チフネの日記
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2009年03月07日(土) 世界の枝葉 5 跡リョ スローモーションシリーズ

不機嫌な顔はそのままで、跡部はゆっくりとこちらに近付いて来る。

「なんであんたがここにいるんだよ」
思わず声を漏らしたリョーマに、隣に立っていた向日が反応する。
「あ、それ、俺がメールしてやったから」
「は?」
どういうこと、とリョーマは顔を顰める。
向日はあっけらかんと説明を続けた。

「侑士がくだらないこと喋っている間に、跡部に知らせやったんだ。
どうせこっちに来た用事は跡部にあると思ってな。これで手間が省けただろう?
でも来るとはわからなかったんだけどな、何しろ今は忙しいから」
「そうだ。俺は忙しいんだ」

向日との間に跡部が入って来る。

「だから試合が出来る日も限られている。
なのにお前はここで何をやっているんだ?本調子じゃないのなら、家で大人しくしてろ。今すぐにだ」
頭ごなしに言われて、さすがにカチンと来る。
「別に、あんたには関係ないんじゃないの」
「どういう意味だ」
「忙しいのなら、無理に試合すること無いんじゃない」
素っ気無く言うと、突然跡部に腕を取られる。

「本気で言っているのかよ」
「ちょっと…、何なの。痛いよ」

ぎゅっと逃げないようにと掴む力に、リョーマは声を上げた。
が、跡部は表情を変えないまま、顔までも近づけて来る。

「送ってやるから、もう帰れ」
「……」

自分のことなど何とも思っていない跡部に、心配なんてされたくない。
その気持ちが、リョーマの態度を更に反抗的にさせる。

「何それ。あんたに指図され覚えは無いんだけど」

言い返されて、跡部は目を見開く。
そして険しい顔で、リョーマの腕をぐいっと引き寄せる。
「いい加減にしろ。昨日ぶっ倒れた奴が、ふらふらしてんじゃねえぞ」
「だから、あんたに関係無いって!」
大声を上げて反論しようとしたリョーマに、「まあまあ」とそれまで傍観していた忍足が止めに入って来た。

「跡部、ちょっと強引とちゃうか?越前本人が大丈夫やって言ってるんやから。
ここは落ち着こうや」
「うるせー。何でお前が仕切ろうとしてるんだ」
「そりゃ俺は正義の味方やからな。困っている奴がいたら、助けたくなるやろ。普通」
「黙れ。このエセヒーローめ」
忍足をスルーして、跡部は再びリョーマを見る。

このままじゃ逃げられないと、リョーマはごくっと唾を飲んだ。
二人きりだなんて、嫌だ。
なんとかしなくちゃと思った瞬間、良い案が浮かぶ。
咄嗟にもう一方の手で、向日の上着を掴む。

「悪いけど!俺、向日さん達とこれから一緒に行動するって決まった所だから」
「え、え?」

向日が驚いたように目を白黒させる。
畳み掛けるようにリョーマは言った。

「さっき誘ってくれたじゃん。俺も行くって言った!
だからあんたとは帰れない。悪いね」
正確には断ろうとしてた所だが、この際形振り構っていられない。
すがるように向日の上着を握り締める。
それを見て、跡部はますます険しい顔になっていく。

「おい、岳人。どうなってやがる」
跡部の冷ややかな視線に、向日は首を横に振る。
「いや、俺はそういうつもりで誘った訳じゃ」
「行こ。向日さん」
嫌がっている向日に、無理矢理引っ付く。

こっちの跡部と必要以上接触しないようにする為にも、
悪いが向日に協力してもらうしかない。

「ふん、どうしても譲らないって訳か」

このやり取りを見て、跡部はやっとリョーマの手を開放する。

しめた。
プライドの高い跡部のことだ。
邪険にされて、腹が立ったに違いない。
このまま去ってくれれば良いと、リョーマがほくそ笑んだ瞬間、
「だったら、俺も行くしか無いようだな」と言われてしまう。

「はあ?なんであんたも行くことになってんの?おかしいだろ」
抗議するリョーマに、跡部は冷静に言った。
「元々、岳人が俺のことを呼んだからな。だったら今後一緒に行動しても、不自然じゃないだろうが」
「おかしいって!だってあんた忙しいんでしょ。もう帰ったら?」
「少し位なら平気だ」
「だからー」

どうしよう、と肩を落とすリョーマに、忍足がぽんと背中を叩く。
「ここは皆で行動しようや。平和への第一歩も大事やで」
「……」

全然フォローになっていない一言に、また落ち込む。
フィギュア好きの忍足と同じように、困った発言に変わりないな、溜息をついた。

「とにかくここで揉めていてもしょうがないだろ。移動しようぜ。
跡部、お前もいつまでも車をそこに置いておく訳にもいかないだろ」
向日が疲れたように声を出す。
どうにでもなれ、というようにも見える。

「それで俺は、お汁粉が食いたい気分なんだけど」
「却下だ。そんな庶民のものが俺の口に合うかよ」
何故か偉そうに腕を組んで言う跡部に、リョーマは「俺もお汁粉がいい」と告げた。
「跡部さんは行きたくないようだから、このまま別行動にしようよ」
「仕方ねえな。今日だけは庶民の味を体験してやってもいい。すぐ車に乗って行こうぜ」
「変わり身早っ。つーか、別の場所に変えてもいいんだぜ。無理すんな……」

おたおたしながら言う向日に、リョーマは「いいよ。お汁粉決定ね」と促す。
「さ、向日さん。一緒に歩いて行こうよ」
「え、何この状況。おかしいだろ!おい、侑士。正義の味方なら、俺を助けろよ」
「えー、別に困っているようには見えへんけどなあ」
「困っているだろ!越前に引き摺られて、跡部に睨まれて、正直怖えんだよ!」

向日に悪いと思ったが、手を放したら最後、また跡部に絡まれそうだ。
この際、ぴったり張り付くことにした。

状況がわからず怯えている向日と、それを睨みつける跡部と、
のほほんと「皆で同じ目的地へ向かう。これぞ平和や」と呟く忍足との四人で、店へと向かうことになった。

















「で、一体どうなっているのか。説明してくれるんだろうな」


向日が行きたいと言った店は、歩いて10分ほどの所にあった。
ラッキーなことに四人掛けの席が一つだけ空いていて、すぐ座ることが出来た。

跡部の隣なんてとんでも無いと、リョーマはさっさと向日と奥へと押し込み、その隣に座った。
しかし、跡部は真正面の椅子を引こうとしている。

(この手があったか!)

正面も危険だと、リョーマは慌てて止めに入ろうとテーブルの前方に両手を伸ばした。
「ここは駄目。他にして下さい」
「何やってるんだ、お前。そんなことしたら一人座れなくなるだろうg」
「じゃあ、帰れば?今日は残念でした」
「ふざけてんのか、てめえ」
また押し問答が繰り返されようとしている最中、忍足が向日の正面の椅子を引きながら言った。
「いいから座れや。越前もそこまでにしとき。店の中で迷惑掛けたらあかんで」
もっともらしい言葉に、跡部とリョーマは一瞬黙る。
「正義の味方としては、この揉め事を見逃す訳には」
「もういい、黙れ」
言いながら、跡部はさっさと座ってしまう。
スルーされた忍足は言い足りないような顔をしているが、
騒ぐのは迷惑行為だと認識している所為で、それ以上は何も言おうとしない。

「で、お前ら一体なんなんだよ」

今までのやり取りを見ていた向日が、ここに来て疑問をぶつけて来た。
当然のことだろう。
「一体どうなっているのか。説明しれるんだろうな」
「どうもこうも。越前に聞けよ。勝手に突っ掛かって来るのはあいつの方だろ」
ふん、と息を吐く跡部を、リョーマは思い切り無視をした。
いないものと考えればいい。
とにかく二人きりになることさえ避けられれば、済むことなのだから。

(俺が考えなきゃいけないのは……戻るべき場所にいる跡部さんだけだ。
こっちのまで構っている場合じゃない)

接触すれば、違いに戸惑い、いやでも動揺させられる。
近付かないのが一番と、リョーマは考えていた。

「跡部はああ言っているけどさ、本当は何かあったんだろ。
言いたいことがあるなら、今の内に言っておけよー」

だが悪気無く言う向日を無視することは出来ない。
リョーマは跡部を見ないように、不自然なほど首を曲げて向日の方だけを見た。

「何も無いっすよ。ただこんな忙しい中、俺にかまけている暇は無いだろって言いたいだけっす。
別れを惜しんでくれる人達もいるみたいだから、そっちに時間を割けばいいのに」

一昨日、校門で会った時に女子生徒達と一緒だったことを思い出し、
指摘するように言うと、何故か跡部が笑った。

「その言い方だと、焼きもち焼いているように聞こえるぜ。そういうことだったのか。よくわかった」
ほー、と納得しているように頷いている。
焼きもちなどと言われて、リョーマはついカッとなってしまう。

「誰が!そんな訳ないじゃん」
ばんっ、とテーブルを叩いて反論する。
何人かがこちらに視線を向けるが、気にしていられない。
そこははっきり否定しておくべき所だ。

きっぱりと言ったのに、跡部は何故か笑みを消さない。

「やっとこっちを向いたな、越前」
「……」
「図星を指されたからって、騒ぐなよ」
「はあ?違うって言ってるじゃん」
「俺にはそうは見えないな」
「目が悪いんじゃないの。眼科行ったらどうっすか」
「ムキになるところが怪しいん」
「だからー」
「お前ら、ほんまにええ加減にせい」

しーっと、忍足が人差し指を口の前で立てる。

「まずメニューでも見て落ち着けや。お店の人を困らすのはあかんで。
正義の味方なら、常に人のことを考えて行動しようや」
「……」
「……」

忍足に言われるのは何だかしゃくに障る。
不本意だが、目を合わせた跡部と意見が一致してしまった。



チフネ