チフネの日記
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2009年03月06日(金) 世界の枝葉 4 跡リョ スローモーションシリーズ

翌日。

リョーマはあることを決行する為に、早足で通りを駆け抜けていた。
今日は幸いにも部活は自主練習だ。
試すなら早い方がいい。

(ここだ……)

跡部と別れた後から、おかしな世界に入り込んでしまった。
だからその場所に戻って同じように歩いて帰れば、また元の所に帰れるんじゃないかって。
安易な考えだが、他に良い方法が思いつかない。
やれることは試してみるべきだ。

よし、とリョーマは頷いた。

跡部からいきなり留学の話を出されて、酷く悲しかった気持ちを思い出す。
そうだこの心理状態だと思いながら今度は家へと歩いて行く。
安易過ぎるけど、今はやってみるしかない。

「ただいま!」

大声を出して、リョーマは家の中に飛び込んだ。
小走りだった為、途中息が切れた。
しかしこれで元に戻るのなら、なんてことは無い。

どきどきしながら、人の気配がする方へ近付く。

「あら。おかえりなさい、リョーマさん」
「……ただいま、菜々子さん」
先に帰っていた菜々子が笑顔で挨拶をしてくる。
それに答えて、リョーマはキッチンを覗き込んだ。
まだ時間が早い為、準備もしていない。
しかし和食かどうか、それだけを確認しておきたい。

「リョーマさん、お腹が空いているんですか?」
菜々子がくすっと笑ってリョーマの背後から声を掛けて来た。
「違うけど」
「何か用意しましょうか?」
「ええっと、そうじゃなくて」
ここで夕飯が何か考えても、時間の無駄だ。
リョーマは思い切って、菜々子に尋ねてみることにした。

「菜々子さん!昨日の夕飯って和食だったっけ?」
「え?ええ」
菜々子は戸惑いがちに頷く。
「じゃあ、一昨日はその前は?ずっと和食だった?」
「あら、リョーマさん。何かの宿題ですか?」
「いいから、答えてよ。お願い」
「?ええ、たしかにずっと和食ですよ。だって、おば様は和食が得意ですからね」
「……」

決定だ。
まだ別世界から戻っていない。

母親はどちらかというと和食は苦手料理だ。
家ではほとんど洋食が出ていた。
和食が食べられるのは嬉しいけど、ここは望む世界じゃない。

「リョーマさん?どうしたんですか?」
「俺、ちょっと出て来る。多分、夕飯までには戻るから……」

ふらふらとリョーマはまた外へと出て行った。
自主練習の日だから、本当は父親とテニスをするべきなんだろうが、
とてもじゃないがそんな気分になれない。

(そうだ。時間が、早過ぎたんだ!きっと原因はそれだ!)

もう一度、リョーマは同じ場所に戻ることにしてみた。
ほとんどヤケになっていたかもしれない。

(あーっ、もう!一体、何なの。
こんなこと誰にも相談出来ないし、どうしろっていうんだよ)

話したところで信じてはもらえないだろう。
それどころか、頭が変になったと病院に連れて行かれるかもしれない。

八方塞りってこういう感じ?とリョーマは俯きながら歩き続けた。

そして後少しで、目的の場所に着く手前。

「あれー、越前じゃんか?」
と声を掛けられる。

「なんだよ、こんな所で会うなんて偶然か?
それともまた跡部に会いに来たのかよ」
「向日さん……」
「またって、何や。最近、越前がうちに来ることでもあったんか」
「忍足さん」

忍足と向日。二人は学校帰りらしく、連れ立って歩いている。
氷帝の近くだから、会っても不思議は無いかもしれない。
思わぬ再会に戸惑っているリョーマに、向日が笑顔で近付いて来た。

「なあなあ、どうなんだよ。
あれから跡部と試合したのか?」
「……してないっすよ。ちょっと都合が悪くて」
「はあ?なんでだよ!お前、その為に氷帝にまで来たんじゃないのか?」
「えーっと」
「こら、岳人。少し強引過ぎるで。ごめんなあ、越前」
「はあ」

後ろから、忍足が向日を押さえに掛かる。
と思ったら、ずいっと顔を近づけて来て、
「で?どっちが勝ったん」と言った。

「なんだよ!侑士だって興味深々じゃねえか」
「そらまあ、跡部と越前の試合なら野試合とはいえ興味あるわ」
「だよなー、で、どっちが勝ったんだよ」
「……」

全く話を聞いていない二人に、リョーマは溜息をついた。

「だから試合してないって、言ってるのに」
「えー?でもその内するんだろ?なあなあ、見学させてくれよ!」
人懐っこい向日に、リョーマは思わず頷きそうになる。

そうだった。
元の世界でも向日はこんな風に臆することなく近付いて来て、
いつの間にか仲良くなっていた。
おかげで忍足とも話しをするようになっていたんだっけ……。

そんなことを思い出しながら、リョーマはハッと気付いた。

「忍足さん!」
「なっ、なんや。いきなり」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど!」
この際形振り構っていられない。
何かヒントを得られるのだったら、藁にだって縋りつく。
忍足の腕を掴んで、リョーマは体をぐっと近づけた。

「あのー、深夜のアニメのことで聞きたいんだけど」
「は?アニメ?」
「そう。多分、忍足さんが観てると思う番組で……別世界に飛ばされ先でハーレム状態になっている主人公の話のやつ。
ちょっと続きがどうなったか、知りたいと思って」

これも安易な考えだけど、仕方無い。
どこにヒントが隠されているか、リョーマには見当もつかないのだから。
忍足から聞いたアニメの主人公が元の世界に戻れたのなら、どういう方法を使ったのか。
ひょっとして、それが参考になるかもしれない。

だが忍足はリョーマの顔をまじまじと見た後、ぷっと吹き出した。

「面白い冗談言うなあ、自分。俺はアニメに興味は無いで」
「冗談!?そっちこそ、冗談やめてよ。俺は真面目に言ってるのに」
「大体、なんでアニメなんや。男なら特撮やろ、特撮!」
「え……?」

ぽかんと口を開けるリョーマに、忍足は胸を張って「戦隊こそ男のロマンや!」と宣言した。
「命を張って地球と平和を守る!ああ、俺もいつか選ばれた5人の戦士になって、愛する者の為に戦いたいわ」
「………」
何を言っているのだろう。
さっぱりわからないと、リョーマは軽く首を振った。
あれ程愛していたフィギュアはどうした。
戦隊物のアニメならわかるが、自分が戦士になって戦う?
ありえない!と、リョーマは叫びそうになった。

「侑士の言うこと、まともに聞かないほうがいいぜ」
こそっと、向日が耳打ちをして来る。
「あれはもう病気だ、病気。
この間も体育の時間に、気合で変身してみせるとか言って平均台から何度もジャンプしてみせて。
周囲から顰蹙買って、先生に怒られていた位だからな。
理解しようって方が難しい」
「はあ……」
「下手に同調すると、丸一日DVDに付き合わされて洗脳しようとしてくるぞ。
関わらないのが一番だ」
「岳人!いらんこと言うなや。もしかしたら、越前は浪漫をわかってくるかもしれへんのに」

なあ、と流し目で言われてリョーマは首を大きく横に振った。
見所があると思われたらたまったものじゃない。

「全然、興味無いっす!」
「そうか?越前にはブルーが似合うと思うんやけど。いや、ブラックか?」
「はあ?」
「詳しく聞くな。侑士の特撮講義が始まるぞ」
「……もう遅いみたいっす」

忍足はリョーマに説明するt為、ブルーやブラックとは何か、その役割とはどんなものかと語り始めている。

向日と顔を見合わせて、二人で無視しようと決める。

「で?越前はこんな所で何してたんだよ」
「別に、何も」

まさか元の世界に帰る入り口を探してましたなんて言えない。
適当に誤魔化すと、向日は「暇そうだな」と笑った。
「だったら、俺達と一緒に来るか?腹が減ったから、どこかに入ろうって喋っていた所なんだ。
これも何かの縁だ。行こうぜ」
「えーっと」

どうしよう、と目を泳がす。

こちらの向日はほとんど変化が無く、話をするのは嫌じゃないけど。
今はそれどころじゃない。
考えることは沢山あるのだから、のんびりしている暇は無いと思う。


「悪いけど、今は」
「あー、ちょっと待ってな!」
忙しいからと続けようとしたが、向日の携帯が鳴ったことによって中断させられてしまう。

「もしもし?
あ、うん。今学校を出た所か。そう、その先。
結局来るのかよ。ふーん、いいけど。越前も一緒だけど。そうそう、偶然会った所」
「ええ?」
向日は誰に向かって、何の話をしているのだろう。
しかも自分の名前まで出して。

嫌な予感がする。
今の内にこの場から逃げてしまおうか。

そっと離れようと足を踏み出した瞬間、忍足に回り込まれる。

「ブルーもブラックも嫌ならしょうがないわ。グリーンでどうや」
「まだその話してたんすか!?」

驚愕に目を見開いた所で、すごい勢いで近付いて来た大きな車がリョーマ達のすぐ横に停まった。
もしかして、と体を固くした瞬間、勢いよくドアが開かれる。


「何やってるんだ、越前リョーマ。具合が悪いんじゃなかったのかよ」

第一声から偉そうな声で。
車から出て来た跡部は、不機嫌そうな顔でリョーマを見た。


チフネ