チフネの日記
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| 2009年01月31日(土) |
恋の証明 跡リョ ※小さな嘘からの続き 向日とリョーマの会話 |
突然のリョーマからのメールに、向日はどうしようか悩んだ末、結局会うことを承諾した。 跡部に見付かったら大変なことになるのはわかっている。 メールをやり取りしている仲だと知られた時、散々嫌味を言われた挙句携帯を壊されるところだった。 最もその後すぐ、跡部はリョーマに締め上げられたのだが……。
(なんか話したいことがあるんだよなあ) 他に相談に乗れる相手もいなさそうだし、どうしようかと考える。 そして跡部に知られたらまずいだろ、と返してみた。 会うとなったら、絶対あの我侭帝王は黙っていない。 向日だって命は惜しい。 するとリョーマから『今日、跡部さんは用事あるって言ってから会うことは無いっす』との返事。 じゃあ、会ってもいいか。 ファーストフード店なら、跡部も寄り付かないだろうし。 見付かることは無いはず。
その日の放課後。 向日はリョーマとの待ち合わせの場所へと直行した。
店に行くと、リョーマはもう先に来ていて席に座っていた。 トレイにはハンバーガーとポテトと飲み物。 早めに来ていたのか、食べている所だった。 ぺこっと頭を下げた後、「腹減っていたから、先に食べてたんですけど」と言う。 「俺も注文してくるから、もうちょっと待ってて」 「あ……ここは俺が」 そう言って立ち上がろうとするリョーマの肩を制する。 「いいから座ってろよ。 俺はただお前と話をしに来ただけなんだから、気を使うなって」 「……」
いいの?とでも言いたげにリョーマが上目で様子を伺っている。 普段生意気なくせして、時々可愛い所見せるんだからと、向日は微笑ましく思った。 もう一度座ってろと指示して、急いで自分の分の注文へ向かう。 特にお腹が空いている訳じゃなかったので、簡単にデザートとドリンクだけ頼む。 店員がくるくる動いて注文したものを用意している間、 ちらっとリョーマを振り返る。 ハンバーガーをもそもそと食べている横顔は、どこか浮かなくて。
あー、ちょっと疲れているんだなあと思わせる。 跡部に対して焦らしプレイをしている越前だが、 心から楽しんでいるのも本当だけれど、ちょっと複雑な気持ちを抱えてるのも知ってる。 元はといえば、跡部の奴が「好きだ」と気持ちをきちんと伝えないから。 いい加減、越前も疲れて来たのだろう。 なんであいつってあんなに自由なんだ。 言わなくても、気持ちは同じだと自信満々になれる根拠もわからない。 今更ながら跡部の行動や言動に、生暖かい感情が込み上げる。
「お待たせしました!」 店員の声に向日は振り返ってトレイを受け取る。 そしてリョーマが座っている席へと再び戻った。
「なんかあんまり美味しく無さそうに食べてるな」 「そんなこと無いっすよ。美味しい」 「そうか?悩み事を抱えてるから、何食べてもいまいちって思うんじゃないのか」 「悩み事なんて別に……」 「隠すな隠すな。話したいことがあるから、俺を呼んだんだろ。わかってるって」 にこっと笑うと、リョーマはつんと横を向いてしまう。
「別に話なんて、無いっすよ。久し振りに向日さんがどうしてるのかなと思ったから、メールしただけ」 「ふーん……」 「本当っすよ」 ムキになってる、と向日は笑いを堪える。 自分で呼び出しておいて、顔にも出てるくせに。 この態度ってどうなんだ。 面倒な子供だなと思いつつ、あやすような気持ちで「別に嘘なんて言ってないだろ」と優しく言った。
するとこっちが引いたことにリョーマは気付いたらしく、 「そうっすね」といくぶんバツが悪そうにして目を逸らす。 わかりやすい反応だ。
リョーマの気持ちをほぐす為に、向日は何気ない口調で話を振ってみた。
「俺らの方は特に変わりは無いんだけど、お前の方はどうなんだ」 「変わり無いっすよ。部活も相変わらず忙しくて」 「じゃなくって、跡部となんかあったかって聞いてるんだけど」 「……」
しばらく沈黙した後、リョーマは「何も」と小さく首を振る。
「向日さんと会った時と変わらない。 時々暴走しておかしなこと口走って、その後落ち込んで立ち直って、その繰り返し」 「じゃあ、まだ肝心の告白は」 「無いっす」 「そっか…そうだよなあ。ま、跡部を見てればわかるんだけど」
跡部がリョーマのことはハッキリと見てわかる。 けれど困ったことに、「好き」という言葉をリョーマにきちんと伝えていないのだからややこやしい。 わかっているものだと思い込んで、行動ばかりが空回りしている。 思えば今まで何も言わなくても、色々相手から寄って来ていたのが問題なんだと思う。 恋愛事に関して自分から動くことが無かったものだから、 完全にやり方を間違えている。 もっと、基本的なことを思い出すべきだと向日は頷く。 正しい一歩を踏み出したら、すぐにでも望む幸せが手に入るかもしれないのに。
そこまで考えて、向日はふとある疑問が頭に浮かんだ。 黙ったままジュースを飲むリョーマの顔をまじまじと眺めた後、 思い切ったように口を開く。
「俺、前から越前に聞いてみたかったんだけど」 「何すか」 「跡部のどこを好きになったんだよ」 「……」
リョーマの動きが止まった。 ジュースの入った紙コップをゆっくりとトレイに置いて、そして下を俯いてしまう。
「おーい、越前? どうしたんだよ。俺、そんなに難しいこと言ったか?」 「難しい……ある意味そうかも」 はあああ、と大きくリョーマは溜息をつく。 一体どうしたんだと、向日はその顔を覗き込んだ。 軽く聞いただけなのに、こんな反応されるとは思わなかった。 困ったな、と思いつつもう一度呼び掛けてみる。
「そんな深刻に考えるなよ。 普段の対応はともかくとして、あいつのことは好きなんだろ? 例えばここがいい、とか言ってみろよ」 「ちょっと、好きとかそんな大声で」 慌てたようにリョーマが顔を上げる。 からかわれたと思ったのか、頬が赤い。 照れてるらしい。 意外なリョーマの表情に一瞬向日は驚いたが、 次の瞬間にやにやと口元を緩めて、リョーマの腕を肘で突く。
「けど、好きなんだろ?普段の対応はひでぇけど、見たらわかるって」 「えっ……そんなに顔に出てるっすか?」 しかめっつらして頬に両手を当てる。 そんなことしたってわかるわけないだろうに。 笑いながら向日は言った。 「事情がわかる奴から見たらな。 気付かないのは跡部くらいだな」 「はあ」 「で、跡部のどこが好きなのかまだ聞いてないんだけど」 「結局そこに戻るんだ」 「そりゃそうだろ。お前が跡部の何を好きになったかって、興味あるもんなー」 「興味って、ずいぶんはっきり言うね」 「ああ。それ以外無いからな。悪いか?」 「ううん。正直に言ってくれる方がよっぽど楽、かも」
ふうっと息を吐いて、リョーマは頬に手を当てたまま両肘をテーブルについた。
「わざわざ今日はここまで来てもらったんだから、まあ、向日さんになら話してもいいよ」 「無理とは言わないけど、いいのか」 「うん。でも具体的にって言われると難しい。どう説明したらいいんだろ」 「そっか。じゃあ、例えばここ最近で跡部といて好きだなあって思ったことあるか?」 向日の質問にリョーマは数秒考えた後、「あった」と声を出した。
「へえ、どんな時だよ」 「いや、別につまらないことなんだけど。 帰り際に俺のことを引き止めたくて、猫を連れて来たんだ。 こいつが離れたがらないから帰るなよとか言って、可愛いでしょ」 「……可愛い?」
嬉しそうに言うリョーマを見て、向日は思わず聞き返してしまった。 跡部が可愛い。 向日の中でも氷帝のレギュラーの中でもそんなこと思う奴は一人もいない。 思わずリョーマの顔を凝視すると、また顔を赤らめて、、 「あ、そうじゃなくって」と軽く首を振った。
「今のは違う。違うっす。 そうそう。この間、俺がファンタを飲んでたらどんな味って聞いて来て、 明らかに間接キス狙いしてんの。 目の前で飲み干したら、すっごいがっかりした顔して固まって、それがまた可愛くて」 「ひょっとしてお前って、跡部のこと可愛いって思ってる?」
指摘すると、リョーマの顔はまた一瞬固まった。 そして「違う違う」と今度は大きく首を振る。
「だってあの人、どっちかというと格好いい方でしょ。 黙っていれば、綺麗だと思う……って、何か間違っている!?」 「いや、その感想は人それぞれだから」 向日の温かい視線に気付いたリョーマは、 目を大きく開いた後そのままテーブルに突っ伏してしまった。
「おーい、越前?」 「このままそっとしておいて下さい。 なんか今の俺、駄目過ぎる。このまま顔を上げられないかも」 「はあ?おいおい、恥ずかしがるなよ。 跡部のこと好きなのはとっくに知ってるのに、何を今更」 「いや、今の発言はかなり痛い。痛過ぎる」 「別にいいんじゃねえか? あいつの中身を知らない連中が格好いいーって叫んでるのよく見かけるぜ」
そう言うと、リョーマは顔を上げた。 表情はちょっと複雑そうで。 向日は、悪いこと言ったなと頭を掻いた。 少なくともリョーマが知らなくていいことを、言う必要は無かった。
「ああ、悪い。多分、そいつらと越前が思っている格好いいはまた違う意味だろうな。うん」 「いいよ。気を使わなくても。多分変わらないんじゃないっすか。 その、きゃあ!って感じにはなんないけど」 「……お前からきゃあ!とか言われると、すっげえ違和感感じるな」 「うん、自分でもそう思った」 「だろ」
向日とリョーマは顔を見合わせて笑った。 一体、なんの話しているんだろう。 思い返して、向日は跡部の話だった……とまた力なく笑う。
「今の話を総合すると、越前は跡部のこと可愛くて格好いいと思っているってことでいいか?」 「あんまり触れられたくなかったんだけど……。 そう思ってくれてもいいっすよ。 好きなのは、それだけに集約されてる訳じゃないけど」 「ふーん、他にもあるんだ」 「だから、そういう恥ずかしいことをいちいち言わないで欲しいっす。 これでも耐えてるんだから」
あーあ、とリョーマはまた両手で顔を押さえる。 普通に恋をする子っぽいなあ、と向日は微笑んだ。 こんなこと喋っている越前の方が可愛いと、跡部がいたら大変になることを考えてしまう。
「なー、越前。俺、ちょっと思ったんだけど」 「何すか?」 「今の跡部に言ってやれよ。 速攻両想いになれるんじゃねえか?」 もういい加減跡部がじたばたと騒ぐのも鬱陶しいので、 向日は至極真っ当な指摘を口にした。 だが、リョーマは「ヤダ」と視線を逸らしてしまう。
「なんでそんな意固地なんだよ。 跡部の奴喜ぶぞー。きっと泣くな、ありゃ。 いい加減、打ち明けてもいいんじゃねえか?」 「……好きだって言われてないのに?」 「それは、うん。跡部のことだからとっくに言ってる気になってるんだよ」
あいつの思考は俺達には想像もつかないんだよ。 そう慰めるように言うと、リョーマは困ったように眉を寄せた。
「でも、やっぱり俺から言うのって出来れば避けたいと思ってる。 だって絶対調子付くでしょ」 「それは、まあ、なあ」 越前が告白をしたら跡部が舞い上がるのは目に見えている。 ひょっとして学園全体を巻き込んでパーティをするぞ!と言いかねない。 しかも一日とかじゃなく、一週間掛けてやりそうだ。 怖い、と向日は身震いをした。
「調子に乗った後どうなるか、大体想像もつく。 多分、あの人にぱくりって食べられるんだろうなって」 「おいおい、越前」 「違う?俺の読み、間違ってる?」 「……多分、合ってる。その日の内に速攻お持ち帰りだな」 「でしょ!?まだそこまで踏ん切りつかないんだよね。だから迷ってる」 「そっか」
リョーマの話を聞いて、向日は神妙に頷いた。 あの跡部が告白されただけで、終わるなんて到底思えない。 決心がつかないのなら、言うべきじゃないなと同意する。
「でも、こうやってずるずると結論を引き延ばしてる内に、 あの人が俺から離れていく可能性だってあるよね。 それも、嫌なんだ」 「無いだろ。やってること滅茶苦茶だけど、跡部はちゃんとお前のこと好きだと思うけど」 「でもずっと続かどうかなんてわからない。 なのに、こんな風に迷っていていいのかって、考える時もある。 けど、俺だって先に進むのが怖いって思うんだよ。 だから黙ってる。伝えれば、あの人が喜ぶって知ってるのに。 ズルイとわかっているけど、もうちょっと時間が欲しい」
どうしよう、とリョーマはまた頭を抱えてしまった。 どうしようも何も。 跡部がさっさと「好き」だと言わないから、こんなことになっているんじゃないか。 ちょっと気の毒になって、向日は思わず小さくなっているリョーマの頭をそっと撫でる。
「あのな、越前。別にお前の所為じゃないと思うぜ。 元はといえば跡部の野郎が」 「俺様がなんだって?」 「……」
聞こえて来た低い声に、まさかと思いつつ向日は首を動かしてそちらを見た。
すると案の定。 恐ろしい顔をして腕を組んでいる跡部がそこに立っている。
「最悪」 「こっちの台詞だ。向日、てめえ何勝手に越前に触ってるんだ。 二人だけで会っているだけでも許せないのに、何しようとした」 「……髪についたごみを払おうとしただけだ」 「そんなベタな言い訳が通じるか!」
ツカツカと足音を立てて近付いてくる跡部は戦闘体勢に入っていて。 やばい、と向日が身構えるより先に、リョーマが席を立ち上がった。
「跡部さん、今日用事があったって言ってなかった?なんでここにいるのか聞きたいんだけど」 さすがにリョーマのことは無視出来ないらしく、跡部の足が止まる。 向日を一瞬睨んだ後、リョーマへと向き直る。 「思ったより早く終わった。 折角時間が出来たから、サプライズとしてお前の家に訪ねていったらいねえし。 携帯も繋がらないから、探し回ってやっと見つけたってとこだ」 「あ、そういえばさっき携帯の充電切れたんだった。それにしてもよくここがわかったね」 「心当たりは全部探した。ひょっとして何か食ってる可能性も考えてな。 お前、こういう店大好きだろ。青学から歩いて行ける付近の店、全部入って確認してた」 「何やってんの」 「しょうがないだろ。会いたかったんだから……」
照れたように言う跡部に、お前の存在自体サプライズだよと向日は突っ込んでやろうかと思った。 ここで口を挟めば邪魔するなと、また怒りの矛先を向けられるから黙っておく。 それにしても、行き先全部探すなんてどんな執念だ。 諦めるってことを知らないのかと、呆れてしまう。
「じゃあ、今からテニス出来る?」 リョーマの問いに、跡部は「勿論だ」と頷く。 「けどその前に、こいつを締め上げておかねえとな」 ちらっと視線を向けられて、向日はまた緊張に体を強張らせるがそれは杞憂で終わった。 「あのさ、俺の暇つぶしに付き合ってくれた向日さんに何かしようとするの、止めてくれない?」 「けど、越前」 「いいから。向日さんは俺の友達なんだから、変なことしたら怒るっすよ。わかった?」 「はい……」
項垂れる跡部に、リョーマは「よし」と言って笑う。
(力関係が明確過ぎる)
変わってないな、と向日は二人を交互に眺める。 いや、もし今後上手くいったとしても、変わるなんてこと無さそうに見えてしまう。
「悪いけど、先に出るから」とリョーマに言われ、 向日は「ああ」と半笑いして答える。 いいからその隣に立ってこちらに威圧感を出す男を外に引っ張って行って欲しい。
二人が出て行った所で、向日は疲れたようにまた椅子に腰掛ける。
(跡部の奴、こんな所まで追ってくる根性はあるのに。 なんで一番大事なことはわからないんだろ。 越前の気持ち位、インサイトで見抜けよ)
しかし案外、大切な人の気持ちはわかり辛いのかもしれない。 可愛いとか格好いいとか思っていることを知ったら、 悶絶する程喜ぶだろうに。
(早く気付くといいな、跡部)
他人事のように呟いて、残りのジュースをさっさと片付ける。 そしてまた、リョーマからの誘いがあったとしても。 申し訳ないけど跡部のいない所で会うのは断ろうと、心に決めた。
終わり
チフネ

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