チフネの日記
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秘密の恋を、胸の奥に仕舞っている。 開けても叶わない知っているから、押さえ込んで押さえ込んで出て来ないようにしている。 誰にも迷惑掛けないのなら、持っていてもいいよね。 辛いのは自分だけ、だから。
休憩の声に、リョーマは汗を拭ってコートを出た。 少し静かな所で横になっていたい。 三年生が引退してから練習は更にきつくなった。その位しないと、レベルは上がらない。 ほとんどの部員はコートから動けない。それをちらっと見て、リョーマはいつも壁打ちしている場所へ行き、しゃがみ込む。 ゆっくりと、喉の渇きを潤そう。 そう思っていたのに、明るい声がその場に響き渡る。
「越前君っ、今日も練習大変そうだね」 「千石さん…」 「あ、ここ座っていい?」 いいとも言っていないのに、千石は勝手にリョーマの隣に座り込んだ。 この男は時々こうしてやって来ては、リョーマに話し掛ける。 噂では青学の生徒と付き合っているとか、なんとか色々聞く。 「今日も来たんすか」 「あ、何その嫌そうな顔。傷付くよー」 へらへら笑ってる千石に、リョーマはため息をついた。 誰と付き合っているか知らないが、千石はテニス部の近くに頻繁に現れてはこうして自分に話し掛けてくる。 今更偵察でも無いだろうに、一体なんなんだろう。 「越前君の好きなファンタ、折角買ってきたのにあげないよ?」 「…はあ」 時々、こうしてファンタも差し入れしてくれる。 そこまで親しくないはずの千石が、なんでこんな事するのかリョーマにはさっぱりわからない。 「今日もお迎えっすか?」 「え、え?」 ファンタを飲みながら問い掛けると、千石はきょとんとした顔でリョーマを見た。 「青学の中で付き合ってる人いるんでしょ。早く行ってあげたら?」 こんな所でのんびりしている場合じゃないだろ。 普通、すぐ付き合っている人のとこへ行くものじゃないの? リョーマの視線に千石は怯むことなく、にこっと笑って答える。 「まだ待ち合わせ時間じゃないから、大丈夫」 「じゃ、相手も部活中ってことっすか?」 「まあ、ねえ」 曖昧な言葉しか返さない。 千石がどこの誰と付き合ってるかは、はっきりしていない。噂だけが飛び交ってる。 こうして本人に聞いてもはぐらかされるだけだから、きっと教えるつもりも無いのだろう。 諦めて、リョーマは千石にそれ以上話しかけるのを止めた。
「ねえ、越前君」 「何」 今度は千石が話し掛けてくる。 「今日、部活が終わった後に時間あるかな?」 「時間?」 何の話だろう。 あったとしたらなんだって言うんだ。 千石の顔を見詰めると、珍しく歯切れ悪く告げられる。 「ちょっとね、俺と寄り道でもしないかなって思っただけ」 「は?」 一瞬意味がわからず呆けたが、すぐに返事をする。 「あんた、今日誰かと待ち合わせしているんだろ。そっちどうすんの。 約束破るつもり?そういうの止めなよ」 「あー、うん…まあ、よくないよね。そういうのは」 「わかっているんじゃん」 「でも、今日は俺の誕生日なんだよなあ」 「え?」 「だから、本当に側にいて欲しい子と過ごしたいって思ったから」 「千石、さん?」 今度こそ言っている意味がわからなくなる。
誕生日だから、側にいて欲しい子との時間を望んでいる。 千石はそう言っているようだが、誰のことを指しているか…考えてリョーマはわからなくなる。 だって今の言い方だと、自分のことだと言われているみたいで。
「ごめん」 沈黙しているリョーマを見て、千石は小さく笑った。 「越前君を困らせるつもりは無いよ。 今日もこの後、待ち合わせあるんだろ。わかってるから、どこにも連れて行ったりしない」 「千石さん…」 「じゃあ、もう俺行くね。休憩も終わりだろ?越前君も戻りなよ」 バイバイ、と手を振って離れて行こうとする千石に、 リョーマは立ち上がって思わず声を掛けた。
「千石さん!」 「……越前君?」 どうしよう。なんて言ったらいいのか、思いつかない。 混乱のまま咄嗟に出た言葉は、お世辞にも気の利くものじゃなかった。
「あの、誕生日、おめでとうございます」 「………」 「逆にファンタ奢ってもらって、なんだけど」
ぷっと千石は吹き出して、「ありがとう」と言った。
白い学ランを翻して、オレンジ色の髪の彼が去って行く。 多分、この先彼がテニス部に顔を出すことは無いんじゃないか。 そんな予感に、リョーマはそっと貰ったファンタの缶をぎゅっと握り締めた。
大事に仕舞っておくはずだったのに、とうとう心から溢れちゃった。 いつも近くで見てたから、あの子の隣はもう空きは無いって知ってたのにね。 でも。 おめでとうって、あの子が言ってくれた。 嬉しかった。心が温かくなった。
だから今度はこれを宝物にして、あの子の前から消えよう。 これ以上、困った顔をさせない為にも。 秘密の恋は、今度こそ胸に仕舞いこんで。
終わり
チフネ

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