チフネの日記
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2006年01月06日(金) Vanilla 6





「また明日ね」
そう言って、不二がぎゅっと抱きしめくる。
少し苦しいくらいの抱擁。
でも、心地良い。

何秒か続いた後、不二がゆっくりと体を離した。
そして笑顔で告げる。
「明日、また一緒に帰ろうね」
「・・・・っす」
リョーマが頷いたのを確認してから、不二は「じゃあね」と自分の家へと歩き出した。

あの雨の日以来、毎日不二に抱きしめられてる。
もうすっかり習慣化してしまった。

『越前の体温、すごく好きなんだ』
恥ずかしげも無く言う不二に、何も言い返せなかった。
いつも不二はストレートに気持ちを表現してくれる。
おかげで、すっかりペースを乱されてしまう。
あの腕を振り払うことなんて、出来ない。

で、抱きしめられる日々が続いているのだけれど。
それだけ。
進展は他に何も無い。

(こんな事ばっかり考えて、馬鹿じゃないの・・・)

最近のリョーマは、不二とその先へ進むことばかり考えて悶々と悩んでいる。
まだ、手も出されてないというのに。

不二は抱きしめるだけで満足して、それ以上を仕掛けて来ないのだ。
それがリョーマにとってちょっぴり不満だったりする。

(キス、したいな)

母親からキスは好きな人とだけするものだと教えられてきたリョーマは、
アメリカ育ちにも関わらずキスの経験が無かった。
小さ過ぎて意味がわからない頃は、可愛い可愛いと寄って来る大人たちにキスされたようだが、
それはまた別だ。大体、覚えてもいない。
女の子じゃないけれど、キスするならやっぱり好きな人とだけしたい。
その相手と折角巡り合えたのだ。
したい、と思うことは変じゃないはず・・・。

ここでリョーマが不安になるのは、不二の気持ちだ。
まだ早いと思っているのか、それともそういうことはやっぱり女の子としたいと思っているのか。
前者だったら、迫ったら最後軽蔑されてしまう可能性がある。
そう思うと、自分から言い出すことも出来ない。
後者だったら、立ち直れないかもしれない。
ここまで不二に嵌まってしまったのに、「やっぱり、君とは付き合えない」と言われたら。

「はあ・・・・」

ベッドにうつ伏せて、目を閉じる。
浮かぶのは不二の事だけだ。
もう、おかしい位に。

あの美しい人に、今まで恋人がいなかったなんて思えない。
不二の唇が触れた女の子達に、嫉妬する。
顔も名前も知らない想像だけなのに、こんなにも焦れて切ない気持ちになる。

「不二、先輩」

もっと近くなりたいよ。
そっとリョーマは指を自分の唇の這わせた。









そんな恥ずかしいことばかり考えているけれど、
不二の前ではいつも通りに振舞う努力をした。
こんな事で悩んでるなんて知られたくない。

「越前。お茶のお代わりはいる?」
「いるっす」
カップを差し出すと、不二はくすっと笑って受け取りまた温かい紅茶を注いでくれる。
本日は部活が終わってから真っ直ぐ不二の家へお邪魔した。
由美子姉さんが作ってくれたケーキがあるから、と言われ、リョーマは即答で頷いた。
最も不二の誘いは何であれ、断れるはずも無いのだが。

「今日のケーキも美味しい。由美子さん、本当にすごいね」
「姉さんに伝えておくよ。越前のこと、気に入ってたから美味しいって言ってくれたら喜ぶはず」
一度会った時に、可愛い子!と頭をぐしゃぐしゃと撫でられたことを思い出し、
リョーマは少し苦笑した。
不二が止めなかったら、いつまでも放してくれなかったかもしれない。

「あ、越前。口元にクリームがついてる」
「え?」
ぺろっとリョーマは舌で唇を舐める。
「そこじゃない、こっち」
だが、場所が違ったらしい。
不二の手が伸びてきて、優しく拭ってくれたのだが。

「あ・・・」

近い。
クリームを取ってもらう為、体を近づけたリョーマと。
拭う為に手を伸ばした不二とその距離はもうちょっとでくっつく位。
不二の顔が近い。

このまま・・・キスしたいな。

そう思って、じっと不二の顔を見詰める。
このままでいるより目を閉じた方が良いかもと思った瞬間、
不二の体がすっと離れた。

「・・・はい、取れたよ」
何事も無かったのように、不二は笑ってる。

(なんで?)

階下に不二の母はいるけれど、この部屋には二人きり。
キスをしても良いタイミングだったのに。
不二は体を引いてしまった。

開いた距離に呆然となる。
不二はキスしたいって、思わないのだろうか。

「越前?」

俯いてしまったリョーマを見て、不二が心配そうな声を出す。

「どうか、したの?」
「俺は・・・」

待ってても、してくれないかもしれない。
そう思うと、気持ちが焦ってしまう。
だって、この恋がいつまで続くかなんてわからないから。
なら。今、掴まえておきたい。

「不二先輩っ!」
「越前!?」
膝立ちして、そのまま勢いで不二の体にぶつかる。
突然のリョーマの暴走に驚いたのか、不二は支えきれない。
二人してそのまま床に倒れてしまう。

「越前、あの・・・一体?」

リョーマが上に覆い被る状態で、不二は目を瞬かせている。
状況がいまいちわかっていないみたいだ。

「不二先輩・・・俺、先輩とキスがしたい」
「えええ越前!?」
「ダメ、っすか?」

ここまでやっちゃったからには、後戻りは出来ない。
覚悟を決めて、リョーマは不二の唇にゆっくりと顔を近付けていく。

「ちょっと待って!」
「・・・・・・・・・」
が、不二に肩を押され、体を押し戻されてしまった。

(やっぱり、俺としたくないんだ!)

その結論にじわり、と涙が出そうになる。
これ以上みっともない所を見せたくないので、さっと不二の体から降りた。
そして背を向けて、床にしゃがみ込む。

「変なこと言って、スミマセン」
震えそうになる声を必死で抑える。
本当は拒絶されたことに、悲しくて仕方ないけど。
「越前?」
「迷惑だったんでしょ。ごめん、もうキスしたいなんて言わないから・・・。
別れるなんて言わないでくださ、」
リョーマの言葉が終わるより前に、不二に背中からぎゅっと抱きしめられる。
「誰が別れるなんて言うの!?そんな事、一度だって考えたりしないのに」
「だって・・・俺がキスしようとしたら、嫌がったじゃん」
「あれはっ!」

ぐるっと体を回され、不二と正面を向かい合う形になる。
まだ顔を上げるのが恥ずかしくて俯くと、ぐいっと手を添えられ無理矢理不二の方へと向かされた。

「君からされる、っていうのが納得いかなかったというか。
やっぱり初めての時は僕からしたと考えてたから」
「はあ?だって不二先輩・・・俺にキスしようなんて一度も素振りすら見せたこと無いじゃん」
その指摘に、不二の目元が赤くなる。
「だけど、色々考えてはいたよ!本当は触れたかったんだ」
「そんな。さっさとしてくれれば良かったのに。俺は・・・いつでもOKなんだから」

あれ。ちょっと大胆なこと言っちゃった?
目を瞬かせた後、嬉しそうに笑う不二を見て、急に恥ずかしくなる。
だけど、言ってしまった言葉はもう取り返しがつかない。

「うん。でもね、キスしたら色々ととまらなくなっちゃう気がして。
越前の誕生日くらいがいいかなーって予定してたんだけど」
「誕生日って、まだ先っすよ?」
今の季節は秋だ。
そんなにまで待たされたら、眠れぬ毎日が続いてしまう。
「俺は今、したいっす」
「そう。だったら、覚悟は出来てる?」
「覚悟?」
ふと、不二の表情が変わった。
試合の時、見せた真剣な顔だ。
コート以外で、そんな目をするなんて。
背筋がぞくぞくする。

「うん、覚悟。キスなんかしちゃったら、きっと僕はもっと君を手に入れたくなる。
嫌がろうが、君の意思など無関係にね」
「・・・・・・・・」
「それでも、いい?」

ダメ、だなんて言えるはず無い。
とっくに、もう不二の手の中だ。
それに自分だって望んでいること。
そういう覚悟なら、もう出来てる。


頷くと同時に、不二が顔を近づけて来た。
急いで目を閉じると、待ち望んでた熱が触れる。

ああ、不二とキスしてる。
そう思うだけで、リョーマの心は嬉しさに崩れそうになる。

抑えきれなかったのはリョーマだけじゃない、不二もだ。
二人は飽きること無く、キスを何度も繰り返した。
最初は触れ合わせるだけで満足してたのに、後の方にはお互いの舌を絡めて、どっちかの唾液だかわからなくなる位に。

何十回目のキスを終えた後、息を乱したまま不二が囁く。


「今週の土日にね。母さんと姉さんは二人で旅行に行くんだ。
ねえ、泊まりに来てくれない?」

勿論、否という理由は無かった。









チフネ