チフネの日記
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2006年01月04日(水) Vanilla 4 










(えーっと、今日で7回目?)

珍しく不二が待ち合わせ場所にいなかった。
ここで約束している以上、先に帰るはずはないだろう。
待っていればその内来るよね、とリョーマは小さく欠伸をした。

不二と一緒に帰宅するのも、7回目になる。
最初の頃のぎこちなさは、大分無くなってる・・・と思う。
主人に懐く犬のような不二の態度は相変わらずだけれど。
真正面から愛情をぶつけられるのは、悪く無い。
悪くは無いが、少々照れくさいとは思う。
大好きだよと目で訴える不二を見る度、
逸らしてしまうことも何回かある。
不快では無いのに、そわそわしてしまうような感じ。
こんなの一度も経験したことの無い気持ちだ。

どこかでこんな状態の人を見たような。
誰だったっけ?としばらく考え、ようやくリョーマは思い当たる。
居候している従姉の菜々子が、休日に時折見せる様子とよく似てる。
普段、学校へ行く服装とはあきらかに違ったり、
いつもと違う香りがしたり。
上の空の表情かと思えば、嬉しそうに笑っている。

自分の様子を客観的に見ると、
あの時の菜々子に似てる・・・とリョーマは思った。
不二のことは、家でも考えてる。
帰りの時の話や、引退前の試合してる姿とか。
自然と頬が緩んでいるのに気付き、誰も見ていないのに慌てて表情を引き締めることも何度かある。

(こんなことって、あるんだ)

今まで、誰かを想って知らず笑顔になった経験は一度も無い。
不思議だ、とリョーマは呟く。
母も菜々子もカルピンも好きだけれど、
不二への想いとは何か違う。それはわかる。
勿論、テニスともファンタとも違う。
一体、不二は自分の心のどこに入ってしまったのだろう。
一緒にいなくても、考えずにはいられなくなるなんて。

「困るよね・・・」
「何が?」

急に声が聞こえたので、リョーマはびっくりして飛び上がった。

「ごめん、驚かせちゃった?」
「不二先輩」

平気?と心配そうに顔を覗き込む不二に、
「大丈夫」とリョーマは返事した。

「ここに来る途中、担任に偶然会っちゃってね。
捉まると、話長いんだ。ごめん、待った?」
「ううん。いつも先輩が待っててくれてるから。
これ位、別に・・・」

リョーマの言葉を嬉しそうに聞いてる不二の笑顔が、眩しく見える。
どうしてこの人の笑顔を見ると、
勝手に鼓動が早くなるんだろう。
心音が不二にも聞こえてしまうのでは、とリョーマはそんな事を心配してしまう。

「じゃ、帰ろうか」
「うん」

リョーマも出来れば不二を家まで送りたいと思っていた。
だから交互にして帰ろうと提案したのだが、
不二がそれを許さなかった。
『僕の家から帰る途中何かあったらと思うと、とてもじっとしていられない』
不二の家に初めて上がった日もそうだった。
玄関まででいいと言ったのに、不二は家までついて来てしまった。
これじゃ二度手間もいい所だと、
リョーマは諦めて不二に家まで送られることを承諾した。
そういう所は、決して譲ろうとしないので仕方ない。
そこまで大事にされてると思えば、文句も言えないから。


「ところで、リョーマ君。何か困ったことでもあるの?」
「え?」
「さっき、言ってたじゃない。困ったって。
もし相談出来ることなら、僕に話してくれないかな?」
「あー、えーっと」

すっかりリョーマの力になるつもりでいる不二に、
本当に困ったと小さく息を吐く。

言えるはずも無い。
いつもあなたの事を考えている所為で、気持ちが落ち着かなくて困っているんですなんて。

「じゃ、じゃあ。ちょっといい?」
「勿論」

リョーマの為ならばと、不二は力強く頷く。
いつもいつも惜しみなく愛情を表現する不二。
そんな彼に、一つ聞いてみようとリョーマはゴクンと唾を飲み込む。

「不二先輩は家にいる時とかにでも、俺のこと考えたりする?」
「勿論だよ」

即答する不二に、リョーマは目を瞬かせた。

「あれ?信じてないの?」
「・・・例えば、どういう時?」

戸惑いながら尋ねるリョーマに、不二はすらすらと答える。

「部屋でくつろいでいる時に、君がいたらなあっていつも思ってるよ。
食事も、君がいたらもっと美味しく食べれるとか。
写真を見ても、君が隣にいたらもっと楽しいだろうにとか。
授業中も。離れていて寂しいなーって。
付き合ってるのに、欲張りなことばかり考えてしまう」

呆れた?と不二は照れたように笑う。
頬が少し赤い。
つられて、リョーマも赤くなった。

(正直な、人)

自分にはとても言えない言葉を、
素直に伝えてくれる。
それが、たまらなく嬉しい。
だからまた、不二に心惹かれてしまう。

(あ、そうか)

こんなやり取りばかりしてたら、
不二のことを考えてしまうのも仕方ない。
考えないようにする方が、無理な話だ。


「あのさ」
「何」
「越前は?ちょっとは・・・僕のこと考えてくれてたりする?」

必死、な表情で尋ねて来る不二に、
リョーマは口を閉じる。

不二ほど、素直になれるのは無理だ。
もうこれは性格で。
すぐに変えようとしても、出来ない。

でも。
さっき不二が正直に言ってくれたおかげで、
すごく幸せな気持ちになった。

自分も正直な気持ちを伝えたら、
不二も幸せになるんじゃないだろうか。

その考えが、リョーマの素直じゃない心を押す。

「うん・・・考えたりする、よ」

精一杯の言葉を使い、リョーマは小さく体を震わせた。
こんなのを言わせるのも、不二だけだ。
恥ずかしくて逃げ出してしまいたい位。
でも不二の反応を確認しなくちゃ、とリョーマはそっと上を向く。

「リョーマ君も・・・そっか、僕のことを考えたりしてくれるんだ」

感激した声と、
ほわん、と夢見るような不二の表情。
いつかの菜々子とよく似ている、あの感じだ。

(なんだ。俺と同じじゃん)

ほっとして、リョーマは力を抜いた。

変だと、思っていたけれど自分だけじゃない。
不二も同じなら、この状態を続けても構わないのだろうと思った。


「ねえ、例えばどんな時考えたりするの?」
「え?」

不二が学ランを、きゅっと引っ張る。

「聞きたいなあ。すごく」
「・・・ヤダ。言わない」
「ねえ、越前」
「ヤダ、ってば」

これ以上言えない、とそっぽ向くリョーマに、
不二は粘り強く質問し続ける。

「なんで、そんなに聞きたがるんだよ」
「越前が僕を思い出す瞬間って、何なのか興味あるからね」
「そんなの別に良いでしょ」
「僕にとっては、重要事項だよ」
「あー、もう!」

これ以上聞かないでと言っても、聞き入れてくれない。
そうだ不二はある意味我侭だったと思い出すが、遅かった。

結局帰り道の間に、リョーマは全てを言わされる嵌めになった。
恥ずかしくて今度こそ土の中に潜ってしまいたくなったが、
妙に不二が感動している姿を見て、
(まあ・・・いいか)と思い止まった。



チフネ