チフネの日記
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2008年08月03日(日) 今とは違う未来を得る為(塚リョ)

一枚、また一枚と落ちてくる木の葉にボールを当てる。
慎重に、意識を集中して。
そして最後に残ったボールを当ててから、リョーマは大きく息を吐いた。

(とりあえず、今日のノルマ終了)
流れてきた汗をぐいっと裾で拭う。
悔しいが、途中何枚か取りこぼしてしまった。
けれどずっと休憩無しでやっていたから、疲れた。喉もカラカラだ。そろろそ休むべきだろう。
大好きなファンタでも買おうと、自販機に向かって歩き出した。

(あれ。桃先輩だ)
自販機への道のりの途中、切り株に向かってボールを叩き付けている桃城に出くわす。
「何…してるんすか?」
声を掛けると、桃城は慌てたように振り向いた。
「べ、別に何でもねえよ。ちょっと肩慣らししてただけだ」
「ふーん」
「そういうお前こそ何さぼってるんだよ」
「さぼってないっす。ずっと動いていたから、ちょっと水分補給しなきゃって思っただけだ」
「あー、じゃあ俺も行くわ」
「自分の分は自分で買って下さいね」
「ちっ、先に言われたか」
軽口を叩いて、桃城が後ろからついて来た。
勝手にすればいい、とリョーマはマイペースに足を進めて行く。

(ねむ……)
練習の疲れも出た所為か、自然と欠伸をしてしまう。
それを見た桃城が、「寝不足かあ?」と尋ねる
「違う」
「集合の時も大欠伸してたじゃんか」
「でも寝不足じゃないっす」
きっぱり否定するが、桃城は納得してくれない。
「だってここの所、遅刻もしてないだろ。慣れねえ早起きして疲れているんじゃないか?」
「……」
「まあ、部長が抜けちまって気合が入るのもわかるけどよ。あんまり無理すんなよ」
部長、の一言にリョーマの足が止まる。

「別に。部長がいないからって、どうってことないし」
「は?」
「たまたま遅刻してないだけで、部長は関係ないってこと!」
「いや、でも部長がいなくなってから、一段と気合入ったのは見てわかるって。
俺もそうだからよ。照れるなって」
知った風に言われて、ますます腹が立って来てしまう。
「だから違うって言ってるじゃん!」
「おい、越前」
「もういい」
怒ったようにリョーマは走り出した。
「なんだ、あいつ…」
桃城は首を捻ってリョーマの言動について考えてみた。
が、答えは何も出なかった。

(ムカつく、ムカつく、ムカつく)
ファンタを飲んでも、リョーマの苛々は収まらない。
ここの所ずっと落ち着かない気持ちが続いている所為だ。

「手塚は九州に行くことになった」
ボーリングの帰り、顧問から手塚が腕の治療の為にここを離れて行く時から始まった。
(九州って、遠過ぎなんだけど…)
氷帝との試合で、誰が見ても明らかに手塚は腕を酷使していた。
痛々しくて見ていられないと大部分の部員が目を逸らす中、リョーマはまっすぐ手塚のことを見ていた。
あそこに立っているのが自分だったら。
倒れるまで諦めない。手塚と同じ行動を取っただろう。
気持ちがわかったから、ずっと負けるなと心の中で応援してた。
最後まで見届けようと、瞬きすら惜しい位にコートを走る手塚の姿を追っていた。

結果は、負けてしまったけれど。
勝ち負けを超えた手塚の姿に、リョーマは圧倒されていた。


(部長が、いない)
手塚と別にそんなに親しかった訳じゃない。
目を掛けてはもらったが、所詮は部長と部員、それだけの関係。
その証拠に、離れた今手塚と連絡を取る手段すらわからない。
携帯を持っているかさえも、知らないのだ。
今何をして、どんな気持ちでいるか、リハビリは順調なのか。
帰ってくるまで何もわからないままだ。
時折大石から「手塚は元気だって」と、報告を聞く位。

(なんだ、つまんない)
それがものすごく不満に思えるのは、どうしてなんだろう。

手塚国光という人間をテニスだけじゃなく、それ以外でどんな人なのか。
今になって知りたくなってきた。
なのに近くにいなくて、連絡先も知らなくて。

今、出来ることといえば、ただひとつ。
手塚が戻って来るまで、全国までの道を繋いでいく。
その為に頑張ることだけ。

(だから、あんたを超えようと思って頑張っている訳だけど。まだまだ、だね)
九州に行く直前大石と手塚が話していた、落ちてくる葉にボールを当てる作業も、
始めたばかりなのですんなりと上手くはいかない。
手塚が連続で出したという記録には、もう少し努力が必要だ。

「っし!」

弱気になり掛ける自分の頬を、両手で軽く叩く。

(残りの時間まで、もうちょっと頑張れる)
ファンタの缶を捨てて、急いで木の下へと戻る。
そしてまたボールを掴んで、落ちて行く葉っぱ目掛けて当てて行った。

(ねえ、部長)

今は遠くて、地図だとどの辺か見当もつかない程遠くて。
でも思い出す度に強くなってやるんだって、気持ちが大きくなっていく。
それだけじゃなく、会いたい…とも思う。

(だから、帰って来たら。携帯の番号を聞く所から始めよう、うん)

そんなことを聞いたら、手塚は戸惑うだろうか。
反対に律儀に応えてくれるのか。
どちらにしろ、始まりはそこからだ。
連絡さえも取れない、そんな枠もっとぶっ壊してやる。


帰って来た手塚のことをあれこれ想像しながら、リョーマはまた一つ落ちてくる葉っぱにボールを当てた。

終わり


チフネ