チフネの日記
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2009年03月14日(土) 世界の枝葉 12 跡リョ スローモーションシリーズ

こちらに戻って来たから、日常に特に変化は無く過ぎていく。
勿論、またどこかに飛ばされる事態に遭遇することもない。

結局、あの世界はなんだったんだろうと、今も考える。
跡部と置いて逃亡したのが夕刻で、家に帰ったのは夜だった。

もしかしてずっとぼんやりと歩いている最中に見た幻覚だったのかもしれない。
不安な気持ちがあの跡部と接点の無い別世界を生み出して、
どっぷり浸かってしまっていたとか。
そう結論を出し掛けた時、リョーマはあることを思い出して携帯を開いた。

(あった……)

もう一人の跡部へ掛けた、発信履歴。
これが無かったら、夢だったと思い込んでいたところだ。
勿論このナンバーに掛けても、誰かに繋がることはない。
こちらとあちらの世界は平行したまま、決して交わることないのだから。

(でもやっぱり俺はあの時別世界に行って、もう一人の跡部さんと会っていたんだ)

あちらの彼は留学してしまったが、きっとどこに行っても頑張っているに違いない。
そして、またいつか。
もう一人の越前リョーマに会いに来るはずだ。
最初は手強いかもしれないが、きっと大丈夫。
熱心に会いに来る跡部に迷惑な顔をしながらも、いつの間にかペースに乗せられていて、
気付いたら好きになってしまう。
自分もそうだったから、結末は簡単に予想出来る。

通る道は違うけれど、同じ幸せな未来に辿り着けばいい。
そう願って、今日もリョーマはそのナンバーを眺めて思いを馳せていた。

「何やっているんだ、越前」
「あ、跡部さん」
いつの間にか待ち合わせ場所に来ていた跡部に気付いて、リョーマは携帯を閉じた。

「誰に掛けようとしてたんだ。おい」
「時間を確認してただけっすよ。ちょっと待ち合わせ時間よりも早く着いたから」
「まあ、珍しく早いよな。俺の方が先に着いたと思っていたのによ」
現在、予定時刻の10分前だ。
リョーマは「たまにはね」と笑った。

「今日はオペラを見に行くって言うから、退屈で寝ないようにと8時にベッドに入ったら、
すごく早くに目が覚めたっす」
「8時って、おい。早過ぎだろ」
「その位しないと、本当に寝るかもしれないんで。
折角誘ってもらったのに、それじゃ悪いっすよ」

オペラを見に行かないかと誘ったのは、勿論跡部の方だ。

ここの所、テニス以外でも二人で外出することが多くなった。
いわゆるデートって、やつだ。
とはいえ、気構えすることなく二人でいるのが楽しいから一緒にいる。至ってシンプルな理由だ。
外出することによって、お互いのことを知る機会も増えた。
こういう日々もいいなと、リョーマは跡部との外出を楽しんでいる。

「無理するなよ。眠たくなったら、いつでも俺の肩に凭れていいからな」
胸を張る跡部に、リョーマは笑って答えた。
「考えておく」
「じゃあ、行くか」
「うん」

会場へ向う為、歩き始める。
二人きりの時間を大事にしたいからと、相変わらず跡部は車を使うことをしない。
リョーマもその方がいいと思っているから、跡部の好きなようにさせている。

「そいえば、卒業式は来週だっけ。代表の言葉とか、もう準備終わった?」
「当然だろ。俺にぬかりは無い。それより式の後に会う約束、忘れんなよ」
「覚えているけど。氷帝の人達と過ごさなくていいんすか?」
「どうせ高等部でも一緒の連中だ。どうせならお前と静かに卒業祝いしたい」
「ふーん。じゃ、一緒にお祝いしようか」
「ああ」


同じ歩幅で歩きながら、他愛の無い会話を続けていく。
穏やかな跡部の横顔を見て、リョーマは無意識に微笑んだ。


今日も幸せだな、と。


チフネ