チフネの日記
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| 2009年04月01日(水) |
僕の告白 1 不二リョ |
必死な僕の告白に、彼は顔色一つ変えない。 そっと口を開き、いつもの素っ気無い声で答えた。
「そうっすか。でも俺と付き合いたいと思っているのなら、 先輩、あんたが突っ込まれる方だよ。その覚悟は出来てる?」
強い意思が篭った目に、一歩も動けない―――。
「っ!?」 ぱちっと目を開ける。視界はまだ暗い。 脇に置いた時計を見ると、時刻はまだ夜中だった。 考え事をしている内に少しうとうとして、先程の夢で目を覚ましてしまった。
「夢、じゃない」 大きく息を吐いて、枕に顔を埋める。 そう、夢なんかじゃない。 今日……ああ、日付が変わったから昨日か。 僕は、後輩の越前リョーマに告白をした。
入学時から一際目立っていた彼は、あっという間にレギュラーの座を獲得して、 大会でも実力を余すことなく発揮している。多分、まだまだこの先も伸びて行くのだろう。
しかし越前が人目を引くのはテニスの腕前だけじゃない。 物怖じしない言動。挑発敵な態度。 越前は相手が年上だろが遠慮はしない。 青学では最初は反発していた二年生達は、越前の実力を目の当たりにしてからはすっかり静かになっている。 けど、相手が他校生ではそうはいかない。 越前の態度が元でケンカに巻き込まれるんじゃないかって、気が気でならない。 知らない所で何かあったらどうしようと心を痛めたことだってある。
そうでなくても違う意味でも、絡まれることだってありそうなのに。 少しくせのある綺麗な髪。どこに力を秘めているのかと驚かされる華奢な体。 そして何より越前のパーツの中で印象的なのが、大きな目だ。 見詰められたら、呼吸が苦しくなり動けなくなる。
それが恋だと気付いたのは、地区大会が過ぎた辺りだった。 彼が目に怪我をして、片方の目が眼帯で覆われたのを見た時、 もう彼が傷付くのを見たくない、出来ることなら代わりたいと強く思った。 多分、それが越前を意識をし始めた瞬間だった。
それからはいつの間にか、彼のことを目で追っていて。 眼帯が取れた時、良かったと安堵したのを覚えている。 そして両目を再び見たら、何だかすぐに告白したい衝動に駆られた。
どうしてあんなに焦ったのか、僕にもわからない。 けど、さっさと告白しないと、一気に越前が遠くなってしまう。そんな予感がしたんだ。 実際、彼は女の子達にも人気があった。 それだけじゃなく、偵察に来る他校の生徒達も何だかじっとりした目で彼のことを見ている……気がする。 そういえば大会でも越前のことをそんな風に見ている選手も何人かいたような。
隠されていた瞳をもう一度見た瞬間。 早くしなくちゃ、もっと大勢の人が越前の魅力に気付く前に。 告白して、彼を手に入れてしまおう。 そう思ったんだ。
放課後。時間をくれないかと休憩時間に耳打ちすると、驚く程簡単に彼は頷いてくれた。 そして人気の無い所に連れ出して、思いを告げる。
「君が好きです。どうか、付き合って欲しい」
手に汗がじっとりと滲む。こんなに緊張したのはいつ以来だろう。 越前は何て答えるのかと、じっと顔を見詰める。 驚く?笑う?それとも嫌悪する? ちらっと反応をうかがうと、そのどっちでもない普段と変わらない顔で僕のことを見ていた。
「そうっすか。でも俺と付き合いたいと思っているのなら、 先輩、あんたが突っ込まれる方だよ。その覚悟は出来てる?」
予想外の言葉に、僕は固まって動けなかった。 「話はそれだけ?じゃあ、俺帰るっす」 そして越前はその場から去って行ってしまった。
あれは一体何だったんだろう。 ようやく動けるようになった僕は、越前に言われたことの意味を考え始めた。 帰り道も、夕飯の時も、ベッドに入ってもまだ考えている。 ずっと上の空だった所為で、家族がどうかしたのかと心配げに声を掛けて来たけど、 何も言えなかった。 まさか「突っ込まれるかどうかで悩んでいる」なんて言えるはずない。
僕は、ただ好きだと伝えたかっただけなのに。 キスから先のことなんて、考えてもいなかった。 それら全てを飛び越えた発言を、越前から聞かされるなんて予想しなかったよ。
どうしよう。 もう一度、自身に問い掛ける。 越前と付き合いたい。 けどそれで提示された条件を飲むかと言われたら……やっぱり遠慮したいかも。 キスの先を想像すると、僕が越前を押し倒している図しか浮かばない。 越前の言ったことと、反対だ。
困ったな。
こうしていたも堂々巡りだと、息を大きく吐く。 どういう意味で、越前があんなこと言ったのかわからない。 ひょっとしてからかっているのかも。 まさかあの彼が、本気で男の僕をどうこうしたいなんて考えるはず……ない。 そうだよねと言い聞かせて、明日もう一度確認しようと決める。 明日じゃない、今日だった。 もういい、と寝直すことにする。眠りの世界へ行こうと、目をぎゅっと閉じた。
「おはよー、不二。あれ、なんか目の下に隈が出来ていない?」 「おはよう、英二」 朝から英二に鋭いツッコミを受けて、笑って誤魔化す。 「昨日、本を一気に読んでいたら、つい夜更かししちゃってね」 「ふーん、何の本?」 「……」 何でもいいじゃないかと、頬が引き攣る。こういう時に限って、追求してくるんだから。 「サボテンの本、だよ。色んなことが書いてあって為になる」 「へえ。相変わらず熱心だにゃあ」 それで気が済んだらしい。 ちょうどやって来た桃城に向って「おはよ−、桃!」と駆け寄って行く。 やれやれ。 まさか越前の発言について悩んでいたなんて、とても言えないよ。 ほっとして、胸を撫で下ろす。
「あ」
桃から少し遅れて、越前がこちらに向って来るのが見えた。 今朝は練習に遅刻しなかったようだ。ひょっとして、桃の自転車に乗せてもらって来たのかもしれない。 そうだ、と僕は閃く。 越前がコートに入る前に、捉まえよう。この後、ちょっと話がしたいから。 僕は慌ててコートの外へと出た。
「おはよう、越前」 「ちーっす」
素っ気無い挨拶。けど、良かった。いつも通りだ。 変に避けられたりしたら、気まずい。
「あの、越前」 「何すか?」
僕を見上げる越前の表情は、昨日の出来事は無かったかのように普段と変わらない。 本当に忘れていたりして。 ちょっと不安になる。
「あの、後で少し時間くれないかな。手間は取らせないから」 「何で?」 「何で、って昨日のこと……もっと詳しく聞きたいんだ」
そう言った僕に、越前は鼻で笑った。
「その様子だと、覚悟は出来ていないみたいっすね」 「え……」 「俺は本気。差し出す覚悟が無いなら、悪いけどあんたとは付き合えないっすね」 「越前、あの」 「もういいっすよね。じゃ、朝練始まるんで」 あっさりとした口調で、越前はスタスタと歩いてコートへと行ってしまう。
あの言葉が本気だったなんて。 どうしたらいいんだ!?
青褪める僕に、 「不二!朝練を始めるぞ。整列しろ!」と、手塚の声が響いた。
チフネ

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