チフネの日記
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2009年02月28日(土) 2009年度 不二誕生日話

用意してきた封筒を差し出すと、不二は嬉しそうに笑った。

「ありがとう、越前」
「本当にこんなものでいいの?俺としてはお金が掛からないから、助かったけど」
「うん。僕のリクエストに応えてくれて嬉しいよ」
「はあ……」

今日は不二の誕生日だ。
いや、正確に言うとちょっと違う。
2月29日生まれだから、4年に一度しか本当の誕生日は来ない。

じゃあ、どうしているのかとリョーマの質問に、
『いつも28日にお祝いをするんだよ』
そう答えた後、家に来てくれる?と不二は言った。
勿論、泊まりで。

リョーマとしても不二の誕生日を祝ってあげたいと前々から考えていたし、
今年の28日は土曜日なので泊まりに行くのに何の問題も無い。

『いいよ。行く』
すぐに返事をした。

さて、後考えるのはプレゼントは何にしようということだ。

12月に誕生日を迎えたリョーマに、
不二は前から欲しいと思っていたシューズをぽんと気前良くプレゼントしてくれた。
高価なものだからと、リョーマも最初は受け取るのを渋った。
しかし、『リョーマ君が喜んでくれる顔が見たかったのに……』と不二があんまり悲しそうな顔をするから、
最後には頂くことにした。
使い心地の良いそれを、リョーマは大切に使わせてもらっている。
そんなプレゼントを貰っておいて、さすがに不二の誕生日に知らん顔は出来ない。

リョーマは大いに悩んだ。
しかも小遣いはたったの三千円。
これでどうやって見合うような物を返せるのか。

悩んだ挙句、リョーマは思い切って不二に聞いてみることにした。

『何か、欲しいものはある?俺が出来る範囲で、だけど』

ストレートな質問に不二は一瞬驚いたが、
リョーマがプレゼントのことを考えてると知って、とても喜んでくれた。

『プレゼントか、そうだな……』
少し考えた後、不二は口を開いた。
『欲しいものがあるといえば、あるよ。
しかも越前だけが贈れるもの』
『何?言っていいよ、俺の小遣い全部注ぎ込むから』
『そんなことしなくても大丈夫。お金で買えるものじゃないから』
『お金で買えないの?』
『うん』

聞き返したリョーマに、不二は楽しそうに笑いながら言った。

『越前の子供の頃の写真が欲しいなあ。
赤ちゃんの時から日本に来るまでの12年分。出来れば全部』


そしてリョーマは、不二の望みをかなえる為、アルバムを漁ることになった。
しかも、家人がいない時を狙って。

母にどこに尋ねればどこにあるか簡単にわかるが、
そんなの何に使うのと聞かれたら、さすがに恥ずかしくて理由は言えない。
あの父親に知られれば、からかわれるのも間違いない。
だから秘密裏に行動する必要があった。
アルバムなんて開く機会が無かったから、まずどこに仕舞っているのかがわからない。
こっそり隙を見てアルバムを探すのに結構時間が掛かってしまった。
見付けたら、素早く写真を選び何枚か抜いて元に戻す。
多分、ばれていないはず。

手に入れた写真を不二に渡した所で、リョーマはやれやれと肩から力を抜いた。

「苦労して持って来たんだから大事にしてよ」
「当然。一生の宝にするよ」
「そこまでしろとは言ってない……」

軽く首を振って、リョーマは「これもあげる」と泊まる用意として持って来た荷物の中から、リボンでラッピングされた包みを取り出した。

「写真だけじゃなんだと思って。これもプレゼントっす」
「えっ、そんな気を使わなくても良かったのに」
「いいの。俺ばっかり貰うんじゃ釣り合わないから。
って言っても、高いものじゃないけどね」
「でも嬉しいよ。開けてもいい?」
「どうぞ」

不二がリボンを解く。
中から出てきたのは可愛らしいクリーム色の小さなアルバム。
リョーマなりに不二に似合いそうと思って買ったものだ。

「良かったら、あげた写真にそれ使ってよ」
「ありがとう。でもね、もう専用のアルバムは用意しているんだ。
これは今度から越前との思い出を撮る度に使わせてもらうよ」
「ちょっと待って」
大事そうにアルバムを仕舞おうとする不二に、リョーマは問い掛けた。

「専用のアルバムって何?」
「ああ、これのことだよ」
代わりに不二は一冊のこれまた小さなアルバムを出す。
ピンクの布の表紙にでかでかと『僕の越前』と白で刺繍してある、一目で手作りとわかるアルバムだ。

「作ったの!?」
「今日、この日の為にね」

驚くリョーマと反対に、不二は澄ました顔で答える。

(やっぱり先輩って、変かも)
理解出来ない、とリョーマは頭を抱えた。

「ねえ、写真を見せてもらってもいいかな?」
「……どうぞ。もう、先輩のものだから」
「じゃあ、遠慮なく」

浮き浮きと不二が封筒を開けていく。
リョーマはがっくりとベッドに腰掛けたまま、まだ動けない。

「うわぁ、生まれたての越前だ。可愛いっ。
いいなあ。この頃側にいられなかったのが、悔やまれるよ」
「側にいても覚えていないでしょ、先輩だって2歳だったんだから……」
「これは1歳の誕生日だね。
ああ、もう可愛いという言葉しか出てこないよ」
「そう、っすか」

一枚一枚にコメントをしながら、不二は手作りアルバムに貼って行く。
突っ込む気も失せたリョーマは、相槌を打ちながら好きなようにさせておいた。

「これは空港で撮ったものかな?こっちに来る直前みたいだね」
「そうっす」

11歳の写真は一人で写っているのが見当たらず、
悩んだ挙句に日本に旅立つ前に向こうの友人達と一緒に撮ったものを選んだ。

「この後、青学に入学して……あんたと会ったんだから、最後に相応しい写真だと思ってね」
「たしかに。これ以前の越前を僕は知らない。
でも、日本に来て出会ってからはこの中の誰よりも君の事を知っている。
うん、ここから運命の出会いを予感させるような相応しい写真だよ」
「そこまでは言って無いっす」

よくぺらぺらと喋れるものだ。
慣れてるけどね、とリョーマは小さく呟いた。

「あれ?でももう一枚あるよ」
「うん」
集合写真の下に、リョーマがもう一枚忍ばせておいた写真の存在に不二が気付いた。

「これは……」
じっくりと眺めた後、それまで熱心に過去の写真を眺めていた姿勢から、
こちらを向く。

「あの、越前」
「俺の言いたいこと、伝わったかな?」
「うん。わかってるよ、勿論」

そう言うと手作りのアルバムを置いて、不二がぎゅっと抱きしめて来た。
リョーマも背中に腕を回して、もっとくっ付いていく。

「過去にばっかり目を向けてる訳じゃないよ。
ただ、知っておきたかっただけだから」
「そうだけど、俺としてはあんまり面白くないっす」
「わかった。じゃあ、あの写真は越前と会えない時だけに開くことにする」
「それなら、許す」

リョーマが最後に渡した一枚。
それはついこの間、リョーマの誕生日に不二と並んで撮った写真だ。
焼き増ししてもらったそれに、でかでかと文字を書いてやった。

‘過去の俺よりも、今隣にいる俺を見て下さい’

一緒にいる時くらい、こっちを向いて欲しい。
ましてや今日は不二の誕生日だ。
写真は後回しにして、今は一緒にいられる時間を大事にしてもらいたい。

渡した時の不二の反応を予測しての作戦だった。

「ごめんね、嬉しくてつい見入っちゃった。
でもこれからの時間はここにいる越前のことだけ、考えるから」
「当然」
「あはは。それじゃ、早速僕らが今日一緒にいる証拠を残そうか。
越前から貰ったアルバムに一番最初に貼る写真を撮ろう。いいよね?」
「いーっすよ」

立ち上がって、不二がデジカメを机の上から取ってくる。
そしてまたベッドに寄り添って座り、不二が腕をピンと伸ばして二人がフレームに納まるよう構える。

「また来年も、こうしてくっ付いて写真撮れたらいいなあ」
「そうっすね。来年だけじゃなく、……」
「うん、この先もずっとね」

カシャッと、ボタンが押された。

不二の15歳の誕生日。

今日という幸せが収められた写真が撮れた。

それはリョーマが贈ったアルバムに収められ、
また翌年も新しい写真が追加されていく。

いずれ2冊目、3冊目と突入していくことになるのだが、
まだこの時の二人は知らない。

手作りアルバム『僕の越前』と共に、それらは不二にとって大切な宝物として保管されていくのだった。


おわり


チフネ