そうとはしない。
言えないか。 やっぱり止めましょう、なんて。
僕は飲み干したグラスを、静かにトレイに置いた。
「ねえ、越前」 「……何すか」 「先にシャワー使う?」 ぎょっとした顔で、越前がこちらを向く。 手からグラスが落ちそうになり、慌ててキャッチしている。 動揺しているらしい。
「シャワー、って」 「普通だと思うけどなあ。ほら、部活で汗掻いて気持ち悪いでしょ。軽く流した方がいいよね」 「はあ…」 「それとも、越前はこのままの方がいいのかな?」
にじり寄って行くと、越前は自然と腰を引いてしまう。 (一応)押し倒す側なのに、何してんのと笑いそうになる。
「いや、俺はその」 「ああ、なんなら一緒にシャワーを浴びようか。どうせ脱ぐんだから、どこでも同じだよね」 そっと手に触れると、越前は慌てて引っ込めた。 「不二先輩って!」 「何?」 「こういうの、慣れてるんすか?まさか本当に俺にどうこうされたいとか思っているんじゃないよね!?」 ほとんど悲鳴みたいな声だった。
やっぱり。
僕は自分の推測が正しかったと直感する。 それでもまだ演技を続けた。
「何言っているの。先に言い出したのは君の方じゃないか。したいって言ってたよね」 「それは付き合ってからの話!したいとは言っていない!」 「往生際が悪いよ、越前。だって受け入れたら付き合ってくれるんでしょ」
壁際に追い込む形で迫ると、突如越前は手を床に置いた。
「ごめんなさい、無理っす!」 「越前?」 「先輩を抱きたいなんて、これっぽっちも思っていない!あれは断る為の口実で、 俺にそういう趣味は無いっす。だから、これ以上は無理!」 「なあんだ、だったらそう言ってくれれば良かったのに」 「え?」
顔を上げた越前は呆気に取られていて、その無防備な様子が可愛いと思った。
「僕だって、君に押し倒されたいなんて思っていないよ。 ただ君の本音が知りたかっただけなんだ」 「じゃあ、俺は何もしなくていいんすか」 「当たり前じゃないか」
笑って言うと、「良かった」と越前は体から力を抜いた。
「本気で焦った……。もしかして、生きて来た中で一番かも」 「あんなこと言うからだよ」 越前の額を指で軽く押してやる。
「告白を断るにしても、あんなこと冗談でも言ったら駄目だよ。 今回は助かったとしても、本気で取る奴がこの先にいるかもしれない」 「そうっすね……。今、よくわかった」 しゅんとなった所を見ると、反省しているらしい。 今後は僕に言ったような断り方をすることは無さそうだ。
「でも、どうしてあんな事言ったのかな?聞いていい?」 問い掛けると、越前は気まずそうに目を泳がす。 話そうか迷いながら、最後には口を開いた。
「ああ言えば、諦めてくれると思ったからっす。今まではそれで撃退していたから」 「今まで?」 「うん」 越前は過去を思い出すかのような目をした。 「俺、アメリカでも何故か女子よりも男から告白受けることが多かったんだ。 なんでなのかはわからないけど」 それは君が可愛いからとは言わないでおいた。 越前はそんな言葉決して望んでいないだろう。 「色々迫られることも、セクハラされることもあってほとほと嫌になったんだ。 しかも皆、俺のこと女の代わりみたいに扱ってくる。そんなの真っ平なのに。 だったらこっちが押し倒す方だぞって脅しかけたら、相手が逃げ出して。 それからかな、そう言って断るようになったのは」 「そう、だったんだ」 「不二先輩もそれで諦めるかと思ったんだけど」
とんだ誤算だった、と頭を掻く。 「まさかこんな展開になるとは思っていなかったっす。先輩はいつから気付いていたの?」 「最初はわからなかったよ」 僕は正直に答えた。 「図書室で会話した時かな?違和感に気付いたんだ。 君が男を押し倒すように見えなかった。 このまま諦めるよりも、ちゃんと知りたかったんだ。だから確かめてみた」 「ふーん、良い勘してるね」 力なく笑って、越前は僕を見た。
「さっさと諦めてくれれば良かったのに」 「悪いね。諦めは悪い方なんだ」 「それはよくわかった。まさか誘われるとは予想外だったから。 ねえ、でも俺がやけになって押し倒したらどうしてた?」 「さあね」 僕は首を傾げた。 「でもどちらにしろ、それ以上は進まなかったと思うよ。 君が本気で僕を抱きたいという気持ちにはならないだろうから」 「そうっすね」 越前は、がくっと項垂れた。 今日まで上手く交わしていたことが、ここに来て通じない。かなり困っているみたいだ。
そんな彼に、僕は手を差し伸べた。
「先輩?」 「ねえ、越前。もう一度僕の気持ちを聞いてもらえないかな?」 「……」
じっと見詰めると、越前は「いいよ」と小声で言った。 それを聞いてから、再び僕は彼に告白をした。
「君のことが、好きです 最初に言われたことが引っ掛かって、悩んだりもした。 でも一緒にいたいという気持ちは変わらなかったんだ。 その位、好きだから。 そんな君に無理強いもさせたくない。 キスから先のことはとりあえず置いといて、今は僕と一緒にいてくれないかな。 付き合って下さい」
越前は何も言わない。 しばらく沈黙が続いた。 僕は焦ることなく、回答を待ち続けた。 勿論、断られても諦めるつもりは無い。 何度だって再挑戦しようと決めている。 今日は、気持ちを伝えることが出来ただけ満足するべきなんだ。
「いいよ」 「え?」 「先輩の気持ちはわかった」
静かに越前が口を開いた。 「あの、越前」 「あんな条件出しておいて、逃げなかったのは不二先輩が初めてっす。 ちょっと心動かされたかも」 「本当?」 「うん」 「やった!」
思いがけない結果に、心が嬉しさで一杯になる。 越前が頷くと同時に、僕は目の前の小さな体を抱きしめた。 「ちょっと、先輩!?いきなりこんなことは」 「くっ付いているだけだから、お願い!今日だけ大目にみてよ。 君と付き合えると思ったら嬉しくって」 ね?と顔を覗きこむと、仕方無さそうに越前は頷いた。
「くっ付くだけっすよ」 「勿論」
どうやら、明日は英二に良い報告が出来そうだ。
こうして、僕達は晴れて付き合うことになった。
失敗したら、僕の貞操が危険に晒される所だったんだけど、賭けに勝ったんだ。
彼の心を得る為に、思い切って告白して良かったと思う。 そうじゃなかったら、今こうして越前が腕の中で笑っていることは無かったのだから。
キスから先のことは、後々考えればいい。 説得には自信がある。
時間を掛けるのも楽しいよね、と何も知らない越前の体をより一層強く抱きしめた。
終わり
チフネ

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