チフネの日記
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2009年04月02日(木) 僕の告白 2 不二リョ

越前の言葉と表情に打ちのめされた僕は、当然その後の練習に身が入る訳がなく、
何度も手塚と竜崎先生から注意を受けた。


「不二ー、今日どうしたの?調子悪そう」

朝練が終わり、教室へ移動する。
早速、英二が寄って来て僕の顔を覗きこんだ。
多分、動揺していることを見抜かれていたのだろう。
何でもないと言ったところで、追求は続く。
仕方なく、僕は無難な言葉を口にした。

「昨日、夜更かししたって言ったじゃないか。だから、ちょっとね」
「なーんだ」
英二は頭の上で手を組んだ。
これで納得したかな?と思ったのも束の間、
「てっきりおチビのことで悩んでいるかと思ったのに」とずばり言われてしまう。

「ええ!?」
一瞬息が止まる。
まさか、まさか英二に知られていたの?
「ねえ、英二」
肩をぐいっと掴むのと同時に、担任が教室へと入って来た。
「話は後にしよ」
そう言って、席へとつく英二を止められるはずがなく。
「うん」と頷くしかなかった。




「地区大会が終わった頃かなあ。やたらとおチビのこと目で追っていた気がしたんだ。
不二が誰かに興味を持つって珍しいじゃん。それで観察してたら、わかっちゃった。
ああ、そっか。おチビのこと好きなんだって」

休み時間に英二は、何故僕の気持ちに気付いたのかを簡潔に語ってくれた。
どうやら自分でも思っている以上に、越前のことを見ていたようだ。
うわあ、と凹む僕に、英二は「大丈夫」と言った。
「気付いているのはー、俺と乾位だって。
後は不二がどこを見ているかなんて、気付いていないよ」
「ああ、そう」
乾もか、と肩を落とす。
そうだ。英二が気付いて、乾にばれていないはずがない。
こっそり胸の内に秘めていたのに、二人の人間に知られていたという事実は地味に僕を打ちのめした。

「で?おチビに告白すんの?それで悩んでいるんだろ?」
「えっと……」
告白はしたけど、別件で悩んでいるとは言えず黙ってしまう。
沈黙を肯定と受け止めたのか、英二は「だったら今日のお昼休みがお勧めだよ!」と指を突き出して来る。
「は?昼休み?」
「うん。今日、おチビと話しをした時に放課後は図書当番で遅れるって言ってた。
昼休みも当番だって。
どう?昼休みの図書室!告白に最適だろー。はい、チャンス到来!」
「……どうしてそうなる訳?」
「善は急げって昔の偉ーい人は言ってた。よし、行って来い!」
「だから…」
全く話を聞かず、英二は一人で盛り上がっている。
ま、いいや。
どうせ越前とはもう一度話をしようと思っていたのは確かだ。

あのままじゃ引き下がれない。
何か、まだ二人で幸せになれる道はあるはずだ。
僕はそう信じている。




そして昼休み。
英二に送り出される形で、教室を出た。
そして目的地の図書室のドアを静かに開ける。
カウンターに視線を向けると、越前がそこに座っているのが見えた。
迷わず僕はそこへ近付く。

「こんにちは」
挨拶すると、越前は「ああ」というような目で僕を見た。
「本を借りに来たんすか」
「ううん。実は君に用があって」
途端にこちらを見る目が険しくなる。

「何?まさかここで話そうっていうつもり?」

生徒の数は少ないが、いることには変わりない。
ここで会話していたら、きっと筒抜けだ。
しかも内容は……あんなのだから余計憚られる。

「違うよ。ちょっと場所を変えて話せないかと思って」

図書室にはいくつか死角になる所がある。生徒が来ないような本が置いてあるコーナーとか。
小声で会話をしたら、誰かに聞かれることは無いはず。
そう思って誘ってみたのだが、越前はどうも気乗りしないようだ。

「俺、委員の仕事があるんで」
カウンターから離れられないと、そっぽを向いてしまう。
駄目だ。失敗した。

どうしようと落ち込んでいると、ドアが開く音がした。

「ごめんね。遅くなっちゃった」
やって来た女子生徒は越前に謝罪しながら、カウンターの中へと入る。
どうやら今日のもう一人の当番らしい。

「私、返却の本片付けてくるね」
積み上げられた本を見て、彼女は再びカウンターから出ようとする。
遅れて来た罪滅ぼしとして、全部元の場所に一人で戻そうと思ったのかもしれない。

でも、僕はそれを遮った。
越前と会話をする良い機会だと思い付いたからだ。

「本なら、僕と越前とで片付けて来るから。君はここで座っていて」
突然の申し出に、二人が声を上げる。
「え?」
「先輩何言ってんの」
予想通りの反応にニコッと笑いながら、僕は本を手に取った。

「行こうか、越前」
「……」
「いいよね?」

多少強引かもしれないが、彼と話す為だ。
僕は目で必死に訴えた。

「………」

何か言いたげな(恐らく文句だろう)顔をしながらも、
越前は渋々椅子から立ち上がる。
「ここ、お願いしてもいいっすか」
「えっ、はい」
女子生徒と入れ替わりに、越前が外へと出る。


「あんた、強引過ぎ」
「ごめん」

本は僕が手に持ったまま歩いて行く。
所定の棚に行くと、越前が手を出すから渡してやる。
そして元の場所へと戻すのを繰り返した。
全部終わった所で、僕らは人気のいない方へと移動した。


「一体、どういうつもりっすか」
越前は少し怒ったように言った。
「まだ覚悟も出来てないくせに、俺の所に来ていいんすか」
挑発的な態度に、ぞくっとさせられる。
あ、別に彼に押し倒されても良いと思った訳じゃない。
どっちかというと、逆だ。
でもそうしたら、最後。付き合うことは出来なくなってしまう。
慎重に僕は口を開いた。

「その覚悟についてなんだけど。
越前、君は本当に僕のこと抱きたいとか思うのかな?」
「……」
「どうなの」
畳み掛けると、越前は僅かに目を逸らす。

どうしても彼が女の子ならともかく、同じ男を組み敷くとは想像出来ない。
ひょっとして、断る口実だったりして。
そんな疑問が浮かんだ。
それを直接、越前にぶつけてみることにした。
怯んでいる所をみると、図星かもしれない。

「もしかして、今までそんな経験も無いんじゃ」
「それについてはノーコメント」
越前は僕の顔を見ないままで言った。

「先輩には関係無いでしょ。
付き合うかどうか決めるのは、先輩が俺を受け入れるかそうじゃないかってことだけ。
駄目ならこの話は無かったことにすればいい」

話を終えて逃げようとする越前の腕を、捉まえる。
今度こそ、これで終わらせたりしない。
その為にも、確かめなくちゃいけない。

「だったら、さ」

この賭けに負けたら大変なことになるのはわかっている。
それでも越前を得る為にも迷ってなんかいられない。

「今日、僕の家に来てよ。誰もいないからちょうど良いよね」
「え……」
「越前の言ったこと、試してみようよ。
クリア出来たら、僕と付き合ってくれるんだよね?
だったら、してもいいよ」

ぽかんと口を開けた越前に、僕は笑顔を向けた。

「部活が終わったら、一緒に帰ろうね」

とんでもないことになりそうだけど、
もう止める訳にいかない。
賽は投げられたのだ。


チフネ