チフネの日記
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| 2008年12月23日(火) |
2008年 リョーマ誕生日 小ネタ 真田リョ |
「真田!」 笑顔で近付いてきた幸村に、真田は警戒することなく振り返った。 「幸村か、どうした」 「ちょっと聞きたいことがあってさ。いい?」 「ああ。構わない」
幸村という人物を知って、且つ警戒なく返事をするのは真田位だろう。 一見穏やかそうに見える表情の裏に、幸村は黒い内面を持っている。 もう大分慣れたチームメイトでさえ、本人を前にすると緊張する。 平常心を保てるのは真田か、柳くらいだ。
その幸村が真田に「ねえ、24日にちょっと付き合ってくれない」と話し掛ける。 「24日?」 「うん!ほら、真田ってクリスマス・イヴなどくらだん!とか言って、パーティを却下してたじゃない。 だから24日には当然予定は無いよね、わかっているよ。 でも僕らも3年生なんだし、皆でクリスマス・イヴを過ごすのも最後だから、ここは盛大に騒ごうって仁王が提案して来たんだ。いいよね、はい、行くって決まった!」 捲くし立てる幸村に圧倒されつつも、真田はきっぱりと首を振った。
「すまない。折角仁王が企画してくれた心遣いに応えられないのは申し訳ないが、 その日が用事が入っている」 「何それ。どういうこと?」
幸村の背後に黒いオーラが出現する。 それを見ても真田は全く動揺しない。気が付いていないからだ。
「ちょっと、真田?クリスマス・イヴに浮かれて騒ぐのは軟弱者のすることって言ってたじゃないか。 自分の意見を覆すつもり? 抜け駆けして誰かと過ごすという行為は、君がよく言っている「たるんどる」そのものだよ」 とにかく説得しようとして、混乱した頭で幸村は意味不明な言葉を発した。 ここで断られたからとはいえ、諦められない。 必死になっているのは、真田があの「越前リョーマ」と約束を取り付けているらしいからだ。 みすみす二人きりなどさせない。ぶち壊しにしてやる。 俺だって、狙っているんだから、と内心で歯軋りをする。 勿論、表情には出さず柔らかな笑顔で真田をもう一度誘う。
「だから「たるんどる」行為は止めて、俺達と過ごそうよ。ねっ」 「断る」 「どうしてー!!」 目を吊り上げて怒る幸村に、真田は取り乱すことなく穏やかな口調で返す。
「その日があいつの、越前の誕生日だからだ」 真田の声には迷いも照れも無い。 「街中がクリスマス一色で溢れるこの時期に、 子供の頃は皆から自分の誕生日などお忘れられた気が寂かったと内心を漏らしたあいつの為に、 俺が心を込めて祝ってやりたいからだ。 だから24日にあいつ以外と会うことはしない。 指摘を受けた「たるんでる」行為では無い。誠意を込めたお祝いの為だ。わかってくれ、幸村」
誕生日にしては大袈裟すぎるような言い方に、幸村はぽかんと口を開けて一瞬頭が真っ白になってしまう。 その態度をわかってくれたと解釈したらしく、真田は「ありがとう」と幸村の肩を笑顔で叩き、 「では、またな」とどこかへと去って行った。
「またしても、上手く逃げられたな」 どこから見ていたのか、柳がノートを見ながらふっと笑う。 その声に正気に返った幸村は、顔を赤くして地団駄を踏んだ。 「真顔でよく言えるよね!なーにがわかってくれだ。無理に決まっているだろ」 「だったら回りくどいやり方は止めたらどうだ。仁王の名前まで出して……無駄なことだぞ」 「うるさい!」
低く唸る幸村に溜息をつきつつ、柳は真田が歩いていった方向に目を向ける。
(ケーキを予約しにいった確率100パーセント)
丸井にどこのお店が美味しいか、頭を下げて必死で問い掛けていた真田を思い出す。 きっと越前はびっくりしつつも、笑顔を浮かべてくれるに違いない。 そんな予測を柳はノートに書き込んだ。
24日、当日。
真田はケーキの箱を携えて、越前家に訪れた。 この時期売っているものは、ほぼクリスマスケーキばかりだ。 なので真田はリョーマの為に、誕生日ケーキをわざわざ予約した。
『しょうがないんだけどね』 クリスマスの飾りがちらほら街を彩る頃、それを見詰めるリョーマの目が寂しげだったのを思い出す。 どうしてだと問い掛ける真田に、つまらないことだよと越前は小さく笑った。 『向こうではクリスマスは国全体のイベントみたいなものだよ。 家族や友人や、恋人と一緒に過ごして盛り上がったり、大切な時間を共有する。 でも、その日が俺の誕生日だって忘れられることもあってさ。 クリスマスが近付くとなんかつまんないなって、思ったこともあるんだ。 ケーキもクリスマスケーキと一緒にされて、つまんない気分になった。 母さんも親父も忙しかったんだから、しょうがないけど。』
それがリョーマの為にも、今年の誕生日は心から祝ってやろうと思った瞬間だった。
たしかにこの時期、バースディケーキを入手するのは難しい。 まず真田はケーキ詳しい丸井に美味しい店を聞いて、その上買って帰って味見もした。 お持ち帰りする真田に、店員が少し意外そうに視線を送ってきたことには気付いていない。 この味ならOKだと納得して、バースディケーキを24日に注文した。 クリスマスケーキの予約で忙しいだろうに、 店員は『プレートに自分で名前を書くサービスもあるんですよ』とそんなことまで勧めてくれた。 心を込めて、というのが今回のポイントなので真田はすぐに承諾した。 慣れない手つきでホワイトチョコの板に、自らリョーマの名前をチョコレートペンで記入する。 そして綺麗にラッピングをして貰い、紙袋に入れたそれを携えて越前家に向かった。
きっとリョーマは喜んでくれるだろう。 真田は信じて疑わなかった。
「いらっしゃい、真田さん」 「今日はお招きありがとう。感謝する」 「そんな固いこと言って無いで、どうぞ上がって」 はい、スリッパと用意してくれるリョーマに、「お邪魔します」と断って、家の中へと入る。
「まだまだ時間あるから、うちのコートの裏で打っていようよ。 ラケット、持って来たよね?」 「あ、ああ」 「荷物、置いてったら?」 真田の持っている紙袋を指差すリョーマに、どうしたものかと真田は一瞬動きを止めた。
今、もう渡してしまおうか。 いや、ここは誕生日に相応しい場面で渡すべきだろう。 しかし冷蔵庫に入れなくてもいいのか? 悩む真田に、リョーマは「どうかした?」と首を傾げる。 「そんな難しいことは言ってないと思うけど」 「いや、その」 やはりここで渡してしまおう。変に隠しておくのも、気が引ける。 「越前」 「リョーマさん!ケーキが完成したので、見てもらえますか?」 真田が話し掛けたのと同時に、菜々子がキッチンから顔を出した。
「あら、真田さん。こんにちは。今、お茶を入れますからどうぞもっと中に入って下さいな」 「お構いなく……」 「一体、何の騒ぎ」 完全に出遅れた形になった。 リョーマはやれやれという顔で、従姉の方を向いている。 「朝から作っていたケーキが完成したんですよ。リョーマさんに見てもらいたいと思って。 良かったら、真田さんもどうぞ。今夜のデザートに食べて下さいね」 「ふーん。夜はお出かけするから、今渡しておこうって訳だ。 菜々子さんは誰とデザート食べるの」 「リョーマさん、そんな事大きな声で言わないで下さい」 やあね、と菜々子はリョーマの腕をぱしっと叩く。 会話から察するに、菜々子はこの後外出の予定が入ってるようだ。
「さあさあ、こっちこっち」 菜々子に引っ張られる形で、キッチンに連れて行かれる。 そこにはリョーマの母もいて、他の作業をしている。どうやら、料理の方の準備に掛かりきりらしい。 挨拶すると、「すみませんね、ばたばたしちゃって」と照れくさそうにおじぎをした。 そしてテーブルには、手作りのケーキが乗っている。 ’お誕生日おめでとう、リョーマさん’ チョコレート色のプレートに、ホワイトチョコペンでそう書かれていた。 クリームはチョコレートに、上には苺が飾られている。 「美味しそう。菜々子さん、ありがとう」 「リョーマさんの誕生日ですからね。お祝いしなくちゃ」 にこにこと笑う二人を見て、真田は固まってしまった。
(なんだ……越前にも、ちゃんと祝ってくれる人がいて、 ちゃんと誕生日ケーキも用意されている。 俺が持ってくるまでも無かったな)
そうなると、これをどうしようかと持っている紙袋の取っ手を握り締める。 持って帰ろうか。そうなると、プレゼントはどうなる。 しかしケーキは二つもいらない。 真田の持って来たものは生クリームケーキだが、そういう問題じゃない。 こっそり全部食べてしまおうかと考えていると、不意にリョーマが振り返る。
「真田さんもケーキ食べるでしょ?それとも甘いものは苦手とか」 「あ、ああ」 「どうかした?」 変だよ、とリョーマがまた距離を近づけて来る。
「い、いや。何でもない!」 「何でもないっていう顔してないんだけど……。 それにこれ、ケーキじゃないの?」 これ、と紙袋を引っ張られる。 「違うぞ、これはそう……おせち料理だ!」 「はあ?」 「いや、違う。そうじゃなくて」 「ケーキ、なんでしょ」
重ねて言われ、真田は渋々頷く。 「素直に言えばいいのに」 「すまん。しかし、こんな立派なケーキがあるのに言い出せる訳無いだろ」 「なんで?」 リョーマは明るい声を出した後、「ねえ、出して見せてよ」と言い出す。 「しかしケーキは一つあれば十分だろ」 「いいから、出してみせて!」 強請られ、渋々箱を置いて菜々子のケーキの隣に置く。 「開けてもいい?」 「ああ」 もう、リョーマのものだ。 どうしようと構わない。 了解を得たリョーマは、するするとリボンをといてケーキを箱から出した。
「わあ……」 真田のケーキを見て、リョーマは嬉しそうな声を上げる。 「これ、食べていいんすか?」 「しかしもうケーキは用意されているのだから」 菜々子をちらっと見ると、にこっと笑われる。 「あら。お祝いしたい気持ちが増えたからって、なんの問題もありませんよ」 「そうそう。この位、俺軽く食べられるし」 「そうですね」 「しかし、さすがに多いだろう」
まだ気にしている真田に、リョーマは「もう、気にしすぎ」と軽く肩を叩く。 そして、 「菜々子さんの言う通りだよ。 俺を祝ってくれる気持ちがここにある。だから2倍嬉しいよ。 ありがとう」 「越前……」
真っ赤になる真田を見て、リョーマはまたにっこり笑った。
「この文字、ちょっと歪んでるねー。アルバイトの人が書いたのかな」 「あ、それは……」
リョーマにどう説明をしようか、真田はまたしても固まってしまう。 せっつかれて、たどたどしく口を開く。
幸村が見たら「たるんでるね」と笑われるだろう。 他の部員達にも見せられない。
けれど自然と頬が緩むのを止めることは出来ない。 「たるんでる」表情かもしれないが、 リョーマが喜んでくれているこの今が幸せだと、真田は思った。
終わり
チフネ

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