チフネの日記
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部長と連絡が取れなくなって、数日が過ぎた。 いつ「帰る日が決まった」という来るかと思って携帯をチェックするのがくせになってしまった。
本当はこんな女々しい真似したくないんだけど、気になってしまうからどうしようもない。 電話が掛かって来たらすぐ出たい。 それは俺にとって正直な気持ちだ。
部長は今頃、たった一人でリハビリを頑張っているのだろう。 連絡を取らないと言うのなら、俺も我慢しようと思った。少し、寂しいけどそれが部長の為だから。
だって、俺も同じ立場だったらきっと同じことをしていた。 連絡を一切絶って必死で一日でも早い復帰を目指す。 部長の気持ちが痛いほどわかるから、俺からも電話はメールはしなかった。 戻って来ることを祈ることしか今は出来ないんだ。
声さえも聞けないというのはかなり辛いことだったけど、 部長の為と思って、毎日我慢しつつ一日を乗り切って行った。 全国大会はすぐそこまで迫っている。 青学の柱として俺も沈んでいる暇なんでないんだ。 テニスに集中しようと、鬱憤をボールに思い切りぶつけて過ごした。
そして大会の三日前。 会場を下見した帰り道、不意に携帯が鳴った。 桃先輩かなあと思って取り出すと、そこに表示されている名前を見て大きく目を開いた。 部長だ。 部長かららの連絡に、俺の心は歓喜に震えた。 急いで着信のボタンを押す。
「もしもし?部長?」
帰宅する日の連絡のはず。期待に声は上擦ってしまう。 これで悪化したなんて言われたら冗談でも気絶してしまいそうだ。 良い知らせでありますようにと、心の中で祈る。
「越前、久し振りだな。今、話をしても大丈夫か」 「うん」
たとえ出られない状況だとしても、そんなの無視していたと思う。 部長の声を聞くのも久し振りだ。 それだけで嬉しくなってしまう。
「今はどこにいる。家か?」 「違うっす。会場の下見に来ていて、アリーナの近く。もう、帰るところだけど」 「そうか。帰る前に学校に寄る時間はあるか?」 「まあ、あるけど。なんで学校?」 「俺も今そっちに向かっているからだ。 竜崎先生に戻って来たことを報告しないといけないからな」 「え?」
なんかさらっと言われてしまったけど、 今のって……。 固まったままの俺に、部長は先を続けた。 「今日、こっちに戻って来たんだ。学校で落ち合えるかと聞いているのだが」 「えええええ!?」 通り過ぎる人が振り返る位の大きな声を出してしまった。
それから部室で待ち合わせすることを約束して、俺はすぐ学校へ行く為にバスに乗った。
全く、あの人も人が悪い。 帰宅した日を知らせるんじゃなくて、こっちに到着してから電話してくるなんて。 空港で出迎えたかったのに……。 時間がギリギリで、決勝の抽選に間に合うかどうか必死だったんだと言い訳してたけど。 部長のことだから悩んで悩んで、まず先に青学の代表としての務めを果たそうとして会場に向かったに違いない。 どこまでも真面目で融通利かなくて、離れていた間も全く変わっていないだと、笑いが込み上げてくる。
早く会って顔が見たい。 ここ一ヶ月ずっと臨んでいたことだ。それがやっと叶う。
「部長!」
大急ぎで部室に飛び込む。 先にいた部長が鍵を開けてくれてくれたらしい。 「早かったな」 部長はベンチに腰掛けていて、日誌を読んでいたようだ。 自然なその姿に、彼が一ヶ月も不在していたことが嘘のようと思えた。
「そっちこそ、おばさんへの挨拶は終わったんすか?」 「ああ、無理はするなと言われただけで……越前?」 会話を続けることよりも、俺は今部長がここにいることを確かめたくなって、体が自然と動いていた。 座っている部長の真正面から抱きつくと、日誌が音を立てて床に落ちる。 構わず背中に手を回した。
「会いたかった」 体温を感じて、ほっと安心する。 そして言葉が溢れた。 「戻って来て嬉しいす。良かった、部長とまた一緒に大会に出られる。それが本当に嬉しいっす」 「俺もだ、越前。お前に会いたかった」 部長の腕も俺の背中に回った。 そして体を引き寄せられる。 体重を預ける形になって、ハッと気付く。 こんな体勢で部長の肩や腕は大丈夫なのかって。 慌てて体を引こうとする俺に「この位、軽いものだ」と部長は笑う。 「それって俺がチビだから軽いってことっすか?」 ムッとしながら尋ねる。 すると部長は軽く首を振った。 「そういう意味じゃない。ただこうやって寄り添っていられるのが嬉しいんだ」 「ふーん。俺の返事も聞いていないのに、大胆っすね」 「抱きついてきたのは、お前からだろ?」 「そうだけど……」 「嫌ならこの腕を振り切って逃げればいい。 俺は当分放してやるつもりはないからな」 「は?開き直り?」 「そうだ」 真面目な顔をして部長は言った。
「ずっとお前に会いたくて仕方なかった。もう離れたくないと思う気持ちを止められそうにない。 嫌ならハッキリと意思表示するんだな」 「あんたって……」 結構、自分勝手だねと内心で呟く。
でも、それでいいんだ。 部長が俺のこと放したくないって思ってくれるのは、嬉しい。 逃げ出すことなんてしないし、考えもしない。 鼓動が聞こえる位まで抱きしめられて、もっと、って思ってしまう。
「部長」 俺は口を開く。 ずっと形にしないまでいた心。この人の前で今、ハッキリと言葉にする。 「保留にしていた件の答え。言うよ」 「ああ」 部長が頷いた気配に、俺も抱きしめた腕にもっと力を込めた。 「好きだよ。だから、こうしているのも嫌じゃないっす」 「そうか」 「うん」 「じゃあ、両想いだな」 「そうっすね。 うん、そういうことになるっす」
それから俺達はもっとお互いの想いを伝える為に、キスをした。
チフネ

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