チフネの日記
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| 2009年01月23日(金) |
恋愛の極意 後編 跡リョ ※跡部の暴走注意。 |
CASE4:日吉の場合
翌日。 リョーマに逃げられた跡部は幽霊のように校内を徘徊していた。
「越前……シーツの色の件を許してくれるだろうか。 このまま会わないなんてことないよな」 顔色も悪くふらふらと歩く跡部に、曲がり角からやって来た人物がぶつかりそうになる。 「おっと、危ないな」 「危ないって、そっちが余所見してたからでしょ、って跡部さんですか。 こんな所をふらふら歩いていて楽しそうですね」 嫌味な笑顔を浮かべながら言ったのは、二年の日吉だ。 日頃から何かと突っ掛かる日吉の態度には慣れっこなので、跡部は平然として答えた、 「ただふらふら歩いている訳じゃねえぞ。俺の頭の中には常に深刻な悩みが居座っているんだからな」 「その深刻な悩みも一向に解消されていないように見えますが。 ちんたらしている間にもっと悪い事態に変わって行くんじゃないんですか」 「てめえ……何が言いたい」 「さあ」 肩を竦めて、日吉はさらっと跡部の鋭い視線を流してしまう。
(こいつ、俺が何について悩んでいるのかわかっているのか?エスパーか? そういや宇宙人とか信じてるとか言ってたような。じゃあ、本気でピンチじゃねえか!)
跡部は知らないが、テニス部のレギュラー達はほぼ事情をある程度把握している。 また越前か、と思っているだけなのだが、勘違いした跡部は何も言えなくなってしまう。
「今度は一体なんなんですか。人の顔じっと見詰めて、言いたいことがあれば口に出したらどうです」 「そんなことしなくても、どうせわかるだろうが」 「はあ?」
訳がわからない、と日吉は首を振った。 そして、「ああ」と顔を上げる。
「俺から言えることがあるとしたら、積極的に行動する。その一点くらいっすかね。 他にアドバイスを求められても答えられませんよ」 「あ?」 「失礼します」
そして日吉は廊下をすたすた歩いて行ってしまった。
「アドバイスって、なんのことだ」 跡部は腕を組んで考えた。 「あっ、あいつ。もしかして俺が悩んでいることを読んだ上での返事か? そうか。シーツのことをいつまでも拘っても仕方無い。よし、積極的に行動するぞ!」 早速越前と会う約束を取り付ける為、携帯を取り出してメールを打ち始めた。 これも跡部が知らないことだが、 レギュラー陣の間で跡部が「恋愛についてのアドバイスを聞き回っている。聞かれたら何か答えを出してやれ」という連絡網が回っている。 日吉はとうとう自分に聞きに来たのかと思って、喋っただけだった。
「日吉の奴、なかなかやるな。UFOの写真を持って歩いているだけある。 今度、越前の気持ちを読んでもらうか」
すっかり変な方向に逸れた跡部は、日吉のアドバイスなら効き目ありそうだとウキウキとした気持ちで放課後を待った。
「それで?」 出したジュースを一気に飲んだリョーマは、むっとした顔を隠すことなく跡部に向き直った。 「テニスするって呼び出しておいて、なんでコートに行かないんすか。どういうこと?」 「焦るなよ」 早くしようよ、と言いたげなリョーマを跡部は手で制した。 場所は昨日と同じ跡部の自室。 なんでこの部屋?と疑問を口にするリョーマを無理矢理引っ張り込むのに成功した。 これも積極的な行動をしようと思った結果だ。 まずジュースを出してなんだか怒っているリョーマを落ち着かせる作戦に出たが、 まだ緊張は解かれていない。 寝室の方をちらちらと見て、警戒している。
(いや、ひょっとして越前も待っているのかもしれないな) さっきみたいに積極的に出れば、OKを貰える可能性もある。 駄目だったのはシーツの色ではなく、昼寝をしようなどと曖昧にぼかした所為だ。 そうだ、そうに決まっている! 妙に自信を付けてしまった跡部は、満足げに笑った。 それを見たリョーマが顔を引き攣らせるが、気付いてはいない。
「俺はもう遠慮はしないって決めたぞ」 「へえ」 「だからつべこべ言わず、こっちに来いよ」 「……どういうことっすか?」 きょとんとしているリョーマに、跡部は「何も言うな」と頷いて立ち上がる。 そしてリョーマが座っているソファに近付き、小さな体を抱き上げようと近付いた。 「ちょっと、跡部さん!何しようとしてるんすか!」 驚いたリョーマは急いで体を引いて逃げようとする。 ここで逃がしてはいけない。 積極的に、積極的にと呪文のように心の中で繰り返し、リョーマを捉まえようと手を伸ばす。 「シーツの色がそんなに気に入らないのならすぐに取り替えてやる! お前は何色がいいんだ。言う通りにするから、逃げるなよ」 「シーツの色って!?俺、そんなこと問題にしていないし。テニスしに来ただけだから」 「そう言いながらも期待しているんだろう?わかっているから大丈夫だ」 「全然大丈夫じゃないよ!」
ぱしっと、リョーマが跡部の手を叩いて逃れる。 「え、越前?」 「帰る。テニスするとか嘘つくの、止めろよ。頭冷やした方がいいんじゃないの?」 「おい、待てって」 「待ってどうすんの。また押さえつけるつもり?チビだからって、馬鹿にすんの止めてくれない」 「俺は馬鹿になんて」 「もう、いい。帰るって決めたんだから」
じゃあね、とリョーマは去って行った。 叩かれた手がじんじんと痛む。 「積極的に出たのに、それも駄目なのかよ」
どうすれば、と跡部は額に手を置く。 根本的に何が駄目なのかまだ何も気付いていない。
CASE5:樺地の場合
越前にメールを送ったが返事が無い。 謝罪の言葉も全く無視されてしまっている。 このまま連絡が取れなくなったらどうしよう。 携帯を握り締めて、跡部は心細さに泣きたくなってきた。
「ウス」 「樺地か?」 ふと顔を上げると、忠実な後輩が側に立っている。 「心配して来てくれたのか?」 「ウス」 「さすがだな、樺地。俺に元気が無いって、わかるのか」 「ウス」 「そうなんだ、越前の奴。俺の気持ちにちっとも気付かないで、逃げてばっかりで嫌になる。 挙句の果てに頭冷やせばとか、俺はもうどうしたらいいのか……」 「ウス」 「そうか。さすが樺地はわかってくれてるんだな。 越前の奴照れ屋にもほどがあるだろ。だから積極的に出たのに、それも駄目らしい。 一体あいつにはどう接するのが一番いいんだ?」 「ウス」 「え?そのままの俺でいいって?さすが樺地、わかっているな!」
意味不明な会話は、5分以上続いた。
樺地は(俺、ウスしか言っていないのに……)と、ぼんやりしていたのだが、 跡部には関係無かったらしい。 ちなみにあまりにも跡部が落ち込んでいるんで、「お前、見て来いよ!」と向日に無理矢理押されてやって来ただけだという。
幸せな解釈をしたものの、越前からの返事が無いままのは言うまでも無い。
CASE6:向日の場合
「よお。跡部。まだ落ち込んでいるのかよ」 「向日か」 越前からの返事がないまま、今日で三日目に突入。 そろそろ限界が近い跡部は目の下に隈が出来て、顔色も悪く見える。 重症だ、と向日が呟く。
「その様子だと、今も越前に無視されたままらしいな」 「……」 肩を落として無言になる跡部に、向日は慌ててフォローを入れる。 「安心しろよ。それなら近々解消するだろうよ」 「なんでそんなことがお前にわかるんだ。お前もエスパーかよ」 「はあ?エスパーって?とにかく越前がそろそろやって来るのは確実だぜ。 今度こそ失敗しないように、良いアドバイスしてやろうか」 「アドバイスは、もういい」 跡部は大きく溜息をついた。 「今まで色んな方法を試したが、結局どれも上手くいかない。 あいつの高感度が上がる方法なんて実は無いんじゃねえかと疑っている」 「それはお前のやり方が全部悪いだけじゃねえのか……」 向日は呆れたような目をする。 それに気付かず、跡部は「そんなことは無い」と背一杯胸を張った。 「俺が良いと思う最善のやり方を尽くしたんだ。間違いねえ」 「間違いだらけのような気がするけどな」 「じゃあ、お前はどんなアドバイスをくれるというんだ。 一緒にバンジーをやれとか言うんだったら、怒るぞ」 「失礼だな。俺のことなんだと思っているんだ。 まー、バンジーは別として、好きな奴に自分が楽しいと思っていることの面白さをわかってもらえたらいいなとは思っているけどよ」 「楽しいと思っていることか……」
ふと跡部は思った。
リョーマはテニスが好きだ。 俺も同じくらいテニスが好き。 とっくに同じ楽しいと思うことを共有している。 なのに発展しないなんて、変じゃないか? ひょっとして好かれる以前に、越前は俺のことを嫌いだってことか!?
飛躍した考えだが、跡部は勝手に思い込んで落ち込んでしまう。
「俺が言えるのは、そんなことじゃなくてよー、越前になんで今まで色んなアプローチをしたか正直にその気持ちを話すべきって、跡部?おい、どうした?」 「いや、色んな事実に気が付いただけだ」 「そうか。やっとお前もわかったか。頑張れよ」 「……」
何を頑張れ、というのだ。 跡部は力なく手を挙げて、そしてふらふらと外へと歩き出した。 今日も越前との約束は無い。 このまま歩いて帰ろうか。 車に乗る気分じゃない。落ち込んだ自分には徒歩がぴったりだ。 そう思って進んでいると、前方から「跡部さん」と聞こえるはずの無い声が聞こえる。
「越前?」 「出て来るの早かったね。車じゃなくて良かった。 そうだったら捉まえられないかと今気付いてさ。焦ってた所だったんだ」
にこっと笑うリョーマに、これは幻かもしれないと跡部は自分の頬を引っ張った。
そして結論:跡部にアドバイスをしてもしょうがない
「どうして、氷帝にいるんだ」 ぽかんとする跡部に、リョーマはくすくすと笑った。 「向日さんに連絡貰ったんだよね。あんたの様子がおかしいって。 でも案外元気そうで安心した」 「あいつと連絡取り合っているのか」 「たまにね」 リョーマが頷いたのを見て、跡部はぎりっと歯軋りをした。 向日の野郎、いつの間に越前の連絡先を知ったんだ。 明日、きっちり問い詰めてやろうと決心する。
「それより場所変えない?ここだと目立つよ」 門を通り過ぎる氷帝生徒達は、物珍しそうにリョーマに目を向けている。 それに気付いた跡部は「あ、ああ」と頷いて、車の方へと先導していく。 「俺の家だと、やっぱりまずいか?他にどこかゆっくり会話出来るところ探して」 「家でもいいけど。でも、あんたの部屋はパスさせてもらう。 さすがにもう懲りた」 「……わかった。客間ならいいか?」 「うん」
越前が来てくれた。 向日からの連絡というのは気に入らないが、こうして会えたことは喜ばしい。 しかし浮かれ過ぎるのは禁物だ、と跡部は心の中で戒めた。
(俺のこと嫌いだって宣言しに来たのかもしれないからな)
そうだとしたら立ち直れない。 何を言われるんだろうかとびくびくしながら、車は跡部の家へと到着した。
沈黙が重い。 出されたお菓子とジュースを平らげていくリョーマを見ながら、跡部はドキドキしながらこれからの展開を想像した。どう転んでも、良い未来が思い浮かばない。
「それで、今日は……俺に何か言いたいことがあって来たんだろ」 「うん」 いい加減切り出さなければと思って、コップを置いた所で声を掛ける。 するとリョーマは真面目な顔をして、こちらを向いた。
「あのさ。あんたって、何か悩みでもあるの?」 「悩み?」 「うん。最近、おかしな行動ばかりしてたじゃん。あれって、何か悩みがあっての行動かと思って。 この間は腹が立ってメールも無視し続けたけど、向日さんからの連絡にさすがに心配になって来たんだ。放っておいていいかって。 ねえ、何か言いたいことがあったら聞くからさ。話してよ」
真摯な態度のリョーマを見て、跡部は感動に体を震わせた。
(越前は俺のことをちゃんと気にしてくれてる。 嫌われてるんじゃなかったんだ!!)
一瞬で、立ち直ってしまう。 単純だな。この場に向日がいたらそう言っただろう。
「大丈夫だ、越前。悩みは今解消された」 「えっ。そうなの?もう?」 「ああ。馬鹿みたいに悩んでいて損してた。そうだな。あるがままの俺で良かったんだ。 人の意見なんてやっぱり当てにならない。俺は俺の道を行く!」 「……本当に大丈夫っすか?」 「ああ、任せろ!」
高らかに笑う跡部に、リョーマは本気で心配そうな目を向けたがこれも気付いていない。 結局、この数日の問題は跡部の中で完全にリセットされてしまったようだ。
その夜。
「で?結局、跡部の奴は告白も何もしなかったのかよー。俺の話何も聞いていないんだな!」 憤慨する向日に、リョーマは言った。 「そんなけしかけるような真似して言われても嬉しくないっすよ」 「ああ、大丈夫。告白しろなんて、俺は言ってないぞ。それにしてもいいのか? あいつは言わなきゃわからない奴だってはっきりわかったんだ。これからも苦労するぞー」 「それは重々承知っす」 リョーマは苦笑いする。 「けど、あれでいて可愛い所もあるから。今回は色々暴走したけど、全部俺の為だと思えば、許容範囲っすよ」 「そんなもんかあ?まあ、いいや。何かあったらまた連絡する」 「お願いします」
ぴっと向日との回線を切って、リョーマはベッドに横たわった。
(俺のことでじたばたするの見ていて楽しいけど、そろそろ何が必要なのかわかってもいいと思うんだけど)
好意を受けてるのは見ればわかるのだけれど、 まだ口に出していないから、あえて知らん振りをしている。これがいつまで続くのか。 こっちから言うのは簡単だけれど、図に乗るのがわかっているし、何より悔しいから絶対言ってやらないとリョーマは決めている。
もし、ちゃんと跡部がその大切な言葉を口にしたら。 一言、「好き」と告げたら。
(あの趣味の悪いベッドで、一緒に昼寝してもいいんだけどな)
紫のシーツは無いだろ、とリョーマは小さく呟いて瞳を閉じた。
終わり
チフネ

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