チフネの日記
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先程から一向に止まない雨粒に、リョーマはもう一度隣に立っている跡部に声を掛けてみた。 「ねえ、やっぱり止まないんじゃないの?」 その問いに跡部は振り返ることなく、やっぱり雨を見たまま答える。 「もう少ししたら止むだろう」 「でも」 夕立だから、そう長いこと降っている訳ないだろ」 「あ、そ…」 そう言ってさっきからずっとここで雨宿りしている訳なのだが、 一体跡部は何を考えているのか。
(車で迎えに来てもらえばいいのに) そうしたら傘もいらないのになあ、とリョーマは思った。
跡部と付き合い始めて、今日でちょうど1週間。 切っ掛けは跡部からの告白。 それをほぼ無理やりに近い形で承諾させられた。 「俺様が振られるなんてこと、絶対無い、有り得ねえんだよ!」 必死で迫ってくる表情に、ちょっと面白いかもと思って隙を見せたのが悪かった。 油断している内に跡部はどんどん入り込んで来て、うっかり承諾してしまった。一生の不覚だ。
一体、どんな交際になるんだろ。 怯えていたリョーマだったが、意外にもいきなり手を出すとかそういうことは全く無く、平日は家に送ってもらうだけ。 休日はテニスをするのみと、拍子抜けするくらい健全なお付き合いが続いている。 本気で何かされるのかといらない心配したのが嘘みたいだ。 未だに、キス一つしていない。
(って、俺もされたいなんて思っている訳じゃないけど) 自分の思考にツッコミを入れる。 ただ、跡部が思っていた性格と違い過ぎて戸惑っている。
一番よくわからないのが、送る時はいつも徒歩だっていうこと。 青学や家に来るまでは、車を使っているくせに。 わざわざ降りる理由がわからない。 (車の方が楽なのに…) 意味ないなあ、とリョーマは呟く。
今だって、車だったら急な夕立に合うこと無く家に帰れたはずだ。 よりにもよって二人共、傘を持っていなかった。 こんな公園の休憩所で立ち往生する羽目になって、30分は無駄にしている。
(ガソリン代をケチっている訳じゃないよな)
まさか、とリョーマは首を振った。 徒歩に拘る以外は、ファンタや飲食店で奢ってもらったり、気前が良いのは知っている。 なのに車を使おうとしないなんて、変なのと呟く。
「うわっ」 さきまで遠かった雷が、すぐ近くで響き始める。 まさかと思うけど、落ちたりするんだろうか。
(近くの木とか、本気でやばいかも)
しゃれにならないよ、とリョーマは跡部のシャツを引っ張った。 「ねえ、迎えに来てもらおうよ。雷が落ちたりしたら危ないじゃん」 「すぐ通り過ぎるだろ。びびってんのか」 「そういうこと言ってるんじゃなくて……。もう、いい。あんたに期待するのは止める」 溜息をついて、リョーマは携帯を取り出した。 母親に電話して、迎えに来てもらうように頼むつもりだ。 勿論車を運転するのは、あの父親だが、母からの頼みは断れない。 文句を言いつつも、来てくれるだろう。
しかし番号を呼び出そうと操作した所で、跡部の手に遮られる。
「ちょっと、何するんだよ」
考えもしなかった妨害に、リョーマは顔を上げた。 「雷なんて黙っていればどっかに行く。もう少し待っていようぜ」 この期に及んで、まだそんなことを言う。 呆れ顔で、リョーマは冷静に口を開いた。 「もう少しもう少しって、ずっと足止めされているんだけど。いい加減、帰りたい」 瞬間、携帯を抑えていた跡部の手から力が抜けたのがわかった。 そして、突っ返されてしまう。
「そんなに早く帰りたいのかよ」 低い声で言われて、リョーマは首を傾げた。 そんなの、聞くまでも無い。 「当たり前じゃん」 「お前、俺と一緒にいるよりも家に帰りたいのか」 「えっ」
驚いた瞬間、周囲にドォンという轟音が響き渡る。 「今のっ!?」 「落ちたな。たぶん、あそこの避雷針だろ」 「はあ…」 びっくりした、と目を丸くする。 想像した以上の音だった。 つくづく公園の木に落ちなくて良かった、と胸を撫で下ろす。
と、冷静になったところで、さっき言われたことを思い出す。
(聞き間違い、じゃなかったよね)
むっ、としたような跡部の言い方。 こんな所で迎えも呼ばず(跡部が呼べば、どこでも駆けつけてくれるだろうに)、 うだうだしたままでいる理由。 つまり、それは。
(一緒にいたいって、思ってるってことか)
家に送るのがいつも徒歩なのも、少しでも長くいられるようにと考えているのだとようやく気付く。
(わかりにくいんですけど)
そう思っているのなら、口に出して言えばいい。 黙っているのに伝わるかよ、と跡部の横顔を見詰める。
「付き合え」と迫った時はあんなに強引だったくせに、 こんな時だけ遠慮するなんて彼らしくない。 それとも無理やり承諾を得た形の交際だったので、今更弱気になっているとか。 内心では意外と悩んでいるのかもしれない。
(可愛い所あるじゃん) リョーマは口元を綻ばせた。
「どうした」 視線に気付いた跡部が、怪訝そうに振り向く。 「別に」 言って、小さなベンチに腰を下ろす。 すぐ止むからとずっと立っていた所為で疲れてしまった。 ふぅ、と一息吐いて跡部に声を掛ける。
「ねえ、雨が止むの待つんだったら座っていようよ。ちょっと疲れたし」 「……ああ」 「隣座ったら?」 空いたスペースをポンポンを手で叩くと、跡部は目を開いた後ふらふらと寄って来た。 いつも堂々とした姿勢で歩いているから、余計になんか可笑しくなる。
「座っていいのか」 「公園のベンチだよ。誰が座ってもいいでほ」 「そ、そうか」 やっぱりぎこちない動作で、跡部はちょこんと腰を下ろす。 堪え切れなくて、とうとうリョーマは声を立てて笑ってしまう。
「さっきから何がおかしいんだ」 「さあね。それよりここに足止めされていう間、何か話でもしようよ」 「話?」 「付き合っているけど、あんたの事ほとんど知らないんだよね。 だから、何か喋ってみてよ」 「唐突だな」
ぶっきらぼうな言い方だったが、跡部は嬉しそうだ。 そして、ぽつぽつと自分のことについて話し出す。 勿論それだけじゃなく、リョーマにも振って来て。
(なんか、今までの中で一番会話しているかも)
これから送ってもらう間、当分話のネタは尽きることは無いだろう。 明日も明後日も、跡部に聞いてみたいことはたくさんある。
始まりが慌しかった分、これからはこの位のペースでいいのかもしれない。 歩く位の、速度で。
もう少し雨が降っていてもいいかもと、リョーマは跡部の声に耳を傾けた。
終わり
チフネ

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