チフネの日記
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2008年11月24日(月) 月 千→リョ(塚リョ)

同じ背丈の同級生達の輪の中に紛れていても、彼だけはすぐに見付けることが出来る。
それは俺の視力が優れているからという理由じゃないと思う。
好きな人は輝いて見えるって本当だったんだ。
彼に出会って、そういうキラキラした存在が確かにあると気付かされた。

「越前君っ!」
声を上げると、彼が振り返る。
嫌そうな顔。
しつこいよ、って書いてある。
いつも通りの反応なので、俺は気にせず近付いて行く。
すると周りを取り囲んでいた同級生達は散って行ってしまう。
他校の上級生に対してビビッているようだ。
ちょっと睨んだ所為もあるかな?
ま、普通一年ってああいう感じだよねえ。
越前君は別格。年なんて関係なく挑んでいく姿勢は無謀というか、勇ましいというか。

「何か用っすか?」
迷惑だ、と言わんばかりの態度。
冷たくされても、彼が話し掛けてくれたのが嬉しくて笑顔で返事する。
もうすっかりこの素っ気無い対応にも慣れた。この位で負けていたんじゃ、彼と会話することすら出来ない。

「あ、ごめん。休憩時間に邪魔しちゃったね」
「うん、邪魔。もうすぐ休憩終わるから、さっさと帰って」
「うわあ、冷たい言い方だな。さすがに傷付くよ?」
「勝手にすれば」
そう言って横を向いてしまう。
取り付く島がないって、こういう状態だよねーとのんびり構える。
何度も振られているからか、この程度の言葉はすっかり慣れっこだ。

「じゃあ、勝手にしちゃおうかな」
「ちょっと、何人の腕掴んでいるんだよ」
越前君の右腕を掴んで、引っ張る。
不愉快そうに彼が俺の手をぴしゃっと叩いた。
「休憩終わるって言ってるじゃん。あんたと遊んでいる暇無いよ」
「うん、だからサボりのお誘い」
「……バカじゃないの。なんで俺がサボりに行かなきゃなんないの」
むっとしたような声を出す越前君に、俺は訴えた。
「だって練習終わったら、越前君さっさと帰っちゃうだろ。その前に連れ出そうかと思って」
「どういう理由だよ。あんたとなんかとどこにも行かない。もう、練習に戻るよ」
厳しい声を出して、越前君は俺に背を向けようとする。
立ち去ってしまう前に俺は一言投げ掛けた。

「それは、部長が怒るから?」
「……そうだよ」
「部長って、海堂君のこと?それとも」
「あんたわかってて言ってるでしょ」
溜息をついて、越前君はこっちを向いた。
「俺にとって部長って呼ぶのはあの人だけだよ。
そう。さぼったりしたら部長に怒られる。だから、あんたとは一緒に行かない」
きっぱりと言う彼に少しムカついて、こっちも反論してみる。

「それ、越前君らしくないんじゃない?
手塚君の、誰かの意見に縛られるなんて、本当は嫌なんでしょ」
コートで自由に走り回るのが彼の本来の姿だと思っている。
誰かに行動を制限されるなんて、我慢ならないんじゃないの?

なのに、越前君は俺の言葉を鼻で笑う。

「嫌じゃないよ。決まっているよ、好きな人の意見は特別。俺だって素直に言うこと聞くよ」
「特別……」
「あんたがやたら俺に構うのも、あの人気に入らないみたいなんだよね。
内心オタオタしているの見てるのも楽しいけど、やっぱり笑ってて欲しいから。
この先もあんたの誘いに乗ることは無いよ。絶対」

ばっさりと体を切られたような気になった。
越前君にとって大切なのは、特別な存在になることが出来た手塚君だけで。
俺はどうしたって、触れることさえ許されない。

「ちょっと、キツイよ。越前君〜。俺、今日誕生日なんだよ?なのにそんなこと言わなくたってー」
胸を押さえる。
が、越前君はけろっとして「いつまでも俺の周りをうろうろしてるあんたが悪い」と言った。
「あーあ。越前君をここからさらって、二人でパーティーしようかと思っていたのに」
「嘘ばっかり。あんたのことだから、この後色んな女に祝ってもらう約束しているんだろ」
「……」
それは、まあ。
越前君にどうせ振られることは予想出来ていたから、保険として約束は入れていたけど。

「さっさあんたを祝ってくれる人達の所へ行きなよ」
背中を押すような言葉。
越前君の顔も少し優しいものに変わっている。
でも、俺は動くことが出来ない。
だって本当に欲しいのは優しく迎えてくれる女の子達じゃなく、この冷たいことしか言ってくれない彼だからだ。

「でも越前君が祝ってくれるのなら、全部断るよ!一緒にいてくれるだけで、嬉しいんだから」
「何バカ言ってんの。約束した相手にも失礼だろ。そういうことすんな」
「……はい」
失敗。
越前君の顔にまた怒りが見え隠れする。
でも負けずに、もう一度挑戦してみる。

「……本当に俺じゃだめ?」
「うん」
一秒の間も無かった。
本日も告白は失敗。これで20回目か……。
いい加減懲りるってことを覚えたら良いんだけど、やっぱり俺の目に特別に映る彼のことは諦めきれない。

「ほら、もう俺行くから。あんたも早く行った、行った」
どうやら時間切れらしい。
青学のコートにぱらぱらと人が集まり始めている。
「じゃあ、今日はもう行くね」
「今日は、と言わずにこのままずっとバイバイでいいよ」
「越前君〜〜」

泣きまねしてみせるが、彼は背を向けてしまって歩き出している。
仕方なく俺も肩を歩いてここから離れ始める。
やっぱり振られてしまった。
誕生日の今日、奇跡が起こらないかと期待していたが、駄目だった。
彼は今日も部活が終わったら、どこかで待っている元・部長と帰るのだろう。

ちぇっ、と舌打ちする。
もう一度振り返ってみるが、彼は俺の方など見向きもしていない。
コートに入って、練習を始めようと準備している。

(あーあ。なんか思い知らされるよなあ)

振り返るのは、俺だけ。
彼は恋人のことしか頭に無い。恋人が嫌だって言うから、俺とも一緒にいたくないと言う。

(これだけ望み無いのに、なんでまだ青学に通っているんだか……)

わかっていても、また俺はここに来るんだろうなと思った。
そして越前君から冷たい言葉を浴びせられれ、すごすごと退散して気晴らしにどこかの女の子と遊びに行く。
気持ちに整理がつくまで、そんな日々がしばらく続くのだろう。


徐々に茜色に染まっている空を見上げると、月がぽっかりそこに浮かんでいるのに気付いた。
欲しいと願っていても、決して手に入らない。
まるで誰かさんと一緒だと、俺はひっそりと笑った。



チフネ