チフネの日記
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| 2004年11月05日(金) |
盲目の王子様 after1 |
「リョーマ!こっちや!」 「忍足、声がでけえ。そこまで声を出さなくても聞こえてるだろ」 「ええやん。リョーマの名前呼びたいんやから」 「気安く呼ぶな」 「はいはい。名前呼ぶ位ええやん。ケチやなほんま」 「小声で言ってるけど、聞こえてるぞ忍足!」
その足を踏ん付けてやろうかと、忍足を睨む。 だが全く気にすることなく、忍足はリョーマに向けてひらひら手を振っている。 調子の良い奴め、と心の中で毒付く。
「皆、もう揃っているんだ。早いね」 「いや、手塚がまだだ」 コートまでやって来たリョーマは、周囲を見渡す。 ベンチにはジローが寝そべっている。 リョーマの声に目を覚ましたようで、大あくびしながら起き上がった。
「あー、リョーマだ。元気?」 「昨日も電話してたじゃん。元気だよ」 「そー、良かったあ」
にこっと笑いながら、ジローは準備体操を始める。 しかし聞き捨てならない言葉が混じっていたことに気付いた跡部は、 リョーマにさり気なく問い掛けてみた。
「昨日、ジローと電話で話をしたのかよ?」 「うん。今日のこととか、後テレビの話とか色々。 それがどうかした?」 「いや……」
ジローのやつ、と気付かれないよう歯軋りする。 忍足や手塚と違って、ジローはリョーマの親友みたいなもので、 こんな風に思うのは間違っているとわかっているのだけれどやっぱり気分は良いものじゃない。 自分の知らない所で仲良くしている二人を想像すると、焼けてしまう。
忍足は何もかも見抜いたように、含み笑いをしている。 ムカついてやっぱり足を踏むかと一歩出したところで、 「遅くなって済まない」と手塚がやって来た。 「全員揃っているようだな」 「俺も今所だよ。平気」 「そうか」
にこやかに手塚がリョーマと会話している。 リョーマがテニスをするようになって、手塚の実力を目の当たりにして、 ライバルとして認めたのはいいのだけれど、 必要以上に近付いているんじゃないか?と疑ってしまう。 そりゃ手塚の実力は跡部も認めているが、それとこれとは別だ。 手塚のテニスに傾倒していって、いずれどうにかなる可能性だって十分ある。 やっぱり警戒するべき人物は手塚だな、と跡部の心の警報が鳴った。
「さあ、テニスするかテニス!」 両手を叩くと、忍足がぷっと吹き出す。 「わかりやすいわ、ほんま」 「うるせえよ、忍足」
きょとんとした顔をしたリョーマが、こちらを向く。 「どうかした?」 「嫌……別に。なんでもねえよ」 近付いてきたリョーマの髪をくしゃっと撫でる。 そうだ。 どんなに忍足や手塚が近付いて来たとしても、 リョーマの恋人は自分なのだ。 これは揺ぎ無い事実だ。 落ち着け、と深呼吸してリョーマに向き直る。
「じゃあ、とりあえず軽く打つか?」 「うん!」
嬉しそうにリョーマが、笑う。 心からテニスをするのが楽しくてしかたないという表情だ。
リョーマの目が回復して、数ヶ月。 医者から視力の方に問題は無い言われてから、リョーマは次の段階へと進んだ。 今まで休んでいた分のテニスの勘を取り戻すこと。 ボールを打っていない時間は、たが数ヶ月。 しかし思った以上にリョーマ本人はブランクを感じたようで、 初めにコートに入った時はっきりとした焦りを表情に出していた。 ハード過ぎる練習も禁じられている中で、軽く打つ程度しか出来ない状況もストレスに感じただろう。 それでも諦めることはしないで、まずはボールのコントロールからと、 初心者と変わらない練習を我慢して続けて、今日ここまで来た。 最近ではもう少し長い時間の練習しても良いと医者から許可が出ている。 部活に本格的に参加出来るようになるのは2年生になってからだが、 リョーマならその頃には以前のようにコートを自在に駆け回っているに違いないと、跡部は信じている。 その彼の為に自宅のコートを開放して、練習に付き合っているのだけれど、 いらない連中もおまけに付いて来るという次第だからたまったものじゃない。
(やっぱり口止めするべきだったな……)
軽く打ち終わった後、リョーマと一緒にコートへ出る。 途端に忍足と手塚がリョーマにドリンクとタオルを渡す為にしゃしゃり出て来た。 「ご苦労さん、リョーマ。さっきの動き良かったで。ほら、ファンタ」 「風邪引かないようタオルでちゃんと汗を拭いておけ。油断するなよ」 「二人共、ありがとう」
笑顔でお礼を言うリョーマに、手塚と忍足はほわんとした顔に変わる。 最近あの二人、似てきたな……とすぐ後ろで跡部はげんなりと肩を落とした。
「休憩したら、次は俺と打つか」 「あ、うん……」 手塚の誘いに、リョーマは曖昧に頷く。 まだ二人の試合は実現していない。 リョーマの調子が戻るまで手塚は待ってると言ってるが、 その件を少し負い目に感じてるようだ。 「そんな顔するな。いずれ全力で試合してもらう為の貸しみたいなものだ。 その代わり試合は俺が一番先だからな。一番だからな。一番最初だぞ」 「手塚……ちょお念押しし過ぎとちゃう?」 「そうだよ。わかってる、忘れて無いよ」 呆れたように忍足とリョーマが言えば、手塚は「そうか、なら良かった」と納得する。
三人の友情は今も変わりない。 手塚と忍足に、リョーマがどんな返事をしたのかはわからない。 勿論聞き出そうとも……ちらっとは考えたが、止めにした。 リョーマのことを信じてる。 誤魔化したり逃げたりするような奴じゃないと、跡部にもわかっているからだ。
その後は友人という関係にまた戻って、こうして皆でテニスをするようになっているのだけれど、 二人がリョーマを諦めていないのは見てわかる程だ。 いちいちこの位で騒ぎ立てるのも大人気ないと言い聞かせているが、 (こうもしょっちゅうベタベタ触られたら、不快になるのも当然だろう!?) リョーマから見えないように、二人をぎりっと睨みつける。
やっぱり、ここへ入れるべきじゃなかったと後悔する。 元はといえば、リョーマが。 リョーマが二人きりで練習していることを、ジローにぽろっと話ししたりするから! 何の裏もなく、ただ喋っただけなのだろうけど、 そこから忍足に伝わり手塚に伝わり、気付いたらこの有様。
(最悪だ……)
項垂れる跡部を、手塚と忍足は笑いをしながらチラッと見ている。
「そうだ。今度不二も練習に参加したいと言っていたぞ。 越前の実力を見ておきたいらしい」 「へえ、不二が来るんか。俺もあいつとは試合したい思うてたから、ちょうどええわ。 手合わせしたいって伝えといてな」 「ああ」 家の主を無視して話が進んで行く。 冗談じゃねえ!と跡部が叫ぼうとした瞬間、リョーマがくるっと振り返る。
「だってさ。ねえ、不二さんも誘ってもいい? 不二さんは青学の天才って呼ばれてるんでしょ?どんなテニスするか興味あるから、見てみたい。 だから、いいよね?」 「ああ」 即答してしまった。
不二なんて。 あんな厄介な奴。家になんて入れたくないのに! リョーマの言うことに従ってしまう自分に、なんてことだと跡部は頭を抱えた。
「んー?不二が来てるのー?どこー?」 自分がリョーマと打てないならと、寝こけていたジローが目を覚ます。 「まだ来ていないっすよ。今度来るってだけで」 「そうなんだ……。あー、リョーマ、跡部と打つの終わった? じゃあ、俺とやろ」 「えっ、でも手塚さんが先に」 「俺は順番など気にしない。先に打ってやったらどうだ」 「はあ」
ジローにじゃれ付かれながら、リョーマはまたコートへと戻っていく。 なんか全然会話していないけど、気のせいか…?と跡部は顔を引き攣らせる。
「余裕無い顔しとるなあ、跡部」 「越前の前ではもう少ししゃきっとしたらどうだ」 好き勝手なことを言う二人に、「誰の所為だ!」と一応小声で返事をする。
「お前らが毎回毎回家まで押し掛けたりしなければ、俺の態度だって変わるってもんだ。 ふざけんなよ」 「何を言っている。たかが週3日のことじゃないか。それ以外はお前に譲ってやってる。 文句を言うな」 しれっと手塚が言えば、 「そうそう。週の半分以上は、リョーマを独り占めしとるんやから文句言うなや」 と、忍足も勝手なことを言い出す。 こいつらに遠慮とか無いのかよ、と跡部は拳を震わせた。
「それでも土日の休みは全部お前らと過ごしている身にもなってみろ。 手塚も、平日は遠慮したらどうだ。わざわざ青学からこっちに来るなよ」 「いや。俺は越前と過ごしたいから一向に構わない」 「きっぱり言うなよ。あいつと付き合っているのは俺なんだぞ……」 「そうだったかな?」 「そうなんだよ!いい加減諦めろよ」
むっとしたまま後は無言でコート端に使用人が用意してある飲み物を取りに、 跡部は大股で向かっていく。 リョーマにもよく冷えた飲み物を用意したっていうのに。 二人でゆっくり休憩したかったのに。 当の本人はジローとほのぼのとテニスを楽しんでいて、こっちを見てもくれない。 寂しい、と小さく呟く。
「あーあ。すっかりしょげてまって。こりゃ後が大変そうやな」 去って行く跡部の後姿を見て、忍足は苦笑する。 「拗ねまくって後でリョーマが苦労するかもしれないな。どうする?手塚」 「どうもこうも無いだろう」 手塚は迷いも無く答える。 「あいつは越前に甘え過ぎだ。 拗ねて機嫌を取ってくるのを待ってるんだろ。それを越前が許すと、どこかでわかってる。 羨ましい奴だ、全く」 「そうやなあ。結局リョーマがあれでも好き言うから、しゃあないか」 「けど、諦めるつもりは無いんだろ?お前も…、俺も」 「せやなあ」
忍足はボールを打っているリョーマに、そっと視線を向けた。 ジローと楽しくテニスしているはずなのに、 気が付くとちらちらと跡部の様子を伺っている。 なんで近くで見ててくれないのと、思っている所なのか。
「まあ、人生まだ折り返しも来てへんし、どうなるのかもわからん。 とりあえずは自分の気持ちに素直に行動するけど。 いつかは諦める時も来るかもしれへんなあ」
それがいつかなんて、誰にもわからない。自分にも。 だから今抱いている気持ちは大事にして、リョーマの幸せをそっと祈りたい。 他には何も考えられない。
手塚も「そうだな」と頷いて、リョーマがいる方を向く。
「跡部のことだから、越前をうっかり手放すような真似はしないと思う。 それも、結構腹が立つがな」 「手塚君、最近言うようになって来たなー。不二の影響か?」 「不二だけじゃないだろう。お前の影響もある」 「ええ?俺!?」 「多分、な」 「なんかショックー」
失恋はしたものの、後悔も落ち込む程の悲しみが無いっていうのも妙な感じだ。 全く痛みが無いという訳でも無いのだけれど。 「あー、この感じ。清々しい風が胸に吹いてるようやな。 そう思わへん?」 ポエムの1行を読んだような言葉を口に出すと、 いつもは相槌を打つ手塚は、黙って横を向いてしまった。
チフネ

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