チフネの日記
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2005年08月01日(月) 忍足の眼鏡にはどういう意味があるか捏造してみた 小ネタ1

‘人の周りに、なんかもやもやしたモノが見えるんや’

親父にそう言うたら、顔を顰めて黙ってしもうた。
みんな、アレ気にならんのか?
そう思うて聞いただけやのに。
なんでそないな顔するの?

しばらく家の中はお通夜みたいに静かやった。

涙の跡を隠したお袋と、目を合わせようともしない親父。

俺の言った言葉が原因だとなんとなくわかっていた。

そんなにまずいことを言ったんやろうか。




それから3日程経過して、親父は怪しげな格好な人を連れて来た。
親父の顔は変わらず、ずっと顰め面のまま。

「侑士。お前のオジさんだ。挨拶しろ」

ずっと会っていない自分の兄だと言われた。

どうやら親父の兄、俺の伯父に当たるらしい。
親父の兄弟は、東京に住んでいる叔父さんしかいないと思うてたから驚いた。

誰や、この人?

うさん臭そうに見る俺に、初めて会う伯父はぼりぼりと顎を掻いた。

「侑士言うんか」

頷くと、顎を掻いてた手でわしゃわしゃと髪を撫でられる。

「出来るだけ、お前の力になろう」
そう言って、伯父は笑った。

一目で俺の不安を見透かすような目。
伯父はわかっていたんやと思う。

時に人の周りに浮かぶ煙のようなモノ。
あれを見ると、気持ち悪くなる。
けれど払おうとしてもそれは消えない。
一体あれは何やの?
誰も煙コトについて口にしない。
俺の目がおかしいのかと思ってた。



「お前は多分なー、人の欲の形が見えるんや」

親父は俺の話をまともに聞いてくれなかったが、
伯父は寝転びながらつたない俺の言葉に耳を傾けてくれた。

「時々、ウチの家系にはそういうのが出る。
俺と、妹・・お前にとって叔母さんやな。やっぱり人とちょっと違うところがある」
「叔母さん?伯父さんだけでなく叔母さんもおるのか!?」
「ああ。お前の親父は俺達のことを嫌っているから、教えないのも仕方ないがな」
ハハ、と伯父は笑う。

「機会が会ったら叔母さんと話してみるとええで。
まあ、兄貴が許さないやろうけどな」
「伯父さんも何か見えるんか?」
「見える、とは違うな」
「じゃあ、どんなの?」
「内緒」
「なんで?」
「俺は生涯誰にも言わんと誓ったんや」

何度尋ねても、伯父が口を割ることはなかった。
今なら、理由はなんとなくわかる。
じいさんのところへ行っても、話題に上ったことのない伯父と叔母。
初めて二人のことを聞いたくらいや。
二人の存在は無かった事にされているらしいと、理解する。

多分、俺みたいに持ってる何かのせいで。
伯父は、その何かをもう誰にも言わず、
自分の中で仕舞っておこうと決めたのだろう。

「俺も、誰にも言わない方がいい?」
親父や母さんの顔を思い出す。
決して歓迎していないと、子供心でもわかる。

「ええか、侑士。お前の見える煙は、人が欲を持つと周りに出てくるもんや」
「欲?」
「あれしたい、これしたいっていう願い。わかるか?」
「なんとなく」
「例えば腹が減ったら、飯食いたいなと思うてる人がいる。
その時、侑士はそいつの周りに煙を見ることになるんや」

たしかに外食をした際に、周りの人々がごく薄い煙を纏っていたことを思い出す。

「これ位なら、侑士の目に映る煙は薄いやろうな。
お前が気持悪いと思うのは、私欲の為に悪いこと考えてるような欲望や」

見た目綺麗な人が、真っ黒な煙を纏っていたのを見たことがある。
あれは、伯父が言うようなことを考えていたからだろうか。

「隠していることを、人に知られたらまずいと思う奴が大半や。
お前が見える煙は、口に出さない方がええ。
何か言うて、お前に危害があるかもしれんからな」
「・・・わかった」
まだ子供だった俺は、頷く他無かった。
何がまずいのかまではわかっていなかったが、
伯父の険しい顔を見て口外するのはよくないとだけは理解した。

「煙を完全に見えなくするのは、難しいけど。
一生に一度の弟の頼みや。なんとかしたる」
持ってきた鞄の中を探り出し、伯父は本を読み始めた。

伯父のなんとかするという言葉は、数日後判明した。

その日、学校から帰ると伯父の姿は家から消えていた。
どこかに言ったのかと親父に尋ねたら、「あいつは、出てった」との素っ気無い返事。
親父の対応に、俺はもう伯父はいなくなったと理解した。
がっかりして自分の部屋に戻ると、机の上に何かが置いてあるのを見つける。
そこには侑士へと書かれた紙と、小さな箱があった。

侑士へ。これをつかえ

箱の中には丸い眼鏡が入っていた。

素っ気無い文面に従い、恐る恐るその眼鏡を顔に掛ける。
驚いたことに、サイズはぴったりだった。
それから外に出て、通りを歩く人を眺める。
もし、この眼鏡が煙を見えなくする為のものなら。
期待して、ぐるっと周囲を見渡す。

眼鏡を通した世界では、煙を纏っている人はいなかった。


チフネ