チフネの日記
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「で、どうなっているの?」 不二先輩に再度問われて、俺は目を逸らした。 「どうもこうも、話す義理は無いっす」 「やーん。おチビの口調が刺々しい」 菊丸先輩が両手を頬に当てて、高い声を出す。 「手塚とのことは二人だけの秘密ってことかにゃー?」 ……無駄にいらっとさせられた。
言える訳ないじゃないか。 あんた達は勝手に部長と俺のことをあれこれ推測しているみたいだけれど、 それを肯定することも、話すつもりは無い。 というか、教えたくない。
黙っていると、「仕方無いなあ」と不二先輩が溜息をついた。 「あのさ。正直に言わしてもらうけれど、手塚があんな状態なままっていうのは、 僕達にとって困るわけ。 大会前なのに部長があれじゃ皆も不安になるでしょ? 受け入れるか断るのかはともかくとして、感じ悪い態度を止めろって言っているの。 わかった?」 「は、はい」 思わず頷いてしまう。
そしてちらっと、不二先輩の横顔を見る。 部長がしてくれた二年前の話を聞いた時にも思った。 不二先輩は部長の実力をものすごく評価している。認めているんだって。 だから腑抜けた状態で試合に臨むのを許せないんだ。 それで原因である俺に、あれこれ言ってくるのか。 納得した。
「それにしても手塚の奴、どんな告白したの? おチビがこそこそ逃げ回る位だから、ドン引きするようなこと言ったのかにゃあ」 のんびりした口調で、菊丸が先輩がそんなことを言い出す。 「え……別に」 「そうなの?手塚の奴、まさかストレートにあんな事とか、こんな事とか!? 馬鹿だなあ。一言相談してくれれば、その気になる告白を伝授したのに!」 「何言っているんすか!?」 とんでもない言葉に、目を見開く。 「だって、昨日、手塚に告白されてたんでしょ。それで気まずくなって今朝は避けたんじゃなかったの?」 「違いますよ」 正確は告白されたのは少し前のことだ。 勿論教えてやらないけど。 「違うの?じゃあ、昨日君を残したのは一体…?」 「あれは、その世間話をしただけっすよ」 「そんな訳ないだろー。おチビ、俺達がその位見抜けない馬鹿だと思っている?」 たしかにこの二人は誤魔化せる相手じゃない。 覚悟を決めて、一部分だけは正直に話すことにする。 「その、昨日は部長の一年生の時の話を聞いたくらいで」
「「一年生の頃!?」」 ハモった、と思ったら不二先輩に肩をつかまれた。 「そ、それって生徒会長の話も出た?」 「えっ、え?」 「何て言ったの?ねえ!」 今度は菊丸先輩だ。 驚いている二人に、こっちの方がびっくりさせられる。 なんでこんなに過剰反応しているんだ……。 「たしかに当時の生徒会長の話は出たけど」 「「出たの!?」」 「だから何でそう驚いているんすか。 もうとっくに部長から聞いているんでしょ。今更なんなの」 途端に、二人が顔を見合わせる。 そして不二先輩が、ゆっくりと首を横に振った。
「聞いてないよ」 「え……」 「色んな噂は耳に入ったけれど、本当のことはわからないんだ。 手塚は口を閉ざしたまま、絶対に言おうとしなかったからね。 大体見当はついているけど、あの時手塚が何を考えていたかまではわからない。 大石でさえもね。 多分、話したのは君が初めて」 「……」
てっきり先輩達は知っているものだと思い込んでいた。 俺より部長と付き合いが長い分、全部わかっているんだって。 敵いっこない。そんな風に思っていたのに。 部長が最初に話した相手は、……俺だったんだ。
「わかる?越前」 上手く言葉を出せずに黙っていると、不二先輩は肩を掴んでいる手を包み込むようにして、 優しく語り掛けて来る。 「手塚は君の事、ものすごく想っているよ。 あいつが自分のことを語るなんて、珍しい……ううん、そんなもんじゃない。 今では感情をまるっと隠した仏頂面になったけどね、 一年の入部したての頃はもう少し可愛げがあったんだ。 なのに、例の一件ですっかり頑な性格に変わっちゃった。 あのまま大人になって、テニスと一緒に添い遂げるんじゃないかと心配していた所に、君が現れた」 「俺?」 首を傾げると、「そーだよっ」と菊丸先輩が抱きついてくる。 「おチビの可愛らしさに、さすがの手塚もメロメロになったんじゃないのかな」 「はあ!?俺、可愛くなんてないすよ」 そんなこと言われて、誰が喜ぶか。 むっとしていると、「半分は冗談なのにー」と泣き真似される。 「でも手塚があんなに誰かのことを気にするなんて、思わなかった。 才能あるルーキーに後を託したいそう考えているのかなと思っていたけど、 違うんだってわかっちゃった。 だっておチビを見る手塚の目が、すごーく優しいんだもん」 断言されてしまう。 菊丸先輩が頷いたのを見て、頬が赤くなるのがわかった。
部長が優しいって、もう知っているよ。 正義感も強くて、真面目で。 不器用だから誤魔かすことも知らない。 融通利かなくて頑固で、有無を言わせずグラウンドを走らせることも。 そんな部長が、俺を好きだってことも……知っている。
ぎゅっと目を瞑ると、あやすように二人に頭を撫でられる。 「もう、大丈夫かな?言いたい事は大体伝わったと思うけど」 「別に俺らも無理に手塚とおチビをくっ付けようとしているんじゃないよ。 応えられないって言うのなら、そうすればいい。 でも無視したりするのは、勘弁してやってよ。 難しいかもしれないけど、出来るだけ今まで通り接してくれればいいなーと思っている。頼むよ」
いつもふざけているばかりの二人が真剣に言うから、余計に胸に響く。 もう、今朝みたいな態度は取らない。そう決めた。
無言で頷いたところで、チャイムが鳴る。
「予鈴だ。行こうか」 「そうだにゃ。せーのっ」 「わっ」 不二先輩と菊丸先輩に手を掴まれて、引き上げられる格好で立たされる。
「もう僕らからは言うことは無い。後は越前に任せる。二人の問題だからね」 「おチビ、またお昼一緒に食べようねー」
最後は明るくそれぞれの教室へ別れることが出来て良かった。 先輩達に手を振って、俺は自分の教室へと階段を下りて行く。
(部長のこと、もっとちゃんと考えなくちゃ駄目だ)
過去に好きな人がいた。 まだ未練を残しているのかもしれない。 同じようなタイプの人がいたら、そっちに乗り換える可能性だってある。 でも、これらは全部俺の勝手な思い込みだ。
今の部長のことを、見るべきだ。 好きだって言ってくれた言葉。過去を語ってくれたこと。 俺の前にいた部長を、信じよう。
(放課後になったら俺から話し掛けてみようか)
あれだけ避けておいて気まずいけれど、迷っている場合じゃないんだ。 一歩踏み出さなければ、何も始まらない。 誰にも語らなかった過去を思い切って話してくれた部長のように、 俺も前に出るんだ。
(負けるな)
本鈴のチャイムが鳴った。 スタートの合図のように、俺は一気に駆け出した。
チフネ

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