チフネの日記
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2008年10月04日(土) 2008年 跡部誕生日小話

完全に油断していた。
腕力は自分の方が上だと過信してたのが不味かった。
両手首はがっしり後ろで縛られれ、おまけに椅子に括りつけられている。足も同様だ。
動けない。
情けない状態のまま、跡部は叫んだ。

「さっさとこれを外しやがれっ。俺様の誕生日を祝いに来てくれたんじゃないのかよ!?」
目の前に立っている恋人は、ふっと鼻で笑う。
「祝いには来たよ。その気持ちは本当。でもね…」
その瞳が冷たく光る。
「あんたの要求に応えるつもりはこれっぽっちも無いから」
「はあ?ふざけんな。今日は特別な日なんだってわかってるのか?」
訴えてもリョーマは表情を崩さない。
「あんたの誕生日でしょ。知ってるよ。くどい位、何度も念押ししてくれたからね」
「そうだ。だったら、今日位俺の我侭に付き合ってくれてもいいだろ」
「ヤダ」
「リョーマっ」
「あんたの我侭って、口にも出したくないようなことばっかり。
それに付き合う義務は無いよ」
「……」

無言で睨みつけると、リョーマはぷいっと横を向けてしまう。

全く、なんでこんな事になってしまったのだろうと跡部は考える。
ただ、リョーマと楽しく…そう、楽しく誕生日を祝いたかっただけなのに。
派手なパーティはもういい。
恋人に祝ってもらう、それ以上の祝いがあるか?
そう考えて、誕生日のこの日はリョーマだけと過ごすと決めていた。
一日中自室で、朝から晩まで。
体力が続く限り、15歳の自分をリョーマに受け取ってもらうつもりだった。
他にもいつも以上に過激なことも、とちらっと考えたりもしていた。
考えるだけじゃなく、チームメイトに喋って自慢もしたこともあったが…。

そこから漏れたのだろうかと、青くなっていく跡部にリョーマは腰に手を当てて言った。

「思い当たるようなことがあるんでしょ」
「いや、俺は何も」
「ふーん、跡部景吾とあろう者が誤魔化すような真似するんだ」

やっぱり、ばれてる!
どう言い訳したものかともごもご口を動かしていると、リョーマが深いため息をつく。

「全く、何考えてるんだか。恥ずかしいを通り越して呆れるよ」
「待て!誤解だ。誰に何を吹き込まれたか知らないが、間違っている。俺を信じろ」
とにかく言い包めなければと、跡部は必死で訴える。
リョーマに密告した奴は、後できっちり仕置きするつもりだが、今はこの状態を立て直すのが先だ。
もう一度「信じてくれ」と言うが、リョーマは聞く耳持たないとばかりに首を横に振る。

「へえ……。皆からの忠告が間違いね。あれだけの人数前に喋っていたことも、嘘だって言うんだ。ふーん」
「皆?」
「そう、皆。だからさっさと縛っておこうって最初から計画してたんだよね」

最悪だ、と跡部は項垂れる。
調子に乗って、この日のことを自慢した自分を締めたい位だ。
まさか氷帝のチームメイトが全員リョーマに告げ口をしていたなんて。
悪夢としか言い様が無い。


跡部にとっては非常に最悪な結果だが、
氷帝の人々はリョーマの身を案じて密告しただけに過ぎない。
ついでに「ありがとう」と笑顔まで付けて礼を言われたのだ。
良いことをしたと、全員が喜んでいる。


「それで…どうするんだ。このまま帰るつもりかよ?」
怒っている恋人を宥める術など思いつかない。
すっかりしょげてしまった跡部は、俯いたまま声を出した。
自業自得とはいえ折角の誕生日にロープで縛られたまま、放置されるのだろうか。
不安そうな跡部に、リョーマはふっと笑ってロープを取り出したのと同じ鞄から何か取り出す。

「お祝いに来たんだから、帰る訳無いじゃん」
「本当か!?」
「うん。でも、景吾の期待しているようなことは無し。安全性を考えて、体勢はこのままで」
「ちょっと待て。ロープ位は解いても」
「あんたにそれを言う権利は無いだろ」
「……はい」
「よしっ」

リョーマは満足そうに頷いてから、鞄から取り出した箱のリボンを解き始めた。
「プレゼントもちゃんと用意したんだよ。
あんな事聞かされて、本当に腹が立ったけどね。
でも何も無しっていうのも可哀想だなーって思い直した」
そう言って跡部に箱を差し出す。
首を伸ばして覗き込むと、そこには小さなケーキが一つ入っていた。
ケーキだけ?
そう言いたげに跡部は顔を上げた。
リョーマはその考えもお見通しというように、くすっと笑う。
「それね、俺の手作り」
「手作り?」
冗談だろう?と思って聞き返すが、リョーマはこくっと頷く。
「だってお前、料理なんてほとんど出来ないじゃないか」
「だから菜々子さんにやり方を教わった。
2回も失敗して、材料も無駄にしたけどね。
あんたって手に入らない物無いから、プレゼント何しようかすごく迷った。
でも妄想に応えるつもりは無いし、だったらと思って俺の出来ることをしてみた。
誰かの為に料理したのは、初めてだよ。受け取ってくれる?」
「……ああ」

上擦った声で、跡部は答えた。
リョーマの手作りケーキ。今度はいつ拝めることになるか。
形が不恰好だけれどどんな一流店が出したケーキよりも跡部にとって価値のあるものだ。
出来れば永久保存しておきたい。
ところがリョーマは用意していたフォークをあっさりケーキに刺してしまう。
驚いた顔で固まる跡部に「食べるでしょ?」と一口大にして差し出す。

両手を縛られている為、跡部はフォークを持つことが出来ない。
ひょっとしてリョーマ自ら食べさせてくれるのだろうか。
期待に目を輝かすと同時に、リョーマがそれをぱくっと食べてしまう。

「おいっ、それは俺にくれるんじゃないのか!?」
動揺して思わず跡部が叫ぶと、リョーマは無言のまま近付いて来て首に手を掛けてきた。
そのまま引き寄せられ、今度は跡部の口に自分の口を押し付ける。

(リョーマからキス?一体どうなってんだ)

思考が固まって動けない跡部はされるがままだ。
記憶の中に、リョーマからキスされたことは一度も無い。初めての行為だ。
ぼんやりとしている間に、リョーマは少し開いた唇にさっき口に入れたケーキをねじ込んで来る。
そんなに甘くないクリームの味が、跡部の口に広がって行く。
一生懸命奥へと押し込もうとするリョーマの舌の動きに応えるように、
跡部もケーキと同時に柔らかな感触を味わった。

「どう?美味しい?」
ふうっとリョーマが息を吐いて、唾液を拭う。ついでに跡部の唇の端も拭ってくれる。
にこっと可愛く笑うリョーマに、跡部は真顔で頷いた。
正直ケーキの味よりも、リョーマからのキスに感動していたのだがそれは黙っておく。
「ああ、最高だ。美味かったぜ」
「まだ残ってるけど、食べる?」
箱を指差すリョーマに、跡部は即答した。
「お前が食べさせてくれるならな」
「じゃあ、もう一口いこうか」

今度は椅子に縛られた跡部の膝の上に乗って来た。
ケーキを口に含んでリョーマはぎゅっと抱きついて来る。
跡部が自由になれないと思って、大胆になっているのだろう。
またクリームとケーキをお互いの舌で味わいながら、最後にちゅっと軽いキスをする。
「誕生日、おめでとう景吾」
「ありがとう、リョーマ。もっと祝ってくれるか?」
「しょうが無いなあ。そんなに俺の作ったケーキ食べたいの?」
「ああ。今まで食べた中で一番美味しい。だからもっとくれ」
「うん、いいよ」

気分良くリョーマは何度もケーキを跡部の口へと運んでくれた。
跡部が自由に動けないとわかっているから、次第に大胆になっていく。
手足が縛られているので、跡部は顔だけ近づけてリョーマの耳元から首筋にキスをする。でも嫌がらない。
むしろ嬉しそうにくすくす笑っている。
お返しとばかりに今度はリョーマがケーキを跡部の口へと押し込む。その繰り返しだ。
そうしている内に膝の上に乗ったリョーマは挑発するかのように下半身を密着させて来た。
ぎょっとして目を見開く跡部に「でも、残念。何も出来ないでしょ」と言う。
「ケーキで我慢してよ」
「……はあ」
「ほら、もっとあげるから」

とうとう最後の一切れを口に入れて、リョーマがキスをして来る。
跡部はそれを存分に味わってから、ゆっくり唇を離した。

「で?このまま帰るつもりかよ」
「もうちょっといるけど、でも景吾はこの格好のままでいてもらうよ。危険だからね」
「冗談じゃねえ。あんなに挑発しておいて、じっとしていられるかよ」
「でも動けないよね。大丈夫、帰る時にはロープ解いておいてねって、伝えておくから」
「その必要は無いぜ」
「え?」

にやっと跡部は笑って後ろに縛られていたはずの手を動かし、素早く膝に乗っていたリョーマを捕獲する。
「何、どういうこと!?いつの間に解いていたんだよ!」
「油断してたお前が悪い」
じたばたするリョーマを片手で押さえ込み、もう一方の手で両足のロープも解いた。
「いつから自由になっていたんだよ!」
憤慨するリョーマに、跡部は余裕の表情で答えた。
「二度目にケーキをくれた時だな」
「じゃあなんでその時に、反撃しなかったんだよ」
「リョーマからのキスが嬉しかったからに決まってるだろ。あんな機会滅多にないからな」
「最低。自由になっていたくせに、面白がってたんだろ!」

逃げようとするリョーマをがっしりと両手で抱きしめて、
跡部は楽しげに笑った。

「嬉しいプレゼントを貰ったことだし、お返しをしてやらなねえと俺の気が済まないな」
「い、いらないっ。お返しなんて必要無い!」
「是非させてくれ、リョーマ。15歳の俺様がたっぷりともてなしてやる」
「ヤダ。俺、もう帰る!」

そうは言っても、リョーマの自由は跡部が握っている訳で。
巧みな手の動きに、次第に抵抗する力を失ってしまう。

結局、跡部が望んでいた通りの誕生日がほぼ再現されることになった。







月曜日になって、
大層ご機嫌な跡部を見た氷帝のチームメイト達はリョーマに何が起こったか即座に理解し、大いに同情した。
しかしその後、告げ口した彼らに恐ろしい制裁が待っているのは言うまでも無い。



チフネ