チフネの日記
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| 2004年10月30日(土) |
盲目の王子様 90 跡部 |
D21試合は青学の乾にデータを取られて苦戦を強いられるものの、 宍戸と鳳が最後まで粘った為勝つことが出来た。 このまま、勝てるかもしれない。 S3に樺地が出たことによって、氷帝側は勝利を掴めると歓声を上げていた。 しかし、ここから雲行きが怪しくなって行く。 河村とパワー勝負を真っ向からした所為で、樺地の腕も限界を訴え、 二人揃ってラケットを持つことが出来なくなってしまい、結果はドロー。
(樺地が、ラケットを持てなくなるなんて。河村の奴の力を侮っていたか) いつものように相手の技をコピーしろと、安易な指示を出したことを悔やむがもう遅い。 勝てなかったことを悔やんでいるのか、どこかしょげた様子で戻って来る樺地に、 跡部は「大丈夫か」と声を掛けた。 「無理するな。今すぐ病院に行って来い」 「……ウス」
いいのだろうかと躊躇している樺地に、「ここは任せろ」ともう一度言う。 一瞬、嬉しそうに樺地が笑ったように見えた。 そして病院に行くなら一緒に、と誘いに来た青学の監督に連れられ会場を後にする。
二敗している青学は後が無い。 必死になって来るのは当然だ。 続くS2。 不二が出てきたのを見て、跡部はヤバイと直感する。 「おい、ジロー!」 「んー、跡部何なのー?」 呑気そうに準備運動しているジローに、思わず声を上げてしまう。 「危なくなったらすぐ逃げろ、いいな!」 「危ないって、何がー?」 変なの、とジローはけらけら笑う。
(笑い事じゃねえぞ、本気で心配してんだぞ!)
コートに静かに歩いてくる不二から、静かな炎が揺れている気がする。 闘志を燃やしている、なんて生易しいものじゃない。 あれは殺気に近い、と跡部は小さく体を震わせる。
「跡部……。ジローの奴気付いてへんで。大丈夫かいな」 忍足も青い顔をして、不安げに尋ねてくる。 不二が出している黒いオーラ居、ぐるっとフェンスを囲む氷帝の部員達もびびって声も出せないようだ。 気付いていないのは、ジロー位で。 「お前と対戦かー!楽しい試合にしようぜ!」 と呑気に話し掛けている。 それ以上いらんこと言うなと、跡部は頭を抱える。
「うん、楽しい試合にしよう。忘れられなくなる位にね……」 ふふっと笑って手を差し出す不二に、ジローは無邪気に応えている。
「ジロー、無事に戻って来られるんか?」 「俺に聞くな…」
跡部としても、ジローの無事をここから祈るより他は無い。
そして始まったS2の試合。 ここで負けたら青学は敗退が決定してしまう。 絶対勝つという意気込みでコートに立った不二は、圧倒低な強さでジローの得意技のボレーを封じ込めて、有利なまま試合を進めて行く。 それまで使わなかったトリプルカウンターの最後の一つ『白鯨』を見せたのも、完全に叩きのめそうという心意気の表れだろう。 普通ならこれ以上続けるのが辛くて、ボールを打つ気すらなくなるはずだ。 なのに、ジローは違った。 「すげえ!お前ってすげえんだな!」 不二の出した技を見て、キラキラと目を輝かせている。
(敵を褒めてどうする……。) 呆れつつも、跡部はフッと小さく微笑した。 実に前向きなジローらしい。 優位なのにも関わらず、あの不二がぽかんと口を開けている。 ジローの対応に、すっかり毒気が抜けてしまったみたいだ。 「おーい、今の技もう一回やってくれよ!今度は返すから!」 「あ、そう。やれるものなら、返してみせてよ」 「言うなあ。でも、俺もまだ諦めていないもんね」 そう言って笑うジローに、不二目を丸くしている。
試合をする前は、本気で不二が相手を潰しに掛かってくるんじゃないかと心配したが、 ジローの言葉や姿勢に、すっかりその気も失せてしまったようだ。 普通の笑みすら浮かべてボールを打ってくる不二に、ジローも一生懸命食らいついて。 けれど、結局不二の底知れない実力に押されてしまいゲームはそのまま終了してしまう。
結果はともかくとして、ジローが無事で良かった……と、跡部は胸を撫で下ろした。
「悔C!お前口だけじゃなかったんだな、すげえ強いじゃん。もう認めるしか無いよ!」 手を握ったまままぶんぶんと上下に振るジローに、不二は「素直に喜ぶ所かな……」と苦笑する。 「なあなあ、お前そんなに強いのに部長じゃないの?手塚ってお前以上に強いの?」 「そうだね」 くすっと笑って、不二がこちらを見る。 「これからの試合を見ればわかるんじゃないのかな。君の部長とどっちが強いか、ここではっきりわかると思うよ」 「でも、跡部もそう簡単には負けないよ」 「…そうだね」
不二の手を放したジローが、こちらへ戻って来る。 「跡部、ごめん。負けちゃった」 笑いながら、涙を浮かべている。笑っているけれど、悔しかった気持ちもあるのだろう。 そんなジローの肩を軽くラケットで叩いて、跡部は「心配するな」と声を掛けた。 「俺が勝って、この試合を決めてやる。お前はそこで見てろよ」 「うん」 「跡部、相手は強敵だけど……頑張れ。勝って、リョーマに今日のこと報告しに行こうや」 立ち上がってわざわざ励ましに来る忍足にも笑って、「当然だろ」と応える。 「勝ちに行って来る。それで皆で決勝に行くぞ」 「おう、跡部!俺も応援しているぜ!」 ぴょん、と向日が軽く飛ぶ。 その動作を続ける応援は嫌だ…、と軽く頬を引き攣らす。 「跡部、頼むぜ」 「跡部さん、頑張って下さい!」 宍戸と鳳がほぼ同時に声を上げる。 その横では控え選手の日吉が複雑そうな顔をして、目を逸らしている。 跡部が負けたら日吉に試合するチャンスが回って来る。 けれどあの顔は、そんな機会が来ることを望んでいる訳では無さそうだ。 素直に応援すればいいのに、それも出来ないらしい。 日吉らしいか、と頷いた所で跡部はベンチへと向かう為に歩き出した。
ここでいつもなら、お馴染みの「勝者は跡部!」のコールが全員から湧き上がる所だ。 しかし跡部の様子が余りにも淡々としている為、部員達の間にやっても良いものかと戸惑う空気が流れる。
「おい、お前ら!」 全員に聞こえるよう、跡部は声を上げる。 「声を出すのは試合が始まってからにしろ! 今日はこのままで行く。いいな!」 「派手なパフォーマンスが好きなお前にしては珍しいな」 ベンチに座っている榊が、興味深そうな視線を送ってくる。 いつものようにバサッとジャージを脱ぐ動作もせず、至って普通にベンチに掛けてから、 跡部は監督に向き直った。 「いつもは自分の力をアピールする為に試合をしてた気がします。 でも今日は俺自身の為に、氷帝の勝利の為に来ました。だからもう、あんなパフォーマンスはいらないんです」 向こう側のコートで不思議そうな顔をしている手塚をチラッと見て、跡部は言った。 何故「跡部コール」が起こらないのかと、考えている所だろう。
「そうか。色々覚悟して来たようだな」 「はい」 「じゃあ、私からは何も言うことは無い。思うまま、やればいい」 「監督」 「お前が勝つと信じている。行って来い、跡部」 「はい!」
いつもよりずっと静かなコートを歩きながら、跡部は目の前の強敵をどう倒すかそれだけを考えていた。 氷帝の部長としての権力を見せびらかすようなコールも、格好良いと思っていたポーズも必要無い。
勝とうと思う気持ち一つとラケットだけ持って、胸を張って手塚の目の前に立つ。
「いいのか、例のコールをしなくても。あれが無いと調子が出ないんじゃないのか」 目を瞬かせている手塚に、跡部は不敵に笑って見せた。 「そんな訳無いだろ。今、俺様は絶好調だ。勝たせてもらうぞ、手塚」 「……それはこっちの台詞だ」
軽く拳を突き合わせた所が、熱い。 だがこの先行われる試合は、もっと熱くなるに違いない。
(でも、どんなに厳しい展開になったとしても)
一歩も引かない、と今までの中一番の強敵になるであろう手塚をキッと睨み付けた。
チフネ

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