チフネの日記
DiaryINDEXpastwill


2009年01月21日(水) 恋愛の極意 前編 跡リョ ※跡部の勘違い炸裂注意。

越前と、テニスしてテニスしてテニスしてテニスして(以下、エンドレス)、結構打ち解けて来たと思っているのだが、一向に進展する気配が無い。
おかしい。
普通なら、もう越前はメロメロになっていてもおかしくない頃合のはず。
見目麗しい俺様に見惚れて、「跡部さん、素敵……」と頬を赤らめながら言ってもいいんじゃないか。
なのにあいつの口から出るのは、「まだまだだね」の素っ気無い言葉ばかり。
どうやら今までのやり方が通用しないようだ。
だったら、どうしたら良いか。
自慢じゃないが、庶民的なアプローチの仕方がわからない。
困ったなと腕を組んでいると、忍足が声を掛けて来た。

「どないしたん、跡部。偉い悩んどんな。また越前絡みか?」
「うるせえ、放っておけよ」
「まあまあ。これでも恋愛については人より詳しいんやで。相談してみたらどうや?」
「俺が?お前に?」
忍足は自信満々な顔をして、頷く。
気乗りはしなかったが、庶民により近い忍足なら何か知っているかもしれない。
藁にも縋る勢いで、聞いてみることにした。




CASE1:忍足の場合

「まず相手を大事に思うているアピールが必要や。そこが一番重要やで」
「ほお。それは思いつかなかった」
「せやろ。お前は一番自分が大事みたいやからな。
けど逆に今までの印象をがらっと変えると、この人私のことを本当に大切に思ってくれてる?素敵!とそのギャップに萌える訳や。わかったか」
多少引っ掛かる表現があったが、跡部は忍足の言うことをメモに取った。
「それで具体的に、どういうやり方が効果的なんだ」
「一番重要なのは、手袋を付けて相手に触れることやな」
「は?手袋?なんだそれ。意味わからねえぞ」
「あほ。お前、まさか素手で直接触れるようなハレンチな真似してへんやろうな」
「そりゃ、ちょっとは……」
肩を抱こうとして失敗したけど、と言葉を濁す。
「それが問題やったんや!素手はあかんで!壊れ物を扱うみたいに相手を大事にする。
その気持ちをさり気なく伝える為の手袋や。わかったか」
「そ、そうか」
忍足の気迫に、跡部は思わず頷いた。
庶民の付き合いとは、なかなか難しい。
しかしやってみなければ始まらない。


早速、リョーマと会う前に手袋を用意してスタンバイする。
「よ、よお。越前」
「あれ、跡部さん……手袋なんかして珍しいね」
反応してくれた!
これが必要だったのかと、跡部は驚いて目を見開く。
やはり自分はまだまだ勉強不足だった、と反省までしてしまう。

「さあ、打とうぜ」
「いいけど」
さりげなく手を取ろうとしたが、さっと避けられる。
おかしい。忍足の言う通りなら、ここは感激する場面じゃないか?
なのに越前は不審者を見るような目で見ている。
「手袋したままテニスするんすか?ラケットを汚したくないって訳?」
「いや、そういう訳じゃ」
「怪我しても知らないよ」
そう言って、越前はさっさとコートに向かう。

……全然、駄目じゃねえか!

翌日、跡部は忍足の元へ真っ直ぐ向かった。
「忍足!てめえ、出任せ教えやがったな?何が手袋だ。ふざけんな」
「なんでや。俺はほんまのことしか言うてへんで?」
そう言って、忍足は鞄をごそごそ探って中から小さな箱を取り出した。
「見てみい。俺のエコちゃん。デリケートやさかい、こうして手袋でしか触れられんのや。
けど、大事に扱うてくれてる侑士素敵ーって声が今日も聞こえる。わかるか?これが愛や」
「わかるかああああ!」

その後、忍足は跡部に締め上げられました。




CASE2:宍戸と鳳の場合

忍足の馬鹿野郎。何が手袋だ。
越前に変な目で見られたじゃねえか!
今後はどうやって対応しようかと、跡部は腕を組んで唸った。
廊下の窓に背を凭れて、うんうん唸っているので否応無しに目立つ。
しかしそれを気にする跡部では無い。
遠巻きにしている生徒の中、通り掛かった宍戸が声を掛ける。

「あれ。跡部じゃねえか。こんな所で何威嚇してるんだよ」
「宍戸……か。お前に聞いてもな」
「はあ?なんかムカつく言い方だな。なんなんだよ、ったく」
さっさと離れようとした宍戸だったが、遠くから聞こえる呼び声に結局足を止めてしまう。
「宍戸さんー!宍戸さんー!」
「長太郎、声でか過ぎだぞ」
パタパタと小走りでやって来た鳳に、宍戸は叱るように腰に手を当てて言う。
「あっ、すみません。つい」
「これから気をつけろよ。それにしてもこんな時間に珍しいな。どうしたんだ」
「宍戸さんに頼まれた本、持って来たんですよ。ちょうど次が移動教室なんで、ついでに」
「帰りにも会うからその時でも良かったのに、悪いな」
「いいえ。宍戸さんも早く読みたいだろうと思って」

自分を無視した世界を作っている二人に、跡部は呆れた目を向けた。
その視線に気付いた鳳が「あっ、跡部さん。こんにちは」とおざなりな挨拶をする。

「…相変わらず仲いいな、お前ら」
「別に、普通だろっ」
「え?そうですか?そう見えます?」
宍戸は慌て気味に、鳳は困ったようにでも嬉しそうに言う。
「なあ、ちょっと聞いていいか。お前らって前はそこまで仲良くなかったよな。
どうやって、そこまで距離が近くなったんだ」
跡部の言葉に、二人は顔を見合わせる。

「どうやっても何も。そんなのしてねえよ。なあ、長太郎」
「そうですよ。お互い誠意を持って接していたら、自然に仲良くなるものです」
「何言ってるんだよ、お前」
「いやあ、だって本当のことですし」

またしても二人の世界に入った二人を無視して、跡部は(誠意か……)と頷く。

これは馬鹿忍足と違って、少しは参考になりそうだ。


俺様の誠意を越前に見せてやる!
意気込んで、跡部は越前に会いに行った。


「越前。今日の俺はいつもと違うぞ」
「はあ?」
「ほら、既にお前の好きなファンタを買っておいた。これを飲め」
「……どうも」
「それからこの前、お前が欲しいと言っていた新しいシューズ。
それも用意しておいた」
「えっ。わざわざ買ったんすか!?」
なんで、と驚いたように越前は固まっている。
ここは喜ぶ所のはずなのに、予想と違う反応に跡部は戸惑ってしまう。
「いや、その。欲しいって言ってただろ?」
「駄目っすよ。そんなの。買ってもらう理由が無いじゃん」
「理由って、お前が欲しがっているからってだけで十分だろ」
「でも跡部さんから貰う理由は無いよ。だから悪いけど遠慮しておく」
「越前……」

今まで付き合った女達は、欲しいものをやれば皆喜んでくれた。
なのに越前はいらないと言う。
一体、これはどういうことだ。
相手の望むのもを与えるのは誠意と違うのか?と跡部は頭を抱えてしまう。
それにしても、このシューズどうしよう。
途方に暮れていると、リョーマが「あのー」と声を掛けてくる。

「返品するのも跡部さんに悪い気がするから、買取りさせてもらうよ。
お金は明日でいい?」
「あ、けど俺が勝手に買ったものなのに、そんなことをさせる訳には」
「いいよ。どうせ新しいやつ買おうと思っていたから。母さんに頼んでみる。
でも今度からは、俺に何も言わず勝手に用意しないこと。いい?」
「……はい」


結局作戦失敗か、と跡部はしょんぼりと項垂れた。

誠意とは何か根本的にわかっていないのが問題だと、気付いていない。





CASE3:ジローの場合


「結局、誠意というあやふやなものも通じない。
越前には何が効くんだ。誰か教えてくれ」
ぶつぶつ言いながら、跡部は校内を歩いていた。
悩み続けて数日。
跡部の奇妙な呟きに、氷帝の生徒も徐々に慣れて始めている。
ほとんど注目されることなく、跡部は(越前……)と呟いて、ついには外へと出た。

そして歩き続けていると、何かに躓いて転びそうになる。
寸での所で回避した所で、跡部は気付いた。
道を塞いでいたのは、寝転んでいたジローだった。

「おい、ジロー!こんな所でなんで寝てるんだ。風邪引くぞ!誰も注意しないのか!?どうなってるんだ、一体」
「あー、跡部だー」
大声に、ジローは目を覚ます。
のんびりとした口調に、まだ起きていないんだなと思い、起き上がるよう指示をする。
でないと、またすぐに眠ってしまうからだ。

「天気が良かったからー、陽が当たる所で寝たくてここに来たんだー」
「せめて芝生で寝ろよ。全く」
「んー、行く前に眠くなってつい横になった」
「……そうか」

無邪気に言うジローに、それ以上説教をする気が失せる。
そんなことよりも自分はもっと大事な問題を抱えている。
越前のことだ!
もうジローは放っておこうと思った瞬間、制服を引っ張られた。

「なんだ、ジロー」
「最近の跡部、悩んでいるって噂を聞いたけど本当?」
「べ、別に悩んでなんか無いぞ」
噂ってなんだ、と跡部は動揺する。
自分で何もばれて無いと思っているのだが、所構わず物思いに耽るので周囲にはバレバレだった。

「けど何かあるなら。話してみてー。俺じゃ解決出来ないかもしれないけど」
「そうだな……」
こんなジローだが、実は結構女子生徒から人気がある。
可愛いとか、そんな応援の声もあると跡部は知っていた。

(一応、聞いてみるか)

駄目もとで、跡部は尋ねてみた。

「なあ、ジロー。仮の話でだ。お前に好きな子がいると考えてみろ。
その子との仲を進展させたいと思ったら、お前ならどうする?」
「んー、俺?そうだな。一緒に昼寝に誘ってみるよ」
「はあ?昼寝?」
無駄だったかと、跡部はがっくりと肩を落とす。
この意見も参考になりそうにないなと首を振っていると、ジローが「越前君なら、一緒にしてくれるかもよ」と言う。
「なんで越前がそこに出て来るんだ。関係無いだろ」
「あれ、跡部の好きな子って越前君じゃなかったっけー。違うのなら別にいいや。
今の意見無しでいいよー」
「待て。聞かせろ」

何やら攻略のヒントを持っていそうな言い方に、今にも歩き出しそうなジローの腕を掴む。

「んーっと、越前君もお昼寝好きなんでしょ?試合会場でよく寝てる所が俺に似てるって、前に忍足から聞いたことがあるー」
「あいつからの情報か。ろくでもないな」
「まあまあ。それでさー、跡部も越前君の好きなことに付き合ってみたら?
お昼寝って楽しいねって話が弾んで、そうしたらもっと仲良くなれるかもしれないじゃん」
「そんな上手いこといくか?」
「さあ?わかんない」
「……おい」

けれど、なかなか良い意見な気がした。

早速試してみるか、と跡部は休日に自宅のコートでテニスしようと越前を誘った。



そして当日。
越前と一頻りコートで打った後、用意させておいた風呂を使ってもらっている間に、
跡部は準備を進めていた。

「お先に、って跡部さん、もう入ったの?」
「ああ、シャワーでざっとな」
リョーマが自室に来た時には、準備をしておくべきだと思ったからだ。
爽やかな笑顔を浮かべ、跡部は「こっちに来いよ」とリョーマを手招きした。

「え?何?」
「今日は疲れただろう。今からちょっと休もうぜ」
「は?どういうこと?」
「お前の為に特別にベッドを用意させた」
「え?ええ!?」

リョーマの腕を引っ張って、寝室へと連れて行く。
今日の為にと用意したキングサイズのベッドが中央にドンと置かれている。

「今からなら昼寝するのにちょうど良いだろ。
俺も隣で一緒に付き合う。さ、ゆっくり寝ようか」
「……いい、眠くないから」
「越前?休むだけだぞ。何故、そんな目で俺を見る」
「本当に昼寝の気分じゃないんで。今日はもう帰ります」
「おい、越前!」
「バイバイ」

ダッシュで越前はその場から逃走してしまった。
取り残された跡部は、呆然としたまま用意したベッドに目を向ける。

「シーツの色が、気に入らなかったのか?それならそうと言えよな」



そこじゃないと突っ込みを入れる人は、この場にはいません。


チフネ