チフネの日記
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(えーっと、今日で7回目?)
珍しく不二が待ち合わせ場所にいなかった。 ここで約束している以上、先に帰るはずはないだろう。 待っていればその内来るよね、とリョーマは小さく欠伸をした。
不二と一緒に帰宅するのも、7回目になる。 最初の頃のぎこちなさは、大分無くなってる・・・と思う。 主人に懐く犬のような不二の態度は相変わらずだけれど。 真正面から愛情をぶつけられるのは、悪く無い。 悪くは無いが、少々照れくさいとは思う。 大好きだよと目で訴える不二を見る度、 逸らしてしまうことも何回かある。 不快では無いのに、そわそわしてしまうような感じ。 こんなの一度も経験したことの無い気持ちだ。
どこかでこんな状態の人を見たような。 誰だったっけ?としばらく考え、ようやくリョーマは思い当たる。 居候している従姉の菜々子が、休日に時折見せる様子とよく似てる。 普段、学校へ行く服装とはあきらかに違ったり、 いつもと違う香りがしたり。 上の空の表情かと思えば、嬉しそうに笑っている。
自分の様子を客観的に見ると、 あの時の菜々子に似てる・・・とリョーマは思った。 不二のことは、家でも考えてる。 帰りの時の話や、引退前の試合してる姿とか。 自然と頬が緩んでいるのに気付き、誰も見ていないのに慌てて表情を引き締めることも何度かある。
(こんなことって、あるんだ)
今まで、誰かを想って知らず笑顔になった経験は一度も無い。 不思議だ、とリョーマは呟く。 母も菜々子もカルピンも好きだけれど、 不二への想いとは何か違う。それはわかる。 勿論、テニスともファンタとも違う。 一体、不二は自分の心のどこに入ってしまったのだろう。 一緒にいなくても、考えずにはいられなくなるなんて。
「困るよね・・・」 「何が?」
急に声が聞こえたので、リョーマはびっくりして飛び上がった。
「ごめん、驚かせちゃった?」 「不二先輩」
平気?と心配そうに顔を覗き込む不二に、 「大丈夫」とリョーマは返事した。
「ここに来る途中、担任に偶然会っちゃってね。 捉まると、話長いんだ。ごめん、待った?」 「ううん。いつも先輩が待っててくれてるから。 これ位、別に・・・」
リョーマの言葉を嬉しそうに聞いてる不二の笑顔が、眩しく見える。 どうしてこの人の笑顔を見ると、 勝手に鼓動が早くなるんだろう。 心音が不二にも聞こえてしまうのでは、とリョーマはそんな事を心配してしまう。
「じゃ、帰ろうか」 「うん」
リョーマも出来れば不二を家まで送りたいと思っていた。 だから交互にして帰ろうと提案したのだが、 不二がそれを許さなかった。 『僕の家から帰る途中何かあったらと思うと、とてもじっとしていられない』 不二の家に初めて上がった日もそうだった。 玄関まででいいと言ったのに、不二は家までついて来てしまった。 これじゃ二度手間もいい所だと、 リョーマは諦めて不二に家まで送られることを承諾した。 そういう所は、決して譲ろうとしないので仕方ない。 そこまで大事にされてると思えば、文句も言えないから。
「ところで、リョーマ君。何か困ったことでもあるの?」 「え?」 「さっき、言ってたじゃない。困ったって。 もし相談出来ることなら、僕に話してくれないかな?」 「あー、えーっと」
すっかりリョーマの力になるつもりでいる不二に、 本当に困ったと小さく息を吐く。
言えるはずも無い。 いつもあなたの事を考えている所為で、気持ちが落ち着かなくて困っているんですなんて。
「じゃ、じゃあ。ちょっといい?」 「勿論」
リョーマの為ならばと、不二は力強く頷く。 いつもいつも惜しみなく愛情を表現する不二。 そんな彼に、一つ聞いてみようとリョーマはゴクンと唾を飲み込む。
「不二先輩は家にいる時とかにでも、俺のこと考えたりする?」 「勿論だよ」
即答する不二に、リョーマは目を瞬かせた。
「あれ?信じてないの?」 「・・・例えば、どういう時?」
戸惑いながら尋ねるリョーマに、不二はすらすらと答える。
「部屋でくつろいでいる時に、君がいたらなあっていつも思ってるよ。 食事も、君がいたらもっと美味しく食べれるとか。 写真を見ても、君が隣にいたらもっと楽しいだろうにとか。 授業中も。離れていて寂しいなーって。 付き合ってるのに、欲張りなことばかり考えてしまう」
呆れた?と不二は照れたように笑う。 頬が少し赤い。 つられて、リョーマも赤くなった。
(正直な、人)
自分にはとても言えない言葉を、 素直に伝えてくれる。 それが、たまらなく嬉しい。 だからまた、不二に心惹かれてしまう。
(あ、そうか)
こんなやり取りばかりしてたら、 不二のことを考えてしまうのも仕方ない。 考えないようにする方が、無理な話だ。
「あのさ」 「何」 「越前は?ちょっとは・・・僕のこと考えてくれてたりする?」
必死、な表情で尋ねて来る不二に、 リョーマは口を閉じる。
不二ほど、素直になれるのは無理だ。 もうこれは性格で。 すぐに変えようとしても、出来ない。
でも。 さっき不二が正直に言ってくれたおかげで、 すごく幸せな気持ちになった。
自分も正直な気持ちを伝えたら、 不二も幸せになるんじゃないだろうか。
その考えが、リョーマの素直じゃない心を押す。
「うん・・・考えたりする、よ」
精一杯の言葉を使い、リョーマは小さく体を震わせた。 こんなのを言わせるのも、不二だけだ。 恥ずかしくて逃げ出してしまいたい位。 でも不二の反応を確認しなくちゃ、とリョーマはそっと上を向く。
「リョーマ君も・・・そっか、僕のことを考えたりしてくれるんだ」
感激した声と、 ほわん、と夢見るような不二の表情。 いつかの菜々子とよく似ている、あの感じだ。
(なんだ。俺と同じじゃん)
ほっとして、リョーマは力を抜いた。
変だと、思っていたけれど自分だけじゃない。 不二も同じなら、この状態を続けても構わないのだろうと思った。
「ねえ、例えばどんな時考えたりするの?」 「え?」
不二が学ランを、きゅっと引っ張る。
「聞きたいなあ。すごく」 「・・・ヤダ。言わない」 「ねえ、越前」 「ヤダ、ってば」
これ以上言えない、とそっぽ向くリョーマに、 不二は粘り強く質問し続ける。
「なんで、そんなに聞きたがるんだよ」 「越前が僕を思い出す瞬間って、何なのか興味あるからね」 「そんなの別に良いでしょ」 「僕にとっては、重要事項だよ」 「あー、もう!」
これ以上聞かないでと言っても、聞き入れてくれない。 そうだ不二はある意味我侭だったと思い出すが、遅かった。
結局帰り道の間に、リョーマは全てを言わされる嵌めになった。 恥ずかしくて今度こそ土の中に潜ってしまいたくなったが、 妙に不二が感動している姿を見て、 (まあ・・・いいか)と思い止まった。
チフネ

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