チフネの日記
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| 2004年10月24日(日) |
盲目の王子様 84 跡部 |
溜息をついて、跡部はテーブルに突っ伏した。 全く、見舞いなら一人で行きたかったのに。 例によってこの二人が、一緒に行こうとくっ付いてくるからこんな所でもたもたしている羽目になっている。
今日は終業式。明日から長い休みに入るが、テニス部員は全員関東大会に向けて誰もがのんびりしている時間は無い。 明日と明後日は試合が連続して入っている。 明日の方は、まだいい。データを見た限り、S1まで回ることは無い。 しかし明後日の方が問題だ。 順調にいけば、多分相手は青学になるだろう。 そしてS1で当たる相手は、ほぼ手塚で間違い無い。
(あいつに勝たない限り、俺達は前に進めない)
ここ最近ずっと、手塚と戦うことばかり考えている。 どうしたら勝てるか。その攻略法の糸口を昨日一つ思いついたが、出来れば使いたくないと思っている。 以前の跡部だったら、迷うことはしなかった。 相手がどうなろうが、躊躇わず勝てるのなら弱点だって遠慮なく突いていった。
(出来ないのは、あいつのことを考えてしまうから、だろうな)
リョーマのことを思い出して、またため息をつく。 テニスが出来なくなって、悲しい目をしてベンチにずっと座り込んでいた。 そのリョーマが知ったら、どう思うだろう。 気になるのはその点だった。
手塚に勝てるとしたら、長期戦に持ち込むしかない。 左腕は完治したと聞いているが、どうだろうと跡部は疑っている。 未だに手塚は強過ぎて、短期間でしか試合をしていない。 さっさとポイントを取りに行くのではなく、わざと打ち合いに持ち込み長期戦へ突入したら、 ボロを出すかもしれない。 それが跡部が考えた、手塚の対策法だ。 長期戦を避けた手塚が焦った所で隙をつく。 今は他に勝てる策は思いつかない。
しかし問題点もある。 あえて、手塚が長期戦を受けた場合だ。 まさかそんなことを受けるはず無いと思うが、何をしでかすかわからない。相手は最強の天然だ。 その後、腕が再び故障することになったら? リョーマはどう思うのだろう。 跡部が追い込んだ所為だと、非難するかもしれない。 「テニス出来なくなる、その気持ちがあんたにわかる?」と、罵るかもしれない。 そう思うと、怖くてたまらない。
「跡部ー、食べ終わったんだけど」 「何や考え中か?その間にデザート食べてもええか?」 「…良いわけ無いだろ」 「あ、起きた」 がばっと、跡部は顔を上げた。
終業式が終わったら、すぐに病院へ行くはずだった。 それを阻んだのはジローの言葉だ。 「リョーマも食事中だと思うC。終わる頃を見計らって行こうよ。 俺達も食堂で食べて行こうー」 忍足もそれに同意したので、しぶしぶこんな所で昼ご飯を食べているという次第だ。 午後から練習がある部も多いので、食堂は意外と混んでいた。 明日以降は閉まるから最後に食べようという生徒達もいるようだ。
「リョーマのお見舞い終わった後は、また自主練習するの?」 「ああ。けど監督の言う通り軽くだけどな」 試合のことを考えて、今日は練習を休みになっている。 自主練習するものも、くれぐれも疲れを残さない程度にと朝練時に榊からきつく通達があった。 「んー、じゃあそれでもいいや。一緒にやろうよ。忍足は?どうする?」 「見舞いが終わったら岳人と待ち合わせしてるからな。二人で最後に特訓しよう思うてる」 「そっか。じゃあ、そろそろ病院へ行く?」 「ああ、行くか」 トレイを持って、跡部は立ち上がった。 ジローと忍足の二人も後からついて来る。
手塚との試合のことで悩むのは、とりあえず後回しにしようと思った。 今はリョーマと会って、少し気持ちを落ち着かせたい。
跡部の車に三人で乗り込んで、病院へ向かう。 駐車場から正面玄関に歩いていると、植えられている樹の陰に不審人物が立っているのに気付く。
「あれ、手塚じゃない?」 ジローが指差す。 「何やってるんだろう」 「……さあな」 手塚は樹に隠れるようにして、上を見上げている。 怪し過ぎるその行為に無視したくなったが、このまま放っておいてら通報されるかもしれない。 しょうがない、と跡部は声を掛ける為に手塚に近付いた。
「おい、こんな所で何をしている」 「跡部か」 手塚は制服姿だった。 青学から真っ直ぐここに来たのかもしれない。 「越前の見舞いに来たんだろ。何故病室に入らない」 そう言うと、手塚は首を横に振った。 「俺は静かに見守ると決めた。だからここから手術の成功を祈るだけだ」 「祈るのは良いが、通報されるぞ」 「いや、俺の気持ちが伝わればそれでいい」 「だから顔を合わせないとわからないと思うが」 「今日はもう帰る。じゃあ、また試合で会おう」 「おい……」
そう言って、手塚は走って去って行ってしまった。 一体なんだったんだ。 同意を求める為ジローと忍足の顔を見ようと振り返ると、何故か彼らは遠くに立っていた。
「お前ら、何故そんな遠い位置にいるんだ」 「だって手塚の行動怪しいかったからさー。同類に思われたら嫌かなって」 「てめえ、俺はどうでもいいのかよ!」 少しキレ気味に声を上げると、忍足は「まあまあ」と肩を叩いてきた。 「で?手塚なんやって?リョーマに念でも送ってた言うんか?」 「そんな所だ。手術成功祈願してたらしい」 「でも変なのー。普通にお見舞いに行けばいいのにねっ」 ジローの言葉に、跡部は大きく頷いた。 「全くだ。通報されて明日の大会に出られなくなったらどうするつもりなんだ」 「けどなあ、手塚君の気持ちも少しわかるで」 「何?」 「えー、なんで?」 何故か一人頷く忍足に、ジローと跡部は不満げな声を出した。 「何がわかるんだよ」 「いや、相手のことをじっと陰から見守ろうとする気持ちや。 姿は見えへんけど、好きな人はそこにいる。あ、今病室から外を覗いたかしら。 私に気付いた?きっと気のせいね。男はちょうど影にいたから気付かなかった。 ここにいると告げられない。今度会う時には、君が完治している時だ。それまで、さようなら、と」 「おい!途中から変な話入っているぞ!?」 「あれ?ほんまや……何か間違えたか」 「また映画の話と混じっているんじゃないのー?忍足、そういうのよくやるC」
頭を掻く忍足に、相手にするのは止めようと跡部は先に病院内へと入って行く。 これ以上時間を無駄にはしたくない。 早くリョーマの元へ向かってしまおう。 それに続いてジローも追って来る。 最後に忍足が「何の映画やったかな」とぶつぶつ言いながら後に続いた。
「ここだな」
リョーマの病室に到着して、ノックをしようと手を出す。 コンコンと軽く叩いた後、いつもの「どうぞ」というリョーマの声。 「よう、越前。元気か」 がらっと開けた所で、昨日と変わらない風景がそこにあると信じていた。 ベッドに腰掛けて、待ってくれてるリョーマいる。そう跡部は思い込んでいた。
「やあ、いらっしゃい」 「……は?」
目を疑う。 昨日、跡部が腰掛けていた椅子に青学の不二周助が座っている。 リョーマはやはりベッドに腰掛けていて、困惑気味に顔を伏せている。
「どうしたの?入って来たら?」 どうぞ、と手招きする不二に、跡部は「なんでお前がここにいるんだー!!」と叫びそうになった。 もし叫んでいたら、また叩き出されていた所だろう。
ジローと忍足の二人掛りで口を塞がれて、どうにか最悪の事態だけは免れた。
「相変わらず、君達は面白いねえ」 にやにやしている不二に、どうしてくれようと跡部は思ったが、口を塞がれている為、何も言い返すことが出来ない。 もごもご口を動かしながら、何故かこの場にいる不二をキッと睨み付けた。
チフネ

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