チフネの日記
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2009年01月17日(土) 向日から見た跡→リョ

「なあ、岳人君。今日の放課後。面白いもん見に行かへんか?」
「断る!」
「えっ、即答!?」

忍足の誘いの言葉に、向日はきっぱりと拒絶の意を示した。
何故なら彼のろくでもない趣味に付き合わされそうだと判断したからだ。

「侑士のことだ。どうせ新しい人形買いに行くのに付き合ってくれとかそういうのだろう。
悪いがパスさせてもらう。もうこりごりだ」
「人形とちゃうわ!フィギュアって言えや、こらあ!」
「同じだろ。どうせ」
「全然違う!俺の崇高な趣味を間違えたら困るわ」
そして何かのキャラの名前を呟いて、忍足はハァハァと鼻息を荒くする。
ついていけねえ、と向日は呟いた。

「なんでもいい。とにかく俺は忙しい。一人で行けばいいだろ」
「今日は買い物とちゃうで。ほんまにびっくりする程面白いって、忙しい言うてどうせバンジーしに行くだけやろ。ちょっとだけ付き合えや」
忍足の必死な形相に、向日は顔を顰めつつ一応聞いてみた。
「本当にお前の趣味と無関係だろうな?人形だけじゃなく、ポスターも薄っぺらい本も禁止だぞ」
「せやから人形と違うて」
「どうでもいいよ、そんなの」

とりあえず理解出来ない趣味とは無関係だと確認してから、
向日は忍足の言う思い白いものを見に行くことにした。




「って、ここ前にも来たことのあるストリートテニスじゃねえか」
「そうや」
忍足は胸を張って答える。
もったいぶって来たかと思えば、ここかよと向日は肩を落とした。

一度、跡部が面白いものが見られるかもしれないと言って、
ちらっと氷帝のレギュラー達で寄ったことのあるストリートテニス場だ。
あの時は青学の桃城と、越前に会ったんだよなあと思い出す。
そういえば。
跡部はやたらとあのちっこい子を気にしていた。
全国大会の間も何かと近くをうろうろしていて、怪しい動きも見せていた。
あれから、どうしたんだろう。
もし向日の考えていることが当たっているのなら、跡部は簡単に諦めたりしない。
今も口実作って、越前の周囲を徘徊しているのかもなあ、と思う。
不審者と間違えられて、捕まったりしてないだろうな。
つらつらとそんなことを考えていると、忍足が「岳人」と袖を引っ張って来る。
「なんだよ」
「来たで。面白いもんが」
「はあ?なんだよ……って、跡部と越前じゃん」

向こうから歩いて来るのは、今考えていた跡部と越前だった。
なんだ、やっぱり越前の周りをちょろちょろしてたのか。
けど一緒に歩いているってことは、報われたのだろうかと向日は二人の様子をじっと見る。

すると向こうも気付いたみたいで、
越前が「あ、」と声を上げて、
跡部が「げ」と嫌そうに顔を歪めた。

「お前ら、なんでここにいるんだ!?まさかテニスしようって訳じゃないだろうな」
「ちょっと通り掛かっただけや。怖い顔して、いややなー」
跡部は真っ直ぐ忍足に向かって、文句を言って来た。
さすが、誰がここに来ようと提案したか見抜いているらしい。
その間に向日は越前の顔を見ると、「どうも」と素っ気無い挨拶をされる。

挨拶されただけマシか、と向日は思った。
何しろ越前リョーマの生意気ぶりの噂はよく聞いてる。
なので気を悪くすることなく、「よお」と普通に返した。

「お前、今から跡部とテニスするのか?」
「まあね」
こくん、と越前が頷く。
「へえ。あいつとここで何度か打ってんのかよ」
さりげなく向日は二人の様子を尋ねた。
越前の返事があまりにも自然だったから、今日が初めてという感じには見えない。
越前はすぐに向日の問いに答える。
「うん。大体、週に1度は打ってるっすよ」
「ふーん。結構な頻度で会ってるんだな」
「そうっすか?」
よくわからない、というように越前が首を傾げる。
もっと色々なことを探り入れてみようと向日が口を開きかけるが、
「おい、お前らいつまで喋っているんだ」と跡部がいきなり割り込んで来た。

「侑士と仲良く喋っているから、こっちはこっちで会話してただけだろ」
ちらっと後方を振り返ると、忍足はやや放心した顔で立ちすくんでいる。
どうやら跡部に締め上げられたらしい。
気が済んだ所で、こちらに向かってきたのだろう。
越前を隠す形で、睨んで来る。

「そうかよ。じゃあ、もう会話は終わりだな」
「はあ?なんだよ、それ。久しぶりに越前と会ったんだから、別に話くらいしてもいいだろ。
お前はいつも会っているみたいだから、構わないみたいだし」
「別に、いつもって訳じゃ……」
そう言って、跡部は少し顔を赤くする。

(照れてる!?跡部が?うわー、なんだこれ。こっちが痒くなってくる)

ぞわっとした感覚に、向日は体を震わせた。
照れる跡部。
ものすごく珍しいもので、想像以上の衝撃を受けてしまった。

「ねえ」

跡部の後ろから、それまで黙っていた越前が顔を出す。
「あんた達もテニスしに来たの?だったら、ちょっと俺とも打ってよ」
「なっ、越前!今日は俺と打つって約束しただろ」
正気に返った跡部が、慌てて声を上げる。
「別に跡部さんと打たないとは言ってないよ。ただ、この人達ともテニスしたいと思って」
「こいつらはいないものと考えてくれ。ここに存在しない。幻だ!」
「何それ、無茶苦茶」
越前がむっとして答えると、跡部は僅かに怯んだ。

(力関係が丸わかりだな)

面白い、と向日が笑いを堪えていると、越前がまた「ねえ、いいよね?」と声を掛けて来る。
「あー、俺もお前と打ってみたいとは思っていたけどラケット持って来てないんだ。悪い」
「え、そうなんだ」
「ほら!こいつらとはもう打てないってわかっただろ。さあ、越前。俺との時間を楽しもうぜ」
「……」

必死過ぎる。
逆に痛々しいと、向日は額に右手を当てた。

「そういう訳だから、残念だったな」
「あ、良かったら。俺のラケットで打たない?予備のがあるんだ」
「越前ー!」

跡部の叫びを無視して、リョーマが「ほら」とラケットを取り出しくる。
ここまで誘われて、断るのも悪い気がしてしまう。

(こいつと打ってみたいと思っていたのは、本当だからな)

跡部がすごい表情で見ているのはわかったが、向日はラケットを受け取った。

「じゃあ。打とうぜ」
「うん!」
嬉しそうな顔をする越前と逆に、落胆する跡部。
実に対照的だな、と向日はまた吹き出しそうになる。

「悪いな、跡部。越前とちょっと打たせてもらうな」
「跡部さん、後でゆっくり相手してもらうから。待ってて」
「あ、ああ……」
渋々という感じで、跡部が頷く。体は小刻みに震えている。
相当、我慢している様子だ。

向日と越前の二人でコートへ向かう為歩き出すと、すぐ後ろでなんだか唸り声が聞こえる。
振り返ると、また跡部が忍足を締めているところだった。
がくがくと体を揺さぶられてる忍足は、なんだか幸せそうな顔をしている。
締められ過ぎて、白昼夢でも見ているのだろうか。
可愛い人形に囲まれた夢だといいな、と向日は心の中で合掌する。

「忍足さん、大丈夫かな」
「えっ、ああ。あいつのことだから平気だろ」
意外にも越前が気遣うような言葉を発する。
ほとんど顔を合わせたことも無い忍足に何故、と向日は疑問に思った。
そして、気付く。

越前の視線は意識を失い掛けている忍足に向かっていない。
八つ当たりしている跡部の方を見ている。

「なんだ……跡部の奴が無茶するって心配してんのか?」
そう言うと、越前はぱっと顔を上げて激しく否定する。
「心配なんかしてない。けどあんまり酷いことするのは良くないんじゃないかと思って」
「だったら俺と打ってなんかいないで、跡部だけに構ってやれよ。
お前ら、付き合っているんだろ?」

向日の言葉に、越前は一瞬言葉を詰まらせた後、「違う違う」と首を横に振った。
「付き合ってなんかいない。
大体、あの人……そういうこと何も言わないし」
「でも、態度でわかってんだろ?」
「態度って言われても、ねえ」

告白すらまだだったのかと、向日は驚愕する。
跡部の奴、何をもたもたやっているのかと。

(いや、それとも……)

これだけアピールしているから、わかっているだろう!と思っている節がある。
自分の気持ちを悟って当然。
今までそれが当たり前な感じで生きてきたから、越前に対してもそんな勘違いが通ると考えているのかも。

(だとしたら、相当まぬけだな)

忍足に構っている場合じゃないだろ、と向日小さく首を打った。


「まあ、あいつの俺様ぶりは筋金入りだからな。
俺の方からさりげなく誘導してやろうか?さっさと気持ちを伝えろよって」
なんで跡部のフォローしているんだと思いつつ、向日は思いついたことを口に出した。
あいつのことだから、間違った告白をしそうだから、普通にするよう指導もいるかもしれない。
変な演出は止めろとか、告白通り越してプロポーズするなよとか注意事項は山ほどありそうだ。

しかし向日のそんな申し出を、越前はきっぱりと「言わなくていいよ」と断る。
「なんでだよー。跡部のことだから、順序とか全然わかってないと思うぞ」
素直に聞いておけよ、と念押しするが越前は頑として首を縦に振らない。

「人に言われて行動を起こすって、なんか嫌だな」
「でも越前が思ってる以上、跡部の思考は変だぜ。何が駄目なのか、気付くのに時間掛かるかもしれないな」
「うん、いいよ。それで」

越前が頷く。
そして、にやっと人の悪い笑みを浮かべる。

「気付かないままなら、このまま生殺しを続けるだけだし。
正直、じたばたしているあの人見ているの楽しいからね。
まあ、他の人に迷惑掛けるとなるのはちょっと気が引けるけど」

忍足を締めながら、跡部はこちらを睨んでいる。
正確には、越前と親しげに喋っている(ように見えるだけだが)向日にハッキリとした敵意を向けている。

「越前、お前……確信犯かよ!?」
「えっ、なんのこと?」

今度は一変して可愛らしい笑顔を向けて、越前は口を開く。
「じゃあ、テニスしようか」
「俺を誘ったのも、跡部の反応を見る為かよ!?」
「あんたとテニスしたかったのは本当。さ、早くコートに入って」
「……この子悪魔め」

跡部の奴、とんでもない相手を好きになったもんだな、と向日は痛む頭を押さえた。

越前のことを好きなのに、告白?俺の気持ちはわかっているんだろ!察しろ!な跡部と。
告白するまでは知らん振りを決め込んで状況を楽しんでいる越前と。

付き合ったら、どうなるんだこの二人……と想像して、身震いをする。

(まあ、二人が進展するかどうかはちょっと興味あるけどな。たしかに、面白いものかもな)


これからは遠くから、そっと様子を伺おうと向日は決めた。
今日みたいに巻き込まれるのはごめんだ。
こういうのは、被害の及ばない所から観測するに限る。

情報を提供してくれた忍足は、跡部の足元で幸せそうな笑顔を浮かべて座り込んでいる。

(後で、回収だけしておくか)

すごい顔している跡部は、越前に任せておけばいいだろう。
多分、機嫌を損ねた後の対処法も心得ているはずだ。
子供かよ!という拗ねっぷりも、あの子悪魔に掛かれば案外簡単に治るかもしれない。



「向日さん、行くよ!」
「おう、来いよ」

とりあえず跡部の機嫌は置いといて。
今は折角越前と打てる機会を楽しもうと、向日は気持ちを切り替えた。


チフネ