チフネの日記
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2006年01月07日(土) Vanilla (完)



覚悟は決めたものの、やっぱりどこか落ち着かなくて。
ずっとリョーマはそわそわと、心ここに在らずな状態で過ごしていた。
勘の良い南次朗から、「何かあるんだろ。教えろよ」とからかわれたり。
チームメイトにも「リョーマ君、調子悪いの?」と言われたりする位に。

その落ち着きの無さは、今日こうして不二の家に着いた後も続いてたりする。
不二の母が用意してくれた夕ご飯を食べている時も、
ぼーっとしておかずを落としたり。
変な所でつまずきそうになったりと、大変だった。
今はカチコチになったまま、ソファに座ってテレビを眺めている。
勿論内容なんて、頭に入って来ない。

「越前」
「は、はい!?」

不二に名前を呼ばれただけで、動揺してしまうリョーマ。
不自然に仰け反った状態を見て、不二が大きく溜息をつく。
「お風呂沸いたから入っておいでって言うつもりだったけど・・・一人で大丈夫?」
「大丈夫って、何がですか!?」

まさか一緒に入ろうなんて、言うつもりじゃ。
覚悟は決めてきたけど、明るい所で見せるとまでは考えて無い。
無理、と首を振ろうとするリョーマに、不二は困ったような顔をした。

「相当、動揺してるみたいだね。
あのさ、この間はあんな事言ったけど。
やっぱり越前の気持ちがもう少し固まるまで、延期しよう。
僕なら、待てるから」
その言葉に、リョーマはパッと顔を上げた。

「ヤダ!折角、こうして二人きりなのに!」
「でも」
「無理してここにいる訳じゃない。
今日来たのは、先輩をもっと好きになる為。
先輩にもっと好きになってもらう為。違う?」

動揺しているのは怖いからじゃない。
ただ、どんな顔したら良いかわからないだけだ。

ぎゅっと抱きつくと、「全く、この子は・・・」と頭を撫でられる。

「わかった。越前がそう言ってくれるなら、僕も我慢しない」
「そうして下さい」
「だったら、今から押し倒しちゃっていい?
あんまり可愛いこと言うから我慢出来なくなっちゃった」
いいよね?と服に手を掛けられそうになって、
リョーマは慌てて飛び退いた。
「ごめん。それはお風呂入ってからにして下さい!」
「あ、越前・・・・」

ダッシュで脱衣所に逃げ込む。
部活が終わってから、ここに直行したのだ。
汗を掻いた体を不二に差し出す訳にはいかないと、スポンジにボディソープを垂らし徹底的に磨き上げる。
あまりの長風呂に不二が心配して声を掛けて来るまで、
これ以上は無いという位体を荒い続けていた。








室内に灯っているのは、小さなルームライト一つだけだ。
電気を消して欲しいとのリョーマの切実な訴えを、
不二は残念そうだったがちゃんと聞いてくれた。
不二も風呂上りな為、リョーマと同じパジャマ姿になってる。

どうせ、脱ぐんだけど・・・。

浮かんだ考えに、リョーマの頬がポン、と赤くなる。

「越前、こっちに来て」
「はい・・・」

伸ばされた手を掴むと、優しく抱き寄せられる。
何度も抱きしめられたけど、今日のはまた違った気持ちにさせられる。
これから始まる行為に不安と恥ずかしさとで胸が一杯の所為か。
うるさい心音に目をぎゅっと閉じると、
不二がちゅっと額に口付けしてきた。
「すごくドキドキしてるよ。わかる?越前」
手を掴まれて、不二の心臓の上へと導かれる。
そこはリョーマと同じように、早いリズムで動いていた。

不二も、一緒だったんだ。
そのことに安心して、リョーマはこくんと頷く。
「俺も、そうだよ。ほら」
もう一方の不二の手を、自分の胸の上へ。

とくん、とくんと二人はお互いの鼓動を確かめる。

「こんなに好きな君にこれ以上触れたら、どうにかなっちゃいそうだね」
不二の言葉に、リョーマはちょっとだけ笑った。
「どうか、なんてとっくになってる」
「越前」
「だからさ、しよ」


不二が迷いを吹っ切る為にと、リョーマから告げる。
怖がっているんじゃない。本当に、したいんだから。

言い終わると同時に、熱烈なキスが降って来た。













あれからどれ位の時間が流れただろう。
しばらくの間、不二にどこもかしこも触れられて、キスされて。
何度も達した気がする。
でも、まだ終わらない。
後で思い出したら恥ずかしくて顔なんか見れない格好を取らされても、
不二を受け入れる為にと、リョーマは必死で自分に言い聞かせる。

「大丈夫、無理しないで。息を止めないで、そう。ゆっくり・・・」

不二の指示した通り、呼吸をそっと浅く吸って吐く。

たしかに痛くて辛いけど、止めたいなんて思わないのはどうしてだろう。
むしろ、もっと不二にして欲しいような。

おかしいのかなと、頭の隅で考える。
痛みはあるけど、怪我した時とはまた違う感覚だ。
もっと、甘さを含んでるような。

「あ・・・」
「越前?」

ぱちっと目を開けると、不安げに覗いてる不二の顔があった。

そんな顔しないで。
何されても、あなたの事が好きだから。

精一杯の笑顔を、リョーマは大好きな人へ向ける。


今の感覚を例えるとしたら、そうだ。

(バニラ、アイス・・・?)

とろとろに溶かされた甘いバニラアイス。
不二から与えられるものは、全部甘い。
自分もそうだったら良いのだけれど。

意識を手放す瞬間そんなことを考えた。


















「越前、平気?」
翌日はやっぱりというか、すぐには立てない状態になってしまい、
ひどく不二を心配させてしまった。
「んー、大丈夫。ゆっくりしていれば、なんとも無い」
「そう?」
好きな人に心配掛ける訳にはいかないと、リョーマはなるべく元気なように振舞う。
これも愛故ってやつか、と一人で頷く。

「朝食にしては遅いけど・・・ご飯作ったから食べようか」
「っす」

甲斐甲斐しく働く不二を、リョーマはこれ以上に無い幸せな気分で眺めた。
不二も支度をしつつも、何度もリョーマを振り返って視線を送ってくる。
その目には、愛しさしか無い。
幸せな朝食の風景だ。

少し前までは、ただの先輩くらいにしか思っていなかったのに。
こんなに夢中になっているなんて、不思議だ。
3カ月前の自分へ伝えても、きっと信じない。



「そうだ。さっき買ってきたんだけど、食後に食べる?」
「え」
冷凍庫から不二が取り出した物を見て、リョーマは目を瞬かせる。
「バニラアイス・・・。いつ買って来たんすか?」
「越前が寝てる間に、近くのコンビにまで行って。
昨日、バニラアイスが食べたいって言っていた気がしたから・・・違った?」

言葉に出したつもりは無かったけど、聞こえていたのだろうか。
固まるリョーマに、不二は「あれ、やっぱり勘違いかな」と頭を掻く。

「ううん。食べるっす」
「あ、じゃあ。食後に出すね」
「ハイ。先輩も一緒に食べるんだよね?」

リョーマの問いに、不二はちょっと照れながら言う。

「僕は、もうすごく甘いものを頂いたからいいよ」
「それって・・・?」
「越前のことに決まっているじゃないか」

同時に二人とも顔を赤くする。

「あ!魚焦げちゃう」
バタバタと慌しくコンロへ賭けて行く不二の背中を見て、
リョーマは小さく溜息をついた。


だったら自分も、もう十分満ち足りてる。
でも不二がくれるあの甘い感覚は、きっといつまでも飽きない。




終わり


チフネ