チフネの日記
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| 2008年08月14日(木) |
無意識な恋(千リョ) |
解散前の挨拶の為、集合場所へと向かう。 その途中で、リョーマは気付いた。
(あれ、今日って迎えの日だったっけ?)
フェンス越しの向こう。 こちらを見ているオレンジ色の髪に、訝しげな視線を送ると、 へらへらと笑いながら手を振ってきた。
(また勝手に来たのか)
諦めに似た気持ちで、頷くことで応える。 他の部員がいる所で、さすがに手を振り返すつもりは無い。 非難を受けるとかよりも、からかわれることがリョーマにとって何よりも嫌なことだからだ。 なのに。 「おチビー、千石来てるじゃん。何々、今日もデート?」 結局絡まれてるので、どうしようも無い。
「菊丸先輩、重いっす」 後ろから抱き着いて来た菊丸に抗議をするものの、結局離れてくれない。 「嫌だよー。千石とどこに行句か教えてくれるまで、離してやんない」 「なんでそういう話になるんすか」 「おチビが心配だからに決まってるじゃん」 「好奇心、の間違いでしょ」 「ヒドイー!先輩の心使いがわからにゃいの!?」 騒ぐ菊丸に、リョーマはため息をついた。 このまま続いたら、部長である手塚に「何を騒いでいる」と怒られる。絶対。 早く切り上げようと、リョーマは口を開いた。
「どこに行くかなんて決まってないっすよ。大体、迎えに来ることも知れなかったんだし」 「え。じゃあ、千石が勝手に押しかけて来たの?」 「まあ」 「それだけ越前に会いたかったってことじゃないかな」 「不二先輩…」 3−6コンビが揃ってしまったと、リョーマは顔を引き攣らせる。 この二人にかかわると、手塚も誰も逆らえない。 何を言われるんだろ、と覚悟を決める。
「千石の奴、ずいぶん遊んでいるって話だけど、越前はちゃんと大事にされているみたいだね。 良かった、良かった」 「大事にされてんの?本当に?」 二人に顔を覗き込まれて、返事に困ってしまう。
(そんなの、考えたこと無いよ)
だって千石とは、二人が思っているような関係じゃないから。
「別に、俺と千石さんとはただの知り合いで…。大事にされてるとか、じゃないし」 「おチビ、そんなの言い訳にもなんないって」 「そうだよ。照れなくてもいいんだよ」
違う、と反論し掛けようとする前に、苛々した部長の声が飛んで来る。
「菊丸、不二、越前!いつまで喋っている! とっくに集合時間だぞ!」 「へいへい」 「手塚って、もう少し空気読んで欲しいよねえ」
さすがに3−6コンビが揃ってるので、手塚もグラウンドを走って来いとは言わない。 なんかちょっと理不尽なものを感じつつ、並んでいる列へと加わって行く。
(デートとか、大事にするとか、本当そういう仲じゃないんだけどなあ)
千石に好きだといわれ他のは、会って間も無い頃だった。 返事はゆっくり考えればいいと言われたので、リョーマはまだ何も言っていない。
ただお互いをよく知る為、時々は会って欲しいという千石の要求に応えただけだ。 来る前はメールで連絡をすることにして、アドレスを交換したのだけれど、 千石は今日みたいに突然連絡も無しにやって来る。
「だって、会いたくなるんだもん」
本当に都合の悪い日だってあるのに、困ると言っても聞いてくれない。 無理な日は千石も引いてくれるが、大抵無理やり押し切られてしまっている。 でも、それだけ。 付き合っている訳じゃない。
だから自分を待っているはずの千石が、 誰か知れない青学の女子生徒と喋っていようが、関係も無いし、傷付いたりもしない。 女好きな彼のことだ。そういうこともあって、当然。 口出しすることじゃなと、リョーマは割り切って平然とした顔で歩き続けた。
「リョーマ君!待ってたよー!」
こちらに気付いた千石は、ついさっきまで喋っていた女子を無視して走ってこちらに向かって来る。 「お疲れ様、リョーマ君」 「あの人、放っておいていいの?」 あからさまに気分を害した顔をする(急に手のひらを返されたのだから、当然だ)女子生徒に向かって、リョーマは顎をしゃくった。 別にこれも当て付けという行為じゃない。ただ気になったから、聞いてみただけだ。 千石は悪びれもせず、あっけらかんと答える。
「あ、い−の、いーの。別に知ってる人じゃないから」 「ふーん」
(知ってる人じゃないのなら、何で喋ったりすんの) そう思ったが、口には出さない。
千石に何の返事もしていないのに、そういうことを言うのは間違っている気がして。 でも、ちょっと引っ掛かるなあとも思っている。
先程の女子は千石をものすごい目で睨み付けている。 下手に期待させるような態度がいけないんだよ、とリョーマは分析した。
「話、あるみたいだけど、いいの?」 気になってもう一度尋ねてみる。 千石は肩を竦めて、返事をする。
「いいの。勝手に話し掛けて来ただけなんだから。俺、ちゃんと待ってる人がいるって言ったのになあ」 「あ、そ」
言い訳めいているように聞こえるのは、気のせいだろうか。 (勝手にって、本当なの?) それにしては怖い目付きだ。 ひょっとして、元彼女かもしれない、とも考える。 千石は以前、多数の女子と付き合っていたようだ。 ウワサで聞いただけだけど(3−6コンビからの情報だ)、本人もそれは認めている。 『でも、今はリョーマ君が好きなんだよ!』 過去はどうでもいいとその時言ったのは本当だけれど。 こうして現実に目の当たりにすると…。
(あんまり、良い気じゃないかも)
しかしそこでもやっぱり、自分達は付き合っている訳じゃないんだからと、言い聞かせるしかなかった。
「今日、そういえば約束してなかったよね?」 校門を抜けた所で、リョーマはまずそのことを千石に問い質した。 「メールで確認するって約束だったじゃん」 「いや、だってリョーマ君、二日続けてとか会うの嫌がるから」 「それは、部活で疲れているからだよ」 「だからいっそ押し掛けちゃった方が会ってくれるかなあ、と思ったりして」
悪びれず笑う千石に、リョーマは疲れた顔をしてそっぽを向いた。
「あの、怒った?」 「約束守って欲しいだけっすよ」 「ごめん、次からは守るから。今日だけ会ってよ。ねえ、リョーマ君ー」 甘えたような言い方に、ずるい、と呟く。 そういう風に言われると、こっちが悪いことしている気になってしまう。
「今日、だけだからね」 「うん!ありがとう、リョーマ君」 「はあ…あんたが来ると菊丸先輩とかうるさいからさ、あんまり頻繁に来ないでよ」 途端、千石の動きが止まる。
「何、どうしたの?」 「あのさあ、リョーマ君」 深刻な顔をして、千石は顔を近づけて来る。 そして、何を言うかと思えば、 「菊丸君って、リョーマ君のこと好きなんじゃないかな?」 と、訳のわからないことを言い出した。
「はあ?そんな訳ないじゃん」 「でも!菊丸君が何度も何度も抱きついているの、俺見たんだよ? あれ、わざとじゃないの?べったり引っ付いて、何あれ」 「菊丸先輩はいつもあんなんだよ…」 何を言い出すんだと目を瞬かせると、千石はものすごい勢いで肩を掴んで来た。
「それが危いんだよ!油断させて、リョーマ君のこと狙ってるんだよ、絶対!」 「違うって、菊丸先輩は他の人に対しても同じだよ。もっと良く見てよ」 「じゃ、じゃあ不二君は?よく話し掛けているみたいだけど」 「あれはからかいたいだけだって。一体、なんの心配だよ。絶対ありえないし」 「でもー」
心配そうに眉を寄せる千石に、リョーマは笑いそうになってきた。
(なんだよ。そんな気にすること一個も無いのに、馬鹿みたい)
けれど、今の千石の言動で。 さっきまでのモヤモヤが、消えていくのもわかった。
『君が、好きです』
好きだから、相手の全てが気になるのは当たり前。 ありえないと思っても、周囲を疑ってしまう。
(じゃあ、さっきの俺の気持ちも、それに近いってこと?)
ちらっと、千石の顔を見る。 少なくとも、知り合った頃よりはずっと。 リョーマの中での千石への関心は高まっているのは、事実だ。
「リョーマ君、怒ったの…?」 沈黙を勘違いしている千石は、情けない声を出して機嫌を伺ってくる。
「さあね」 「え、ちょっと、本当に?」 「ファンタ買ってくれたら、全部流してあげてもいいけど」 「買います!何種類だって!」 「じゃ、まずグレープね」
何度も何度も頷く千石に笑って、自販機を探す為に歩き始める。
告白の返事。 近い内にしようかなと考え、その時の千石の顔を想像して、もう一回笑った。
終わり
チフネ

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