チフネの日記
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2008年08月09日(土) バニラ・ミルク(塚リョ)


「越前君が来たら、アイスを出してあげてね」
外出するのが残念だわと、母は頬に手を当てた後、出て行った。
父はゴルフ。祖父は柔道仲間の家へ訪問中。
リョーマの訪問中、手塚以外は家には誰もいない。
絶好のタイミングに何をするかといえば…。

「部長のお母さん気が利くねー。コンビニに入った時、アイスも買おうかなって迷ったんだ。
でもこれだけ暑いと溶けるから、泣く泣く諦めたんだ。
でも、さすが!俺のことわかってくれてるなあ」
「母は…お前のことを気に入ってるみたいだからな」
「ふーん、有り難いなあ。このアイス美味しいー」
「そう、か」
入ってくるなり、「部長ー、おせんべい今から食べない?」と持っていた袋を押し付けられた。
そして母の言い付け通りアイスも一緒に出すと、パッと顔を輝かせて夢中になってアイスを食べ始める。

(こいつは色気よりも食い気だ)
黙々と食べ続けるリョーマの前で、手塚はため息をついた。
おせんべいとアイス、そんな妙な組み合わせにも関わらず、リョーマはご機嫌な様子で食している。

「部長、お茶のお代わりもらってもいい?」
「ああ」
アイスを食べ切ったリョーマは、飲み物をねだる。
手塚は立ち上がって冷蔵庫のドアを開けた。
ただし出したのはお茶では無く、白い液体の方だ。

「何これ、牛乳だよ!?」

リョーマ不満そうに大声を出した。
「おせんべいに合わない。よって却下!」
「却下じゃない。どうせお前のことだから、乾が言った規定の量を飲んでいないのだろう。
今の内に飲んでおけ」
「うー」
「ほら」
グラスを渡してやると、いやいやながら受け取るが飲もうとはしない。
「越前」
飲むように促すと、リョーマは低く唸った後グラスをテーブルに置いた。

「部長は俺が牛乳を沢山飲んで、乾先輩の言う通りにぐんぐん背が伸びて、
それで背を追い越すことになっても、平気なんだ?」
「追い越す?お前がか?」

思わず笑ってしまうと、リョーマは頬を膨らましてそっぽを向いてしまう。

「例え話なのに、そんなに笑わなくても」
「ああ、すまん」

素直に謝罪すると、まだむくれてはいるがこちらを見てくれた。

「とにかく、そういうこともあるかもしれないってこと。
それでも部長はいいわけ?可愛いままの俺でいられなくなるかもしれないんだよ」
「自分で可愛いって言うのはいいのか。俺が言うと怒るくせに」
「人に言われるのはムカつくけど、俺が言うのはいいの」
「そうか」
「で、どうなの?」

しょうもないことを気にしているなと、手塚は呆れた顔になった。

「どうもこうも無いだろ。
お前が今の姿じゃなくなったとしても、俺の気持ちは変わらない」
「本当ー?」
「当たり前だ。俺は越前リョーマという人間を丸ごと好きなんだからな。
背が高くなった位で、心変わりしてたまるか」

きっぱりと偽りの無い本心を告げる。

最穂はきょとんとした顔で聞いていたのだが、
すぐにリョーマの顔は真っ赤に染まっていく。

「なんでそんな冷静に答えられるんだよ。信じられない!」
「聞いたのはお前だろう。俺は答えただけだ」
「何かすっごい告白を聞いた気がするんだけど」

赤くなったままうなだれるリョーマの頭を、手塚は手を伸ばして軽く撫でた。

その程度の覚悟が何だっていうのだろう。
容姿なんてもうどうでも良くなる程、好きになってしまっている。怖い位に。

小さく唸った後、リョーマは顔を上げる。
そしてテーブルに置いたままのグラスを手にして一気に飲み干してしまった。

「じゃあ、これから牛乳はちゃんと飲んでやるよ。
背が伸びたら、今言ったことが本当かどうか確かめてやる」
「それは、一向に構わないが」
「もー!なんでそんな余裕なんだよ!?」

手足をばたばたさせるリョーマに、手塚は余裕の表情でコップに牛乳を注ぎ足してやった。

(俺もまだ身長が伸びていることは、黙っておくか)

リョーマが手塚の身長を抜かすことは、限りなくゼロに近いだろう。
それを言うと、「じゃあ牛乳飲んでも仕方ないじゃん」とかまた屁理屈を言い出すので、
秘密にしておく。

でも、身長がどうなろうと好きだって言った気持ちは揺ぎ無い事実だ。

今日も明日も、10年後も。
変わらずくだらないことで、愛を確かめ合っている二人でいればいいなと、手塚は思った。


「部長ー、牛乳飲んだご褒美にアイスのお代わりも下さい」
「そう来たか…」

終わり


チフネ