チフネの日記
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| 2008年09月19日(金) |
生意気10 不二リョ |
あまりの突然の言葉に、僕はびっくりして固まってしまった。
(三日後?そんな早くに?一体、いつ決まったんだ…)
何を言ったら良いのだろう。 黙ったままの僕に、越前が抱きついて来た。
「行ったら日本にいつ帰って来れるかなんて、わからない。 何年も離れることになるんだよ? わかる?待ってる時間なんて俺には無いんだ。 離れていたら先輩はその内俺のことを忘れるよ。そんなの嫌だ」 「越前」 肩にしがみ付いて、越前はまた泣いた。 よしよし、と僕は宥めるようにその背中を摩る。 今、この子に何を言うべきか。 まだ言葉が見付からない。
「三日しか無いんだ。ねえ、その間だけでいい。俺と一緒にいてよ」 「あの、越前…ちょっと落ち着いて。三日後にアメリカに行くことは、他に誰かに話したりした?」 いきなりの渡米を、僕だけに打ち明けて行っちゃうつもりなんだろうか。 まさかなと思って様子を伺っていると、越前は少し考えた後頷く。 「部長には、打ち上げの前に言ったけど」 「手塚に?」 「うん。さすがに部長には言っておこうかなと思って。 そしたら明日、皆で集まる時にちゃんと言えって説教されたよ」 「そう、なんだ」
手塚は先に知っていたんだ、と考えてハッと気付かされた。
『お前にしか頼めない。越前のこと送ってやってくれ』
そうか。 ようやくあの言葉の意味がわかった。 手塚は越前に渡米することを知っていたからこそ、僕に送って行ってくれと頼んだんだ。 面倒ばかり掛けた後輩だったけれど、最後に一生懸命だった恋を叶えてやろうと思ったのだろうか。 チャンスを与えてやろうと思って、あんなことを言い出したに違いない。
「明日か。君がいなくなるとわかったら、皆さぞ騒ぐだろうね。 きっとその後は送別会に」 「俺は皆とよりも、先輩と一緒にいたいよ。残された短い時間、不二先輩に全部使いたい」 「そういうこと言うもんじゃないよ」 「なんで!?こんな時でも俺のお願い聞いてくれないんだ。やっぱり俺のことなんて」 「そうじゃないって……」
僕に縋っている越前の指を一本一本剥がしていく。 拒否しているからじゃない。 ここで終わりにしない為だ。 でも越前は悲しそうに僕の顔を見ている。
「そうじゃないのならなんで?わかんないよ、全然。俺のことが嫌なんじゃないかって、そうとしか思えない」 「そりゃ嫌だよ。思い出なんかで済まされるような関係はいらない。だから君の思い通りにしてあげない」 「え?」 顔を上げた越前の頭を、そっと撫でる。 そして優しく言い聞かせる。
「これっきりの関係で、君は本当に満足なの? 体を繋ぐことが出来たら、簡単に気持ちを区切ることが出来るの? その後、僕が恋人を作っても気にならないって言うんだ」 「まさか……そんな訳ないじゃん」 「だったら!最後なんて弱気なこと言わないで、向こうに行っても変わらないって、その位のこと宣言したらどうなの。 僕が知ってる越前は、一度きりなんて言わないで全部自分のものにしようとすると思うんだ。 この先もずっと忘れさせるもんかって。違う?」 「でも」 「僕だってそうだよ。君の中で思い出なんかなりたくない」 一度離した越前の指を、今度はしっかり両手で握り締めた。
「僕が好きになった越前は、決して諦めたりしない。 だからそんな風に今夜だけでいいなんて言わないで。 生意気で人の話なんて聞かなくて、でも一途で可愛い君が大好きなんだ。 思い出じゃなくこれからも先、離れても心は繋がっていたいよ。わかる?」 じっと僕の言葉に耳を傾けていた越前は、「……うん」と目を潤ませて頷いた。
「俺もそうしたい。今日だけじゃなく明日もその先も、先輩を想って想われていたい」 「やっと自分の気持ちに気付いた?」 「うん」 今度は僕の方から越前を抱きしめた。 一回り小さな体は緊張の所為か、僅かに震えている。 落ち着かせるようにしっかり腕の中に抱き込んで、耳元で囁く。
「一回だけで終わるなんて僕は嫌だからね。 離れたって君のことを忘れない。ずっと好きだよ。 だから今はお預け。いいね?」 「はい」 良い返事をした後、越前はぎゅっと抱き付いて来た。
「本当は俺も先輩とずっとずっと繋がっていたいと思ってた。 体だけじゃない、心もそうしたかった」 「心なら、もう叶ってるよ。僕の気持ちは君と一緒だ」 「うん。だからすごく嬉しい」
安心したように越前は体を預けて目を閉じる。 そして小さく呟いた。
「ねえ、先輩。俺のこと好きって言ったけど、いつからなの?」 「さあ」 「そうやってまた逸らかす」 「いいじゃない。だって僕だってわかんないんだから」
気付いたらもう、この生意気な後輩に夢中だった。
こんな滅茶苦茶な迫り方する子、他にいない。 これだけ僕を好きだという子も、きっとこの先現れることは無いだろう。
だから離れたって、大丈夫。 君という存在は、僕の心をいっぱいに満たしている。
これから先もずっと、ね。
チフネ

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