チフネの日記
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2009年02月04日(水) もう少し、このままで。 跡リョ

「……、これどの位入れるんだっけ」

茶葉を前にして、リョーマは顔を顰めた。
いつもは母か姉任せにしているから、どの位の量でお茶を淹れて良いものかわからない。
二人は揃って外出中。
邪魔はしても手伝いは期待出来そうにない父親も、知人の家に行くとかでいない。

「うーん」

考え込んで、リョーマは一瞬ファンタを出そうかと考える。
あれならグラスに注ぐだけだ。
楽なのに……、きっと出したら困惑するのが目に見えるようだ。
前にも美味しいからと飲ませたことがあったけど、
「甘過ぎ」と思い切り顔を顰めてた。
やっぱりファンタは出せないかあ、と溜息をつく。
一応お客様なのだから、その嗜好を無視することは出来ない。

どうしようと、数秒動きを止める。
仕方ない。
適当でいいや、と茶葉を急須に投入。
そしてポットの湯を注いでいる間に、客用の湯飲みを用意する。

(跡部さんの家は全部、やってくれる人がいるからいいよなあ……。
あ、でもわざわざ俺の為にとか言って、自ら紅茶を用意してくれたっけ。
ファンタでいいって、言ってるのに)

そっちの方が楽なのに、なんなんだろうねと首を傾げる。
淹れてくれた紅茶はたしかに美味しかったから、不満がある訳じゃないけど。

「こんなもんでいいか」

湯飲みに急須の中身を注ぐ。
妙に濃い色のような気がするが、これでいいやと頷く。
濃い方が緑茶は体に良いんだ、と自分で言い訳をしてトレイに乗せる。
自分用のファンタと、跡部が持ってきてくれたお菓子も忘れない。

そして自室へと階段を上がる。

ついさっきまで、二人でお寺の裏のコートでテニスしてた所だ。
先に浴室を使うように跡部に薦めて、出た後は自室で待っているように伝えてある。
適当にゲームをしてていいよ、と言ったが、多分コントローラーに触れてもいないだろうと察する。
「ゲームで対戦しない?」とリョーマが誘えば、喜んで乗って来るけど、一人ではやらない。
下手な訳では無いが、(むしろ上手な部類に入るだろう)興味を持つほどでもないらしい。

じゃあ、何やっているのかと想像して、一つしかないなと結論を出す。
即座にリョーマは忍び足で部屋に近付き、様子を伺う。

(色々、物色している所かな。
まさかと思うけど、下着を漁っていたら容赦なくこのお茶を頭から浴びせよう)

やけに静かだなと思い、そっとドアを開ける。

「跡部、さん?」

そこにはリョーマが想像していた、部屋をくまなく探索中の跡部はいない。
ベッドで静かにうつ伏せになって寝ている姿があった。

「なーんだ、寝ちゃってたのか」

しかも俺のベッドの上でかよ、と小さく呟く。

だけど起こすのも忍びない気がして、そのままにさせておく。
昼寝の時間の心地よさは、リョーマもよくわかっている。
きっと疲れて眠くなったのだろうと、しばらくベッドを貸すことにした。

(そういえば、家に来た時も欠伸していたっけ)

昨日は、色々忙しかったんだと言い訳していたことを思い出す。
リョーマにはよくわからないが、家のことで何か用事があったようだ。
詳しくは跡部が語らなかったから、ふーんと流していたけど、
結構大変だったのかなと今になって気付く。

無理しないで、今日の約束をもっと遅い時間とか、別の日にすれば良かったのに。
でもそんなことを口にしたら、
跡部は「俺が会いたいって言っているんだから、問題無しだ!」と過剰な反応するに違いない。
こっちも会いたいんだから、それは別に構わない。
でも、疲れている時はちゃんと休んだ方がいい。
一応、心配はしている。
口に、出せないだけで。

(それにしても、跡部さんの寝顔って……)

初めて見た、と呟く。
トレイを机の上に置いて、そっとベッドの脇に近付く。

自分は、何度も約束前に押し掛けられたりするから披露してしまっているが、
跡部が寝てる姿を晒していることは自宅でも無い。
寝るよりも、纏わりついてくることで一生懸命だからだろうか。
うるさい、と怒る方が多い気がする。

(黙っていれば、格好いいのにねえ)

跡部の容姿が整っていることは、リョーマも認めている。
勿論それも本人には伝えていないが。
言えば、気持ち悪い笑い声を響かせた後、調子に乗るのが目に見えている。
折角の綺麗な顔も、言動と行動で台無しだ。

それでもまだお慕いしている女子が多いのだから、世の中はわからない。

(顔と、金と、スポーツ万能と、それだけ揃ってりゃ性格はどうでもよくなるのかな)

それでもこの人の話を聞かない暴走気味な性格に付き合うのは、
かなり大変だと思う。
突然人の家に押し掛けて布団剝がすわ、友達と喋っていただけで邪魔するわ。

(好意はわかるんだけどね)

だったら、さっさと言うべきことがあるんじゃないのと顔を覗き込む。

静かな呼吸音だけ聞こえて、その呑気さになんだかむかついて来た。
振り回されてるこっちのことも考えてみろって。
額に目とか肉とか書いてやろうかとさえ思えてくる。
そうしたら、寄って来る女の子も減るんじゃないだろうか。

「………」

少し考えて、今日は勘弁してやろうとそっと額にかかっている前髪に触れる。
きっと他の人は滅多に見られない寝顔を、特別に見せてくれたお礼。

(だから、決して見惚れてる訳じゃないんだから)

自分で言い訳をしながら、顔が赤くなっていくのがわかる。
跡部が目を閉じていて良かったと、ほっとして。
前髪から頬へ、そっと指を滑らせた。















跡部には、一体何が起きているのかわからない。
部屋で待っていて、とリョーマに言われ自室に来たところで、
はっと気付いた。
今、ここには自分一人きり。
だったら、やることは一つしかない。

「越前、のベッドにダイブ!」
思う存分リョーマの香りを堪能したところで、安心してしまったのか、
いつしか眠っていた。
そして気付いたら、何かが顔に触れている。

そーっと瞼を薄く開けて確認して、驚愕する。
触れてたのは、リョーマの指だった。

(これは、なんだ。一体どういうプレイなんだ?
いや、越前なりのアピールだ。そうだろ!?)

ここで体を起こし、「越前っ、お返しに俺もお前の体を撫で回してやろう」と言うのは簡単だ。
しかし、そうしたらこの穏やかな時間が崩れてしまいそうな気がして。
結局、もう少しと寝た振りを続ける。

(たった、これだけで嬉しいなんて……俺の今までの価値観丸ごと崩壊しそうだな)

けどやっぱり幸せには違いないから、
このまま大人しくしておこうとじっと体を動かさないようにする。



しかし興奮し過ぎて知らずに鼻息が荒くなってしまった為、
数秒もたたない内にリョーマに気付かれてしまった。




跡部がベッドから叩き出されたのは言うまでも無い。


チフネ