チフネの日記
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2008年08月15日(金) 不器用な僕ら(跡リョ)

1 リョーマの視点


5分前から、会話が止まってしまった。

なんか、怒らせたみたい。それはわかる。
に、しても感じ悪いなあ。
そう思って横顔を軽く睨んでも、すました顔したままで。
嫌になるよ、全く。
迎えに来た時は、機嫌良さそうに「越前〜!」と手を振ってたくせに。
恥ずかしいから止めろって言ってるのに、「お前はいつもぼんやりしてるから、こうしないと気付かないだろ」って。
気付くよ、普通。
人のこと、なんだと思っているんだろ。
段々腹が立って来た。
疲れてるからさっさと家で寝たいのを我慢して、跡部さんと会うのを優先してんのに。
こんな態度取られたんじゃやってられない。
俺が何かしたのなら、その時に言ってくれればいいのに。
どうせ、そういうの格好悪いから口に出せないとか思っているんだろうな。
見栄っ張りの格好付けなんだから。
格好悪い所いっぱいあるって、とっくに知っているんだから、別にいいのに。

えーっと、で、なんだっけ。

こうなる前は普通に会話してたのに、無口になったはどの辺りか考えてみる。
たしか、そうだ。最初は今日の部活のメニューとか喋ってて。
で、久しぶりに引退した三年生達も顔出してたことも喋った。
本当すごい久しぶり。忙しいのかもしれないけど、もっと出て欲しいって俺は思っている。
だって桃先輩も海堂先輩も忙しくって、俺の相手してる所じゃないんだよね。
他の人達じゃ、まだまだ話にならないし。
三年生の先輩達が卒業したら、どうなるんだろ。深刻問題だ。
そうそう、それで元レギュラー達が揃って皆でミニゲーム始めたんだった。
当然、その中には部長も入ってた。
あ、元部長の手塚先輩ね。
生徒会の引継ぎで多忙の中わざわざ来てくれて、俺と打ってくれて、すごく嬉しかったんだ。

…その辺りから、跡部さんの機嫌が悪くなった気がする。

部長?
ひょっとして原因って、部長?
そういえば少し前に、「お前って、やたらと手塚のこと褒めるな」って言われた気がする。
「そう?」って返事した後、真顔で「そうだ」と言われて、笑ってしまったけど。
あの時から、もう気に食わなかったってこと?
部長のこと、確かに俺は意識している。
でもそれはテニスに関して今までの自分の価値観を変えてくれた人だからっていうのと、
最大のライバルとしてであって、恋愛とは関係無いのに。
大体、部長のことなら跡部さんだって何回も名前出してるじゃん。
手塚には負けられないとか、結構な執着みせているし。
俺ばっかり責められないんじゃないの?あんたも結構部長のこと好きだろうって。
…あほらしい。
なんで部長が今日顔を出したってことで、機嫌悪くなるんだか。
ちょこっとだけ、部長のテニスを褒めたのがムカついたっていうの。
そういや大分前に、何気ない会話の中で部長ってモテるんだよねっていうことも喋った気がする。
たしか部長宛のラブレター預かって困った時のこと。
格好良いから大変だね、と軽く言った言葉に、跡部さんの体が一瞬固まったように見えたような。
あ、後、部長は背が高くて羨ましいとも言った。
その時に言われた「手塚よりも背が低くて悪かったな」と卑屈な発言も、冗談だと思ってたのに。

……全部、本気に取っていた訳?
知らない間に不満が溜まって、とうとう怒ったんだとしたら。
俺の責任じゃん。
不用意な発言をした、俺の所為か。

どうしよう。
もう一度、横顔を盗み見る。
怒っているんだと思っていた顔は、傷付いているようにも見えて。
背中に、冷たい汗が流れてきた。



2 跡部の視点

5分前から、会話が止まってしまった。

何気ない会話の途中、気に入らない奴の名前が聞こえて不意に黙ってしまった。
手塚、手塚、手塚。
越前の奴は部長である手塚のことを特別視している。
付き合う前から、それは気付いていた。

しかし褒め過ぎだろ。
テニスの腕は俺も認めている。
公式で一勝したものの、故障持ちの手塚とでは完全とは言い難い試合だった。
今度こそ、万全な状態で叩いてみせる。
俺の目標の中の一つだ。

しかし越前は。
「部長って、モテるんだよね。俺、部長に渡してくれって手紙押し付けられて、困ったよ」
「顔もいいし、生徒会長とかやってるから色々好意寄せられるのもわかるけど、大変だよね」
「背も高いからさー、いいよね、俺もあの位欲しいよ」
「プレイにも性格が出てるよね。無駄が無いっていうか、無口なんだけどそつなくこなす所とか、悔しいけど実力は認めしかないなあ」

…褒め過ぎじゃねえか!?
全く手塚のことをそういう意味では意識してないって言ってるが、
ここまで嬉しそうに喋っている以上(越前は違うっていうが)、疑ってしまっても仕方ないよな。

手塚にも俺の自慢をしているのなら、まだ良しとするが、
とてもじゃないが越前がそんな話をしているとは、思えない。
むしろ俺のこと隠してたからな。
青学に堂々と乗り込んで行って、宣言してやったが。
あの時も怒っていたよな。
なんで、隠すんだよ。
やっぱり手塚に知られたくないからか?
はあ、考えると悲しくなって来た。

これだけ好きな相手に、応えてもらえないっていうのは辛いもんだな。
俺の気持ちの半分でも、好きでいてくれてるんだろうか。
まさかそのまた半分?いや、それ以下とか…。

なんか、余計落ち込んで来た。

もうすぐこいつの家の前だっていうのに。
今日はお別れのキスする気分にもなれない。
俺が押し切ったから付き合うの決めただけで、
本当の心は別にあると思ったら。

どうやって触れていいか、わからなくなった。



3 二人


「ねえ」
「…なんだよ」
「さっきから黙っているけどさ、何か怒ってんの」
「別に」
「別にって態度じゃないじゃん」
「怒っているように見えるのなら、そうなんじゃないのか」
「何それ、ムカつく」
「ムカつかせているのは誰だよ」
「やっぱり俺が言ったことで怒ってるんでしょ」
「だから別に、って言ってるだろうが」
「なにムキになってんの」
「そっちこそ」

沈黙がまた5分続く。
そしてリョーマが、下を向いたまま口を開く。

「俺はただ…あんたと気まずくなるのが嫌なんだけど」
「…俺もだ」
「あのさあ、部長のことで気分悪くなったんじゃないかと思うけど。それだったら、本当になんでも無いから。気にしないで、欲しいんだけど」
「でも、ちょっと…あれだな」
「うん。その、他意は無けど、跡部さんの気分に触ることだっていうのは心に留めておく」
「ああ」
「本当ーっに、そういう意味で言ってるんじゃないからね?その、恋人としてとかは全然考えられないし」
「全然?」
「そう。全く」
「俺は?考える中に入ってるのか?」
「当たり前じゃん。じゃなかったら、つ、付き合ったりしないし」
「そうか」
「うん」
「あのさ」
「うん?」
「もうちょっとで家の前だけど…ちょっと腕借りていい?」
「どうした、珍しいな」
「こういう時だから、くっ付きたくなった気分」
「ずるいなあ、お前は。怒らせた後でそういうこと言うんだからな」
「嫌なら別に」
「ほら、手こっち。触れていたいんだろ」
「う、うん」
「こうしていると落ち着くな」
「ふうん」
「なんだよ、お前は違うのかよ」
「俺は、むしろ…ドキドキするかな」

言った後で、跡部が軽くこけそうになった。
それを見て、リョーマは小さく吹き出す。

さっきの重い空気が抜けて、また二人は会話を続けていく。



そして、家に到着してから。
塀の影に隠れて、いつものお別れのキスをした。

終わり


チフネ