チフネの日記
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2009年02月07日(土) 恋をしています 跡リョ スローモーションシリーズ



跡部さんとは会えばテニスばっかりしている。
あの人はテニス以外のことの望んでいるようだけど、
意図的に俺が避けている。

デート、みたいな雰囲気になってしまうのはちょっと困ってしまうから。
……だって、俺達はまだ付き合っている訳じゃない。

ほとんど毎日会っているけれど、
跡部さんから決定的な一言をまだ俺は聞いていない訳で。

うやむやなままで、付き合っているってことにしたくないんだ。

らしくなく臆病になっているのもわかっている。

でも、はっきりしないままずるずると進んで行って、
「好きだなんて、言った覚えは無い」
なんて、振られたら?
ショックを受ける自分が容易に想像出来る。
気持ちを切り替えるのに、しばらく時間が必要かもしれない。

そんなことしない、なんて保証はどこにも無い。

だから俺はあの人からの、言葉を今か今かと待っている。

自分から「好き」って言うのが早いとわかっていても、
あの人からじゃないと嫌だ。

生意気で態度がでかくて、可愛げの無いそんな俺でも、
「好き」って言ってくれたら。

この感情は間違っていない。俺達は一緒にいていいんだって自信が持てる気がする。

おかしいよね。
テニスなら、どんな強い相手でも弱気になることなんて無かったのに。

態度ではあからさまに「好きだ!」と出している跡部さんに、
「俺のことどう思っているんですか。はっきり聞かせて下さい」なんて、軽くも言えないなんて。

ああ、本当にどうかしてる。




そんな感じで今日も俺達はテニスをしてた。
どこで打つかは、気分によって変えている。
お寺のコートとか、跡部さんの家のコートが多いけど、
環境を変えたくなる時はあるから。

外で打たない?と言ったものの、ストリートテニス場は混んでいて、
空きそうにも無い。

天気が良いから、外が良かったなあと呟く俺に、
跡部さんはポケットから携帯を取り出し「ちょっと待ってろ」と言った。

短い会話の後、「スポーツクラブのコート、今から行くって連絡しておいた」と俺の腕を引く。
「いいんすか?」
そこは跡部さんの家が所有しているクラブの一つだ。
打てるのは有り難いけど、こんな突然に行っていいものだろうか。
他に予約している人がいたんじゃ……?と躊躇っていると、
「一つだけ空いていた。だから、気にすんな」と言われる。

俺の表情を見て、言いたいことを察してくれたらしい。

「なら、使わせてもらおうかな」
「ああ。遠慮するな」

嬉しそうな顔。
腕に触れられた手をそのまま黙認して歩いていると、
ぶつぶつと小声で何か呟き始めた。

「このまま手を繋ぐのはありか?
いや、離したら次に触るチャンスはいつ来るのかわからねえし」

……聞こえているんですけど。

はあ、と横を向いて溜息をつく。

さっきみたいに俺の考えに気付いてくれる時もあるというのに、
肝心な所に鈍感だ。
困ったな、と思うのもこれで何度目か。

万一、周囲に聞かれたりしたらどうするんだろ。

跡部さんのこと、好きだっていう女子は……認めたくは無いが多い。
難有りな性格はほとんど知られてなくて、
目立つ容姿と行動で、きゃあきゃあ言われてる。

そんな人達が、数々の痛い台詞を聞いたらどんな反応するんだろうと、興味がある。

俺みたいに、それでも好きって言うのだろうか。


出来れば幻滅して、そのまま離れて行ってくれればいい。
なんて思うのは、認めたくないけど嫉妬ってやつなのか。

……跡部さんと出会ってから、穴があったら入ってしまいたい、
そんな居た堪れない気持ちがわかるようになってしまった。

他にも知ったことはある。

このままどうなるんだろうという不安とか、会えない時の苛々とか。
マイナス面だけじゃなく、いちいち可愛い反応する跡部さんを見て、
ぎゅっと抱きしめたくなるような(勿論しないけど)気持ち、
笑顔を向けられて不覚にもときめいたりとか。

全く、俺らしくない。
跡部さんとの出会いで、知らなかった自分がどんどん引き出されてるみたいだ。


「越前……?」

名前を呼ばれて顔を上げると、不安げにしている跡部さんと目が合う。

「何すか」
「さっきから黙っているが、あんまり気乗りしないのか?
じゃなかったら、……その、迷惑、とか」

後の方は言葉にならない。
多分、腕を掴んでる手のことを言ってるんだろう。
俺が黙っている所為で、怒っていると勝手に解釈しちゃったようだ。
見当違いにも程がある。
なんで、そうなんの。

でも離したくなくは無いんだよね。
しっかりと、跡部さんの手は俺の腕を掴んでいる。


そんなこの人のことが。
滑稽で、だけど可愛く思えてしまう。

「別に迷惑じゃないよ。それより、早くコートに行こうよ」
「あ、ああ」

戸惑いながら、俺のことを引っ張って行ってくれる。
斜め下から見た横顔は少し赤くて、そして嬉しそうだった。


こんなことで喜んでいないでよ。
あんたが言うべきことを口にしたら、もっと大きな幸せが手に入るのに。



黙っていた理由を聞かれて、
「跡部さんのことが好きで、だから悩んでいるんすけど」
なんて言ったら、どんな反応したんだろうね。


けど、今日も臆病な俺は黙ったままでいる。

こんな状態……いつまで続けているんだろう。

終わり


チフネ